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選べるなら、人間以外で  作者: 黒烏
第5章 虹色の蛇
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172 アカリとヤマブキ

 アカリが狩りで大活躍した翌日。今日の入荷作業の運搬ではアカリは半分ほどを担当し、残りは鍛錬のためクロ達が運んだ。

 その後、また暇になったアカリは今日も狩りに同行しようとするが、クロに待ったをかけられる。


「アカリ、今日は狩りは駄目だ。」

「え?」

「話に聞いただけでも『ガレージ』は狩りに有効そうだ。だが、だからこそ駄目だ。」

「何でですか?」

「狩りすぎる。前世と同じだ。」

「あー。わかりました。」


 要は、『ガレージ』を使うと簡単に獣を狩れてしまうため、獣が減少してしまう恐れがあるのだ。クロ・アカリの前世日本でも、漁などで獲りすぎて魚が絶滅しないように制限が設けられていた。獣を守るために作ったこのクロの領地で、クロ達が獣を減らしてしまっては本末転倒だ。クロ達が狩っていいのはバランスを崩さない範囲で。もしくはバランスを保つように狩る。

 というわけで、アカリの狩りは週一に限定された。手持無沙汰になったアカリがふらふらしていると、見回りに出るところのヤマブキに会った。


「おお、アカリ殿。」

「あ、ヤマブキさん。」

「見たところ、お手すきのようでござるな。」

「まあ、はい。何か手伝えることはありますか?」

「むう。拙者の仕事は上空からの領内の監視でござるから、アカリ殿に助力していただくのは困難かと。」

「そうですか・・・」


 残念そうなアカリを見て、ヤマブキは少し思案する。ヤマブキは普段どこか抜けていたり、見当外れなことを言うことも多いが、それは人間の常識を知らないからで、むしろ頭はいい方だ。数秒も考えると、何かをひらめいた。古臭い表現で表せば、電球でも描かれそうな、わかりやすいモーションで。


「おお、ひらめき申した。」

「え?」


 今更ではあるが、ヤマブキの口調は漫画や時代小説をもとに適当にそれを真似ているのでどこか変だ。


「アカリ殿の『ガレージ』には、ご自身も入れるのでござろう?」

「え、ええ。」


 アカリの表情が硬くなるが、持論を語るヤマブキは気づかない。


「そして、外に例の指輪の片割れがあれば、そこに出られる。然らば、その片割れを拙者が持ち、必要な時に拙者が指輪に魔力を込めれば、アカリ殿から道具を受け取れるでござる。例えば、拙者の愛弓「黒藤」など。如何かな?」

「え、ええっと・・・」


 確かにヤマブキは鳥形態で飛行中、大した荷物を持てない。持てても、荷物が大きければ飛行能力が制限される。故に見回り中は今まで弓を持って行っていなかった。

 しかし、ヤマブキが言った方法を取れば、手ぶらで移動していても、いつでもどこでも武器が受け取れる。画期的な案だ。

 だが、これには一つ問題があった。ヤマブキはそれに気づかず、期待を込めた目でアカリを見るが、アカリはその問題故に返答に困る。

 返答に困ってしどろもどろになっているアカリのもとへ助け船がやって来た。


「待った、ヤマブキ。それは無茶ってもんだ。」


 ムラサキがどこからともなく現れて、アカリの肩に降り立つ。


「ムラサキさん。」

「ムラサキ殿。無茶とは?」

「相変わらずヒトの感情には疎いな、ヤマブキ。」

「拙者、ヒトではない故。」

「オレだってそうだっての。いいか?」


 ムラサキはアカリの肩に乗ったまま、問題点の解説を始める。


「アカリは今まで随分と長い間、『ガレージ』の中にいたんだ。その中で、ずっと餓死と窒息死の恐怖と戦ってた。どう考えてもトラウマもんだ。」

「・・・・・・」


 アカリは否定しない。その通りだからだ。


「そんなトラウマ空間に、また入れっていうのは酷ってもんだ。オレなら『ガレージ』自体、二度と使いたくなくなる自信があるね。」

「そうなのでござるか?」

「その、はい。すみません。」


 アカリは申し訳なさそうに肯定する。

 それを見たヤマブキは顎に手を当てて、ふうむ、と唸る。まだ納得していないようだ。


「しかし、先程、拙者が述べた通り、指輪があればまた出られるのでござろう?何を恐れるのでござる?」

「う・・・」


 アカリはまた返答に困ってしまう。代わりにムラサキが答えた。


「理屈はそうかもな。だが、これは理屈の問題じゃない。感情の問題だ。また出られなくなるかも、って恐怖はどうしても付きまとう。」

「むむ・・・しかし、不可能ではないのでござろう?気合で何とかならぬか?」

「そんな簡単なもんかよ。しかも、最悪、その恐怖のせいで魔法が不安定になって、本当に出られなくなる可能性もある。無理はさせられねえよ。」

「むーん、そういうものでござるか。」

「そういうもんだ。」


 ムラサキの断言に、ヤマブキも反論に困る。ちらとアカリを見れば、否定する様子もない。

 諦めきれない気持ちもあるが、ヤマブキはそこで折れた。


「ムラサキ殿がそこまで言うなら、やむを得ん。諦めるでござる。無理強いもできん。」

「すみません・・・」


 アカリが謝るが、ムラサキが注意する。


「アカリちゃん、いや、アカリ。言うべきことはちゃんと言え、って言ったじゃないか。」

「すみません。でも、ヤマブキさんの言う通りでもあるんです。そうできれば、もっと役に立てることも分かってるんです。そして、私自身もできればそうしたい。でも・・・やっぱり足が竦んじゃって。」

「「・・・・・・」」


 ヤマブキにもムラサキにも、アカリの「そうしたい」という言葉が強がりでないことは見てわかった。そうでなければ、ムラサキの言う通り、『ガレージ』を使うことすら忌避するはずだ。それでも使えているのは、誰かの役に立つ、という強い目的意識の賜物だ。


「うむ、ではアカリ殿!拙者が帰還したのち、共にムラサキ殿の昼食作りを手伝いましょうぞ!」

「ああ、それは助かるぜ。アカリ、料理はできるか?」

「え、ええ。人並みには。」

「そりゃいいや!ここは人外ばっかで人並みにできる奴が貴重だからな!よろしく頼むぜ!」

「・・・はい!」


 元気よく返事したアカリは、そこでもう一言。


「ところで、ムラサキさん。」

「おう、なんだ?なんでも言え。」

「重いです。」

「あ、すまん。」


 ムラサキは慌ててアカリの肩から降りる。

 ムラサキの体重は、サイズが普通のイエネコのくせに10kg以上ある。容易に肩に乗せられる重さではない。

 それを「ちょっと重いかな」程度の感想で済ませられるアカリの膂力がすでに人間離れし始めているのだが、この3人はそれに気づかず、笑って済ませた。



 そして昼前。普段のメンバーにアカリも加わって昼食を作り始める。

 ムラサキが総指揮と味付けを行い、ヤマブキ、アカリ、マシロ、数名の狸が手伝う。

 ヤマブキが器用に次々と芋の皮をむき、マシロがあっという間に今日狸達が狩って来た獣を捌く。狸達はその補佐だ。


「みんな、すごい器用、というか手際・・・」

「結構大人数だからな。いっぱい作らなきゃいかん。」


 アカリも野菜を切るが、ヤマブキやマシロの手際を見ると、自分がとても遅く感じる。


 ・・・うう、人並みが貴重だなんて、ムラサキさんの嘘つき。人並み外れた人ばかりじゃない!


 弱気になったアカリに追い打ちをかけるように、獣を捌きを得たマシロが肉とまな板を持って隣に来た。


「隣、失礼します。」

「あ、どうぞ、って・・・」


 マシロは驚異的な速さで肉を一口大に切っていく。隣でこんなことをやられれば、心が折れる。


「あの、ムラサキさん。私、足手まといですか?」

「ん?あー、確かに下拵えではちょっと役に立ちづらいか。」

「うう・・・」

「じゃあ、鍋見てくれ。」

「はい・・・」


 アカリは落ち込んだのが目に見える様子で鍋に向かう。誰でもできる仕事を回されたのだと思った。

 ところが、時間が経つにつれて、その仕事の重要性を理解し始める。

 鍋が大きいため、なかなか湧かないのを見ていると、マシロが急に寄ってきて、肉を入れようとした。アカリは慌てて止める。


「わ、マシロさん、まだです!まだダシとってない!」

「え?」


 そこへ反対側からヤマブキが現れる。


「でき申した!いざ!」

「いざ、じゃないですよ!まだです!」

「ぬ?」


 まさか、と思い、アカリがダシや鍋に入れる順番を説明すると、マシロとヤマブキはそろって首を傾げる。


「「それは必要なのですか(でござるか)?」」

「・・・必要です。」


 ようやくアカリは理解できた。マシロもヤマブキも、肉や野菜を切ったり刻んだりは得意だが、味付けはできない、と。

 どうにか2人を押しとめつつ、鍋を完成させた頃に、ムラサキが戻って来た。


「お、ちゃんとこいつらを止めてくれたか。アカリに任せてよかったぜ。おかげでオレが鍋に貼りつかずに済んだ。ほれ、もう一品。」


 ムラサキはアカリに鍋の番を任せている間に、追加の料理を作っていたらしい。

 ともあれ、役に立てたアカリは、ムラサキに褒められて大満足だった。


ダシは主に干しキノコです。

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