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選べるなら、人間以外で  作者: 黒烏
第5章 虹色の蛇
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166 魔道具とは

半分くらい、魔法と魔道具の解説回。面倒な方は前半飛ばしていただいてもいいです。

 スミレが帰った後。夕方のティータイムの後、各々が家の中で適当にくつろぐ。ちなみに最近のティータイムでは、魔族以外のメンバーはムラサキの料理を食べている。

 マシロはアカネを連れて夜間鍛錬に外へ行った。ムラサキはヤマブキと先代と一緒に今日の夕食について反省会。恒常的にムラサキの料理を食べる先代が家に住むようになったことで、味の研究に一層熱が入っているようだ。ピキルとの交渉材料になったことも影響しているだろう。

 クロはというと、客間のソファーに座って、今日受け取った指輪を眺めていた。


 クロは魔族の集落にいた時、多くの魔道具を目にしている。魔道具に関する知識は人並み以上にはあるつもりだ。

 まず、魔道具とは何か。

 それを語るには、まず魔法の仕組みを確認する必要がある。

 魔法とは、魔力が術者の意思に反応し、術式のプログラムに従って物理的なエネルギーに変換されて、物理現象を引き起こすものだ。

 この魔法の実現には、術者のイメージと、術式が起こそうとする現象が一致していなければいけない、とされている。

 これの実証は簡単だ。クロは実際にイメージと術式の不一致を起こしてみる。


「『ウォーター』」


 手の平を温めるイメージをしながら、水を集める『ウォーター』を詠唱してみた。

 水は集まらない。手の平の温度も上昇しない。確かにイメージと術式が一致していないと、魔法が実現しないことは明白だ。

 これは魔法の仕組みを考えれば当然かもしれない。魔力を工場の作業員に例えれば、顧客が口頭で要求しているものと、渡された指示書が一致していないようなものだ。安全を考えれば、これで作業できるわけがない。


 だが、この当然の現象が、魔道具について考えると疑問が生じる。

 魔道具は天然の魔石や魔法金属を加工した、魔法を行使できる道具だ。魔道具の核は魔石や魔法金属であり、魔法を発現できるのも、魔石や魔法金属のおかげだ。

 では、その使い方はというと、使用者は魔道具に魔力を込めるだけ。詠唱もイメージもいらないのだ。従って、使用者が意図しない効果が表れることもある。

 つまり、先程の「魔法の実現には術者のイメージと術式の一致が必要」という法則が当てはまっていないように見えるのだ。このために魔族の間でも魔法の仕組みについて議論が交わされていたのを覚えている。

 一部の魔族はこの例を挙げて、「実は魔法の実現にはイメージと術式の一致は不要なのではないか。もっと別の条件があるのではないか。」と言って研究していた。しかし、クロはそうではない、と思う。

 確かにイメージと術式の一致は必要なのだ。ただ、この場合、イメージする術者とは、魔道具の使用者ではない。魔道具自身だとクロは考える。


 魔道具自体に意思がある。

 純研究者的な視点で見ている魔族にはそう言う者は少なかったが、古くから魔剣を扱う人間にはそう考えている者は多い。魔法金属を鍛えて作られた魔剣も、魔道具の一種だ。

 重ねて言えば、魔力がない世界、クロの前世ですら、昔には妖刀という逸話があった。

 道具は意思を持ち得る。クロの前世で言う、付喪神だ。

 この考え方を用いると、魔道具を使って魔法を起こすとき、術者とは魔道具自身であり、魔道具がその身の内に刻まれた術式でもって魔法を実現している、と考えられる。魔獣と同じだ。


 では、魔法の発現過程に関わっていない魔道具の使用者は不要なのか?

 否。魔道具は意思があるとはいえ、感覚器を持っていない以上、自身の外の状況を自発的に知りえないし、理解する知識もない。そこで、使用者からの合図に応じて魔法を起こすのだ。またしても工場で例えれば、必要なスペックだけ提示して外注するようなものか。細かい仕様は外注先である魔道具に任せるわけだ。


 しかし、この説明でも説明しきれない部分がある。魔道具を使用するとき、使用者の魔力が消費されている点だ。

 使用者が魔道具に送る魔力がただの合図なら、消費は微々たるもののはず。だが実際は、発現する魔法に応じた魔力を消費している。

 これをどう説明するかは、クロも長らく頭を悩ませていた(当時はただの助手で、発言権もなかったにもかかわらず、勝手に独学で研究していた)。

 しかし、独立後、この森でその答えとなる物を見つけた。他者の魔力を吸収する魔木だ。


 ヒトが使う魔法には他者の魔力を吸収する魔法はない。魔族でもつい最近不完全ながら実現されたばかり。連鎖爆裂魔法『カグツチ』がそれだ。実のところ、アレが被弾者の魔力を吸収して連鎖爆発する仕組みは偶然の産物であり、他者の魔力を吸収する仕組みまで解明されているわけではない。

 一応、あのボマーも、術式を分解して魔力吸収魔法を作ろうとしたが、失敗に終わった。つまり、現状、ヒトが操る魔法に魔力吸収魔法は存在しない。

 だが、それを使う魔木がいた。つまり、そういう魔法自体は存在し、他者の魔力を吸収するということは可能なのだ。

 したがって、クロはこう考える。「魔道具は魔法の実現に当たり、使用者の魔力を吸収している。」魔道具が魔獣と同じように魔法を使っているのなら、あの魔木と同じ魔法を使える可能性も十分にある。

 魔力を他者に渡すという魔法の可能性も考えてみたが、使用者全員がその魔法を使っているというのは、適性属性を考えると無理がある。しかも、魔力譲渡魔法は今のところ固有魔法でしか確認されていない。


 魔道具による魔法の実現プロセスをまとめるとこうだ。

 まず、使用者が魔道具に魔力を送る。その合図を受け取った魔道具は魔法の準備を始める。

 目的の魔法を使う前に、魔力吸収魔法を使用。送られてきた使用者の魔力を吸収する。この時点で目的の魔法に必要な魔力量を使用者が送れなければ失敗だ。

 魔力吸収魔法で魔道具が必要な魔力量を得たら、目的の魔法を魔道具が実行する。対象の指定が必要な魔法なら、使用者から魔力に乗せて送られてきた、対象の情報をもとに、その対象へと魔法を行使する。

 こうして使用者の魔力を消費して魔道具が魔法を実行するプロセスが説明できた。


 ここまで確認したうえで、クロは手元の指輪を見る。

 魔力を流し、魔石が光るのを確認する。


 ・・・こいつは死んではいない。ちゃんと使用者の魔力に反応して魔法を使っている。対象は、使用者が指示するまでもなく、ペアの指輪。もし、対象が存在しない場合、魔法はどうなる?


 考えるまでもない。発動しないはずだ。対象の認識・指定なくして魔法は発現しない。


 今度は魔石について考えてみよう。

 魔石とは、魔力濃度が高い場所で産出する鉱物だ。天然に魔力を宿しており、質のいいものは誰も触れることなく勝手に魔法を発現する。

 魔道具とはそれを加工して、制御可能にしたものだ。

 実は天然の魔石は様々な魔法を行使している。しかしその威力は微弱で、発現に至らない、もしくは感知できないほど小規模に発現している。

 魔石を魔道具に加工する際、これに指向性を持たせる。様々な魔法をやたらめったら使用している魔石に、ヒトが刺激を加えて特定の魔法を行使するように仕向ける。そうすることで、魔石が持つ魔力がその魔法に集中し、発現可能なまでに至る。

 その刺激というのは、魔石が人語を解するわけがないので、もっぱら目的の魔法を魔石に向かって行使する方法が用いられている。また、不思議なことにこの刺激を受けて以降、魔石はヒトの合図なく魔法を発現することをやめる。クロは、その刺激を受けた際に魔石がヒトの意図を汲み取っているのでは、と考えている。


 したがって、魔道具は加工されて以降、指定された魔法しか使わない。

 このペアリングも、光ってペアの位置情報を交換する魔法しか使わないはずだ。つまり、光る魔法だけを使っているというのは考えにくい。


 ・・・魔法自体は成功している?いや、光る魔法と情報交換の魔法は別だ。この指輪は区別していないかもしれないが、魔法が別である以上、片方だけ失敗している可能性がある。


 すなわち、魔力不足による失敗だ。


 ・・・魔法を行使しようとしている以上、この指輪はペアの指輪を認識している。そこへ届かせるだけの魔力が足りないだけ、かもしれない。


 もちろん、別の可能性も考えられる。光る機能と位置情報交換機能は別個に発動できるのかもしれないし、魔力不足とは別の理由で失敗しているかもしれない。

 だが、この仮説、試す価値はある、とクロは判断した。


 魔力を多めに流す。少しずつ、慎重に増やしていく。

 普通、魔道具を使う際に、魔力を必要以上に流すのは御法度だ。過剰な魔力を流されれば、魔道具はその身の内の魔力を使用者の魔力に追い出されて死んでしまう。修復は不可能だ。

 しかも、どれくらいの魔力でそうなってしまうのかは魔石によって異なり、壊れそうな兆候などクロは知らない。突然、壊れてしまう可能性もある以上、危険な行為だ。

 それでも、成功すればこの案件は手っ取り早く終わるかもしれない。もともと、失敗してもデメリットはさほどない話だ。スミレもダメもとで預けて行った感じだった。

 壊した場合のデメリットとしては、せいぜい、クロがこの指輪に対して申し訳なく思う程度。


 ・・・大丈夫。この指輪の声を感じろ。やばくなったら何かしら兆候があるはず。


 らしくもなく根拠のない自信で指輪の声を感じようとするクロ。指輪が「痛い」と訴えるはずもないのだが、魔道具について深く考察しすぎて感情移入してしまったようだ。

 帰って来たマシロとアカネに気付かないほど集中し、徐々に送る魔力を増やしていたその時。

 クロの脳裏に別の場所の景色が飛び込んできた。意味不明な位置情報も。


「っと。」


 不意に声を出したクロに皆の視線が集まる。しかしクロは頭の中に移った景色に夢中だ。


 ・・・何もない、真っ暗な空間。いや、朧気に明かりが?・・・視界は向こうの指輪の持ち主に固定されてるのか。光源が見えない。いや、寄って来た?


 光源が寄って来たかと思うと、視界が揺れ、急に切り替わる。

 魔法による視野共有が急にON/OFFされ、クロは少し頭痛を感じる。


「いてて。」

「大丈夫ですか?」

「ん?ああ・・・」


 クロの様子に心配したマシロが声をかけ、それでクロは脳裏の映像から意識を離して目の前を見る。そこでようやくその場の全員から注目されていることに気付いた。


「いや、この指輪が・・・」


 クロが説明しようとしたその時、一同に緊張が走る。

 何の前触れもなく、クロの傍に知らない者の魔力が発生したのだ。

 クロが慌てて飛び退き、全員が臨戦態勢に入るのと同時。何もない空間に裂け目ができ、広がって穴が開いた。


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