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選べるなら、人間以外で  作者: 黒烏
第4章 緑の狸
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T05 潜伏中の者達

 ライデン帝国の技術開発の最先端、未来都市ザーフトラスク。その一角にとても大きな家がある。

 家主が金持ちなのは確かだが、この家が大きいのは、贅沢を貪るためでも、自分の財力を誇示するためでもない。単純に、作業スペースと倉庫が必要だからだ。

 家主の名はアキラ・イラガ。異世界人で日本人であり、元の名前は異良賀いらがあきらと書く。前世も今も研究者であり、親しい者たちからは<博士>と呼ばれている。転生したのは数十年前であり、今の年齢は50過ぎだ。

 それでも元気いっぱい働いている。それが帝国の技術を支えており、同時に身近な者たちを困らせている。


「ただいま戻りました。」


 長い銀髪の女性が音もなくその豪邸に帰って来た。<夜明け>という反政府組織の古参メンバー、セレブロだ。

 テツヤ、セレブロ、メーチ、ビャーチの<夜明け>戦闘員4名はこの未来都市に潜伏中である。

 他のメンバーもバラバラに都市内に潜伏していて、ある計画の実行準備をしつつ、決行の機会を窺っている。

 そのため、その時が来るまで政府に見つかるわけにはいかない。都市内に光る軍人の目を盗んで必要物資を買い込んでくるのはセレブロの役目だ。彼女の固有魔法である認識阻害魔法『ソリチュード』にかかれば、誰も彼女を見つけることはできない。


「・・・・・・おかえり。」


 エントランスを見下ろす2階の通路から顔を覗かせてセレブロを迎えたのは茶髪の小柄な少女。彼女もまた<夜明け>の古参メンバーであり、凄腕の戦闘要員だ。コードネームはビャーチ。今も愛用の4丁拳銃を整備していた。


「ビャーチ、またそんなところで整備してるの?」

「・・・・・・ここが一番、見張りやすい。」


 この博士の家に匿われていれば、滅多に危険はない。帝国に多大な貢献をしている博士は信用があり、同時にその奇行もよく知られていて、近寄る者は少ない。

 それでもビャーチは警戒を続けているようだ。頼もしい用心深さだが、ずっと警戒していては疲れるだろう。そう思ってセレブロは2階に上がりつつ声をかける。


「いつもあなただけ見張ってるじゃない。交代してもらったら?男どもは?」

「・・・・・・メーチは筋トレ。ゾルは博士と一緒。・・・気にしなくても、見張りくらいなんてことない。」


 ビャーチは幼い頃から魔法の才能故に政府に目をつけられ、政府の目から逃げた15歳から<夜明け>で活動している。異世界人であるセレブロには想像もつかない厳しい世界で生き延びてきたと言えるだろう。獣のように、周囲を警戒しながら休むのも、もはや習慣になっているのかもしれない。

 とはいえ、メンバー最年少の少女に見張りを丸投げしているのは問題だ。


「あなたは気にしなくても、私が気になるわ。メーチはどこ?」

「・・・・・・外に走りに行った。」

「あの筋肉馬鹿・・・」


 メーチは大柄の男で非常に逞しい剣士だ。暇なときは剣の手入れか筋トレをしている。今まで潜伏中ということで室内でできるトレーニングだけやっていたが、とうとう我慢できなくなったらしい。


「見つかったらどうするつもりなのかしら。」

「・・・・・・メーチが捕まるとは思えない。」

「・・・まあ、それもそうね。」


 単純な戦闘能力で言えば、メーチの右に出る者はいない。<夜明け>の組織内でもそうだし、彼女らが知る中でもメーチは最強だ。たとえ銃を持った兵士に囲まれても、一方的に蹂躙できるだけの力がある。捕まるとは到底思えない。


「・・・・・・筋肉馬鹿ではあるけど、追っ手を撒かずにここに戻ってくるほど馬鹿でもない。ほっとけばいい。」

「そうするわ。で、テツヤは博士のところだっけ?」

「・・・・・・そう。ゾルの要望に博士が付き合ってるのか、博士の暴走にゾルが付き合ってるのか、知らないけど。」


 テツヤ、本名、逆神さかがみ哲也は、異世界人で雷の神子である。<夜明け>に参加したのはごく最近で、コードネームはゾル。<夜明け>参加前からテツヤを知るセレブロだけは、部外者がいない場合だけテツヤと呼んでいる。


 セレブロは買ってきた食料品等をメイドに渡し、管理をお願いする。

 この家のメイドは家の外に出ても問題ないのだから、買い出しを彼女らに頼んでもいいかもしれないが、メイドが過剰に食料品を買い込んでいるところが兵士の目につくかもしれない。世話になっている身でここのメイドたちに迷惑はかけられないと判断して、自分たちの分はセレブロが買って来ていた。

 用事を済ませたセレブロは研究室、いや、研究スペースに向かう。博士の研究室はもはや規模が大きすぎて1つの研究所と化していた。

 防音の扉を抜ければ、電動工具を動かす音がする。広い研究スペースだが、どこに彼らがいるかはすぐにわかった。


「できたぞ!まずは腕1本!」

「やったな!博士!」

「喜ぶには早いぞ、テツヤ!装備してみろ。合わなければ修正しなければならん!」

「合点承知!」


 博士に勧められてテツヤが作業台の上にある筒状の物を手に取る。


「重っ!重いぞこれ!大丈夫か、博士!?」

「気にするな!完成すれば魔法で動かすのだから、問題ない!さあ、早く装備しろ!」


 博士に急かされて、テツヤは筒状の物に腕を通す。


「おお、ぴったりだ!流石、博士!」

「うむ!完璧だな!流石、儂!」

「何それ。」

「「うおおお!?」」


 盛り上がる博士とテツヤの後ろにいつの間にか立っていたセレブロが声をかけると、2人は驚いてのけ反った。腕に重りをつけているテツヤは、そのままバランスを崩してこけた。


「な、なんだ、セレか。家の中でまで『ソリチュード』を使わなくてもいいだろ。」

「使ってないわよ。あなたたちがそれに夢中になってただけ。で、それは何?手甲?どうみても重すぎる気がするけど。」


 今、テツヤが簡単にバランスを崩してこけた通り、これではとても戦闘に使えるようには見えない。

 しかし博士とテツヤは狼狽えることなく得意顔だ。


「なに、確かに重いが、完成すればそれも問題がなくなる!まあ見ておれ。」

「こいつは男のロマンって奴だ。完成したらセレにも見せてやるよ!」

「はあ。」


 2人はずいぶん盛り上がっているが、何を作っているかもわからないセレブロには、何も言えない。そもそも、注意したところで、テツヤはともかく、博士が手を止めることはありえない。


「まあ、言っても聞かないだろうから止めないけど、せめて役に立つものを作ってくださいね。」

「何を言う!儂はいつだって役立つ物しか作っとらん!まあ、失敗作は多いが、それは研究の宿命というやつよ!」

「はいはい。じゃ、テツヤ。博士に付き合うのはいいけど、たまには見張りをビャーチと交代してあげなさいよ。あの子、ずっとエントランスで見張りしてるんだから。」

「え、まじで?すまん、博士!ちょっと行って来る。」


 ビャーチがずっと見張りをしていることを初めて知った様子のテツヤは慌てて研究スペースを出て行く。

 その背に博士が声をかける。


「おー、行って来い。儂はもう片方の腕も作っておくからな。」

「頼んだぜ、博士!」


 見送った博士はすぐに作業台に向かって工具を操り始めた。

 残されたセレブロが博士に尋ねる。


「で、何作ってるんです?」

「アイツが秘密にするなら、儂も喋らんよ。なに、例の計画にはちゃんと役立つ。安心しろ。」

「まあ、博士の技術は信頼してますよ。」


 「技術」という部分を強調してセレブロは答えた。半ば嫌味を混ぜたのだが、博士は意に介さない。


「ところで、お主らの計画はイケそうなのか?」

「勝算があると思ったから、協力してくれているのでは?」

「さあな。儂はただ自分の作品の試運転をしてくれる奴らが欲しかっただけだ。別にお主らが失敗しても、儂は無関係を主張するよ。」

「通るとは思えませんが。」


 反政府組織に武器を提供していたのだから、無関係とは言えないだろう。


「何、無理でも通すさ。そのために散々帝国には恩を売って来たんだからな。」


 確かに、博士は既に帝国になくてはならない人物だ。少なくとも、戦争を続ける限りは。政府が彼を容易に処罰できないのも事実である。

 セレブロはやれやれとため息をついて首を振るが、博士は作業の手を止めずに再び問う。


「で、勝てるのか?いつ仕掛ける?」

「まだしばらくは動きませんよ。戦争が劣勢になって、皇帝の支持率が低下したあたりが狙い目ですかね。まあ、判断はリーダーがしますけど。」

「そうか。なら、それまでにこいつを完成させるとしよう。急がねばな。」


 セレブロは博士の最後の一言に違和感を覚えた。


「言いましたが、まだしばらく動きませんよ。急ぐ必要はないのでは?」

「何を言う。帝国が劣勢になったら、と今言っただろう。」

「言いましたが・・・」

「なら、そう遠くない。お主らも準備を急げ。」

「・・・!ありがとうございます。」


 セレブロはそれだけ言って、研究スペースから出た。

 博士は協力しているとはいえ、それはあくまで武器の試作品の横流しと隠れ家の提供だけだ。情報をくれたのは今回が初めてだった。


 ・・・博士は立場上、帝国の内情を把握し得る。おそらくこの情報の確度は高い!早くリーダーに知らせるべきだわ。


 セレブロは帰ってきてすぐだというのに、また家を出た。


「『ソリチュード』」


 彼女の魔法が、世界から彼女を隠した。


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