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選べるなら、人間以外で  作者: 黒烏
第5章 虹色の蛇
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170 アカリと狸達

 アカリは金属材料を運搬してきた獣人たちが去ったのを見計らって森の入り口に出て来た。森の入り口には査定が終わった大量の材料が並べられている。

 アカリを待っていたクロが手招きする。


「来たな。さあ、お手並み拝見だ。いつもは何往復もして運ぶんだが・・・まあ、運べるだけ運んでくれ。」

「はい。じゃあ、『ガレージ』」


 アカリが詠唱すると、空間に縦に穴が開き、それが水平移動しながら、まるで掃除機がごみを吸い取るように次々に材料を飲み込んでいく。

 どんどん材料が消えていく様子に、皆、唖然とする。

 唯一マシロだけがさっとアカリの傍に移動して告げる。


「アカリさん。病み上がりなのですから、無理しなくてもいいのですよ。」

「いえ、これくらいなら別に。」


 アカリの言葉がやせ我慢でないことを、マシロは感じ取る。本気で楽々収納しているのだ。

 これにはクロも驚く。


 ・・・トン単位の荷物を楽々収納できるとは。入れるときに少なからず移動させているから、トン単位の物体移動も余裕、ということになるが・・・


 そこで、クロはアカリの工夫に気が付く。

 吸い込まれる材料は、単にまっすぐ吸い込まれているのではなく、転がっている。


 ・・・なるほど。半分程度穴に入れた状態で、穴に向かって倒せば最小限の力で穴に入れることができる。元運送屋の工夫か。


 そうしてクロが感心しているうちに、今日の入荷分を全部収納してしまった。


「ふう、入りました。」

「「・・・・・・」」

「え、あの、どうしました?」

「「すげー!!」」


 狸達の賞賛に、アカリはまた照れる。クロも素直に拍手した。

 受入れ作業に参加していたダンゾウがクロに寄って来る。


「すごいですね。全部入るとは。」

「ああ。ここまでとは驚きだ。」

「しかし、我々が運ぶ分がなくなっちまいましたね。」

「あ。」


 クロ達は材料の運搬を鍛錬代わりに行っていた。重量物を担いで運ぶのはいい鍛錬になるのだ。

 ところが、今日は全部アカリが収納してしまった。

 2人の会話に気付いて、アカリも他の狸達もクロとダンゾウを見る。

 少しの沈黙の後、アカリが控えめに手を上げて申し出る。


「あの、少し戻しましょうか?」

「「・・・・・・」」

「・・・・・・」


 「今日は鍛錬休みでもいいでしょ?」という狸達の視線と、鍛錬をしたいクロの視線が交わる。

 数秒の沈黙の後、クロが頭を掻きつつ、答えた。


「まあ、わざわざ戻すのも手間だし、今日はこのままアカリに運んでもらうか。」

「「「はい!」」」


 役に立てて喜ぶアカリの声と、重労働から解放されて喜ぶ狸達の声が重なった。


 そのまま一同手ぶらで家まで戻り、アカリに工場の炉の中にまとめて出してもらった。

 多少乱暴に扱ってもいいということで、出すときは炉の少し高いところに『ガレージ』の出口を作って、まとめてどかどかと落とした。入りきらない分も投入口のすぐそばに落とす。

 今まで時間と労力をかけて行っていた搬入作業が、あっという間に終わった。狸達は歓声を上げる。

 この時点でアカリは既に狸達のヒーロー、いや、ヒロインになっていた。


 対して疲れてもいないが、習慣になっているのでそのままティータイム。休憩だ。

 アカリはくつろぐクロに声をかける。


「クロさん、この後は?」

「ここからは班ごとに製錬作業だ。材料を融かして、元素ごとに分離、回収する。」

「お手伝いできますか?」

「原子魔法が使えれば、手伝えるが、あんたがここに永住する気がないなら教えられない。」

「・・・そうですか。」


 昨晩、アカリの今後について簡単に話し合った。アカリの意志を尊重するとしていたが、アカリは決めかねて保留になっていた。当分ここで手伝いをして、その間に身の振り方を考える、と。

 その時に原子魔法の話もしたが、その内容は教えなかった。もしいずれ出ていくなら、情報漏洩を防ぐため、教えるわけにはいかない。


「あの、雑用でもいいですけど・・・」

「工場内は作業中、粉塵や有毒なガスも多少出る。生身で作業させるわけにはいかない。俺達のような毒が効かない魔族がやるか、狸達みたいにゴーレムで遠隔作業するか、だ。」


 現在、工場は拡張工事により、二重構造になっている。炉から排ガス系まで、窓をいくつも設けた建屋で覆い、その外側をもう一つの建屋で覆っている。内側の建屋と外側の建屋の間から、中に入ることなく炉から排ガス系まですべて視認できるようになっている。狸達はここから覗きながら、ゴーレムで作業するのだ。

 アカリも『アースゴーレム』の魔法は使えるが、狸達のような精密な動きはできない。

 それでも何か役に立てないか悩むアカリに、クロはお茶を飲みながら軽く答える。


「まあ、無理せず休め。まだ本調子じゃないだろ?」

「・・・ありがとうございます。でも、正直言うと、休むのはもう十分しましたから。」


 その言葉にクロは目を見張る。餓死と窒息死の恐怖に耐えた孤独な時間を、休憩と言うのか。


「とんだワーカーホリックだ。まったく。」

「あはは、すみません。なんか、魔力が有り余ってる感じで。」

「へえ。」


 クロがアカリの言葉に興味を持った。そこへ、ダンゾウが数名の若手を連れてやってくる。


「それならアカリさん。儂らと一緒に狩りに行きませんかい?」

「狩り、ですか?」

「儂の監督担当は今日は2,3の方。こいつらも3の方で、今は暇なんです。で、その間に食料を調達するのが習慣になってましてね。」

「アカリのねーちゃんにいいとこ見せてやるぜ!」

「ねーちゃんは見てるだけでいいからさ。森のこともちょっとは知ってた方がいいだろ?」

「・・・そうですね。クロさん、いいですか?」

「油断しないようにな。この辺の魔獣は獣人なんかよりもおっかないぞ。」

「え・・・」


 クロの警告にアカリの表情が引きつる。


「だから、お前ら、ちゃんとこいつを守れよ。」

「「もちろんです!」」

「まあ、心配するな。こいつらはもうこの森に慣れてるし、大丈夫だろ。」

「あ、はい。」


 そうしてアカリは狸達と共に森へと入って行った。


ーーーーーーーーーーーー


 狸達に囲まれて、アカリは森を歩く。なんとなくついてきたが、ようやく狩りの意味を理解し始めていた。


 ・・・そっか、ここは森の中だもん。町みたいに食べ物売ってたりしないから、自分で狩って食べ物を集めないといけないのね。


 以前のアカリなら、こんな危険な森の中に分け入るなど、護衛がいても忌避しただろうが、今のアカリはもう死の危険に対する恐怖がマヒしていた。なるようになれ、死んだらそれまで、という割り切った感覚があった。

 そんなアカリの心情には関係なく、狸達は明るい。


「まったく領主様も意地悪だよな。わざわざアカリさんをビビらせなくてもいいじゃないか。」

「いやあ、あれは領主様なりの優しさだよ。森に初めて入るときは、ビビるくらいがいいのさ。警戒心を忘れちゃおしまいだ。」

「そうかなあ。領主様はあれ、単に事実を述べただけのような気もするけど。」

「あー、あの人、普段の感情の起伏が乏しいから、わかりにくいよな。時々、大きく動くけど。」

「マシロさんは、あの領主様の心の動きが読めてるんだろ?すごいよなあ。」

「まあ、あの人は・・・おっと。」


 雑談を急にやめて、狸達は一斉に右を向いた。アカリも右を見てみるが、何も見えない。

 アカリが首を傾げているうちに、狸達は警戒を解いた。


「なんだ、鳥か。」

「あのサイズじゃ食いでがないね。」


 狸達の会話にアカリはついて行けない。隣を二足歩行で歩くダンゾウに尋ねる。


「あの、鳥がいたんですか?」

「ええ。こんくらいの。ああ、アカリさんには見えなかったでしょうが、儂らは仮にも魔獣ですから。このくらいの索敵ならお任せくだせえ。」


 ダンゾウが両手で雀のような大きさを表現する。アカリは狸達の索敵能力に驚いた。


 ・・・雑談の合間でさえ、ちゃんと周りを見てるんだ。それに、こんな小さな鳥まで見つけられるなんて。


「すごいんですね、皆さん。」

「「いやあ、それほどでも。」」


 アカリが素直にほめると、ダンゾウを除く狸達が歩きながら照れる。



 そのうち話題はアカリのことになる。


「アカリさん、大変だったでしょ。食べるものがないなんて。」

「俺達も亡命中は時々飢えに苦しんだけど、まったく食べ物がなかったわけじゃないしなあ。」

「まあ、そうだけど・・・覚悟を決めれば、意外といろいろ食べれたよ。虫とか、・・・フェイ、とか・・・」


 親友を、いや、結婚まで考えていた相手を、既に死んでいたとはいえ、食べたことを思い出す。やむを得なかったとはいえ、口に出してみれば、ひどいことをしたようにも感じる。

 フェイの遺体の残りは、ちゃんとクロの家の近くに埋葬させてもらった。供養もした。でも、後ろめたさは消えない。


「なんで、食べちゃったんだろうね・・・」


 どんよりと沈んだ空気。耐えきれずに狸達はどうにか明るい話題に持っていく。


「あ、そうだ!助かったときの話!どうやって出られたんです?外が見えてないと出口が作れなかったんですよね?」

「ああ、それは、・・・フェイを、食べてた時にね・・・」


 また、アカリがさらに暗くなる。涙ぐんでさえいた。

 その話題を切り出した狸が、他の狸にこっそり土魔法の石礫でどつかれる。


「ばか!」

「あほ!」

「話題考えろ!」

「ごめんごめん!」


 小声のやり取りに気付いた様子もなくアカリは続ける。


「もう、『ライト』に使う魔力ももったいなくて、最低限の灯りで右手を食べてた時、フェイの左手の方で何か光ってるのに気づいたんだ。近づいて、見てみたら、指輪で。何だろうと思って嵌めてみたら、急に家が見えたの。クロさんの家。マシロさんとか、アカネちゃんとか・・・もう、ヒトを見るのは久しぶりで、あ、ヒトじゃないか。いや、でもその時の私はそう思って、外に出るのなんてもう諦めてたんだけど、ダメで元々、出口をその、見える景色に作ってみたの。そしたら、本当にできて・・・あとは無我夢中で飛び出してた。」

「よかったですねえ~。」

「うん。はは、勢い余って家具にぶつかりそうになって、マシロさんに助けられちゃった。とにかく、クロさん達は私の命の恩人。だから、精一杯恩を返すよ。」


 アカリは話しながら少し明るい雰囲気になった。対して狸達は感動して涙ぐむ。


「うう、本当によかったね。」

「ぐすっ、なんか感動しちゃった。」

「はは、お前、涙脆すぎ。ぐす。」

「いい雰囲気のところ悪いが・・・」


 ダンゾウが冷静に述べる。


「もうすぐ11時だぞ。」

「「「え。」」」


 見上げれば太陽はだいぶ高い。そして、これだけ歩いてもまだ1頭も狩っていなかった。急に狸達は慌て始める。


「やべえ!昼までに狩らないと、昼飯抜きだぞ!」

「え、保存食とかないんですか!?」


 アカリも一緒になって慌てる。


「あるけど、収穫ゼロだと罰として俺らだけ飯抜きになる!」

「あ、アカリさん、走れますか!?」

「え、た、多少は。」

「ばっか!姐さんに無理させんな!それに、走ったからって効率上がるもんじゃねえよ!」

「こうなったら・・・」


 狸の一人が上を見上げる。


「ヤマブキさーん!獲物いませんかー!」


 風魔法の『センド・ボイス』で、上空を飛んでいるであろうヤマブキに声をかける。

 少しすると、返事が返って来た。


「お主らの場所から北西に1km程のところに、数匹シカがいるでござる。」

「ありがとうございまーす!」

「よし、行くぞ!あっちだ!」

「「「おう!」」」

「はい!」


 一同はアカリの走る速度に合わせて、北西を目指した。


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