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選べるなら、人間以外で  作者: 黒烏
第4章 緑の狸
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133 ヤマブキの性能

「さて、じゃあまず適性確認から始めるか。」

「よろしくお願い申し上げる。」


 場所はクロの家の脇、製品倉庫として各種金属地金がしまってある建物だ。ここでクロとヤマブキが向き合い、ムラサキ、マシロ、アカネが立ち会う。

 この建物は製品倉庫故に鍵をかけることができ、建物も魔法で強化されているため、閉め切れば外から監視されることはない。

 今から、ヤマブキに原子魔法を教える。原子魔法は秘匿事項であるため、監視の目が行き届かないここで教えることにした。


 手順はマシロに教えたときと同様。原子・元素の概念を説明した後、全元素の術式を刻んだ魔導書を持たせて、様々な物質を操作させる。

 マシロほどではないが、ヤマブキもすんなりと原子の概念を理解してくれた。そのうえで適性を調べる。


「次は炭。」

「はっ。・・・動きませんな。」

「次はこの風船。窒素が入ってる。」

「はっ。」


 そんな感じで調べていったところ、反応したのはあまり多くなかった。


「し、塩だけとは・・・」


 まともに動かせたのは塩だけ。しかも反応が鈍い。

 落ち込むヤマブキをマシロとムラサキが慰める。


「種類が少ないのは恥ではありませんよ。私も炭だけですし。」

「まあ、気にするなよ。クロが異常なんだって。普通は1種類か2種類さ。たぶん。」


 ムラサキが自信をもって言えないのは、原子魔法を習得した者が現状少ないからである。検証した数がここにいる5人だけなのだから仕方がない。


「アカネ殿も使えるのか?」

「一応な。原子の概念を説明するのに苦労したが。」

「キャン!」


 ここに来た当初はヒトの言葉をなんとなくしか理解できなかったアカネは、すぐには原子魔法を覚えられなかった。ここで長く暮らし、ヒトの言葉を明確に理解できるようになって、初めて習得できた。


「茜に使えるのは水素と酸素。使いこなせれば強力だが・・・今のところは疑似水魔法が限界だな。」

「キャン!」


 クロが残念そうにしているのを他所に、アカネは自慢げに手近な水を操作して見せる。確かに操作はできるが、水魔法に比べて燃費が悪く、攻撃に使えるような速度が出ない。

 もしアカネに科学的な知識があれば、水素ガスと酸素ガスを用いて強力な攻撃ができただろう。しかし、野生の獣にそこまでの知識を教えるのは困難だ。原子の概念を理解できただけでも大したものである。


「山吹の雷魔法を使えば水素ガスが作れるから、アカネにそれを操作させたいところだが・・・水素ガスは使い方を誤れば自爆しかねない危険物だ。とても使わせられんな。」

「よくわかりませぬが、魔族でないアカネ殿を危険に晒せぬのは同意いたす。」

「クウン。」


 アカネもクロの言っていることはよくわからないが、アカネの能力不足でできないことがあると察したのか、申し訳なさそうに悲しげな声を出す。

 クロはそんなアカネを撫でて慰める。


「気にするな。茜が悪いんじゃないんだ。俺がちょっと欲張りだった。」

「クウ?」


 やっぱりよくわからない、と首をかしげるアカネをモフモフと撫でながら、クロは話を戻す。


「ところで山吹の適性についてだが、塩を動かすとき使った元素は?」

「塩素、でござるが。」

「やっぱりか。そりゃあ、いい。」


 クロは塩素と聞いて嬉しそうにするが、ヤマブキは理解できず首をかしげる。

 クロは塩素の有用性を説明する。


「説明すると、塩はナトリウム原子と塩素原子の2つで構成されている。だから反応が鈍いんだ。純粋な塩素ならもっとよく動いてくれるはずだ。」

「なるほど。して、塩素はどのような使い道が?」

「純粋な塩素はガスで、水素とはまた別の意味で危険だが、上手く使えば強力だ。簡単に言えば毒ガスだな。」


 塩素ガスは反応性が高く、言うまでもなく生物にとって有害である。これを自在に操作して攻撃に用いれば、対生物において強力な攻撃になる。


「毒、でござるか。拙者はあまり好まぬ手段だが・・・」

「だろうな。だがまあ、切り札が多いに越したことはない。いざという時に使えるくらいにはしておけ。」

「心得た。」


 ヤマブキは本で読んだ武士の在り方に感化されたように、侍のような気質だ。故に卑怯な手を好まない。しかし根本は野生の獣である。いざ命がかかれば、矜持よりも命を守る。


「さて、塩素が使えるなら、他のハロゲンも行けるかもしれんな。」


 そう言ってクロは楽し気に倉庫の奥からもう1つ持ってきた。

 フッ素とカルシウムの化合物である蛍石だ。本当は臭素とヨウ素も試したいが、残念ながらまだ手に入っていない。フッ素、塩素、臭素、ヨウ素はハロゲンと総称され、化学的性質が似ているものだ。

 ハロゲンは毒性が強いため、初めは適性を試していなかった。他にも毒性がある金属は今回の検証に使っていない。蛍石そのものはそれほど危険ではないが、他の物質と反応すると危険なので仕舞ったままにしていた。


「よし、これも試してくれ。使う元素はフッ素だ。」

「はっ。・・・お、動いたでござる。」


 反応は鈍いが、確かに蛍石が動いた。


「思った通りだ。この分だと臭素とヨウ素もいけるかもしれん。ハロゲンはこのメンバーの誰も操作できなかったから、金属製錬のときに回収できなかったんだよな。」


 ハロゲンは加熱すればいずれも気化するため、地金にはほとんど残らない。排ガスに入り、洗浄塔で水に溶けて回収されていた。

 しかし回収と言っても、他のものとごちゃまぜで水に溶けているため、純粋な物質として分離するのが難しく、止む無くそれらが溶けた水は中和して、できるだけ有害物を沈殿分離した後に廃棄していた。分離した沈殿は倉庫に溜まっていて、どうしたものかと思っていたのだ。

 しかしこれからは洗浄塔に行く前にヤマブキが元素ごとに集めて、純粋な物質として回収できるだろう。貯め込んだ沈殿もハロゲンを分離して有効利用できる。

 ハロゲンは先に言った通り有毒だが、使い方を誤らなければ使い道は多い。今はまだこの世界では認知されていないが、帝国をはじめとして科学技術はどんどん発達している。化学工業やプラスチックの製造が盛んになれば、塩酸や臭素はよく売れるに違いない。



 原子魔法の適性を確認した後、クロ達は家に戻って茶を飲みながらくつろぐ。

 そして、そのまま次の話題に移った。


「さて、原子魔法の習熟については山吹が個人的に今後進めるとして、俺達がずっと気になっている話をしようか。」

「何でござるか?」

「山吹の『変化』について。なんで服着た状態で変化できるんだ?」


 クロの言葉に、ヤマブキは目を丸くし、ムラサキとマシロは同意するように頷いた。


「何かおかしいのでござるか?」

「いや、おかしいだろ!オレ達は『変化』するとき一々服を脱いでるだろ?これが普通なんだよ。」

「私も『換装』で服を変形させているだけで、服まで連動して変化はしていませんね。」

「そうなのでござるか。個人差だと思っておりました。」


 クロもムラサキもマシロも、獣形態から人型に『変化』すると、全裸になる。マシロは同時に『換装』しているのでそうはならないが、ヤマブキのように人間形態に『変化』したと同時に服が形成されたりはしない。

 そこでクロがヤマブキの『変化』について尋ねる。


「その服は、やっぱり羽根を『変化』させてるのか?」

「その通りでござる。」

「・・・なんで服を着た状態に『変化』したんだ?」

「む?ヒトは皆、服を着ているものでござろう?」

「あー・・・」


 そこでクロは合点がいった。

 ヤマブキはヒトの生態を外から見て学んだ。すなわち、服を着た状態のヒトしか知らなかったのだ。ムラサキやマシロはヒトとともに生活した経験があり、ヒトの体と服は別物と理解している。その違いが、服を着た状態に『変化』するか否かの違いなのだろう。

 それをクロがムラサキとマシロに説明すると、それぞれ異なる反応を示す。

 まずムラサキは怪訝そうな顔をした。


「えー?それだけで変わるもんか?」

「正直、『変化』の術式は謎が多いんだ。俺がチタン骨格を手術で組み込んだ時に、『変化』の術式はそれに勝手に対応してチタン骨格も『変化』するようになった。当人の認識が大きく影響している可能性は高い。」


 対してマシロはすぐに納得した。


「わかりました。服を着た状態が定常状態だと認識すればいいのですね。」

「ああ。実際、獣から魔族になったケースが少ないから、体毛を服に変えられるかは検証した例がない。それに、今までの理論では『変化』後の姿は一度決まったら変更できないとされていたが、俺のチタン骨格の例がある。想像力次第で変更可能かもしれない。」


 そこから3人で『変化』の改良を実験した。

 時折、ヤマブキの意見を聞きながら、想像力を全開で働かせつつ、『変化』を繰り返す。


 実験の結果、まずマシロが成功。真っ白な服を着た状態で獣人形態になれた。ただし、顔の造形や体格などは変更不可能な模様。

 次に半信半疑ながらも取り組んでいたムラサキが成功。ところが。


「がー!!だめだ!なんで普通の服ができないんだ!?」


 どうやってもぼろきれのような服しか出てこない。

 その失敗の様子を観察していたクロが原因を推測する。


「布地が足りないんじゃないか?体毛を使って服ができてるとしたら、元の体が小さいムラサキでは、服を1着まるごと作れるほど毛が無いんだろ。」

「なるほど。拙者は羽毛が多いし、マシロ殿は元の体格が大きい。だから成功したということでござるか。」

「くそー。」


 ムラサキは悔しがるが、こればかりは持って生まれたもの。どうしようもない。

 結局、ムラサキは紫色の下着を作るのが精いっぱいだった。当然、体格が大きくなることもない。


 最後にクロだが、いつも来ている黒コートを着たまま鳥形態に変化できないかやってみたが、無理だった。


「使い込んだこのコートならいけるかと思ったんだがな。」

「チタン骨格はできたのに、不思議ですね。」

「想像力不足かもしれん。今後も検証を続けよう。」


 クロがそうして四苦八苦しているうちに、マシロはさらに使いこなして、『換装』と組み合わせて行使するところまでできるようになった。

 今まで黒一色だったマシロの服が、この日から白黒の2色になり、メイドっぽくなった。


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