138 依頼交渉
葬儀の翌日、クロ宅を訪れたスミレに事情を話し、国王との話し合いの場を再度手配してもらった。
スミレにはクロとキュウビの関係を話していないが、スミレはなんとなく察していたし、クロも気づかれているだろうとは思っていた。
そのため、クロはキュウビの毛皮を見て怒ったことを、怒った理由に言及せずに告げ、スミレも追求せずに承諾した。
「クロさんとは敵対したくありませんから~。」
「俺がフレアネスと敵対しても、スミレは必ずしも俺と戦うわけじゃないだろう?」
「それはそうですけどぉ、フレアネスからはまだ甘い汁・・・もとい、貢献したいと思ってますしぃ。」
「・・・そうか。」
スミレはスミレで、自分の利益のために協力してくれている。見返りなく善意で協力する、と言われるよりも余程信用できた。
さらに翌日の12月3日。スミレが朝からクロ宅を訪れ、その日の午後にクロはまた王城を訪問することになった。
部屋は別の部屋を使い、訪問するのはクロとマシロだけにした。
クロはまだキュウビの毛皮の件は怒っているが、仮にも一領地の主。それは抑えて交渉に臨む。
予定通りに王城を訪れたクロとマシロは、指定された部屋で待つ。数分後に国王がメイド長を伴ってやって来た。
「ーーー」
「お待たせしました。」
国王の言葉をメイド長が通訳する。
マシロは久しぶりに会ったメイド長に挨拶した。
「ご無沙汰しております。」
「久しぶりですね。・・・随分メイドらしい服装になりましたね。」
前にここに居候してメイド見習いをしていた時は、真っ黒な服装でメイドっぽくなかったが、今は白色も混じり、それっぽくなっている。
「ええ。詳細は話せませんが、修練の成果ですね。」
マシロの服に関しては原子魔法や『変化』の新利用方法と秘匿事項が多く関わっている。部外者に話せる内容ではない。
メイド同士の会話はそれで切り上げ、次にクロが先日の謝罪。
「この間は部屋に入るなり殺気をぶちまけて、申し訳なかった。」
「いえ、こちらも配慮が足りませんでした。」
先日の件については、急にキレたクロも悪かったし、連絡不備でクロが怒るような物を置いていたフレアネス側も悪いということで、決着がついた。
謝罪が終われば、素早く本題に入る。通訳はマシロの方がスムーズなので、マシロに交代した。
「国王は私を一時的に雇いたいそうです。」
「また帝国が攻めて来たのか?」
「いえ、メイドとして、だそうです。」
意外な依頼に、クロは少し驚く。
「メイドならいっぱいいるだろう。なんでまたマシロを?」
「・・・特に理由はない、と言っていますが、嘘ですね。」
マシロが通訳しながら国王の嘘を見抜く。
「喧嘩売ってんのか?」
クロが思わず現した不快感も、マシロが丁寧に訳して国王に伝える。マシロならクロが国王に伝えるつもりで言ったのではないと察しているだろうが、マシロも同じ気持ちだったのだろう。いや、国王に伝えたあたり、クロ以上に頭に来たのかもしれない。
「・・・今度、国王が外出するそうで、その護衛兼メイドとして雇いたいそうですが。」
クロとマシロに怒られて、ようやく国王が理由を話した。
「却下。」
クロは即答。マシロが訳すまでもなく、断られたことを察した国王は慌てる。
「言い値で依頼すると言っていますが。」
「魅力的な話だな。・・・だが断る。」
クロの言葉をマシロが丁寧に訳して伝えると、国王はなおも食い下がる。
「ヴォルフさん以外に、執事またはメイドと戦闘をこなせるものがいないそうです。私だけが頼りだと言っていますが・・・」
「駄目だ。」
「・・・理由を尋ねていますが。」
国王は本当に他に当てがないらしく、焦っているのがクロにも見て取れる。確かに説明は必要だろうとクロは理由を述べる。
「まず、俺の家にも来ない国王の外出って、どこに行くんだ?」
「・・・言えないそうです。」
「まあ、それはいいや。とにかく、あんたが外出しないのは、単に忙しいからだけじゃない。暗殺の危険があるからじゃないのか?」
「図星のようですね。」
国王が答える間もなく、マシロが見抜く。
今までは国王も暗殺をそこまで危惧していなかった。国王自身の戦闘能力が高いため、襲われても撃退できると思っていたのだ。
ところが、今回のヴォルフ行方不明により、事情が変わった。もしヴォルフの行方不明が、帝国による暗殺だったならば、ヴォルフほどの実力者が相手でも暗殺を成功させるほどの手練れが帝国にいるということになる。だとすれば、国王も悠長にはしていられない。
それでも、その危険を冒してでも外出するというのは、どこに行こうというのか。
その場所はともかく、そんな危険な現場に、マシロをやれるはずがない。
「確かに真白は強いが、国王、あんた以上とは、俺は思わない。あんたを殺せるような暗殺者が来たとして、真白が役に立つのか?」
「・・・相性というのもあるかと。」
マシロが意地になって弁明したのではない。国王の言葉を通訳したようだ。
マシロは勝利も敗北も多く経験している。自分の実力は正確に把握できている。
「相性もあるにはあるが、俺が心配しているのは、マシロが暗殺者にやられることだけじゃない。あんたの攻撃に巻き込まれる方が余程心配だ。」
「・・・・・・」
国王は反論することなく目を逸らす。
クロはそれを無視して話を続ける。
「国王、あんたの戦い方は一度見たが、得意戦法は高火力広範囲の炎魔法による制圧だろう?あれは相手に反撃の隙を与えない有効な戦法だが、弱点がある。味方を巻き込むことだ。」
クロが国王の戦闘を見たのは、国王がフォグワース侯爵を決闘形式で処刑する時。『ヒートフィールド』によって一帯の温度を急上昇させ、焼き殺した。
接近不可能な高熱のフィールドを展開する戦法。耐熱結界で耐えるか、熱に干渉されない遠距離攻撃ができなければ、国王に攻撃すら届かない、強力な戦法だ。
現に以前、国王が前線に出たときも、そうして飛来する銃弾や砲弾を蒸発させながら敵陣を突破した。
しかし、その時もだが、この戦法を実行するには、国王は単独でなければならない。近くにいる味方も焼き殺してしまうからだ。
ヴォルフほどの炎魔法の使い手ならば、あるいはいくらか耐えられるだろうが、少なくともマシロは耐えられない。
マシロが仮に暗殺者に対応できたとしても、国王が反撃を始めた時点で、フレンドリーファイアで殺されてしまう。
「命を狙われた時、あんたがアレを使わない保証はない。とてもじゃないが、真白を捨て駒になどできん。・・・あんたはできるかもしれないがな。」
「---!」
「弁解していますが、苦しい言い訳ですね。」
マシロに嘘は通用しない。最悪、切り捨ててもいい駒としてマシロを見ていたのは明白だった。
「話は終わりか?外出はあんた1人で行くんだな。仮にもこの国最強の男だろう?堂々として行け。」
「・・・通訳としても必要だと言っていますが。」
「それこそ、自分の部下から出せ。」
クロはそう言って立ち上がり、さっさと立ち去った。マシロもそれに続き、一礼して部屋を出た。
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「駄目だったかー。」
溜息をつきつつ、ジョナサン国王はソファーにもたれかかる。
「同盟国の重鎮を捨て駒にしようとしたのですから、怒られて当然でしょう。」
「メイドとして雇う、で通ると思ったんだがなあ。」
「駄目だったものは仕方ありません。通訳には私が行きましょう。」
「・・・捨て駒でいいのか?」
「ヴォルフ様と違って、私は後任もいますから。」
そうして、春に予定されている帝国との停戦交渉には、国王とメイド長の2人で行くことになった。
停戦交渉の話は、まだ市政には公開していない、いや、できない話だった。




