148 忘年会③
忘年会は大いに盛り上がった。
料理が綺麗に食べ尽くされた後は、残りの酒を片手に余興が始まった。
先代のゴーレム演舞から始まり、それでテンション上がった狸達がゴーレム決闘を始めた。
互いに1体ずつ『アースゴーレム』を出して殴り合う。可能なら武器を持たせてもいい。殴り合うのはゴーレムだからケガをしないので、思い切りやれる。
「いけー!」
「そこだ!」
「足を狙え!」
やり合う2人はもちろん、観戦する側も盛り上がる。
土魔法で作った斧を持ったゴーレムと、素手のゴーレムが間合いを測って接近と離脱を繰り返す。
素手のゴーレムが素早く接近。待ち構える斧のゴーレムは相手の足を横薙ぎに払った。
しかしそれを読んでいた素手のゴーレムはジャンプして躱し、斧のゴーレムの懐に入る。
そこからは一方的。リーチと破壊力を重視して柄が長い斧にしていた斧のゴーレムは、至近距離ではうまく戦えない。対して素手のゴーレムは殴り放題。しかも武器を作らなかった分、ゴーレム自体の強度が高めてあり、殴っても拳の摩耗より斧のゴーレムが壊れる方が早い。
そしてそのまま決着。
「くそー!負けた!」
「はっはっは!青い青い!足狙いがバレバレだったぞ!」
「次は俺だ!」
そうして徐々に勝ち抜き戦のようになり、ベテランに若手が挑むような構図になって行った。
素手のゴーレムを操るベテランはそのまま10人抜きした。
「どうした!俺に勝てるのはいないのか!?」
はっはっは、と高笑いするベテラン狸に、ゆっくりと近づく小さな影。
「ほう。ではお相手願えるかな?」
「げっ!?せ、先代!?」
調子に乗っていたベテランは、先代に勝負を仕掛けられた。
結果、瞬殺。
ベテランの頑強なゴーレムは、先代の鋼の双剣を持ったゴーレムに8分割されて倒れた。
その後もメンバーを変えて再開。
器用な若手が投石を得意とするゴーレムを作ってベテランを撃破するなど、番狂わせはあったが、基本はベテランの方が強かった。
日が暮れ始めても興奮は冷めやらず、終わりが見えなくなったころ。
「面白いな。俺も混ぜてくれ。」
クロが参加の意思を表明したところでピタリと止んだ。
そして、狸達は一斉に辞退。
「なんでだよ。心配するな。俺はケガしてもすぐ治るから。」
「そうだけど!いや、あんたに勝てるわけないだろ!」
以前、ハツ達が見たクロとマシロの鍛錬の様子は、狸達全員に知れ渡っていた。
「まあまあ。いいじゃないか。」
「いや、あ!先代!助けてくれ!」
あるいは先代ならば勝負になるのでは。クロに詰め寄られたベテラン狸は、先代に助けを求める。
しかし先代は既に丸くなっておやすみの態勢になっていた。
「わしゃあ、もう疲れた。自分で何とかせい。」
「そ、そんな!か、頭!」
次に頭領であるダンゾウに助けを求めるが、
「儂は土魔法使えんからなあ。」
結局、ベテランのゴーレム対クロの決闘が始まった。
半ばやけくそのベテランが槍を持ったゴーレムを突撃させるが・・・
「うおおお!」
「ふん!ふっ!」
クロの一刀で槍が叩き折られ、返す刀でゴーレムの胴は真っ二つ。上半身が数m飛んで、地面に落ちて砕けた。
「・・・参りました。」
「いや、なかなかの突進だった。帝国兵相手よりも緊張感あったぞ。ただ、速度が足りないな。」
「た、足りませんか?」
先程のゴーレムの突進速度はかなり速かった。時速50kmは出ていたかもしれない。通常、鈍重なゴーレムにしてはかなり速い部類だ。
しかし、マシロの速度に慣れたクロには、遅く感じられたらしい。
自覚がないながら、もしや自分の感覚がおかしいのか、と感じたクロは、他に意見を求める。
「足りなかったよな?」
「足りませんでしたね。」
尋ねた相手はマシロ。当然、マシロは「遅い」と答える。
・・・聞く相手が違う!
周囲一同、そう感じたが、誰も口に出さなかった。こういう時のツッコミ役、ムラサキは、狸の若い女の子達と飲んで盛り上がっていて、クロ達の決闘を見ていなかった。
決闘大会へのクロの乱入の後、宴会はお開き。
全員で協力して後片付け。と言っても、食べ物は完食。使った食器はほとんどが土魔法で作ったもので、崩して土に還すだけ。空の酒瓶だけ『ウォーター』で洗って『ヒート』で乾かし、物置に片付けた。
狸達は、酔った状態で森の巣穴まで帰るのは危ないので、庭先に土魔法で即席小屋を建てて泊まることになった。
後片付けを終え、日も沈んだ後。家の客間でクロ、マシロ、ダンゾウが机を囲んでいた。
他のメンバーは既に眠り、この3人だけが残った酒をちびちびと飲みながら静かに話をしていた。
3人とも光適性が低いので、部屋を照らす『ライト』はぼんやりとしたもので、薄暗い。
それでも3人とも夜目が効くので暗さを気にした様子もなく、お猪口で酒を飲んでいる。
「いや、今回は馳走になりました。」
「雇い主として当然の労いだよ。」
「しかし、これほどの酒を集めていたとは。」
今回の宴会では結構な量の酒が消費された。そのほとんどが物置にしまってあったクロの酒だ。
「あー、あれな。」
「あれはマスターの趣味です。」
今はメイドとしてではなく、クロの兄妹分として、クロの隣に座るマシロが答える。
「マスターが街に出たときに赴く場所は、図書館、酒屋、陶器店です。マスターはお酒が好きで、エールや日本酒をよく買いますが、もったいないと言って開栓せずに物置にしまいます。」
「へ?なんで飲まないんです?」
「いや、俺は魔族で、通常、飲食が不要だろ。買う時は美味そうだと思って買うんだけど、後から無用な飲食は主義に反すると思って、機会が来るまで取っておこうと・・・」
「正直、今回の忘年会は助かりました。物置がいっぱいになるところだったので。」
「え、まだ余裕あったろ?」
「あのペースなら、あと半年ほどで満杯でしたよ。」
クロは酒を買うだけ買って物置に貯め込み、物置の半分を酒で埋めてしまっていた。普段から掃除をしているマシロは、そのことを気にかけていたのだ。
「ちなみに、そのお猪口は、マスターが陶器店で買ったものです。」
「いいだろ、それ。」
ダンゾウの手にあるお猪口は、つやのある黒一色で、側面に1つだけ、ぼんやりと白い丸が描かれている。それが夜空に輝く満月のように見える。
「シンプルですが、いいですね。」
「シンプルだからいいんだよ。」
クロが持つお猪口も、シンプルな柄だ。黄土色に緑の線が引いてあり、底の中央で収束するような渦を描いている。
「ふむ。ウチに焼き物ができる者もいますから、作らせましょうか?」
「お、いいな。」
「お待ちください。」
ダンゾウの提案にクロが同意するが、マシロが待ったをかける。
「酒器のコレクションも場所を取り始めていますよ。あまり増やさないでください。」
「お猪口は俺の部屋に置いてるから、いいじゃないか。」
「マスターの部屋に収まりきらなくなる未来が見えます。」
「うーん、確かに。」
クロは気に入ったものを取っておく癖があり、基本的に捨てられない。物を大事にすると言えば聞こえはいいが、整理ができないとも言える。整頓はされているのだが。
自覚があるクロは、マシロの言い分を認めて、焼き物作りは諦めた。
・・・やっぱり夫婦っぽいよなあ。
ダンゾウはそう思いながらも、言えばまた2人は訂正するだろうからと口には出さなかった。




