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選べるなら、人間以外で  作者: 黒烏
第4章 緑の狸
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156 不退転の獣戦車その2

 10m近い熊の巨体が迫る。単純な突進ではあるが、何をしても止まらない頑強さゆえに無敵の突進となっている。

 まずはクロの攻撃。先程は熊を傷つけまいと盾で受け止めようとしたが、ここからは加減はしない。


「ふっ!」


 「黒嘴」による全力の横薙ぎ。急所である顔面を狙うが・・・


 ガチッ!!


 熊はその剣を牙で受け止める。「黒嘴」は熊の強靭な顎でがっちり固定された。そして尚も熊は足を止めない。

 剣を咥えて固定されたクロは止む無くそのまま熊の頭に飛び乗る。首に足をかけて剣を引き抜こうとするが、抜けない。


 ・・・くそ、力負けするのは久々だな。


 クロは魔族になってから、積み重ねた鍛錬によって尋常でない腕力を身に付けている。戦闘で力負けすることはまずなかった。クロに膂力で勝てるのはマシロくらいだった。

 クロが剣を熊の口から引き抜くのをあきらめ、別の攻撃手段を使おうとした時、急に熊の走り方が荒くなった。


「む。」


 熊は前足で地面を砕きながら走り始めた。飛び散る石や土砂が高速で熊とそれに乗るクロにぶつかって来る。

 クロは慌てず、付近に浮遊させていた盾を前方に配置し、土砂から身を守る。


 土砂を巻き上げても首から離れないクロを振り払おうと、熊が首を激しく振る。しかしクロは咥えられた「黒嘴」にしっかり掴まり、離れようとしない。

 止む無く熊がマシロの方に意識を向けると、今度は熊が驚愕する。

 マシロは巻き上がる土砂を回避しつつ、熊と並走していた。

 熊には自分の突進に絶対の自信があった。自分のトップスピードについて来られる者などいないはずだった。

 だがこの白髪の獣人は、二足歩行で、しかも土砂を回避しながら追い付いている。熊にとって未知の相手だ。

 並走されては、得意の突進攻撃ができない。何とか引きはがそうと熊は走りながら前足で岩を投げ飛ばしてみるが、マシロは悠々と回避する。

 ならばとその巨体をマシロに寄せて体当たりを試みる。

 しかしそれは熊にとって悪手だった。


「対巨獣用剣舞、『大輪望月』!」


 マシロは右手の「黒剣」を逆手に持ち、きりもみ回転しながら跳び上がる。熊の体に沿うような跳躍軌道を取り、跳び越えながら熊の胴体を撫でるように切り刻んだ。


「ぐるうぅぅ!」


 深い傷ではないが、表皮を広範囲にわたって削られ、熊の背から血が噴き出す。熊は苦悶の声を上げるが、咥えた剣は放さない。

 そこへ首に取り付いたクロが追撃を加える。


「悪いな。『五寸釘・丑の刻参り』」


 対魔族用武器「五寸釘」。敵に突き刺し、『丑の刻参り』を発動すると、無数の金属片に分裂し、体内を何度も抉る凶悪な武器だ。それを首の後ろに刺した。

 『丑の刻参り』が発動。金属片が散って熊の肉を抉り始めるが・・・


「ぐおおおお!!」

「おおっと!」


 熊がくわえていた剣を放し、その剣を掴んでいたクロごと投げ飛ばして首から離した。

 クロはどうにか着地。そして熊も徐々に減速し、停止する。首を抉り、仕留めたかと思ったが、熊はのっそりと立ち上がる。

 マシロがクロの下に駆け寄った。


「「五寸釘」を仕掛けたのでは?」

「ああ。確かに発動した。だが・・・」


 五寸釘は、なんと熊の表皮から先に入れず、毛を多少削るに留まっていた。しばらくして、元の釘に戻ってぽろりと落ちた。


「木魔法による身体強化が、あんなにも固くなるとはな。」

「「黒剣」は効きました。倒せなくはありません。」

「俺の方は、どうだろうな。」


 クロの「黒嘴」はそれほど切れ味が良いわけではない。あの強靭な表皮が相手では、打撃と変わらないだろう。そうなると、厚い脂肪に防がれる可能性が高い。


 ・・・俺と真白では決定打に欠けるか。だがやるしかない。


「真白、俺が引き付けるから、その間に奴の急所を狙え。」

「了解。」


 クロが正面から熊に向かい、マシロが回り込む。

 対する熊は後ろ足で立ち上がり、吠えた。


「ぐるおおおおおおおおお!!」


 立ち上がるとその巨大さが際立つ。10mといえば、3階建ての建物のようなサイズだ。普通なら勝ち目があるようには見えない。

 だが、クロ達は普通ではない。特にクロは、普通を忌み嫌う。故に、普通はやらないことを好んでやる。例えば、この巨体に正面から立ち向かったりすることだ。


 上空から、という表現が正しいような角度で、熊の前足が振り下ろされる。

 クロがそれを紙一重で躱す。直後、吹き上がる血飛沫。


「がああ!?」


 熊が痛みに叫ぶ。振り下ろした前足を「黒嘴」が貫いていた。クロは「黒嘴」を前足が振り下ろされた場所に立ててから回避したのだった。地面はちょうど頑丈な岩の上。もちろんクロがこれを見越してここに走り込んでいた。

 クロの膂力では熊の表皮を貫くのは困難。だが、熊の力を利用すればこの通り。


「悪いが、その剣は特別製でな。折れないんだ。」


 そして、通常の剣では折れてしまうような衝撃でも「黒嘴」は折れない。

 クロは素早く距離を取りつつ、魔法で「黒嘴」を回収。そしてこの隙にマシロが熊の後頭部に音もなく飛び掛かっていた。

 しかし熊がこれに反応。背後から迫るマシロに、無事だった方の前足を振る。

 これをマシロは、自身が着ている服「影縫」を操作することで空中を移動し、回避。熊の反撃は予想済みだったようだ。

 無理な体勢で後方を攻撃した熊が態勢を崩したところへ、マシロが急接近。


「『剣舞・天翔風牙』」


 靴を分解して空中に足場を作り、それを蹴って急加速。一気に首に取り付き、斬りつけた。

 「黒剣」の刃は熊の首に深々と食い込んだが、しかし。


「くっ、これ以上は・・・!」


 それ以上、いくら押しても切れない。食い込んではいるが、皮膚を貫けていない。

 どうやら身体強化は胴体よりも首などに強くかけてあるようで、胴体なら切れた「黒剣」も、首には刃が立たなかった。

 マシロは熊の反撃を察知して首から跳ぶ。直後にマシロが取り付いていた場所に熊の前足が叩き付けられた。「黒剣」は食い込んだまま置いてくるしかなかった。

 攻撃が失敗に終わったマシロだが、ただでは終われない。そのまま離脱するかと思いきや、またも空中で急に方向転換。首に食い込んだ剣の柄から紐が伸び、マシロの袖に繋がっていた。それを巻き取り、今度は熊の顔に正面から接近する。

 熊が噛みつきで応戦しようとするが、マシロはその横っ面を蹴って回避。そして離脱しつつ熊の鼻先を切り裂いた。


「ぶっ、ごおおお!?」


 熊が顔を押さえて苦しむ。鼻先は他の表皮のような頑丈な毛皮に包まれていない。いくら身体強化で強度を上げても、限界があった。

 マシロが苦しむ熊を見ながら、クロの横に着地する。


「申し訳ありません。仕留められませんでした。」

「いや、十分だ。嗅覚を封じればだいぶ楽だ。」


 この熊は嗅覚式魔力感知を使っていた。だからこそマシロが背後から接近するのに気が付けたのだ。しかし鼻が傷ついた今は、十全に機能しないはずだ。


「まだ耳が残っています。油断はできません。」

「ああ。だが、こっちは別に俺達2人だけじゃない。」


 クロがそう言った瞬間、熊の苦しみ方が変わる。口をパクパクと開閉させている。

 ムラサキの窒息攻撃だ。即座に失神しないあたり尋常ではない耐久力だが、これが十分な隙になる。


 トスッ


 静かに、そして目にも留まらぬ速さで何かが熊の口に入った。

 ヤマブキが放った矢だ。クロが、マシロが、そしてムラサキが作った隙が、ようやくヤマブキの矢が当たるだけの隙になった。

 いつの間にか全員が森から出て来ていた。ヤマブキは人間形態で血塗れのまま弓を持って立っている。重傷なのに無理して立っているが遠目にもわかる。


「まったく、避難してろって言ったのに、無茶しやがる。」

「あのまま倒れていては、武士を名乗れんでござる。」


 わざわざ魔法で声を送って来た。意外と余裕なのかもしれない。ヤマブキも、打たれ弱いとはいえ魔族。それなりに耐久力はあるようだ。


「さあさあ、とどめでござる!先程とは一味違うぞ!『サンダーボルト』!」


 直後、閃光が走る。初撃の電撃とは明らかに威力が違う。そして何より、この電撃は狙いをつけて集束されていた。

 狙いは口の中に刺さった矢。放つ前に大量の魔力を込めておき、上空の魔力塊からその矢に向けて大電流を流したのだ。

 矢が口内に刺さっても尚、立っていた熊だったが、この電撃でついに倒れた。

 上空から口の中に向けて流れた電流は、正確に熊の脳を射抜いていた。いかに頑丈な皮膚で体を覆っても、電流は防げない。

 クロ達は力を合わせてようやく熊を撃破した。


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