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選べるなら、人間以外で  作者: 黒烏
第4章 緑の狸
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143 既得権益

 鉱山都市アルバリーと聞いて顔をひきつらせたクロに、スミレが反応する。


「おやぁ?やっぱりクロさん、知ってましたぁ?まあ、商売敵ですもんねぇ。」

「・・・まあな。」


 クロがその都市のことを聞いたのは、ヴォルフからだ。随分前だが、地金の取引を依頼された際に、同時に情報をもらっていた。

 アルバリーは、クロの家から見て西、アイビス山脈の向こう側にある。フレアネス王国唯一の鉱山をもつ都市で、王国で製造される金属製品はほとんどここで作られている。

 なぜここ以外に鉱山がないのか。正確に言えば、ないわけではない。しかし、現行の製錬技術で採算が合うような高品位の鉱石が掘れる山が国内に他にないのだ。

 また、フレアネス王国は帝国と違って魔法使いが多く、魔法が生活の基盤に根付いている。大抵の物は土魔法や木魔法で作られ、金属製品の需要が少ない。そのため、国内需要はアルバリーのみで賄うことができた。ただし、競争相手がいないため、技術があまり発展していない。

 戦争で銃が用いられ、金属の需要が高まったのは、ここ数十年のこと。故にまだアルバリーの他に鉱業を始める町は出ていない。


 クロが製錬業を始めるにあたり、既得権益との衝突を覚悟してほしいとヴォルフは言っていた。それに対しクロは、「自分はフレアネス王国に所属していない」「あくまで同盟国との貿易である」「だからそちらの国内の問題は関知しない」として無視した。クロが政治経済に疎いのも無視した理由の一つだ。

 実際、製錬業を始めてしばらく経つが、今のところこれと言って衝突はない。それは、クロの生産量が、アルバリーの生産量に比べてかなり少ないため、それほどアルバリーの利益を脅かしていないからだ。また、戦争特需があったこともある。

 しかし、停戦した今は、大きく状況が変わった。


「で、アルバリーは何て言って条約に反対しているんだ?需要が減って困る、とかか?」

「いや、需要は減ってないですよぉ。」

「そうなのか?」

「はいぃ。確かに、戦闘行為がないため、武器の消耗がなく、国内の金属需要は今後大幅に減っていくでしょう~。しかし、条約の内容を思い出してくださいぃ。」

「貿易ですか。」


 マシロが素早く答える。頭の回転と記憶力ではクロよりもマシロが勝る。


「その通りですぅ。今後、帝国と積極的に貿易を行っていく、と定めましたぁ。つまり、今、金属資源が枯渇している帝国は、金属を寄こせと言ってるわけですぅ。さもなくば条約破棄するぞ、とねぇ。」

「なんだそりゃ!そんなの聞く必要ねえ!やらなきゃいいだろ、金属なんて!」


 帝国に恨みがあるムラサキが吠える。

 対してクロは逆の意見だ。


「いや、いいんじゃねえか?せいぜい高値で売ってやればいい。」

「なんでだよ、クロ!せっかく帝国を干上がらせるチャンスなのに!」

「だが、ここで貿易に応じないと、フレアネスが潰れる。その次はここだ。」

「しかしよお・・・」


 クロとムラサキが意見をぶつけ合うところに、スミレが割って入る。


「はい!まさにこの状態なんですぅ。」

「「は?」」

「今の、クロさんが王国側。ムラサキさんがアルバリー市民ですぅ。」

「・・・つまり、アルバリーは、帝国に金属を出荷したくない、と?」

「ええ、そうですぅ。」


 その言葉にクロは首を傾げる。


「なぜだ?アルバリー市民は、帝国の金属資源が枯渇寸前なのを知ってるわけじゃないだろう?」


 帝国の金属資源問題は、王直属の諜報部隊<草>が仕入れた情報で、公に知られているわけではないはずだ。今まで戦争のために北大陸との交易もなかったのだから、一市民たちがその情報を得られるとも考えにくい。


「知っているかどうかはわかりません~。世の中には闇のルートで情報を流す者もいますからねえ。ま、それはともかく、アルバリー市民は、敵国にやる製品なんてない、とだけ主張していますぅ。」

「誇り、という奴でござるかな?」

「そう言うとカッコいいですけどぉ、これは感情の問題ではないですかねぇ。」

「馬鹿な・・・商売に情は必要だが、感情に流されて商機を捨てるなど。」


 帝国で会社経営をしていたダンゾウは、呆れた様子だ。


「おっしゃる通り~。でも、アルバリーはそう主張して、金属の出荷を止めるつもりですぅ。そうなるとぉ・・・」

「戦争再開、ですか。」


 マシロが苦虫をかみつぶしたような顔になる。マシロはこの中で最も長く戦争に関わっている。大事な主も戦争で失っている。せっかく一時的にとはいえ停戦できたのを早々に反故にするのは許せないだろう。


「で、解決策は?俺たちへの依頼、いや、来そうな依頼は?」


 クロは既に覚悟を決めた目でいる。クロは人類に恨みがあり、戦場はその発散の場だったが、求めているのは平穏だ。停戦は歓迎するところ。発散の場は別に考えればいい。停戦を維持するためなら、どんな汚れ仕事もする気でいた。

 それを見たスミレが話を進める。


「案としては、いくつか。1つ目は、アルバリーを軍が鎮圧して、強引にでも出荷させる。」

「悪手だろ。」

「ですねぇ。2つ目は説得。」

「難しいんじゃねえの?」

「まったくですぅ、3つ目は、クロさん達に頼る。」

「具体的には?」

「製錬業を今の数倍に増産していただいて、それを帝国に出荷しますぅ。」

「却下!」


 ムラサキが速攻で却下した。ムラサキからすれば、仕事が増えるのも、帝国に金属を送るのも反対だろう。

 憤るムラサキをダンゾウがなだめる。


「まあまあ、ムラサキさんよ。これは商機だぜ。今の帝国はどんな高値でも金属を買わなきゃならねえ。帝国を経済的に疲弊させるってのもありだ。」

「む・・・」

「それにこの方法なら、停戦を維持したまま、やれる。いい方法だと儂は思うがね。」

「う~ん・・・」


 ダンゾウの説得に、ムラサキが唸る。

 迷うムラサキに、ダンゾウはさらに続ける。


「それと、ムラサキさんが忙しくなるとは限らねえぞ。」

「え?」

「なあ、クロさん。」


 ダンゾウはクロに話を振る。


「ああ。新たに入った人手が戦力になるようになれば、増産は可能だ。それに、あいつらで回せるようになれば、俺らは直接やらなくてもいい。」

「ほ、ほんとか!?」


 製錬業で一番きつい思いをしていたのはムラサキだ。クロに比べて魔力量が少ないのに、大きな炉全体の空気を操作しなければならなかった。それをやらなくて済むのなら、こんなに助かることはない。

 クロは頷いて答える。スミレがいる手前、原子魔法の話題は出せないが、既に習得している数名の化け狸の中に、窒素操作ができる者がいた。おそらく他にもいるだろう。また、少ないが炎適性が高い狸もいる。彼らが加熱を担当できれば、クロの手も離れる。


「おや、いつの間にか従業員を雇っていたのですかぁ?」

「ええ。儂等がお世話になっとります。」

「ふむふむ~。いや、増産は無茶ぶりだと思ったのですがぁ・・・案外行けそう?」

「だな。すぐには無理だが・・・そうだな。来月半ばくらいから少しずつ増産していこう。」

「わっかりましたぁ!では、それまで交渉で時間を稼いでもらいましょう~。」


 話が決まると、それからいくつか雑談を交わした後でスミレは帰って行った。

 あとは王国の交渉次第だが、それさえできれば、平和的に解決できそうだ。


 しかし、これが後に大きな火種となることは、まだクロ達は知らなかった。


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