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選べるなら、人間以外で  作者: 黒烏
第4章 緑の狸
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152 人間の来訪

 ヤマブキが人間の狩人たちを殲滅した数日後。クロは家を訪れたスミレを捕まえて尋ねた。

 困ったときのスミレ頼み。自分で調査しないのか、とも思うが、やはり専門家に頼むのが一番早くて正確だ。


「ええ。確かに最近人間を多く見ますねぇ。」

「やっぱ、停戦したからか?」

「でしょうねぇ。誰だって戦時中の国には訪れたくないでしょう~。」

「まあ、そうだが。」


 前世ならその一言で納得できる。しかしここは様々な種が住む異世界だ。


「それでも獣人至上主義のフレアネスに人間がホイホイ入ってきて、大丈夫なのか?」

「それは偏見ってものですよぉ、クロさん。前世の白人と黒人の確執と似たようなものですぅ。前世だって、別に白人が黒人を見つけたからって、ヒャッハー!黒人だぁ!とか言って狩ったりしなかったでしょう~?」

「あー、そりゃそうか。」


 前世での人種の差に比べると、この世界での人間族と獣人族の違いは大きいように見える。実際に人種の違いが原因で長く戦争もやっていた。

 しかし、この世界は一度、勇者カイによって統一され、異世界の価値基準に基づいて差別の撤廃が図られた。であれば、差別意識は根強く残っていたとしても、大っぴらに差別することは憚られるくらいにはなっていてもおかしくない。クロの前世と同じように。


「ですから、まあ、普通に商売したり仕事したりする分には、人間でも大丈夫ですぅ。ただし、人目のつかない裏路地とかではどうなるか知りませんけどぉ。」

「なるほどね。」


 そこにクロの後ろに控えるマシロが口を挟む。


「確かに、開戦前は人間の姿も見た記憶があります。何をしていたかまでは覚えていませんが。」


 開戦前と言えば10年以上前だ。当時のマシロはまだハヤトに飼われ始めて、ヒトの生活を覚え始めたばかり。理解できなかったのも無理はない。


「多分商人でしょう~。人間族と獣人族では得手不得手が違いますから、交易は重要ですぅ。今までは戦火を恐れて国境付近でだけ商いをしていた商人も、その危険がなくなったとなれば、より大きな利益を求めて王都まで来ても不思議じゃありません~。」

「ここに来た狩人たちは?」

「魔獣を狩りに来たと言っていたんですよねぇ?それなら、国際依頼じゃないですかぁ?レアな魔獣を探して世界中回ってたとか。」

「まあ、確かにここには、他にはいない魔獣も棲んでそうだな。」


 この世界は狭い。ほとんどの大陸がかつての大戦で沈んでしまい、一続きの大陸に人々が密集して生活している。こんな世界では、もう人跡未踏の秘境など、ほとんど残っていない。

 この魔獣の森とアイビス山脈は、その残り少ない秘境の一つ。希少な魔獣を探すならもってこいの場所だ。今までは戦火を恐れて来なかった狩人たちが、今後は頻繁に来る可能性がある。


「外国の狩人たちにも、ここに入れないと知られるように、何かやるべきか。」


 クロがまた派手な騒ぎを起こそうと考え出したのを見たスミレが、慌てて止める。


「ちょっと、クロさん~。待った待ったぁ。必要ないですよぉ。」

「なんでだ?狩人共が絶対にここに手出ししたくなくなるような、派手な奴をやるべきかと思うんだが。」

「もうやってますって~。」

「ん?」


 クロはスミレの言葉に首を傾げる。


「ヤマブキさんが全滅させたパーティ、<鷲の爪>と名乗ってたんでしょう?」

「うむ。そう名乗ってござった。」


 同席していたヤマブキが頷く。


「それ、カイ連邦で有名な狩人ですよぉ。それが全滅したとなれば、ほっといても噂がじきに広まりますぅ。」

「全滅したのに、誰が広めるんだ?」

「むぅ・・・」


 クロの指摘にスミレが唸る。スミレはしばし思考した後、諦めたように溜息を吐いた。


「仕方ありません~。私が広めておきましょう~。」

「いいのか?手間かけて悪いな。」

「いえいえ~。実は、ようやくブラウンさん達も手が空いてきて、今まで保留していた国内の問題解決に手が付けられるようになってきたんですぅ。私はそのお手伝いで各所を周ることになっていますから、そのついでですぅ。」

「ついででやってもらえるなら有難い。じゃあ頼んだ。」


 これでこの森に来る狩人は減るだろう。ただし、ゼロにはならない。警戒は必要だ。

 クロはこの森にヒトの干渉を一切入れたくないと考えている。先も述べたように、この世界はもうほとんどがヒトの手が入った土地になっている。ヒトの手が入ろうと、生き物たちはそれに合わせて生き方を変え、逞しく生きていくだろう。

 しかし、適応できずに死んでいく種も確実にいる。それが淘汰だと言ってしまえばそれまでだが、そう言って割り切ってしまうには、クロは獣の側に感情移入し過ぎている。どうしても見捨てきれないのだ。

 だから、自分の手が及ぶところだけは、ヒトの干渉から守りたい。全世界の獣を守りたいとは言わない。それはそれでやりすぎだと思うからだ。

 きっとこの考えは、一般的なヒトや狩人たちとは相いれないだろう。だがそれでいい。どうせもうクロはヒトではないのだ。


 用が済んだら、後は些細な情報交換も兼ねた雑談だ。


「こっちはクロさんには関係ないですけどぉ。人間が王都まで入ってくるとなると、トラブルが頻発しそうですねぇ。戦時中の港ですら、良くトラブルが起きていましたしぃ。」

「そうだな。まあ、がんばれ。それしか言いようがない。」

「ま、がんばるのはブラウンさん達でしょうけどぉ。」

「手伝ってやれば・・・ああ、お前が仲裁に入ったら、まともに終わりそうにないな。」

「そうですねぇ。私がやるなら、とりあえず喧嘩両成敗~。両方眠らせて、強制的に落ち着かせてから話合わせますぅ。」

「力技だな。」

「獣人の国は圧政を敷いていると誤解されそうですね。」


 故郷の国の悪評が立つのは気分が悪いのか、マシロが嫌そうにする。


「ブラウンさんにもそう言われましたぁ。ってわけでぇ。私はもうちょっと荒っぽい仕事を担当する予定ですぅ。」

「荒っぽい?」

「それは成果が出てからのお楽しみで~。一応、秘匿事項ですしぃ。事が終わったら自慢しに来ますからぁ。」

「・・・そうか。」


 自慢されるのは鬱陶しいが、王国の裏事情の情報が入るなら有用だろうとクロは考えて、拒否しなかった。



「こんにちは、スミレ、さん。」


 奥から客間にアカネが入って来た。本体のキツネと幻影の女の子が、同時にぺこりと頭を下げる。だいぶ流暢に話せるようになったが、まだ一部ぎこちない。


「おやぁ?アカネさんと・・・隣の子は?」

「茜だ。」

「・・・・・・ははぁ。化け狸さん達の『化け』と同じ奴ですかぁ。」

「なんだ、もうわかったのか。つまらん。」


 からかうつもりだったクロが残念そうにする。


「ふっふっふ~。嘗めちゃあいけませんよぉ。優秀な密偵には、洞察力が必須なんですぅ。」


 クロとスミレが話している間に、幻影の女の子はキツネの背に乗り、クロの傍に移動する。まだ幻影の歩くモーションが不自然になってしまうためだ。ヒトの歩くモーションというのは、意外に複雑なものである。

 アカネはクロのもとに寄ると、本体はクロの足にすり寄り、幻影をクロの横に座らせた。クロは幻影の女の子の頭を撫でる。しっかりと頭髪の感触が闇魔法で再現されている。下地が土でできたゴーレムとは思えない。


「よしよし。うまくできてるな。」

「本当!?やったー!」


 本体も幻影も一緒になって喜び、跳ねる。

 そこへマシロが一喝。


「こら、アカネ。お客様の前ですよ。」

「あっ、ごめんなさい、養母様かあさま。」

「かあさま?」


 スミレが耳聡くアカネの言葉を聞き取る。

 クロが誤解されないうちに素早く答えた。


「育ての親って意味だ。」

「ああ、なるほど。じゃあ、クロさんは・・・」

「とうさま、だよ。なあ?」


 今まで黙っていたムラサキが、ここぞとばかりにニヤニヤしながら答えた。


「・・・まあ、そう呼ばれてる。」

「ほうほう~。ほうほうほう~。」


 スミレがムラサキ以上にニヤニヤしながらクロとマシロを見る。


「じゃあ、ふ・・・」

「夫婦ではない。」

「兄妹です。」


 スミレが言いきる前に、クロとマシロがぴしゃりと遮った。


「ふふ~ん。そうですかぁ。そうなんでしょう、あなたたちの中ではぁ。」


 スミレがどこかで聞いたようなセリフで煽るが、クロもマシロも動じない。


「その通りだ。それが何か問題か?」

「むぅ。動じませんかぁ。いじり甲斐がないですねぇ。」

「俺はそんなキャラじゃないからな。いじられキャラならそこにいるぞ。」


 クロはそう言ってムラサキとヤマブキを指差す。


「なっ!?ちょっと待て!こっちに矛先を向けるな!」

「拙者もでござるか!?断固、異議を申し立てまする!」


 抗議する2人の前で、スミレがゆらりと立ち上がる。


「そうですかぁ。そのお二人は弄ってもよい、とぉ・・・」

「程々にな。」


 スミレの殺気(?)にまずムラサキが反応した。


「やばい!逃げるぞ、ヤマブキ!」

「ぬ!?なぜ逃げるのでござる!拙者はそうそう遅れは取らぬ!」

「そいつは闇魔法の名手だ!触られただけで抵抗できなくなるぞ!」

「なにっ!?では確かに閉所では不利!さらば!」


 ムラサキとヤマブキは素早く窓から飛び出す。スミレもそれを追って窓から出た。


「逃がしませんよぉ!」


 3人の高速鬼ごっこが始まった。

 クロ、マシロ、アカネは窓からそれを見物する。


「やっぱ、スミレの速度は人間離れ、もとい獣人離れしてるな。」

「良い鍛錬になりそうですね。私には若干スピード不足ですが。」

「私もやりたい!」

「やめとけ。あいつ捕まえたら本気で闇魔法かけてくるから。」


 空中に逃げていくムラサキとヤマブキを、地面から飛ばした土塊を足場にスミレが高速で追跡している。獣人は身体能力が高いが、スミレはその中でも群を抜いているようだ。

 その鬼ごっこはスミレが飽きるまで30分ほど続き、その後スミレは「いい運動になった」と言って帰って行った。


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