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選べるなら、人間以外で  作者: 黒烏
第4章 緑の狸
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136 ヴォルフ不在の影響

 クロはスミレからの依頼を受け、手分けしてヴォルフを捜索していた。

 地上をクロ・ムラサキのペアとマシロ・アカネのペアの2組で手分けして探索し、ヤマブキは鳥形態で上空から探索だ。スイーパー達は留守番である。

 スイーパー達にも手伝ってもらおうかと思ったのだが、スイーパー達は鳥形態のヤマブキをひどく恐れているようで、同行を拒んだ。

 前世のカラスも猛禽類が嫌いだったことを思い出し、クロはスイーパー達に無理はさせないことにした。


 しかし、懸命な捜索もむなしく、ヴォルフは見つからないまま、11月30日になった。

 スミレたちの調査で、目撃証言から王都から北に2つ目の町までは来ていたことが判明していたため、その街から南側を徹底的に調べたのだが、痕跡すら見つからない。

 夕方になり、クロ達が帰宅。スミレも調査帰りにクロの家を訪れた。捜索を始めてからはほぼ毎日、こうして成果を聞きに来ている。


「見つかりましたかぁ?」

「いや、今日もだめだ。」

「やはり捜索開始が遅すぎましたねぇ。痕跡の捜索も困難ですぅ。」


 雪上船は雪を均して道を作りながら進むため、通った跡が残る。しかし、捜索開始は推定された行方不明になった日から数日後だった。雪上船の跡はとっくに積雪で消えてしまっていた。


「こっちも森も山も探したが、いねえ。爺さんが本気で気配を殺してれば別かもしれんが、まず遭難の線はないと思う。」


 マシロの嗅覚とヤマブキの視力で探索したのだ。この両方を誤魔化すのはほぼ不可能。いないと考える方が妥当だ。

 マシロがお茶を淹れながら口を挟む。


「一応、まだ未探索の場所もなくはありません。この、アイビス山脈の高地はまだ行っていません。」

「まあ、そうだが・・・」


 クロの領地はまだアイビス山脈の東の麓の森の一角に過ぎない。山を登った高地までは行った事も無かった。


「あそこはこの森以上に強力な魔獣の巣窟でしょう~?そこまで調べるのは骨が折れますよぉ。」

「俺としてはいずれは山の上も確認するつもりだったから、行ってもいいけどな。」


 クロの目的は領地を広げる事なので、このまま広げていけばいずれは山も領地に入る。領地にするならば、管理はできなくとも確認はしておくべきだ。

 スミレはクロの言葉を聞いて少し悩むが、首を横に振った。


「いえ、やめておきましょう~。行くなら私やブラウンさんの手が空いた時、境界線を引く時にまとめて調査してしまうべきですぅ。何度も山まで行くのは大変でしょう~?」

「本音は?」

「そんな面白そうなところ、私も行きたいですぅ!」

「はいはい。」


 ともかく、山の調査は後回しになり、話題が変わる。


「ところで、明日は<草>の皆さんは捜索に参加できません~。」

「ん?それがどうかしたか?」


 クロ達と<草>は探索場所を分担しており、別に連携を取っているわけではない。休むとしても特に断る必要はないはずだった。


「明日、12月1日は、合同葬儀ですぅ。皆さんはそれにかかりきりになるのでぇ。」

「合同葬儀?」

「ああ、そういえば今年はまだでしたね。」


 クロは知らないので首を傾げたが、マシロは知っている様子だ。


「フレアネスでは戦争を始めてから、戦死者の葬儀を冬にまとめて行うようになったんです。遺体の処理や弔いはその場でしますが、国としての葬儀は王都でまとめてやります。」

「まあ、変わってますよねぇ。」

「異世界ではやはり違いますか?」

「いや、俺は戦争を経験してないからな。戦時中の葬儀の常識は知らない。」


 クロがそう答えると、脇で丸くなっていたムラサキが驚いたようにクロを見る。


「・・・なんだよ。」

「いや、戦場での暴れっぷりを見ると、クロが前世でも戦争経験してたんじゃないかと思ってたから。」


 確かに銃弾の雨に臆さず突っ込んでいく様は、とても戦争初体験の者のすることではない。

 しかし、クロは確かに前世で戦争どころか殺し合いも死ぬ間際以外は経験していない。記憶が曖昧ではあるものの、前世にいた日本は平和だったし、戦争は経験していないはずだ。

 なぜそれでも戦場で臆さないのか、それはクロにもわからないので、返答に困る。


「・・・いや、確かに経験はないよ。で、とにかくその合同葬儀で明日は忙しいってわけだ。それで?」

「はいぃ。その葬儀では、今年の戦死者が弔われますからぁ・・・マシロさん。」

「ええ。参列してもよろしいでしょうか?」

「もちろんですぅ。まあ、こっそりと参列者に紛れるくらいになるでしょうけれどぉ。」


 そうだ。今年の戦死者、すなわち、マシロの前の主であるハヤトもそこで弔われる。ハヤトは二つ名持ちの英雄だった。特に篤く弔われることだろう。

 マシロはクロを主とは呼ばず、今も自分の主はハヤトだと明言している。その葬儀に参列しないわけがない。


「なら、明日も俺達は休みにするか。」


 マシロ抜きでは探索は効率的ではない。そもそも、山奥のような危険な場所以外は今日で粗方探しつくしてしまったのだ。無理に明日も探索を続ける理由はなかった。

 それを聞いてムラサキが身を起こす。


「お、じゃあ、オレは街に買い出しに行きたいな。」


 するとヤマブキもそれに続く。


「拙者もお供してよろしいか?ヒトの町をもっと近くで見分したいでござる。」


 ヤマブキは今まで上空からしかヒトの営みを観察していない。街に入り、ヒトと同じ目線で見れば、また違って見えるだろう。

 ヤマブキも行くならば、誰かがアカネを見ないといけない。クロは積極的に街には行きたくないので、留守番を申し出る。


「じゃあ、俺は茜と留守番だな。」


 クロはうろうろしていたアカネをひょいと抱えて膝の上に乗せる。頭から顎、背中までモフモフと撫でる。

 そうしてクロが明日ののんびりとした時間を夢想していると、それをスミレがバッサリ断ち切った。


「あ、明日はクロさんも来てください~。」

「え?なんでだよ。」

「国王様が依頼があるそうですぅ。」


 そう聞いてクロは顔を顰める。


「それで、王城まで来いってか?面倒だな。使いでも寄こせばいいだろ。」

「ここに来てあなたと話すだけでも、常人には難しいんですよぉ。」


 王都から森まで約50km離れており、普通は馬車なしでは厳しい。さらに、森からクロの家まで道は作られているものの、獣に襲われる危険があるので戦闘能力か護衛が必須。そして最後の難関、クロが持つ、目を合わせた相手に死の恐怖を与える魔眼だ。

 これらすべてをクリアしてクロと交渉できる使いとなると限られる。いつもはヴォルフが使いの役目を担っていたが・・・


「王城内は今人手不足で、使いを出す余裕もありません~。」

「お前は来てるじゃねえか。」

「私は国王の部下ってわけじゃないですぅ。協力関係みたいなものでぇ。こうしてやってるのも個人的な趣味と情報屋としての仕事ですぅ。」


 そもそもスミレは犯罪者で、国に協力することで恩赦を得ている身だ。国王の使いを務めるのは無理がある。


「じゃあ、国王本人が来いよ。」

「それこそ無茶でしょう~。」

「俺と国王は対等の同盟者のはずだが?」


 国王が依頼する側なのに、依頼を受けるクロが出向くのは、なんだかクロの方が下っ端のようである。クロはそこまでプライドが高い方ではないが、この領地のトップである以上、下に見られるのは避けるべきだ。


「国王も忙しくて長く離れられないんですよぉ。ご協力いただけません~?」

「しょうがないな。」

「アカネはどうしますか?」


 マシロが心配そうに言うと、クロは少し悩んでから答えた。


「俺が連れて行こう。ヒトが少ないルートを通るから、マシロやムラサキ達よりはまあ安全だろう。」


 葬儀に参列するマシロも、買い物に行くムラサキたちも、人混みに入ることになる。そこにアカネが行くのは、踏まれそうで危ないし、貴重な魔獣素材を狙った狩人にさらわれる危険もある。


「王城も危険と言えば危険かもしれないのですが・・・仕方ないですね。」


 逆に王城には、キュウビを知る者がいるかもしれず、アカネの素性がバレたら狙われるかもしれない。

 しかし、基本的にただのフレイムフォックスであるので、堂々としていればバレる危険は少ないはずだ。万が一の場合もクロが守ればいい。守りにくくなる人混みよりはマシだろう。

 そうしてクロ達は明日、5人全員で王都へ行くことになった。


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