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選べるなら、人間以外で  作者: 黒烏
第3章 黄色の鳶
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130 黒と黄の戦い⑤-決着-

 組み合ったまま墜落したクロと神獣はどちらも生きていた。

 ただし、決着はついていた。地面に腹ばいで縫い付けられた神獣に、クロが乗っている状態だ。神獣は落下のダメージで動けなくなっている。電撃による反撃は可能だろうが、落下中の様子を見れば、クロに電撃を加えても止まらないことは明白だ。クロがあと一撃入れるだけで、それがとどめとなるだろう。

 観念した神獣は反撃をせずに力を抜く。


「見事。我の負けだ。とどめを刺せ。」

「じゃあ、遠慮なく。」


 クロはニヤリと笑って右拳を振り上げる。その振り上げた右腕も肉が焼け焦げてとても動かせるように見えないが、問題なく動いている。

 そしてクロが拳を神獣の頭に振り下ろそうとしたその時。


「何やってんだ、このアホ!」


 ムラサキの『エアテイル』がクロの後頭部を強打。クロの拳は神獣の頭の横の地面に落ちて、地面を抉った。

 クロが態勢を立て直そうとする前にムラサキが接近し、『エアテイル』で拘束する。


「何してる、ネコ。とどめが刺せないだろ。」

「てめえ、やっぱ今、自動攻撃モードか!喋るなんて聞いてないが、ともかく決着はついてんだから、大人しく回復しろ!」


 クロは間違ってもムラサキを「ネコ」とは呼ばない。明らかに異常だった。

 ムラサキは事前にクロから気絶時に発動する自動攻撃術式『呪い人形』について聞いていた。気絶したら見境なく反撃するから離れろ、と聞いていたのだ。

 こんな意思を持って攻撃するとは聞いていなかったが、状況からムラサキはこれが自動攻撃モードだと推測していた。



 そのままクロを拘束し続けること数十秒。急にクロの雰囲気が変わり、大人しくなった。


「んあ?どういう状況だ?」


 まるで今まで寝ていたかのような反応。イラっとしたムラサキはクロを拘束したままクロの後頭部を叩いた。


「いて。おい、ムラサキ。なんだよ。」

「なんだよ、じゃねー!手間かけさせやがって。自動攻撃でやりすぎるところを止めてたんだぞ!」

「マジか。すまん。止めてくれてたのか。改良が必要だな。」


 自動攻撃のやりすぎを聞いて、クロは改良を検討するが、別人格に気付いていないクロに改良はきっとうまくいかないことだろう。

 それはともかくとして、言い合うクロとムラサキの会話に、神獣が割って入る。


「なぜとどめを止めた?我は闇の神子を殺そうとしたのだぞ。」

「・・・・・・」


 クロは答えずにムラサキを見る。まず初めにとどめを止めたのはムラサキだからだ。


「前に助けられたから、お返しだ。それに、クロならお前を生かしておきたいだろうと思ってな。まあ、さっき暴走してた時はそう見えなかったが。」

「悪かったって・・・」


 クロは本気で反省の意を示す。もっとも、自動攻撃は気絶中に発動するものであるため、いくら反省しても再発を抑えられるものではないのだが。


「闇の神子は?なぜとどめを刺さない。」

「・・・お前が本気で俺を殺す気なら、仕方ないが・・・そうは思えなくてな。」

「ほう?何故そう思う。手加減したつもりはないが。」

「なんとなく。」

「・・・・・・」


 沈黙。

 そして数秒後に神獣が笑い始めた。


「はははははは!なんとなく、か!わかった。事の経緯を話そう。」


ーーーーーーーーーーーー


 それは雷の神獣が雷の神から力を授かり、魔法の使い方まで習った後のことだ。


「よし。基礎はこんなものだろう。あとは実戦で鍛えろ。」


 神獣はコクリと頷く。


「で、力の対価、任務のことだが・・・こいつを見極めろ。」


 神獣の頭にクロの情報が流れ込む。しっかりとターゲットを記憶した。

 そして、首を傾げる。見極める、とは、どういうことか、と。


「曖昧な指令で悪いが、判断を現地に住むお前に任せたいのだ。こいつを観察し、世界に害をなすと判断したらその力で排除しろ。こいつに勝てるだけの力は授けたはずだ。ただ、もし世界に利すると判断したならば、その実力を試せ。たとえ思想が良くても、実力がなければ使えないからな。実力が伴わなかった場合も殺して構わん。指令は以上だ。」


 そうして雷の神は返答も聞かずに去って行った。


ーーーーーーーーーーーー


 クロとムラサキは顔を見合わせる。

 クロはこの世界でも確認されていなかった神と神獣のやり取りを聞いて、これは貴重な情報ではないかと学術的なことを思った。

 ムラサキは神が出す指令があまりに大雑把で、適当過ぎるんじゃないかと呆れた。


「で、お前はどっちだと判断したんだ?」

「いや、結局決めかねた。」

「はあ。」

「野生の獣に何を期待している?今まで自分の縄張りの外のことなどほとんど知らなかったのだ。世界に利するかどうかなど、わかるわけがない。」

「まあ、そうだよな。」

「しばらく監視した末、結論が出なかった我は、いずれにしろ戦うことには変わりないのだから、と思い、戦う準備を始めた。ムラサキ殿を助けて恩を売り、魔族を喰らって魔族化した。その魔族化の力を使いこなすべく、東へ向かった。」

「東?なんでまた。」

「東の大陸から渡って来る鳥の中に強い魔獣が多くてな。強くなれる何かがあると思ったのだ。本能的に魔力濃度が高い場所で鍛えた方が強くなることはわかっていたからな。で、実際にあった。」

「ほう。東大陸にそんなところが。」


 確かに歴史を見ても、強い魔獣が生まれるのは魔力濃度が濃い場所が多い。魔力が生物の生長に大きく作用することは想像に難くない。


「その地に棲みつき、近くに住むヒトを見て、人型での戦い方を学んだ。」

「ん?使ってたか?」


 神獣は終始鳥の姿で戦っていた。人化は使用していない。


「・・・学んでから、人型では飛行能力が落ちる事に気づいた。元の姿の方が強い。」

「・・・そうか。」


 ムラサキがふわりとクロの肩に乗り、小声で言う。


「クロ、こいつ実はアホなんじゃないか?」

「頑張ったけどダメだったなんてよくあることだ。俺からは何も言えんな。」


 神獣は2人の会話に気付かずに話を続ける。


「それに気づいたと同時に、あの森人と出会い、同盟を結んでここに来たというわけだ。貴殿の処遇、神からの指令については、戦ってから決めればよいと思った。」

「・・・で、結論は?」

「・・・何とも言えん。だが、害をなす存在だと断言はできない。」

「はっきりしねえなあ。」


 ムラサキは神獣の煮え切らない態度が気に食わないようだが、クロは否定しない。むしろ好意的に見た。


「じゃあ、もう少し様子を見たらどうだ?今度はもっと近くで。」


ーーーーーーーーーーーー


 クロから逃走したフロウレンスは、平原を走っていた。風魔法『ウィンドアクセル』で加速した移動速度は野生の獣でも追い付けない。とりあえずは王都に身を潜める予定だ。


 ・・・手の内を知られたからには、もはや暗殺しかない。かの鳥が仕留めているかもしれんが、油断は禁物じゃ。ともかく、態勢を立て直さねば。


 猛然と走るフロウレンスの前方に、大勢の魔力反応が現れた。フロウレンスは警戒して減速する。

 そして、10m程の距離を置いて向かい合った。

 平原のど真ん中でフロウレンスを待ち構えていたのは、20人の男女。その中央には腰が曲がった老人が杖を突いて立っていた。老いた風体とは裏腹によく通る声で話しかける。


「おや、森人のお嬢さんがそんなに急いでどこへ行くのかね?」

「コンダクター・・・!」


 老人もその周囲の男女も、全員が魔族だった。そしてその老人は、魔族の族長の一人、コンダクター。複数ある魔族の集団の中でも、トップの規模を誇る派閥の長だった。

 コンダクターは100年前の魔族討伐戦争の時代から生きており、当時から魔族の有力者だった。フロウレンスも戦後処理の際に顔を見て覚えていた。


「相変わらずじゃな、生き汚い爺め。ワシの前に姿を現すとは、死ぬ覚悟ができたか?」


 コンダクターは、魔族の有力者でありながら、100年前の戦争末期には戦線から離れ、魔王が討たれたと見るや勇者に恭順を示した。

 コンダクターが戦線から離れるまでに多くの人間・獣人がコンダクターとその部下たちに殺されており、今更、穏健派を気取るなど、と連合軍の兵士たちはコンダクターたちの処刑を希望したが、勇者の慈悲でコンダクターたちは生かされた。

 連合軍から見れば生き汚いと言われ、魔族からも裏切り者と蔑まれたが、コンダクターがそうしたからこそ、魔族は根絶やしにされず、山奥の集落で生きることを許された。少なくとも、コンダクターの部下たちはそれを評価し、今も彼の下についている。


「お主こそ相変わらずじゃ、<毒薔薇>。そして逆じゃよ。貴様を始末するためにここに来たのよ。」

「ほざけ!『エアハンド』!」


 フロウレンスは無数の『エアハンド』を発動するとともに、コンダクターへ向けてメスを投げる。

 コンダクターは曲げていた背を伸ばして杖を振り上げる。


「『ピクト・イメージ』。合唱、カミカゼ。」

「「「『カミカゼ』!」」」


 コンダクターの合図とともに周囲の魔族が寸分違わず同時に詠唱した。直後、コンダクターたちの頭上から打ち下ろすようにフロウレンスへと突風が起きた。

 それはもはや風と言うよりは空気を固めた砲弾だった。フロウレンスはそれに打たれ、地面へと押し潰された。当然、メスも『エアハンド』も薙ぎ払われた。


「がはあっ!」


 フロウレンスの全身の骨が砕け、内臓が潰れる。しかし、木魔法による高速治癒でどうにか一命をとりとめた。

 風の圧力が止むまでの約10秒、そうして耐え続け、風がやんでからゆっくりと身を起こした。


「ぐふっ、この、威力は・・・」

「流石、<毒薔薇>。木魔法で生き残ったか。魔族でも今のは死ぬ威力なのだがな。これが合唱魔法の威力じゃよ。お主は味わったことがなかったかな?」

「くっ・・・」


 魔族の魔法は元々リミッターがないため強力だが、今の合唱魔法はその数倍上を行っていた。フロウレンスの『エアハンド』がなす術なく薙ぎ払われるなど、魔王相手ですらあり得なかった。

 合唱魔法は、神々が魔法にリミッターをかける前に、人間が考案した魔法だった。

 発見したのは双子の魔法使い。同じ対象に同じ魔法を同時に行うことで、威力が向上することを発見したのだ。

 もちろん。別々に撃って同時に同じものに発動させれば、その分威力が上がるのは当たり前。初めは気にも留めていなかったが、よくよく分析すると、威力だけでなく魔法出力まで向上していることが判明したのだ。

 これが同時詠唱と何が違い、どんな効果があるのかというと、特に魔法使い同士の戦いで効果を発揮する。

 双子が発動した合唱魔法は、魔法出力が2人分になったのだ。魔法出力で容易に相手を上回ることができた。そうすると、水魔法や土魔法のような物体操作系では相手が操作中の物体を奪い取ることができるし、炎魔法では相手の耐熱結界を容易く破ることができた。

 発見された当時、その効果を見て多くの魔法使いが真似しようとしたが、できなかった。合唱魔法には、2人が全く同じイメージを持たなければならないという条件があったのだ。故に、発見者である双子ですら、100%安定して発動できるわけではなかった。

 しかし人間という者はそう簡単に諦める生物ではない。工夫の末、合唱魔法を実用可能にする技術を作り上げた。

 それが今、コンダクターが用いた方法。その危険性から神々が禁止した技術。他者にイメージしたものを伝達する闇魔法『ピクト・イメージ』による意識の統制だった。『ピクト・イメージ』自体は普通の意思伝達魔法だが、合唱魔法を行使する際にはかなり強いイメージを送る必要があり、受ける側の訓練が足りないと、脳に異常をきたす恐れがあった。

 しかしコンダクターとその部下たちは、長い時間をかけてそれを実戦導入していた。それも何十人も同時に。


「魔族19人分の魔法出力じゃ。勝ち目はないぞ。観念せい。」

「ふざけるな!貴様ら魔族になど、ワシは・・・」

「では、『ピクト・イメージ』。合唱、ファイアバレット。」

「「「『ファイアバレット』!」」」

「ひっ・・・」


 圧倒的な魔力に、フロウレンスは思わず怯えた声を漏らす。

 飛来したのは、まるで太陽のような巨大な火球。避けようにも負傷して動けない。


「い、嫌じゃ!こんなところで、ワシは!こんな・・・」


 フロウレンスの声は火球に飲まれて、そこで途切れた。


 火球が地面ごとフロウレンスを焼き尽くし、炎が消えた。

 コンダクターはパタパタと手で仰ぎながら疲れた声を出す。


「やれやれ、暑いのお。」

「耐熱結界も合掌で強化してるんだから、暑いわけねえだろ、爺さん。」


 コンダクターの独り言を、隣の若い男の魔族が拾う。


「気分の問題じゃよ。ほれ、地面がガラスになっとる。見ているだけで暑いわい。」

「まあ、確かに。」

「ほら、無駄口叩いとらんで、証拠隠滅じゃ。」

「はいはい。」


 部下たちがフロウレンスの燃えカスとガラス化した地面を土魔法で混ぜて均していく。

 コンダクターをそれを見ながら独り言をこぼす。


「まったく、ウチの若手を3人も屠ってくれよって。これで仇は討てたが、さて、クロの方はどうするかのお。」


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