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選べるなら、人間以外で  作者: 黒烏
第4章 緑の狸
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140 緑の狸

 金属魔法。土魔法の一種であるが、大昔に失伝し、現在は存在しないとされていた魔法だ。

 そういった古い魔法を活発に研究している魔族でさえもそれが過去に存在していたことしか知らなかった魔法である。

 クロの原子魔法は金属を動かすことができるが、神々が作った魔法に比べれば燃費が悪い代物だ。クロとしても金属魔法が使えるものなら使ってみたい。


 クロの領地に住処を求めてやって来た化け狸達の先代頭領が、その金属魔法の使い手だというのだ。いつになくクロのテンションは上がっていた。

 傍から見ているムラサキとマシロも、クロの珍しい様子に驚く。


「マスターがこういう風に興奮しているのを見るのは初めてですね。」

「原子魔法の適性が金属に偏ってる辺りから、金属への思い入れは強いんだろうな。なんでか知らんけど。」

「前世の記憶でしょうか?マスターは自己に関する前世の記憶をほとんど失っているはずですが。」

「記憶は失くしても、経験から作られた嗜好は変わらないだろ。多分。」


 ムラサキとマシロがこっそりそんな話をしているうちに、クロは化け狸の現頭領ダンゾウと話を進める。


「先代は念のため森に隠れております。もうすぐ来ると思います。」

「そうか。・・・なあ、金属魔法ってどんなことができるんだ?」

「先代から直接聞いた方が早いでしょうが・・・概要としては、金属を動かす、曲げる、伸ばす、成型する、堅くする、等々、色々できるはずです。」

「加工もできるのか、羨ましい。対象物の条件は?」

「それは、先代に聞いてください。」

「おっと失礼。じゃあ、先祖代々頭領が受け継いでいるその金属魔法、なぜ現頭領のあんたが継いでない?」

「お恥ずかしながら、私は土適性が低く、使えないのです。」


 やはり金属魔法を使うには土適性が必須らしい。


「一子相伝の技を受け継げない私は、頭領にふさわしくないと思ったのですが・・・皆がそれでも、と推挙してくれましてな。」


 そこにダンゾウのすぐ後ろに数名が口を挟む。


「謙遜するなよ、かしら。あんたは確かに土適性は低いけど、補って余りある木魔法が使えるじゃないか。」

「そうそう。それで何度助けられたことか。」

「それだけじゃねえ。あんたは皆にちゃんと気を配れる。いいリーダーだよ。」


 褒められたダンゾウは、それでもなお謙遜する。


「褒めてくれるのはいいけどな、土魔法が使えねえから儂はお前らみたいに現場で働けねえ。今回の旅だって、お前らを盾に奥に陣取っちまって・・・」


 ダンゾウらは帝国から随分長い距離を旅してここまで来た。ヒトに化けられるとは言え、街道を大集団で移動するわけにはいかなかった。目立てばどんな面倒に巻き込まれるかわからない。調べられてヒトでないと判明すれば、法は彼らを守ってはくれない。

 したがって、ダンゾウらはここまで森や山を抜けて来た。そうすると当然、獣や魔獣との戦いもあった。

 彼らは幻覚魔法が得意なので、基本は身を隠して進んできたが、それでも100%ではない。ちょっとした油断からバレたり、幻覚魔法が通じないほどの強力な魔獣が現れたり、危険は多くあった。実際、夜逃げしてからここに来るまでに結構な人数が脱落している。

 その危険に出会ったとき、ダンゾウは前に出られなかったことを悔いているようだ。

 しかし、そのダンゾウの言葉を部下が遮る。


「何言ってんだ。頭領なんだから、奥にドンと構えるのが仕事だろ。」

「頭が後ろで支えてくれたから、手強い魔獣が相手でも戦えたんだ!」

「頭の治癒魔法がなきゃ、俺達はここまで来れてねえよ。」

「お前ら・・・ありがとう。」


 そんな化け狸たちのやり取りを、クロがイイハナシダナーと見ていると、森の方から何かがやって来た。



 ・・・UFO?


 遠目にはそう見えた。シルエットが麦わら帽子のようで、それが浮遊しているのだから仕方がない。

 近づいてくるにつれて、詳細が見えて来た。薄い円盤の上に、薄茶色の塊。タヌキだ。毛の色が若干薄いが、クロが前世で見た事があるタヌキの姿に酷似していた。ダンゾウらのように人間のような骨格にはなっていない。

 円盤はゆっくりと近づき、クロ達の前で止まると、またゆっくりと地面に降りた。

 円盤の上で丸くなっていたタヌキは顔を起こしてクロを見る。目を合わせてみても、やはりまごう事なきタヌキだ。

 すると、どこからともなく声が聞こえて来る。


「お初にお目にかかる。儂は先代、22代目ダンゾウでございます。見ての通りの老いぼれで、化ける力も衰えてしまいました。獣の姿にて失礼いたします。」

「いや、むしろ獣の姿の方が俺には好ましい。気にするな。・・・この声は、闇魔法か?」

「はい。化ければ魔法を用いずとも人語を発声可能なのですが、老いた体には『化け』はきついのです。」


 ダンゾウ達と会話しているうちにクロの警戒心もいくらか解けてきて、彼らの闇魔法を受け入れるようになってきていた。

 チラリと見れば、さっきまで2足歩行のタヌキやゴーレムが丸見えだったダンゾウ達に、本体に被さるように人間の映像がぼんやりと見えてきている。


「なるほど。幻覚魔法で視覚と聴覚をごまかし、本物の人間だと誤認させて社会に溶け込むわけか。」

「ほっほ。視覚と聴覚だけではありませぬ。嗅覚も、触覚もです。・・・ほれ、どうぞ。」


 気がつけば、先代の脇に胡坐をかいて座る老人が1人。クロにはそれが若干ぼやけているため、幻覚だとすぐにわかるが、クロ以外の者達は一見してはわからないらしく、急に現れた老人に驚いている。

 老人は笑顔でクロに握手を求めていた。まさか、と思いながらそれに応じると、握手することができた。確かに人肌に触れている感覚がある。


「驚いたな。」

「化かす技術は我らの生命線。皆、幼い頃から鍛えます。これくらいはできねば。」


 どこから聞こえているのかわからなかった先代の声も、今度は目の前の老人から聞こえる。丁寧に発声に合わせて口も動いている。

 先代の化かし技術に感心しつつも、驚かされてばかりではつまらないと、クロはいたずら心が芽生える。


「面白いものを見せてもらった。じゃあ、お返しに。」


 クロは目を閉じ、一つ深呼吸をしてから開く。そして、握手していた老人の手をそのまますり抜けて見せた。


「おお、なんと!」

「どうだ、驚いたか?」


 クロは握手していた手を見せつけながら自慢げにする。

 今やって見せたのは、一時的に抗魔力を上げ、先代の闇魔法をレジストし、「そこに老人の手がある」という幻覚を無視して見せたのだ。

 簡単そうに見えて、結構難しい技術である。一度刷り込まれた癖や条件反射を、意識して矯正するようなものだ。それをこの一瞬でやってのけたクロの精神力の強さがうかがえる。


「もちろんです。お見事!我らの主にふさわしい!」

「主とかはよしてくれ。俺はあんたらに領地内に住む許可を出すだけだ。せいぜい家主だよ。」


 あまり大きな責任を負いたくないクロは、主と呼ばれるのを敬遠する。まあ、すでに1領地の主になっているのだから、責任云々については手遅れな気もするが。


「かしこまりました。ところで、領主様は金属魔法に興味があるようですな。」

「ああ。さっきのそれを浮かせてきたのがそうか?」


 クロは先代が乗っている円盤を指さす。パッと見、鉄製のようだ。


「その通りでございます。しかし、移動させるだけならば初歩中の初歩。これより金属魔法の力の一端をお見せしましょう。」


 先代の言葉を合図に、控えていた若いタヌキが、ゴーレムを操っていくつかの大剣を持ってきた。

 それを確認すると、先代は腹の下に置いていた1.5mほどの長さの金属棒を取り出した。その棒には細かく術式が彫られている。先代はそれを咥えると、その棒をクロに見せるように持ち上げた。


「これが「金山棒」。初代より伝わる宝具です。これに認められた者だけが金属魔法を扱うことができます。・・・では、ご覧あれ。」


 その言葉と同時に大剣が宙を舞う。


「おお。」


 クロが行うような、簡単な計算式で表せるような直線運動や円運動ではない。不規則に飛び回っている。

 やがて、大剣が動きを止め、先代の目の前に並ぶ。


 ギィッ!


 唐突に1本の大剣が折れ曲がった。それはゆっくりとクロの目の前に移動する。

 クロはそれを手に取ってみた。


 ・・・確かに曲がっている。幻覚じゃない。無詠唱でこれができるとなると、実戦では相当強力だ。


 クロが確かめたのを見ていた先代が、グルッと地の声を少し出すと、折れた剣はクロの手から離れた。

 すると、ギッとまた音を立てて、今度は折れた剣が元通りになった。そしてまたクロの目の前に移動する。

 触って確かめたクロは驚愕する。


「驚いたな。歪みが全くない。」

「本当ですか?」


 離れて見ていたマシロも気になったようだ。近づいて来て、マシロも剣を検めてみる。触り、構え、振る。


「すごいですね。新品同様です。」


 マシロが剣を先代に向けて差し出すと、また剣は宙に浮いた。


「では、とっておきの演舞をお見せしましょう。」


 先代はそう言うと、地面が盛り上がり、5体のゴーレムが現れた。それぞれが大剣を手に取り、1体だけ2本の大剣を取った。

 そして二刀流のゴーレム1体と、他4体のゴーレムが戦い始める。

 囲んで戦う4体のゴーレム。それに2本の剣で応じる1体のゴーレム。見た感じ、二刀流が劣勢だ。

 ムラサキは興味深そうに眼を見開き、ヤマブキはヒーローショーを見る子供のように二刀流のゴーレムを応援する。アカネも興奮気味だ。

 マシロは、自分が戦いたくてうずうずしているようで、ブツブツと二刀流ゴーレムの動きにダメ出ししている。


 数十秒の打ち合いの後、1本の金属棒が投げ込まれた。すると、二刀流ゴーレムが巧みにそれを受け取る位置に移動する。

 投げ込まれた金属棒は急に高速できりもみ回転を始めた。二刀流ゴーレムは手に持つ大剣の柄頭を棒の両端にそれぞれ近づける。

 そして回転する棒と柄頭が接触した瞬間、甲高い金属音が起きた。よく見ると、なんと金属棒と柄頭がしっかりと接合されている。


「加熱なしで摩擦で接合か。やるな。」


 クロがそんな感想をぽつりと呟く間に、獲物が2本の剣から長い柄の両側に剣が付いた長大な武器に変化したゴーレムが、踊るようにそれを振るい始める。

 片手で1本ずつ持っていた時よりも力強く、リーチも伸びたことで、他のゴーレムを圧倒していく。

 1体、また1体と斬り倒し、倒されたゴーレムは形を失って崩れる。

 そうして他4体のゴーレムを倒した(元)二刀流ゴーレムは、勝鬨を上げるように武器を高く掲げる。クロ達は拍手でそれに応じた。


 最後にゴーレムが武器の柄の中央を持って捻ると、その部分で金属棒は綺麗に折れ、2本の柄が長い大剣になった。

 その2本の剣を地面に突き立てると、最後のゴーレムも崩れ去った。


「いかがでしたかな?」

「最高でござる!」

「面白かったぜ。」

「キャン!キャン!」

「後でそのゴーレムと手合わせ願います。」

「接合と切断もできるんだな。しかも魔力の燃費も悪くなさそうだ。勉強になるな。」


 クロ達は全員が好意的に受け止め、クロはダンゾウらを快く受け入れることになった。


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