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選べるなら、人間以外で  作者: 黒烏
第5章 虹色の蛇
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M11 「業火」の作戦

第5章のスタートは東部戦線から。

溶岩でトンネルを塞がれた勇者たちがどうなったかというと・・・

 サンシャン山脈の北側中腹。そこに簡素な小屋が建てられていた。土魔法で作られたその小屋に、静かに雨が降り注ぐ。隙間なく固められた土は水を弾き、水は地面へと浸み込んでいく。

 2月中旬。夏はまだ先だが、ライデン帝国とイーストランド・ネオローマン連合軍の戦争最前線であるこの山脈では暑さが気になって来た。

 小屋の中では赤色の髪の男が安い茶を飲みながら新聞を読んでいた。新聞には早くも帝国軍の戦果が報じられている。見出しには、「帝国軍、ついに勇者を捕縛!」と大々的に書かれている。


「物は言いようだな。」


 赤髪の男は苦笑いでそう呟く。最前線で真相を知る彼には、勇者を捕縛したとは言い難い現状を知っていた。

 その呟きに、窓際に立って外を見ていた青髪の男が答える。


「だが、無力化できているのは事実だ。」

「まあな。」


 そこへ、コンコンと小屋の扉をノックする音が聞こえる。


「どうぞ。」


 2人の男は慌てる事も無く来客を促す。その客が来ていることはずっと前から感知していたのだから当然だ。


「邪魔するよ。」


 入って来たのは壮年ながら若さを感じさせる顔つきの男。帝国では軍師と呼ばれている帝国軍のブレーン、モリスだった。

 雨合羽を脱いで、入口の衣類掛けに掛ける。


「いらっしゃい。軍師殿がわざわざ最前線にお越しとは。」

「軍師だからこそ、最前線で情報を集めるべきだろ?」

「ごもっとも。」


 赤髪の男に促されてモリスは椅子に座る。この椅子も土製で重いのだが、モリスは難なく引いて座った。


「俺もようやく皇帝陛下に信用されたのか、あんたらのことを紹介してもらってね。顔を見たかったんだ。」


 モリスは今まで秘匿戦力である彼らのことを知らされていなかった。いや、存在と戦力は知らされていたし、『ラプラス・システム』で覗き見して顔は知っていた。だが、その素性までは知らされていなかったのだ。

 モリスの言葉に、青髪の男、<雨竜>こと、カイルが笑う。


「フッ、あれが信用?まさか。どうせ利用価値があると判断された程度だろう。」

「おい、カイル。陛下のことをあんまり悪く言うもんじゃねーぞ。どっから伝わるかわかんねーけど、どこからでも伝わるんだから。」


 赤髪の男がカイルに注意するが、カイルは気にした様子もない。


「フン、俺が皇帝を大して敬ってもいないことはとっくに知られているだろう。今更だ。そういうお前はどうなんだ?ファイエル。」


 赤髪の男ファイエルは頭をぼりぼりと掻いて、少し迷ってから答える。


「まあ、正直、胡散臭いよな。どこまで信用していいもんか。」

「だろう?」


 2人が身内話で盛り上がりかけたところに、モリスが口を挟む。


「あー、<雨竜>殿、<業火>殿、上司の悪口はその辺で。」

「おっと、悪い悪い。」


 ファイエルはモリスに向き直って軽く謝る。


「さて、<業火>殿、この度はかねてよりの作戦が上手く言ったようで何より。」

「まあな。準備した甲斐があったってもんだ。あ、軍師殿も作戦のブラッシュアップありがとな。」

「いえいえ。で、勇者の様子はどうです?」

「残念だが、中までは感知が届かないんだ。だが、出てはいないはずだぜ。境界線を越えた反応はない。」


 ファイエルが指さす先には小さな鏡。境界線を監視する鏡だ。


 <業火>ファイエルは勇者マサキが現れ、その実力で戦況を覆し始めたときから、勇者対策を練っていた。

 そして実行した作戦がこのトンネルに勇者を閉じ込める作戦だ。

 作戦内容はこうだ。

 まずトンネル全域の壁、天井、地面をすべてファイエルの土魔法で強化、制御下に置く。

 そしてその外側に境界線を引いておく。ファイエルは光魔法が使えないので、『メイク・ボーダー』は別の仲間がやった。

 あとは勇者をトンネル付近で待ち構え、勇者がトンネルに入ったのを確認し次第、入口付近の広範囲の天井を炎魔法で融解。高温の溶岩にして入口を塞ぐ。

 高速で流れる溶岩流に追われた勇者たちの行先、出口の方も同様に塞いで完成だ。

 溶岩は冷えて固まり、当然のごとくファイエルの魔力で強化される。大砲にすら耐える強固な檻の完成だ。炎魔法による耐熱防御もかけているので、勇者の光魔法による光熱でも再融解は不可能だ。


 経過を聞いたモリスは満足そうに頷く。


「それは重畳。直接感知できないのは残念だが、境界魔法で監視してるなら問題ないだろう。」

「案外、最初の溶岩で融けてるかもな。」


 ファイエルが楽観的なことを言うが、モリスは首を横に振る。


「いやあ、勇者の防御力は見ただろ。きっと例の盾の魔法で味方もまとめて守ってる。」

「だろうな。言ってみただけだ。実を言うと、一回感知を試みたんだよ。俺の魔力が通ってる部分までは遠くても届くからな。そしたら、きっちりトンネルの中央に空間があった。感心したぜ。勇者の防御力と、軍師殿の計算にな。」

「どうも。」


 モリスは自慢するでもなく軽く答える。

 当初のファイエルの計画では、出口も入口と同時に融かす予定だった。ところが直前になってモリスが電話と伝令を通じて、一定の時間差をつけるべきだと進言したのだ。直前の変更にはファイエルも迷ったが、その通りにしてみると見事大成功だった。

 今まで黙って外を見ていたカイルも賞賛する。


「あれは俺も驚いたぞ。まさかぴったり中央に閉じ込めるとは。どういう計算をすればああなる?」

「勇者の性格と同行者の走る速度、だな。溶岩が流れてくれば、あの勇者君は必ず自分を盾にして仲間を逃がす。で、同行者は急いで出口を目指し、勇者はその後を少し遅れて追う。あとは彼らの中で一番足が速い者の速度と、溶岩が流れる速度から、先頭が出口からの溶岩を見て引き返すタイミングを計算。そして、一番足が遅い者の速度から、合流地点を計算して中央になるようにすればいい。」

「へえ~。」


 ファイエルが感心の声を出す。


「俺としては<業火>殿の発想の方がすごいと思うがな。どんな攻撃も防ぐ盾を持つ勇者。倒すのは不可能と見るや、閉じ込めてしまうとは。」


 勇者の『光の盾』はあらゆる攻撃を完璧に防ぐ。しかし、例外もある。防ぐのは敵意ある攻撃と、一定速度以上で接近する物体だ。

 つまり、流れて来る高温のマグマは防御できるが、行く手を塞ぐ岩盤を壊して進むことはできない。岩盤にはファイエルの魔力が込められているが、その魔力は攻撃意思ではなく、「通さない」という防御の意思。『光の盾』は反応しようがなかった。

 褒められたファイエルは素直に喜ぶ。


「いやあ、それほどでも。」

「軍師、あまりこいつをおだてるな。すぐ調子に乗る。」


 ファイエルの喜びにカイルが水を差す。


「なんだよ、いいじゃねえか。」

「第一、お前は、俺が来なかったら危なかっただろう。」


 カイルが言っているのは、この作戦決行直後のことだ。勇者を閉じ込めたファイエルは、監視のため、あらかじめ建てていたこの小屋に入った。

 そこへ作戦を聞いたカイルが訪れ、雨を降らせた。そのすぐ後に、カイルの雨が敵を撃退したのだ。


「襲って来た奴は結構な手練れだったぞ。迷いなくこの小屋に来たうえ、雨には入らずに特大の火球をぶち込んできた。攻撃が届かないと見るや撤退したようだが。魔力を辿ってこの小屋まで来る捜索能力、雨の危険性を即座に理解した観察力、特大火球を溜めもなく撃ち込む攻撃力に、有効打がないと知ってすぐに退く判断力。間違いなく強敵だった。俺が援護に来なければやられていたかもしれないぞ。」

「馬鹿言え!炎魔法なら俺が負けるわけねえよ。お前が来なくても返り討ちにしてやったさ。」

「ほら、これだ。まったく・・・」


 カイルはやれやれと呆れた様子。ファイエルも言い返しはしたものの、ある程度、自分が慢心していることに気づいていたのか、それ以上は追及しない。

 そして、一転、冷静な意見を述べる。


「まあ、とにかく油断はしない。まだ勇者を倒せたわけじゃないんだ。やつらがどれだけ準備していても、一月も閉じ込めておけば餓死するだろ。」

「見立てが甘いぞ、ファイエル。水は水魔法で用意できるし、木魔法には代謝を押さえて飢えに耐えるものがあったはずだ。数か月生き延びてもおかしくない。」

「む。なら、何か月でも閉じ込めてやるさ。」


 ファイエルが長期戦を覚悟するが、モリスが逆の意見を述べる。


「いや、もっと早いぞ。」

「・・・そのこころは?」

「窒息。」

「あ。」

「なるほど。」


 勇者は絶体絶命のピンチに陥っていた。


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