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選べるなら、人間以外で  作者: 黒烏
第4章 緑の狸
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159 古き神に仕える者達

 リザードマン2人との試合は、クロ達の勝利で終わった。

 クロと戦い、左手を負傷した方のリザードマンが、筒と壊れた盾を捨てて、右手で左手首を押さえている。

 そこへ読心の人間が彼に声をかける。


「アイス、こっちだ。」


 呼ばれたリザードマンは左手を押さえたまま人間の方に向かい、傷ついた左手を差し出す。

 すると、人間が乗っている牛が首を伸ばし、その手を舐めた。


「治癒魔法か。」


 その様子を見ていたクロが呟く。それを聞き取ったのか、心を読んだのかはわからないが、人間が片言の日本語で答える。


「そうだ。この、ラファー、は、レッドブルの、アルビノ、変異、種、だ。」


 レッドブルは、この世界の各地で飼われている赤い長毛の牛だ。炎適性が高い魔獣であり、その毛は断熱性が高く、衣類によく用いられる。

 クロが読んだ図書館の本には、野生のレッドブルは大昔に乱獲され、今は家畜しかいないと書かれていた。

 そして、レッドブルは炎適性のみで、木適性はなかったはずである。

 後ろに控えていたブラウンが、それを聞いて驚く。


「レッドブル。野生にまだいたんですね。」

「ヒトが、絶滅した、と思っている、獣も、奥地では、意外と、生き延びている、ものだ。まあ、ごく、一部、だが。」


 ラファーが舐めたリザードマンの左手は見る見る治癒していく。止血だけでなく、骨折等も同時に直しているようだ。

 脇から見ていたダンゾウが驚きの声を漏らす。


「ほう、これほど高度な治癒を無詠唱で・・・この牛はこの魔法を生まれつき使えるんですかい?」

「いや、後付け、だ。詳細は、教え、られない。」


 今度はクロも驚く。魔獣が後天的に魔法を習得することはある。だが、それはダンゾウ達のようにヒトの言葉を用いて、ヒトと同様に教会で登録した場合の話だ。このように無詠唱で行使する魔法は、魔獣が生まれつき持つ魔法に限られると思っていた。

 このラファーが特異で、そういう才能を持っている、という可能性もあるが、普通に考えれば野生の魔獣が後天的に魔法を習得するのは考えにくい。魔獣の資料を図書館で読み漁ったクロには、そう思えた。そこで、仮説を立てて聞いてみる。


「あんたの言う、<神>の仕業か?」

「・・・そうだ。」


 人間は意外にもあっさりと認めた。


「随分素直に答えてくれるんだな。」

「私は、嘘をつかない。それに、適当に、誤魔化しても、お前は、その、仮説を、捨てないだろう。」

「なるほど。」


 確かに、この人間がクロの仮説を否定しようが誤魔化そうが、クロはその可能性を考え続けるだろう。クロの思考を読んだうえで答えたわけだ。


「我が神は、全能である。全知ではないが。私も、ラファーも、アイスもブルーも、皆、我が神の眷属。無論、我らだけ、ではない。アイスやブルーのような、戦士ウォーリアは、100を超える。」


 戦慄。クロやマシロが苦戦した相手。そのレベルのものが100人以上。とんでもない勢力だ。世に出れば、一国落とせるかもしれない。


「我が神の力は、よくわかった、ようだな。」


 答える者はいない。いないが、この人間には読み取れている。もう、クロ達の後ろに控える狸達にも、その神への畏怖が伝わっていることが。

 ふっと、人間の雰囲気が和らぐ。威嚇はここまで、ということのようだ。


「理解してもらえた、ところで、本題だ。」

「ああ。」


 クロとしては、戦う前から彼らの力は察せられていたので、初めから敵対する気はない。交渉が始まるのなら望むところ。


「我が神が、望むのは、不干渉。我が神は、もはや、ヒトに関わる、気はない。」

「・・・承知した。山の上には干渉しない様にしよう。」


 答えながら、クロは彼の言葉に注目する。


 ・・・もはや、か。かつてはヒトに関わっていた、ということか?なら、古い資料を漁れば、その<神>の正体も掴めるか。


 その思考を読んだ人間が勝手に答える。


「その、推察は、間違っていないが、詮索は、控えて、欲しいな。」

「交渉相手を知ろうとするのは、むしろ礼儀じゃないか?」

「言っていて、自分で、屁理屈だと、わかっているだろう?・・・まあ、いい。」


 詮索されるのは嫌だが、無理に禁ずるほどではないようだ。


「ところで、あんた、何と呼べばいい?」

「おっと、うっかり、だ。話さぬ、獣、ばかリ、だと、名乗る、必要、ないんだ。」


 確かに、牛のラファーもリザードマンたちも喋る能力はないようだった。そんな環境では、自分の名前を言うこともないのだろう。


「そうだな、ピキル、で。・・・そうだ、本名、じゃない。」

「わかった。で、話を戻すと、俺達は自分の領地を・・・」


 クロが状況を話そうとすると、ピキルが手を前に出して遮る。


「不要。もう、読んだ。」

「・・・長々と戦わせたのは、そのためか?」


 ピキルは頷く。


「もちろん、勝たせたのも、だ。話す、だけでも、読めるが、動き、戦う、方が、より深く、読める。記憶、思考、推測。それらは、よく、現実と、離れる。」


 つまり、ピキルの固有魔法ならただ見ているだけでも記憶を読めるが、その記憶が正確とは限らない。記憶は事実そのものではなく、主観による編集が入ったものだからだ。そこで、実際に動くことで、現実と主観の差を見ていたらしい。

 確かに魔族は自分の想像通りに動けるが、それは外部の干渉がなかった場合だ。戦闘ともなれば、思った動きはできても、予想した戦果は得られないことが多い。言ってしまえば、クロ達がどれだけ「現実が見えているか」を読み取られたわけだ。


「2人とも、現実との、差は、小さかった。比較的、だが。その記憶、ある程度、事実と思って、いいだろう。」

「それはどうも。」

「故に、クロ。お前が考えている、通りでいい。麓の森の、領地を、広げると、良い。それで、ヒトが、山に入るのを、防いでくれるなら、こちらも、ありがたい。」


 クロが言おうとしていたことを、ピキルは先んじて言う。


「対価として、境界線を、引くのに、協力しよう。私が、同行すれば、山の魔獣は、襲って来ない。」

「それはありがたい。是非頼む。」



 こうして、翌日からピキルたちも作業に同行した。

 ピキルが言う通り、そこから先は、魔獣に遭遇することはあっても、攻撃されることは一切なくなった。

 作業は順調に進み、ピキルが合流した2日後には予定の工程を終えることができた。


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