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選べるなら、人間以外で  作者: 黒烏
第4章 緑の狸
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T06 雌伏の時

久しぶりにテツヤSideです。

 ライデン帝国の技術開発の最先端都市ザーフトラスク。都市自体が将来の都市構造の試験地になっているため、建物が次々建てられては取り壊されている。

 そのため、この都市では取り壊し忘れた空き家が多く点在する。建物を壊すにも費用と時間がかかるため、邪魔にならない限り放置されることもよくあるのだ。

 そのうちの1件。大きめの空き家の奥でとある組織が集会を行っていた。テツヤ達が所属する<夜明け>である。

 11月にイラガ博士からもたらされた情報を基に調査した結果、行動を起こす機会が近いと判断し、その準備を行っているのだった。

 ここに集まっているのは、組織の実行部隊、すなわち戦闘員たち。

 全員が大きなテーブルを囲んでその上にある紙を睨んでいる。その紙とは、帝都中央に存在する帝国の中枢、要塞ガラヴァーの見取り図だ。

 そう、<夜明け>の目標は革命。現皇帝を倒し、魔法排斥を掲げる帝国を潰す。そして、魔法と科学が共存する国を作るのだ。


 そのためには、皇帝の撃破が最低条件。<夜明け>の戦闘員が手練れ揃いとはいえ、帝国軍と真正面から戦うわけにはいかない。ガラヴァーを急襲し、電撃的に皇帝を仕留める必要がある。

 見取り図は帝都に潜伏している間に入手したもの。この数か月、これを睨んでは複数の突入計画を立てて来た。

 計画も具体化し、機さえ来ればいつでも実行できる段階に来た。

 しかし、彼らは動けない。機が来ないからだ。

 今日ここに集まっているのは、その機が来るかもしれないから。しかし。


 コン、ココン。


 部屋の扉が一定のリズムでノックされる。一番扉の近くにいた一人が、それを聞いてドアを開けると、セレブロに率いられて数名が入って来た。


「どうだった?」


 部屋の一番奥に陣取る大柄な男が尋ねる。それにセレブロは椅子に腰かけながら答える。


「ダメですね。やはり帝国は国力を回復しつつあります。」

「そうか・・・」


 複数のため息が漏れる。

 革命の機とは、帝国が敗色濃厚になること。

 帝国が戦争に勝っている状態でいきなり皇帝を倒しても、民衆の心は掴めない。

 革命の正当性を主張するには、帝国が劣勢となったタイミングが望ましい。そのタイミングで皇帝を倒し、「現政権では勝てない。戦勝には魔法を取り入れることが重要だ」と主張する。それがもっとも手っ取り早い。

 もちろん、ただ劣勢になるのを待っているわけではない。今までも皇帝を批判できる材料をずっと探していた。

 ところが何年探しても粗が見つからない。皇帝の支持率は変わらず高く、皇帝を引きずり下ろす方法が思いつかなかった。

 そこで、戦争における劣勢を待っているのだが、その機はやってこなかった。


「博士が情報をくれたときは、劣勢の兆しが見えていたんですけどね。」

「ああ。各地の同志に確認してもらい、確かに金属資源が枯渇気味だった。いずれ物資供給が滞り、戦争も立ち行かなくなるはずだったのだが・・・」


 金属資源の枯渇は絶好の機会だった。金属が不足し、銃や兵器の生産ができなくなれば、そのときこそ魔法の出番。<夜明け>の正当性を主張しやすくなるはずだった。

 ところが帝国は冬の終わりにフレアネス王国とまさかの和平。しかもフレアネスから金属資源が供給され、窮地を脱してしまった。


「どうします、リーダー?この調子じゃ、いつ作戦が実行できるのやら。」


 リーダーと呼ばれた大柄な男に視線が集まる。リーダーはやや思案した後、答える。


「焦りは禁物だ。西部が停戦し、東部に注力できるようになったにもかかわらず、東部戦線は押し返せていないのだろう?」


 リーダーがセレブロについて入って来た連絡員の一人に尋ねる。


 この都市ザーフトラスクは入るのは容易いが、出るのが難しい。故に、外部と情報をやり取りするのに一々都市を出入りできない。

 そのため、風魔法を得手とする連絡員がセレブロと共に都市の境界である壁をこっそり登り、外の連絡員と風魔法で音を送受信して情報を交換する。これを定期的に行っていた。

 セレブロの認識阻害魔法のおかげで壁を登るときは見つかる心配はないが、音を送受信する連絡中は認識阻害をオフにしないといけないのでリスクを伴う。そのため、この定期連絡も頻繁にはできなかった。せいぜい2週間に1回が限度。

 そうして2週間ぶりの情報を得て来た連絡員が答える。


「はい。東部戦線に潜入している同志によれば、じりじりと押されているらしいです。サンシャン山脈のトンネルを突破されるのも時間の問題かと。」


 サンシャン山脈は北大陸と東大陸の間に東西に延びる山脈だ。ここのトンネルを押さえられれば、一気に形勢が傾く。このトンネルがなくなれば、東大陸に兵や物資を送る方法が限られてしまうからだ。

 イーストランド王国側も当然、それを承知しており、春になってからというもの、トンネルを激しく攻め立てているらしい。2月になる今まで持ちこたえているのは、数に任せてごり押ししているからに過ぎない。無敵の勇者マサキが向こうにいる限り、時間稼ぎでしかない。


「であれば、東部戦線が崩れるのを待ってもいいだろう。勇者殿の働きに期待だ。」

「しかし、仮に革命が成功すると、今度は我々がその勇者殿と対峙することになるのでは?」


 メンバーの一人が冗談めかして言うと、リーダーは笑って答える。


「そうだな。その時は、イーストランドとも和平してしまうか。」

「それじゃあ、魔法排斥を取りやめる理由が弱くなっちゃうんじゃ?」


 テツヤが心配して尋ねると、リーダーはまた笑う。


「なに、魔法の有用性は戦場に留まらん。魔法と科学が合わされば、きっともっと生活は豊かになるぞ。大丈夫だ。必要なのは取っ掛かりなんだ。革命したときは戦場での強さを説き、それを収めたら生活での利便性を説けばいい。もし主張が一貫しなくて国民の支持を得られなくても、魔法が復活してくれさえすれば、それでいいんだ。」

「リーダー・・・」

「そうだ。ゾル。なんなら俺がまず革命を成功させて、勇者と対峙した後、お前が俺を倒して和平に方針転換してもいい。」

「な・・・」


 まさかの発言に、言われたテツヤだけでなく他のメンバーもどよめく。


「はっはっは。一例だ。あくまで一つの手段だよ。俺が言いたいのは、何とでもやりようがあるってことだ。この最初の革命さえ成功させればな。」


 リーダーの言葉に、一同、気が引き締まった。どんな未来を思い描くにせよ、まずはこの革命を成功させてから。


 そこから議論は白熱。様々な革命案が出た。


「金属資源は供給されるようになりましたが、輸入に頼っている現状の危険性を訴えてみてはどうでしょう。」

「面白いかもしれんな。噂を流してみるか。」

「では、次回連絡の時に西部の同志に依頼します。」

「よろしく頼む。」

「その手で行くなら、海底資源開発は邪魔した方がいいでしょうか?」

「確かにあれが成功してしまうと金属資源の問題も解決する恐れがあるが・・・邪魔はやめておこう。万が一、バレたときに我々が不利になる。」

「逆に、海底資源開発における魔法の有用性を主張してみてはどうでしょう?」

「それは革命が成功してからの話だな。」


 その議論を一歩引いて見ながら、テツヤは話に聞く勇者のことを考えていた。


 ・・・マサキって名前からして、多分同郷だよな。無敵の勇者として讃えられる気分って、どんなものなんだろうなあ。


 国に追われ、日陰で革命を狙う自身とは対照的に、国に祭り上げられ、戦争の先頭に立つ勇者に、顔も知らずに思いを馳せた。


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