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選べるなら、人間以外で  作者: 黒烏
第4章 緑の狸
181/457

158 蛇戦士

「「シュッ!」」


 リザードマンが息を細く吐き出すように鳴いた。クロとマシロはそれを開戦の合図と取り、素早く抜剣する。

 リザードマン達は大きな石の盾に全身を隠し、石の筒だけを盾の横から出してクロ達に向けた。


 ・・・銃か!


 見た目はただのパイプの形。だが構えからして土魔法によって銃と同様に用いる武器だと判断した。

 クロは盾を構え、マシロは回避のため走り出す。


 ギギィィ!ドオン!


 黒板を爪でひっかくような音がして、石の筒から予想通り石の弾丸が飛び出した。

 通常の銃の違って魔法で射出するので、爆音はしないのだろう。代わりに石と石が高速で擦れる音が響いた。

 直後の衝撃。轟音。クロの盾にその石の弾丸が当たった。

 問題はその威力。クロはその衝撃で数十cm後退させられた。


 ・・・なんて威力!盾が吹っ飛ばされるところだった。


 これは回避が正解か。クロがそう思って盾をどけて動き出そうとしたその時。


 ガツッ!


 どけようと傾けた盾に石が当たり、偶然にもいなす形になった。

 軌道が逸れた弾丸がクロの背後に飛び、大木に深々とめり込んだ。

 その穴を見て、ぞっとする。直径10cmはあるだろうか。もはや銃というより大砲と言った方がいいような大口径である。

 そして、今、2射目が飛んできたということは。


 ・・・連射できるのか!


 クロが慌てて横に走ると、すぐ後ろ、さっきまで立っていたところを石の弾丸が通り過ぎた。流れ弾を回避すべく身を伏せている狸達が目の端に映る。

 そのまま走ってなんとか連射を回避すると、射撃が止まった。

 リザードマンは盾に完全に身を隠したが、やっていることはなんとなく見えた。石の筒の射出口と反対側の穴を地面に突き刺している。数秒後、地面から抜いて、また構えた。


 ・・・ああして地面から弾丸を作って装填してるのか。


 一見すると土で弾丸を作って飛ばす『ソイルショット』に見える。しかし、装填方法からして『ソイルショット』ではないようだ。

 『ソイルショット』は弾丸を地面から生成して飛ばすまで一連の術式だ。リザードマンがやっているように、弾丸を生成後、一旦保持することはできない。

 もちろん、一旦保持する方法の方が魔力の燃費が悪い。しかし、見ての通り連射できるメリットがある。

 『ソイルショット』も連射は可能だが、連射速度が段違いだ。『ソイルショット』は1つ1つ泥団子を急いで作って投げる程度の速度だが、リザードマンの連射速度は、マシンガンとまでいかずとも、グレネードランチャーのようにポンポン連射してくる。


 一方、もう1人のリザードマンはマシロと相対している。

 流石はマシロ。すでに1回目のリロードで接近し、攻撃を試みている。しかし、大きな盾に阻まれて、攻撃が届いていない。リザードマンは盾捌きも上手いようだ。


 ・・・とはいえ、遠距離では不利なのは間違いない。


 クロも金属製の武器が付近に多数あれば、遠距離の撃ち合いもできるが、今はそれほど多く持っていない。

 となれば、接近してどうにか盾の防御を抜くしかない。クロも盾で逸らし、走って回避し、接近を試みる。


ーーーーーーーーーーーー


 リザードマンに接近したマシロ。しかしマシロが斬りつけようとした場所に、リザードマンは素早く盾を滑りこませてくる。

 全身が隠れるような大きさのうえ、かなり分厚い石の盾は相当な重量のはずだ。それを軽々と振り回す。

 弾丸の射出速度から、相当な土魔法の使い手であることは確実。であれば、石の盾の強度も高いだろう。鋼鉄すら切り裂くマシロの「黒剣」でも切れない可能性が高い。

 試してみれば切れるかもしれないが、失敗すれば「黒剣」が折れてしまう。修復は可能だが、戦闘中には無理だ。折れるのはできるだけ避けたい。


 近距離でリザードマンの隙を伺うマシロに対し、接近された以上、砲撃は無意味と悟ったリザードマンは、石の筒の先端を地面に刺し、素早く引き抜いた。

 引き抜いた石の筒の先端には短い石の刃が付いていた。一瞬で石の刃を形成、装着したらしい。

 銃剣のような形になった筒を、リザードマンはマシロに向けて突き出す。当然、マシロはその突きを躱す。

 リザードマンは突きを躱されても慌てず、淡々と盾に隠れながら突きを繰り返す。マシロに突きが当たることはないが、隙を見せることもない。互いに隙を探す膠着状態になった。



 隙を探り合うこと数十秒。マシロが勝負に出る。


「『奥義・花鳥風月』」


 マシロがそう呟きつつ接近。リザードマンがその言葉の意味を理解したかどうかはわからないが、マシロの魔力を見たのだろう。警戒した様子で盾を構えた。

 マシロの『剣舞』は、分類としては魔法に当たるが、八神が作成したものとも魔族が作ったものとも異なる。通常は魔法文字で術式を刻んでプログラミングのように魔法を構築するが、マシロの『剣舞』は術式を書かない。

 その『剣舞』に使用する魔剣や魔術具を用いてひたすら同じ動きを繰り返す。その鍛錬によって魔術具がその動きを記憶することで、その動きを高速かつ精確に実行できるようになる魔法である。

 術式を刻めばいいだけの魔法に比べ、構築に随分手間がかかるが、術式がない分、自由度が高い。術式を用いる魔法では動きを事細かに刻まなければならないが、それがないため、ある程度、実行時に変化をつけられる。それを今、実行する。


 接近したマシロは、リザードマンの盾を蹴った。無論、このモーションは『花鳥風月』の動きではない。このように、詠唱から発動までのタイミングも自在。

 体重100kgを超えるマシロの、突進からの蹴り。石の盾はリザードマンに支えられながらも数cm地面を削って後退した。

 リザードマンがその衝撃に耐え、動きを止めている間にマシロは蹴った反動で距離を取る。

 それを見たリザードマンは、盾を支える左腕に痺れを感じつつも右手で石の筒を構える。接近されたが故に使えなかった砲撃を使用しようとした。

 しかし、砲の発射よりも早く、マシロのナイフ「黒爪」が飛来。その数20本。それに気づいたリザードマンは、盾から出していた右手と筒を慌てて盾に隠す。

 20本のナイフが盾に当たり、折れ、弾かれる。

 一瞬のうちに飛来したナイフの数を数えていたリザードマンは、盾に当たった数も数え、すべて弾いたと確認した瞬間、盾から顔を出して筒を構える。そして、すぐに上を向いた。


 リザードマンは独特の感知方法で、盾の向こう側の状況もある程度把握していた。マシロがナイフを飛ばした直後に、頭上に移動したのに気づいていたのだ。

 しかし、またも後れを取る。

 筒を上に構えた時には、マシロの「黒剣」の1本が高速で飛来していた。狙いは右腕。またも砲撃を諦め、防御するしかない。盾を頭上に持ち上げて防ぐ。

 剣を弾いたことを確認したリザードマンは、盾から筒を出す前に、一旦マシロの様子を確認する。また盾から出た腕を狙われると思ったからだ。

 ところが、見失う。リザードマンの感知方法は熱感知。当然、ただの熱感知ではなく、魔力感知の一種である。そのため、感知のタイムラグはほとんどない。それでも見失った。それほどの速度。

 マシロは空中で靴をほどいて足場を作り、それを蹴って突進。剣を構えてではなく、足から。斬るのではなく、盾ごとリザードマンを押し潰す狙いだ。

 マシロを見失ったリザードマンは、本能的にマシロの突進に気付いた。感知できないほどの高速突進だと。


「シュッ!」


 短い声。それに応じて土魔法が発現。リザードマンの足元から4本の太い土柱が立ち、リザードマンが頭上に掲げる盾を支える。


 ドオオオオン!


 大砲の砲撃が着弾したような轟音。突進したマシロが盾に衝突した音だ。

 強固な石の盾には複数の亀裂が入ったが、砕けず。土柱が見事に盾を支えていた。


「シューッ!」


 リザードマンは衝撃によるダメージを負いつつも、反撃を始める。土魔法の攻撃、『ソイルジャベリン』。崩れかけた石の盾から、複数の石の槍を生やした。衝突によってマシロもダメージを負い、そこにまだいると思ったからだ。着地の隙を逃さないため、確認よりも先に攻撃した。

 ところが、そこにはもうマシロはいなかった。

 これこそが『奥義・花鳥風月』の真骨頂。ここまでの強烈な3段攻撃。最後の突進は誰が見てもマシロにも反動があり、この突進が最後の攻撃だと勘違いする。そして、その隙を突こうとする。大技の後の隙を狙うのは基本だからだ。

 しかし、マシロはここから傷ついた体を強引に動かし、最後の一撃を実行する。

 手足を使って素早く盾を回り込み、盾の下のリザードマンに背後から高速接近。後頭部に斬りつけた。


 ・・・入った!


 ガキン!


 確かに入った。剣はリザードマンの後頭部に当たった。

 しかし、斬れない。盾よりもさらに強固な鱗に阻まれていた。

 「黒剣」の微細な刃が回転して、鱗を削っているが、すぐには斬れない。

 マシロが剣を引いて離脱した瞬間、声がかかった。


「そこまで!ブルー、そこまでだ。」


 読心の人間の声。動きかけていたリザードマンが動きを止めた。


「勝負は一撃入れるまで。確かに今、クリーンヒットした。マシロ殿の勝ちだ。」

「シュー・・・」


 残念そうにリザードマンが声を漏らす。構えを解いて、人間のほうへ歩いていく。

 マシロは、その背を見つめた。


 ・・・彼は、私の剣をその身で防いだ直後、尾で攻撃しようとしていました。あの立ち位置から、私は躱せたでしょうか?


 ここまで一切使用せず、その存在すら意識させなかった、リザードマンの尾。マシロが剣で彼の後頭部を斬れずに動きを止めた瞬間、彼の尾がマシロの足を取ろうとしていた。


 ・・・躱せなかったでしょう。奥義による体の酷使で、私の動きは鈍っていた。おそらく、殺し合いだったならば、負けていた・・・


 マシロは歯を食いしばる。<雨>との戦いを思い出した。


 ・・・何をやっているんだ、私は!同じ轍を踏んでいる!まだ、まだ足りない。


 マシロは目標を見つけた。きっとまたあのリザードマン、ブルーに挑もう。今度は本気で、そのうえで勝ちたいと思った。


ーーーーーーーーーーーー


 一方、クロはマシロ以上に苦戦していた。

 まず、近づけない。リザードマンの砲のリロードにかかる時間はわずか数秒。その間に接近するほどの足を、今のクロは持っていない。回避に専念していた。

 しかし、マシロの勝利を見て考えを変える。


 ・・・そうだな。リスクなしで勝てる相手じゃない。


 クロはマシロの奥義の練習に付き合っていた。だから、その奥義を使えば体に大きな負荷がかかることを知っている。マシロの体の筋繊維はボロボロのはずだ。

 クロも覚悟を決めた。タイミングを計り、まっすぐにリザードマンへ突っ込む。

 リザードマンはリロード時間や装填数をランダムにして、リロードのタイミングを計らせないようにしていた。そのため、クロも接近できずにいた。

 しかし、まったく法則がないわけではない。リロードに一定以上時間がかかるのは確実であるから、フェイントで長めに時間をかけることはあっても、時間を短縮することは困難だ。短縮すれば、どうしても装填数が減る。

 その事実から、1発の装填にかかる時間を推測する。


 ・・・およそ0.5秒。


 そう仮定して、リザードマンがリロードを始めた瞬間に接近する。

 リザードマンは慌てずにリロードを続ける。およそ1.5秒でリロードをやめ、構えた。


 ・・・おそらく装填数は4!


 クロは盾を前に構えて走る。そして敵の射撃タイミングを勘で計り、そのタイミングで角度をつけて盾を前に飛ばす。

 盾が弾丸に当たった。上に向けた盾に当たった弾丸は上に逸れた。同時に衝突の衝撃で盾はコントロールを失って落ちる。

 次にクロは剣を縦に構える。顔の正面に垂直に。そのまま走る。

 砲撃のタイミングで思考加速。弾丸を視認して、剣を横から当てて逸らす。


 ・・・2!


 2発目の弾丸を逸らし、走る。盾を捨てたクロの走行速度は、段違いに向上する。

 剣を元の位置に戻して備える。


 ・・・3!


 3発目も逸らし、さらに接近。


 ・・・4、は無視!


 十分に接近したと判断したクロは、一気に走る速度を上げる。

 4発目が脇腹を掠め、抉るが、無視。

 突進の速度をできるだけ活かしながら、踏み込み、突く。

 クロが砲撃を受けながら突進してくるのは想定外だったのか、リザードマンの反応がやや遅れる。

 リザードマンは筒を引っ込め、盾に全身を隠した。クロの不可解な行動に戸惑い、安全策を取った。石の盾に自信があることがわかる。


 ガギィッ!


 クロの渾身の突きは、石の盾を深々と抉った。

 が、貫通には至らず。それを盾越しに感知したリザードマンは、盾をどけて筒をクロに向ける。

 いや、向けようとしたが、盾がどかなかった。クロが刺さった剣をそのまま掴んでいたからだ。

 リザードマンも大概の怪力だが、クロもまたそう。屈強なリザードマンも重いが、骨格をチタンに変えているクロの体重もそこそこある。少なくとも、リザードマンが片手ですぐに動かせる重さではなかった。

 一瞬の膠着。そこでクロはちらりと読心の人間を見る。先程、クロの脇腹を掠めた一撃で、勝負が決まっていたのではないかと懸念したからだ。今更ではあるが。

 彼はクロ達を見ていた。しかし、待ったをかける様子は見られない。読心持ちの彼が見落としているはずもない。


 ・・・クリーンヒットじゃないから、ノーカウントか?それとも何か思惑があるのか。いずれにせよ、勝負続行なら好都合だ。


 一瞬の思考を終えたクロが、ひび割れた盾に追撃を加える。


「『黒嘴・鰐死転がくしてん』」


 クロの剣「黒嘴」が高速回転を始め、石の盾をさらに抉る。そして、クロが柄頭を掌底で突くと、石の盾を砕いて貫通。石の盾を持っていたリザードマンの左手を切り裂いた。


「そこまで!」


 読心の人間が決着を告げ、クロが勝者となった。


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