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選べるなら、人間以外で  作者: 黒烏
第5章 虹色の蛇
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168 アカリの処遇

 見暗あかりは、異空間内で生き延びるべく、親友の死体を食べていた。そのことはクロ達に衝撃を与えたが、それは嫌悪や忌避感ではなかった。


「見事・・・」


 ヤマブキが漏らしたその言葉通り、皆、感心したのだ。

 獣は共食いをする。しかし、一部の種を除いて、好き好んで仲間を食べるわけではない。やむにやまれず、全滅するよりはと仲間を喰うのだ。

 つまり、ここにいる全員が、共食いをする際、どれだけの覚悟が必要か知っている。ましてや、倫理観を持った昨今の人間が、そこまでの生きる覚悟を持っているとは。


養父様とうさま、どうするの?」


 アカネが本体の狐も分身体の女の子も同時にクロを見る。アカリの処遇を問うているのだとわかった。


「そうだな。人間だから、適当に面倒見たら町に送るつもりだったが・・・手放すには惜しいかもな。」


 クロは実を言えば、空間魔法が欲しいと思っていた。特に『ガレージ』は過去の固有魔法をまとめた図鑑にも載っており、これを使える魔獣がいないかと思っていた。

 今回、アカリが現れて、その能力が欲しいと思ったが、人間なので諦めようと思った。

 ところが、その素性を知って、考えを改める。


 ・・・そうまでして生きようとする意志がある。ならば、魔族になる素質があるのでは?


 もし彼女が人間をやめるなら、仲間に入れることもやぶさかではない。というか、その能力はぜひ欲しい。商売でも戦闘でも、物資や武器の運搬は重要だ。販路も広がるし、戦略の幅も大きく拡大する。


 クロは改めて日記に目を通す。


 ・・・人助けに対して、強い目的意識があるようだ。特定個人への思いでないなら、魔族化の条件は満たせるか?


 微妙なところではある。そもそも魔族化の成功条件は明確になっておらず、試行回数が少ない経験則でしかない。

 また、アカリが人間をやめることを承諾するか、も重要だ。強引に魔族化させる方法もあるが、それをやると仲間に引き入れるのが難しい。

 悩むクロに、キッチンからムラサキが声をかける。


「クロ、お前のことだから、あの子を魔族化させる気だろ。」

「よくわかったな。というか、聞いてたのか。」


 クロ達が話しているのは客間で、キッチンとは少々離れている。


「オレの耳をなめるなよ。ばっちり聞こえてる。あと、何年一緒にいると思ってるんだ?お前の考えくらいお見通しだ、ヒト嫌いめ。」

「そうか。で、その言い分だと、ムラサキは魔族化反対か?」

「まあ、あの子が仲間に入るってんなら、オレも嬉しいよ。初めての人間の女の子だ。」

「相変わらず女好きだな。」

「いいだろ別に。でも、あの子は帰る場所があるんだろ?帰してやるべきだって。」


 なるほど、人道的に考えれば正論だ。


「ムラサキ殿はお優しいですなあ。」

「まあな。というか、オレがこういうこと言っとかないと、ここが社会から離れすぎる気がするし。」


 先代の言葉に、ムラサキが得意そうな声を出す。

 確かにムラサキというブレーキ役がいないと、クロはどんどんヒトの社会から離れた考え方になっていく可能性が高い。

 クロは少し悩んだ後、結論を出す。


「まあ、間を取って、本人の意向を尊重する、ということで。」

「「「異議なし。」」」


 話が決まったところで、マシロがタイミングを計ったように浴室から顔を出す。


「マスター、服を借りてもよろしいですか?」

「構わないが、俺は女性ものなんて持ってないぞ。」

「下着は私のを貸します。しかし、私の上着はサイズが合わないので。」

「上着だけなら、まあいいか。」


 マシロは服をすべて自前の毛と炭素繊維で自作しているが、デザインの参考に服をいくつか持っている。しかし、自分の体格に合わせた服が中心だ。女性にしては大柄なマシロと、平均的な身長のアカリでは下着は何とか合わせられても、上着は合わないらしい。

 ちなみに、ムラサキの服は小さすぎるし、他のメンバーは服を持っていない。


 少しして、体を洗い終えたアカリが出て来た。クロのシャツを着ているが、袖が余っている。マシロのよりはマシなのだろうが、やはりサイズが合っていない。


「あの、すみま、せん。お借りして・・・」

「まあ、ちゃんとした服は明日にでも町で買って来よう。まずは飯だ。」

「ほら、ムラサキさん特製のおかゆだぞー。」


 そう言って獣人形態のムラサキが食事を持ってきた瞬間。


「ひいっ!」


 アカリはひどく怯えてムラサキから距離を取った。


「え、なに!?」


 その様子にムラサキも驚く。

 縮こまって震えるアカリに、マシロが近づいて聞いてみると、


「獣人が怖いようです。おそらく男の獣人が。」

「あ~、なるほど。」


 アカリが異空間に閉じ込められるきっかけとなった事件。獣人の山賊たちに襲われ、親友を目の前で殺されて、掴まりそうになった。それがトラウマになっているのだろう。


「そういうことか。すまん、すまん。」


 ムラサキは納得して、リビングのテーブルに食事を置くと、すぐに『変化』で猫形態に戻った。

 それを確認したマシロが、アカリに呼びかける。


「アカリさん、もう大丈夫ですよ。」

「へ?・・・あれ、獣人は?」

「後で説明します。とにかく、食事をどうぞ。」


 マシロに支えられてふらふらとアカリはテーブルに向かい、椅子に座る。目の前の料理をキラキラした目で見ている。


「おかゆ・・・?お米、あったんだ。」


 その呟きに、テーブルにひょこっと顔を出した猫形態のムラサキが説明する。


「やっぱ、クロと同じ出身か。ニホン人ってのは本当にコメが好きなんだな。それはこの大陸の北の方で採れるんだけど、つい最近まで戦場だったから、まだ生産量が少ない高級品なんだよ。なのに、クロがどうしても欲しいっていうからさあ。」

「クロ、さん?」


 アカリがまじまじとクロを見る。クロの魔眼と目を合わせても恐怖しないのは、長い異空間暮らしで死を身近に感じすぎたせいか。

 あまりにじっくり見られるものだから、クロの方が恥ずかしくなって視線を切る。


「いいから、さっさと食え。」

「あ、はい。」


 その様子を見たムラサキがにやにやしている。


「なんだよ、ムラサキ。」

「いやあ、お前がメンチの切り合いで負けるとか、滅多に見ないからな。」

「いや、今のは・・・」


 メンチ切ってたわけじゃない、と言おうとしたが、クロの声はアカリの大声に遮られた。


「おいしい~~!!」


 8ヶ月ぶりのまともな食事。いや、異空間に入る前の船上生活も保存食であった可能性を考えれば、それ以上かもしれない。アカリは泣きながらがっついていた。

 それを見て、ムラサキが涙ぐむ。


「よかったなあ。うんうん。もっと食え。」

「はい!ありがとう!ありがとうございます!」


 さっき笑われた仕返しとばかりにクロがムラサキに言う。


「なんだ、ムラサキ。もらい泣きか?」

「いや、オレの料理をここまで喜んでもらえるのは初めてだったから・・・」

「あ、そう・・・」


 茶化すつもりが、いかに自分たちが普段ムラサキの料理を素っ気なく食べているかを訴えられたようで、クロは申し訳なくなってしまった。



 しばらく待って夜も更けてきたが、アカリはまだ食べている。

 アカリが食事中のリビングの隣、客間で再度、彼女の処遇を話し合っていた。


「しかし、さっきの怯えようだと、とてもフレアネスの町には出せねえな。」


 獣人の男に怯えてしまうとなると、フレアネス国内の町はすべてアウトだ。下手をすると、カイ連邦でも危うい。


「彼女が前に勤めていた運送会社がある、ネオ・ローマン魔法王国に送れればベストなのでしょうが・・・」

「ちと厳しいな。おそらく船も乗れないだろ。」


 魔導船にも当然、獣人の客や乗組員がいる。


「拙者が飛んで送りましょうか?」

「何日かかる?」

「全速力で10日ほど。」

「アカリを乗せたら速度落ちるだろ。第一、食料や水はどうする。」

「ああ、それは難題でござる。」


 ヤマブキ単独なら、食事が不要なので、何日飛び続けても問題ない。しかし、アカリはそうはいかないのだ。

 しかし、その難題はわずか数秒で解決される。


「いや、彼女の収納魔法で解決できるのでは?」

「「あ、確かに。」」


 そんな会議をしているところへ、ふらふらとアカリがやって来た。


「あのう・・・」

「お、もう歩けるのか。」

「お、おかげさまで・・・それで、私のことを話し合ってくださってるんですか?」

「そ。流石にこんな人外魔境にいつまでもいたくないだろ?」


 ムラサキは自嘲気味に言う。周囲もそれを否定しない。間違いなく、ここは人外魔境だ。


「いえ、その、・・・ここにしばらく置いてもらえませんか?」

「「マジで?」」


 クロとムラサキの声が被った。喜びと驚きが混じった声だ。

 まずムラサキが確認する。


「いや、ほんと、ここが人外魔境ってのは誇張じゃないぞ。人間が住める環境じゃない。」

「『ガレージ』の中よりはマシだと思いますし・・・」

「まあ、そりゃあ・・・」

「それに、ここのことは一通り、マシロさんから聞きましたから、大丈夫だと思います。」


 マシロが浴室で洗いながら、簡単に説明したのだろう。

 今度はクロが問う。


「ここに住むなら、それなりに役に立ってもらうが、いいか?」

「お手伝いできることなら。役に立てれば、私も嬉しいですし、助けてもらった恩もあります。」

「恩をちゃんと返す奴は嫌いじゃない。でも、これによれば、あんたはヒトを助けたいんじゃないのか?」


 クロは日記を見えるように手に取る。


「あ、やっぱり皆さん、その日記読んでたんですね。恥ずかしいなあ。」


 アカリは恥ずかしいと言いつつも、それほど感情に動きがみられない。その様子をクロはじっと見る。

 そんなクロにも気づかず、アカリは続ける。


「前はそうだったんですけど、あんなことがありましたから・・・もう助けるのはヒトでなくてもいいかな、って・・・」


 それを聞いたクロが膝をパンと叩いた。


「よし!採用。」

「「採用面接だったんですか!?」」


 若手狸が一斉にツッコミを入れた。


「え、あ、よ、よろしくお願いします!」


 突然のコントにアカリは戸惑ったが、昔取った杵柄か、礼儀正しくお辞儀した。

 こうして見暗あかりはクロ達の家にやっかいになることになった。


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