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選べるなら、人間以外で  作者: 黒烏
第4章 緑の狸
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157 「悟り」

 倒れた熊の周囲でクロ達は集合し、状況を確認する。


「まさか、これでまだ生きてるとはな。」


 熊はまだ生きていた。クロとマシロに全身を斬られ抉られ、ヤマブキに口内を射抜かれ、脳に電撃を浴びた。それでもまだ熊は生きている。今は気絶しているだけだ。


「外傷も既に止血され、傷が塞がり始めています。魔族と見紛う回復速度ですね。」


 熊の容態を見たマシロが告げる。

 熊はおそらく木魔法に特化した魔獣。その身体能力の高さ、体の頑強さ、生命力の高さは嫌というほど理解できた。


「むしろ魔族がこういう魔獣を参考に作られたのかもな。」

「なるほど。そういう考え方もありますか。」


 魔族は大昔に人為的に作られた種族だ。魔力をフル活用して最強の生物を作ろうとした結果とも言える。こういった強力な魔獣を参考にしていてもおかしくはない。


 ・・・ついでに言えば、魔族の『変化』も化け狸達の『化け』を応用したんじゃないかと予想しているが、確証はないな。


 魔族が用いる『変化』。人間形態から獣になったり、獣形態から獣人形態になったり、ある程度制限はあるが、かなり自在に肉体を変形させる魔法だ。

 それに対し、化け狸の『化け』は、普通の狸の形から二足歩行かつ前足の指が伸びてヒトの手のようになる。『変化』に比べると地味だが、全く異なる骨格に変形する点は同じだ。元になっている可能性はある。


 考察を続ければきりがない。熊は放っておいても再生しそうなので、その場に置いてさっさと出発することにした。起き上がってまた攻撃してきたらたまったものではない。



 しばらく進むと、クロ達は早めに野営を始めた。まだ日が出ているが、戦闘による疲労が大きく、無理はできないと感じたからだ。

 線引きの時と同様に山と森の境界にいるとまた襲われそうなので、少し森に入ったところで野営する。見通しが悪いが、マシロの嗅覚式感知とムラサキの聴覚式感知で警戒すれば問題ない。

 普段食事をしないクロやマシロも、戦闘による消耗を補うべく夕飯に混ざる。特に重傷を負ったヤマブキは食欲旺盛だ。化け狸達が暇を見て狩った獣を解体し、焼いて食べる。味付けは少量の塩と胡椒のみ。だが皆空腹なのでそれで充分旨い。


 ささやかな夕飯を食べていると、マシロが何者かの接近を告げる。


「マスター、何か近づいてきます。山の方からです。」

「総員警戒。・・・こんな森の中まで来る魔獣がいるのか?」


 山の魔獣は森には入ってこないと思っていた。だが、それはクロ達がそう仮定していただけで、そういうルールがあるわけでも習性があるか確認したわけでもない。森まで入って来る魔獣がいる可能性はある。


 ・・・山から離れれば安全ってのは考えが甘かったか?


 そう思って全員にもっと森の奥へ移動するように指示を出そうとしたとき、マシロから詳報が告げられる。


「マスター。接近してくるのは4体。敵意は、なくはないですがすぐに攻撃してくる雰囲気ではありません。敵意というよりは警戒という感じです。」

「話せそうってことか?」


 接近してくる者たちの姿はまだ見えない。


「それなのですが・・・」


 珍しくマシロが言い淀む。


「どうした?」

「私の感知では、どうも中央の1体は、人間に見えるのですが。」

「は?」


 ・・・そんなばかな。


 クロだけでなく、全員がそう思った。ここは魔境アイビス山脈。麓の森でさえ魔獣の森と呼ばれ、まともなヒトが住める場所ではない。

 そのさらに奥、人跡未踏の山に、人間がいるはずがない。それも、4体中1体だけ、ということは、山の魔獣と一緒にいることになる。

 少しばかり信じられないクロは、ありえそうな可能性を言ってみる。


「魔獣が人間喰いながら歩いてるとか?」

「そんな食べ歩き感覚で人間喰われる様子なんて、オレは見たくないなあ。」


 ムラサキがクロの想像に嫌悪を示す。

 そこへヤマブキから続報。


「む、拙者にも見え申した。木々の合間からでござるが、クロ殿が言うような状況には見えませぬぞ。」

「そうか?」


 クロも魔力視で遠方を見てみる。クロの感知距離はマシロより長い。見えなかったのはクロの感知方法が視覚式のため、木々が邪魔だったから。同じ視覚式のヤマブキが見えたのならクロにも見えるはず。

 そう思って目を凝らせば、確かに中央に人間大の魔力。喰われているようには見えない。それどころか、魔獣の背に乗っているように見える。


 ・・・人跡未踏の山奥で、魔獣と暮らす人間がいたってことか?面白い。


「俺も見えた。総員、警戒は継続だが、話せそうだ。撤退準備は保留で。」

「「了解。」」



 クロ達が待ち構える場所に、やがて魔獣に乗った人間がやってきた。

 山奥に住むにしては身だしなみは綺麗にしているように見える。衣服は獣の毛皮だが、丁寧に整えられていて、汚らしい感じはない。黒髪黒目で顔立ちはクロの前世で言えば東南アジア系。それ以外特徴はない。身長も体型も髪形も普通だ。魔獣の背に胡坐で座っている。

 あえて言うなら、クロにも負けないくらい目つきが悪い。クロはそれを見ただけで、厳しい世界を生きている者だと悟った。


 ・・・こいつも、社会に守られるのではなく、自分の力で生きる者か。ここに住んでるなら当然ではあるが。


 次にその人間が乗っている魔獣。毛が長い牛だ。立派な角に、白く長い体毛がもっさりと生えている。見るからに寒冷地に住む獣だ。豊富な毛の下から覗く蹄は大きく、しっかりと地面を捉えている。おそらく、雪深い山頂付近に住む獣ではないだろうか。温厚そうな印象を受けるが、目だけは紅く爛々と輝いてクロ達を睨んでいる。

 そしてその両脇にいる2体の獣。二足歩行のトカゲだ。リザードマンと言えばこういう形を想像するだろう。2体とも左手に石の盾、右手に石の筒を持っている。茶色の鱗で包まれた体は筋肉質に見える。戦士という表現がふさわしい。

 人間はもちろん、3体の魔獣も大きいことは大きいが、2~3m程度。森に入れないサイズではない。


「------」


 人間が口を開いた。クロには聞き取れなかったが、英語だとわかった。


「------」


 マシロが返答した。おそらく日本語で話すように依頼したのだろう。


「Japanese.日本語、は、得意、でない。」

「我らの代表、クロは英語ができません。ご協力いただけませんか?」

「わかった。どうせ、長く話す、気はない。」


 話せるとわかって、クロ達の警戒がやや緩む。

 それを待っていたように人間は話し始めた。


「私は、この山に住む。私に、関して、話せるのは、それだけだ。この山、神が住む。入るな。」

「神?」


 クロはその<神>が気になったが、人間は首を横に振った。詳細を教えるつもりはないらしい。


「八神の誰かか?」


 また、首を横に振って答えた。


「八神以外の神が・・・?」


 後ろに控えるブラウンが驚いている。獣人族は意外と敬虔な八神の信徒だ。他に神がいるなど思ってもみないだろう。

 驚くブラウンに、ダンゾウが助言する。


「ブラウンさん、彼が神と呼んでるだけだ。八神のような神様とは限りやせんよ。」

「そ、そうですね。独自の宗教の偶像神かもしれませんし。」


 ・・・もしくは、実在の人物を祀り上げるか、だな。


 クロが内心でそう補足すると、人間がぼそりと呟いた。


「浅はか。」

「何?」

「日本語で、浅はか、で合っているか?------」

「ええ、合っています。」


 人間が英語で言い直したのをマシロが確認する。


「我が神に比べれば、八神など、この世に、限定的、干渉しかできない、弱い者。我が神は、偶像、ではない。確かに、ここにいて、ここで力を使う。」


 その言葉に驚き、皆、押し黙る。狂信者の妄言に聞こえるが、クロはどうもそれだけでないような気がしていた。

 人間はクロ達を見渡す。


「お前たちが、山に干渉しない、のはわかった。」


 唐突に人間はそんなことを言った。訝しんでクロは尋ねる。


「・・・何でわかる?」

「固有魔法。」


 人間は自分の目を指差して答えた。それにクロは驚く。

 固有魔法を持つということは、彼は異世界人だ。召喚の基準から考えて、野生児が呼ばれることはない。社会で働いて、文明的な生活を送った者のはずだ。そんな人間が、野生で暮らしている。

 クロはちょっとした感動を覚えていた。クロが人間嫌いなのは、特にその社会性だ。協力と言えば聞こえはいいが、現実の人間は協力というよりも依存という感じのものが多く、誰かに助けてもらうことを前提に生きている節がある。故に、野生では生きられない。

 野生で生きる人間の存在は、クロにはまだ人間も捨てたものではない、と感じさせるものだった。

 とはいえ、これはあくまで例外。こんな人間もいるが、大抵の人間はやっぱりクロの嫌いな生き物だ。


 ・・・ああ、人間が皆こんな風に獣のように生きられる奴らだったらなあ。


 クロがそんなことを考えると、人間が答えた。


「それは、危険だろう。私は、特殊だ。皆がこうでは、いけない。」


 その言葉を聞いて、クロはマシロを見る。


「真白、俺、今、何考えてるかわかるような顔してたか?」

「はい?いや、私でもマスターが彼に好意的な感情を抱いているのがわかる程度で、何を考えていたかまでは。」


 マシロに確認して、クロは彼の固有魔法がわかった。それに合わせて彼も説明する。


「『マインド・ピーピング』。私の固有魔法。思考と、記憶を読む。」

「記憶もか。」

「そうだ。話している、うちに、ここに来た経緯も、見せてもらった。お前たちの判断は、正しい。領地は、山を避けて、引け。干渉しなければ、我らも干渉しない。」

「ああ、そうしてくれると助かる。」


 クロにとっては願ってもない提案だ。山の魔獣たちがヒトの干渉なく住めるのならそれでいいのだ。

 一件落着かと思われたところで、再度人間が口を開く。


「しかし、お前たちの力は、ギガラーテルを倒したから、わかるが、お前たちは、やや、我らを侮っているようだ。教える必要がある。」


 人間の言葉に合わせて、リザードマン2人が前に出る。

 クロは納得いかない顔で答える。


「侮ってなんか・・・」

「お前じゃない。後ろの奴ら。」


 クロが振り返ると、ブラウンと一部の狸達が目をそらした。

 クロは眉間を押さえる。


「お前ら、こいつらはさっきの熊、ギガラーテルっていうのか?あれより強いぞ。」

「いや、それはわかってるんですが・・・」


 狸達は理屈ではわかっても、納得できていないらしい。


 ・・・これは確かに、身をもって知らないと理解できないか。


 クロの思考を読み取って人間が言う。


「そう。こういうことは、体験しなければ、わからない。だが、殺す気はない。魔族だけ、前に出ろ。」


 思考も記憶も読まれるなら、クロ達が魔族であることも読み取られていて当然。驚くことではない。

 魔族だけ、というのは、けがをしても容易に治癒でき、死ににくいからだろう。加減をする気はないらしい。

 クロは覚悟を決める。


「わかった。俺と真白だけでいい。ヤマブキは負傷したばかりだし、ムラサキは魔族だが耐久力がない。」

「それが、いいだろう。これは、試合だ。一撃、体に攻撃が当たれば、そこで離脱だ。」


 そうしてクロとマシロ、2人のリザードマンをやや開けた場所に残し、他の者たちは離れた。

 <神>の使者との対決が始まる。


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