131 戦艦防衛戦と神獣戦の反省会
11月13日。任務を終えたマシロとアカネは大急ぎでクロの家に帰って来た。雪で走りにくい中、全力疾走して強引に走り、一晩で帰って来ていた。その大量の雪を弾き飛ばしながら高速で走るマシロ達を見た周辺住民は、雪煙でマシロ達が見えなかったため、危険な新種の魔獣が出たと勘違いをしていたが、マシロにとっては知ったことではない。
昼に家に着いたマシロ達は、綺麗に除雪された家の前で、机と椅子を出して読書をするクロを見つける。アカネがマシロの背から飛び降りて駆け寄り、マシロは『変化』で獣人形態になり、付着した雪などを払いつつクロに近寄る。
「おう、おかえり。」
「キャン!」
「ただいま戻りました。」
クロは読書を中断して2人を迎える。クロが立ち上がるよりも早くアカネがクロの膝の上に跳び込んだ。
「おー、よしよし。茜、ケガはないみたいだな。」
クロがモフモフ温かいアカネを撫でると、アカネも嬉しそうに目を細める。離れていたのは1週間ほどだが、クロにはアカネが大きくなったように感じられた。
「今回はアカネもうまく立ち回っていましたよ。」
「へえ、成長したんだな。真白も無茶せず無事に返って来てくれてよかった。」
「ええ。アカネと、アカネを同行させてくれたマスターのおかげです。・・・こちらでは何かありましたか?」
マシロは既に違和感を感じ取っていた。そもそも大急ぎで帰って来たのは、自分が不在のこの家が心配だったからで、心配して家に来てみれば何か妙な感じがする。
家の中までは魔力感知が通らないが、マシロの自前の嗅覚でクロ、ムラサキ、スイーパー達以外に1人、誰か知らない匂いがあるのは感じ取れる。そして、落葉しないはずの「炭の大樹」の葉が大量に落ちているのを見れば、何かあったのは明白だ。
マシロの質問に若干目を泳がせたクロは、アカネを膝から降ろして立ち上がる。
「あー、じゃあ、今から報告会にしようか。午後の予定はないし。」
「ええ、そうしましょう。詳しく聞かせてください。」
マシロは既にクロに何か後ろめたいことがあることを嗅ぎ取っていた。
3人で家に入り、客間まで上がった途端、奥から大きな気配が高速接近したため、マシロは身構えた。ただし、クロが警戒する様子がないため、構えるだけにとどめた。
家の奥から走って来たのは茶髪の青年。身長はクロと同程度で、服装は和風。江戸時代の浪人のような格好だ。少し長めの髪を後ろで束ね、頭頂部には一房、鮮やかな黄色の髪の毛が立っている。
「クロ殿!これの続きはござらんのか!?」
青年の手にあるのは漫画の本。異世界人が前世の漫画を思い出しながらコピーして書いたもので、この作品は、幕末に有名な人斬りだった主人公が、明治初期に逆刃刀を手に不殺の誓いを守りながら戦う内容だ。
「もう読み終わったのか。一昨日借りて来たのはそこまでだ。続きはまた図書館に行かないとない。」
「なんと!では今すぐ参りましょう!拙者に任せていただければ街まであっという間に着けるでござる!」
「落ち着け、山吹。今日はダメだ。これから報告会にする。」
「ホウコクカイ?」
「あの、マスター。こちらは?」
突然現れて漫画の話を始めた男に、マシロはどう対処していいかわからず、クロに尋ねる。アカネも目を白黒させていた。
「あー、まあ、報告会で言うつもりだったが、先に紹介するか。」
「うむ!自己紹介させていただこう!拙者は雷の神獣でござる!元の種族はブラウンカイト。名はクロ殿よりヤマブキと付けていただいた!」
「・・・マシロです。私も魔族で、元は犬の魔獣です。種族名はわかりませんが。こちらはアカネ。フレイムフォックスです。」
色々とツッコミどころが多い雷の神獣、もといヤマブキの自己紹介を受け、戸惑いつつもマシロは自分も自己紹介をした。
ヤマブキはクロに敗れた後、ここに棲みついていた。家の中にいる時は基本的に『変化』で人間形態になっている。空き部屋がないので、今はムラサキと相部屋だ。
そして、クロが持っていた図書館から借りた本を読んでみると、時代小説や先に述べたような漫画を大層気に入り、服装も口調も武士っぽくなった。人間形態時は日本人顔なので然程違和感はない。頭頂部の真っ黄色のアホ毛以外は。
ともあれ、奥で休んでいたムラサキも呼んで、客間に集まって報告会を始めた。
マシロとアカネは戦艦防衛戦の一部始終を。クロとムラサキはフロウレンスと神獣の襲撃について、報告した。
規定通り、報告が終わるまでは互いに口を挟まず、報告を滞りなく終える。
「さて、マスター。まず私とアカネの方について、何かありますか?」
「今後の要注意人物が2人ってところか。」
「1人は<鎌鼬>ですね。」
「そう。もう1人はヴォルフの爺さんだ。」
「・・・・・・」
「いくら有利な状況を作ったからって、ネームド30人以上同時に皆殺しとか、半端じゃない。おまけに爺さんの話が本当なら、そのトルンとかいう奴は<雨>や<鎌鼬>と並び立つ帝国の秘匿戦力だ。それをほぼ無傷で仕留めている。現状、敵対する気はないが、最悪の場合を考えると、対策を立てておきたい。」
マシロはヴォルフの戦果について大雑把に本人から聞いていた。その時、ヴォルフが何か隠しているような気はしたが、戦果に関する話に嘘はないと判断した。
「できれば、敵対したくはないですね。」
「そうだな・・・」
マシロはクロの返答を見て、クロは本気で敵対する可能性を考えていることを読み取った。同時に、キュウビの処遇についてクロがヴォルフと言い争ったときのことを思い出す。
・・・現在は良好な関係を築いていますが、相容れない部分があるのも事実。杞憂と切り捨てられる可能性ではない、ということですか。
マシロは個人的な感情からもヴォルフと敵対したくはない。だが、クロがもしヴォルフと戦うことがあれば、自分はクロにつく。マシロはそれを内心で確認した。
そして、本題に移る。
「で、マスター。その、ヤマブキとの戦闘についてですが。」
「あ、ああ。」
何を言われるか予想がついているのだろう。クロはわずかに怯えている。だが、逃げないのは、自分が悪いとわかっているからだろう。
「最後に魔力を回復した方法は、新型復讐魔法ですね?」
「はい。」
マシロが発する威圧感に、クロは思わず敬語になった。
「つまり、亡霊の力を借りたと。」
「はい。」
クロはヤマブキに憑いていた亡霊から魔力を借りた。ヤマブキに憑いていたのは3人の魔族の亡霊だった。
魔族の亡霊であるため、持っている魔力は大きかったが、亡霊が望む目的とクロの目的が一致しなかったために、最低限しか借りられなかった。
亡霊が望むのはヤマブキの死。対してクロの目的はできれば殺さずに制すること。目的が一致しなければ、亡霊は力を貸してはくれない。しかし、交渉の末、一泡吹かせられるなら、と少しだけ力を貸してくれたのだった。
少量とはいえ、亡霊から力を借りた。クロの精神に影響がないわけがない。今は毎晩悪夢にうなされる程度で済んでいるが、使い続ければ今後どんな影響が出るかわからない。
「もう使わないと、約束しましたよね。」
「いや、待て。確かに約束したが、いざという時は使うとも言ったはずだ。」
「そうですね・・・」
マシロは同意しつつもソファーから立ち上がり、素早くクロに接近してその手を取った。そして優しく握る。
「私はマスターを心配して言っているのですよ。」
「それは、わかってる。」
「ですよね。」
ベキッ。
「つっ!--------!」
鈍い音が鳴り、クロが声にならない叫びを上げて悶える。
左手の指が親指を残して4本、曲がってはいけない方向に180°曲がっていた。マシロが一瞬の早業で4本同時に折ったのだった。
クロの骨は魔法強化チタン製であるため容易く折れることはないが、関節の強度はそれほどでもない。
そして、痛みに強いクロであるが、それは覚悟していた時の話で、今のように油断させてからの不意打ちには弱かった。信頼しているマシロが相手だったこともある。
「やむを得ない状況だったとはいえ、私が心配することはわかっていたのですから、罰を受ける覚悟はありましたよね?」
「お、おう・・・」
クロも必要な罰だと理解しているので、反論はしない。折れ曲がった指を1本ずつ治し始める。
これを見ていて蒼褪めたのはムラサキだ。
「さて、ムラサキ。報告の内容からすると、貴方も同罪ですよね?」
確かにクロは新型を使う前に、ムラサキに「一緒に怒られてくれ」と言っていた。そして、ムラサキはそれに了承していた。
しかし、今の罰の内容を見て、ムラサキは慌てる。
「ま、待て!待てって!クロも言ってたけど、あの状況じゃ仕方なかったんだって!あのままじゃクロだけでなくオレも死ぬところだったんだって・・・ぎゃあああああああああ!!」
ムラサキが言い訳を言い終えぬうちに、マシロがムラサキに急接近し、目にも留まらぬ速さでムラサキの右頬のひげをすべて引っこ抜いた。
「問答無用。罰は必然です。」
痛みに悶えて七転八倒するムラサキ。アカネは、見ているだけで痛い!と言わんばかりに前足で自分の目を覆っている。
そこへ、見かねたヤマブキが口を挟む。
「なあ、マシロ殿。クロ殿とムラサキ殿がそれだけの代償を払ったのは、拙者の力を認めたが故で・・・ぐおおおおおおお!?」
今度はヤマブキのアホ毛が丸ごと引っこ抜かれた。
頭から血を流しながらヤマブキが反論する。
「拙者の冠羽があああ!貴様、何をす・・・」
「黙りなさい、事の元凶。」
ヤマブキが戦闘態勢を整えるよりも早く、マシロはヤマブキの首筋に「黒剣」を当てていた。刃先で糸が高速回転する甲高い音が、ヤマブキには聞こえていた。
「マスターの温情で生かされていることがわかっているのですか?今ここで服従を誓いなさい。」
「ハイ!誓いまする!」
マシロに剣を向けられて膝をつくヤマブキ。ポーズだけ見れば騎士の誓いに似ているが、実際は脅迫である。
やり過ぎなマシロに、指を治し終えたクロが口を挟む。
「あー、服従とかいいから。対等の仲間でよろしく。」
「ハイ!クロ殿は仲間!マシロ殿には逆らいません!」
「よろしい。」
ようやくマシロは剣を収め、「家の掃除をしてきます」と言って奥へと歩いて行った。
客間に残ったのは、手をさするクロ、項垂れたヤマブキ、床に延びてピクピクと震えているムラサキ。アカネは心配そうにムラサキを舐めている。
「なあ、クロ殿。」
「なんだ?」
「拙者が観察していた限りでは、ここのトップはクロ殿だったと思うのでござるが。」
「対外的にはそうだが、実際は対等だ。仲間がミスをしたら、叱る。お互いにな。俺達がマシロに説教したこともある。」
「そうでござるか。」
「まあ、叱られる頻度は、俺達の方が多いけどな。」
「そう、でござるか・・・」
ともあれ、クロの仲間に雷の神獣ヤマブキが加わった。
長かった第3章もここで終わりです。
次回は3章の人物情報。その後少し間を置いて第4章を始めます。




