147 忘年会②
クロ一行が集めた食料を持って家に帰りついたのは昼頃。これから日が暮れるまで、集めた食料と秘蔵の酒で忘年会、の予定だったが・・・
「結構、生の食材があるな。」
クロが集めた野菜とアカネがもらった生肉だ。
「生でも問題ありませんよ。」
マシロは真顔で生でいいと言う。それに対して待ったをかけるのはムラサキだ。
「待て待て、せっかくの忘年会だ。美味い方がいいだろう?皆、ちょっと待っててくれ。さくっと調理してくる。」
「「うおお~い!」」
化け狸達はそろって同意の声を上げる。中には喜んでいる者も。ムラサキの料理の腕を知っているのだろう。
クロ、ムラサキ、マシロ、アカネ、ヤマブキが生の食材の前に集まる。
まずはクロの提案。
「大鍋があったよな。洗って煮込めばすぐできるだろ。」
「私が燃やすよ!」
「アカネ、こういう時は温める、もしくは加熱する、が正しいです。」
「そっか。私が温めるよ!」
「待てよ、クロ。まったくお前は几帳面なくせに面倒臭がりなんだから。せっかくの宴会なんだから、もうちょっと手の込んだ料理にするべきだぜ。」
クロは料理はできない事も無いが、研究の時の几帳面さはどこへやら、料理の時は雑になる。
食材を無駄にしないことには注意するが、味は適当だ。調理法も、焼くか煮るのみ。それも、肉も野菜も洗って切って、そのまま鍋にドボン、だ。
そのくせ、素材がよければ、調味料でちょっと整えるだけでそこそこの味になる。
クロはそれで満足しており、それ以上工夫する気はない。
次はマシロの提案。
「そもそも、宴会は予定通りに始めるべきです。マスターは宴会の方へ。裏方仕事はメイドたる私が。」
全く正論だ。だが、クロとムラサキは迷いなく却下する。
「ダメだ、真白。」
「そうだ。お前は料理だけはやっちゃいけない。」
それは、クロ達がこの家に引っ越して来たばかりの頃だ。少ない食事の機会で、何度かマシロに料理を任せたことがある。
1回目。王城でメイド達の料理の手伝いをしていた、と言っていたのは本当のようで、手際よく料理を進めていた。安心して任せ、いざ出てきた料理を食べてみたら、味が薄かった。
なんと、出汁も取らず、調味料も一切入れていなかった。マシロはそれでも美味いと感じるようで、調味料の必要性を理解させるのに苦労した。
そして2回目。今度は確かに調味料を使ってくれた。だが、やはりというか、多すぎる上にアンバランスだった。はっきり言って、食えたものではなかった。
クロとムラサキは調味料の適量を教えようとしたが、「具体的に何gですか」と問われて返答できず、現在まで改善されずにいる。
「また調味料の話ですか?ですから、具体的に何gか教えていただければ、私にもできますよ。」
「いや、それが、難しくてな。」
「味見して美味いと思うようにすればいいんだよ!」
「しかし、私が美味しいと思うようにすると、マスターは薄いとおっしゃるじゃないですか。」
「あ~・・・」
そして今回も改善を断念した。
結果として、ムラサキが料理し、マシロはその補佐となった。
マシロは味付け以外は完璧なのだ。野菜や肉を切るのも速く、手際がいい。
それによって料理は1時間ほどで済んだ。その間クロは、余った食材を自己流で鍋にし、アカネは鍋を温めるのを手伝った。ヤマブキはできることがなかったので、待ちきれない狸達と酒を飲んでいた。
「おら、おめーら!お待ちかねの料理だぞ・・・って、既に出来上がってんじゃねーか!」
ムラサキがマシロと共に家から料理を持ち出して、家の前の宴会場となった広場に来た時には、狸達はクロの鍋と酒ですっかり盛り上がっていた。
「いえーい!先生の鍋、サイコー!」
「こんくらい、誰でも作れるぞ。」
「いや、この控えめの塩加減と最低限の出汁が、素材の味を引き立ててる!美味い!」
「領主様、この酒は?大変美味しい。」
「日本酒・・・俺の故郷の酒だな。ここじゃ生産量が少ないらしくて入手に苦労した。そういえば、米ってあまり見ないよな。」
「米、ライスですか?帝国の南部で作ってると聞いたことがありますぞ。」
「マジか。停戦で交易するようになったら入って来るかな。」
クロの周りには老若男女の化け狸達が、二足歩行形態で集まっている。
その集団は動かなかったが、他の若い連中がムラサキの下に集まって来た。
「おお、ムラサキさんの料理だ!」
「私、ムラサキさんの料理大好き!」
「うんうん。お前らはよくわかってるな。そう言ってもらえれば、作った甲斐がある。」
ムラサキの売りである料理は、今まで披露する機会が少なく、評価される機会も少なかった。
化け狸達が来てから、料理を振舞うことも多くなり、評価が得られてムラサキも満足である。
「これはいったい何です?」
「塩?」
次に狸達はムラサキとマシロがもってきた皿の上の料理に注目する。一見すると食べ物には見えない、白い塊が置いてあった。
「ふふん。見てな、これを割るとだな・・・」
「待ちなさい、ムラサキ。そこで割ると破片が地面に散ってしまいます。」
「む・・・後で掃除すれば・・・って今対処しておいた方が楽か。おーい、クロ!デカいバットとかあったか?」
ムラサキは狸達に囲まれたクロに声をかけるが、クロの返答より先に狸の長老、先代頭領が顔を出した。相変わらず先代だけは二足歩行形態にならず、狸の姿のままだ。
「ほっほっほ。ムラサキさん。そういうことならお任せあれ。」
先代は「金山棒」を咥えて金属魔法を使う。先代が足場に使っている台の一部が分離し、薄い鉄板になった。それは限界まで引き延ばされ、最後に縁が曲げられた。
「これでいかがかな?」
「サンキュー!流石長老だ!」
さっそくムラサキは料理を巨大バットの上に置き、木づちで皿の上の物を割る。
その所々焦げ目が見られる白くて丸い塊を割ると、中からおいしそうな香りと大きな鳥肉が出て来た。
「「「おおおおおおおお!」」」
「塩釜焼きって奴だ。塩をどけて鳥肉を食ってみな。」
我先にと狸達が箸をのばす。
「「「うめええええ!!」」」
「凄い!絶妙の塩加減!」
「肉汁が!」
「とにかく美味い!」
次々と寄せられる賞賛の声に、ムラサキが有頂天になる。
ふんぞり返るムラサキの横でマシロは淡々と他の塩釜を割っていた。拳で。
粗方割り終えたマシロは、小皿に鳥肉を取り分けて、先代へと持っていく。
「長老様、どうぞ。鉄板を作ってくださってありがとうございます。」
「なんのなんの。・・・ほっほ。これは美味い。しかし、よくこれだけ豊富な塩がありましたな。」
「・・・気分を害される方もいるかもしれないので、大っぴらには言いませんが、工場で作ったものです。」
「ほう。」
ヤマブキが加わったことで、製錬において純塩素の回収もできるようになった。それをクロが分離回収したナトリウムと反応させ、工業的な手法で塩を作っていた。
「安全性については私が保証します。」
マシロは鼻を指さしてそう言った。マシロの嗅覚式魔力感知は、不純物を見逃さない。並の分析装置より遥かに高性能だった。
「では安心ですな。」
「・・・長老様の度量に感服いたします。」
いくら安全だと言っても、イメージでもって信用されないことはままある。マシロは長老ならば理解してくれるだろうとは思っていたが、ここまであっさり信用されるとは思っていなかった。
「ほっほっほ。儂も人の嘘を見抜く程度はできますし、貴女の実力も生真面目さもわかっています。この短期間で理解したなどと、おこがましいかもしれませんが。」
「いえ。」
「まあ、仮に儂の目が曇っていて、これを食べて腹を壊して死んだとしても、もう後継者もいますからな。」
そう言って先代は、少し離れたところで酒を飲むダンゾウを見る。
「後継者、ですか。」
「後を任せられるものがいるというのは、幸福なことですぞ。」
「・・・・・・」
マシロは、今は亡き主、ハヤトのことを思い出していた。認識はできないが、ハヤトは今、亡霊となってクロに取り憑いているはずだ。それはハヤトが安心して逝けなかったから、亡霊となってしまったのではないか?そう思うとマシロは自分の不甲斐なさを痛感してしまう。
・・・いつか、ハヤトが安心して成仏できるように、私ももっと強くならなければ。
能天気に騒ぐ宴会の中で、マシロは静かにそんなことを考えていた。




