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選べるなら、人間以外で  作者: 黒烏
第3章 黄色の鳶
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129 黒と黄の戦い④

 クロ&ムラサキvs雷の神獣、最終局面。

 神獣にはクロの剣「黒嘴」が突き刺さり、見るからに深手だ。魔族化しているため致命傷ではないが、鳥類故にストックが少なく、あと一撃、大ダメージを受ければ戦闘不能、もしくは飛行不能に陥るだろう。

 対するクロは複数回電撃攻撃を受け、全身を槍で貫かれ、そのうえ「鳥頸」使用時の自傷ダメージを負っていた。自前の治癒力で大半は治癒済みだが、すでに魔力が枯渇気味で、治癒しきれていない部分がある。さらに、復讐魔法『ヴェンデッタ』が普段より効果が低くなっており、魔力回復が遅い。

 互いに満身創痍の中、神獣は『サンダーボルト』による電撃と『レールガン』による槍の射出で弾幕を張り、クロを攻撃する。クロはムラサキの『エアテイル』を足場に空中を跳び回り、弾幕を抜けて接近を試みる。しかし、近づくほどに弾幕は濃くなり、クロは接近できずにいた。


「くそっ、近づけん。」

「どうする、クロ!このままじゃそのうち当たるぞ!」


 神獣の方は肉体的なダメージは大きいが、魔力はまだ豊富に残っているようだ。神獣の魔力切れまで避け続けるというのは現実的ではない。マシロほどの回避能力があればそれも可能かもしれないが、クロはムラサキと協力してどうにか凌いでいる状態だ。長くはもたない。


 ・・・あと一手、何か必要だ。何かないか?


 クロは手持ちの武器を確認する。愛剣の「黒嘴」は神獣に刺さっている。「鳥頸」は魔力の消耗が激しすぎる。再使用はできない。「五寸釘」があるが、これは「黒嘴」ほど魔力を込めているわけではない。投げた瞬間敵に操られて、逆にこちらが不利になる可能性が高い。

 手持ちの武器では打開できないと考え、クロは周囲に目を配る。そこで、あるものを見つけて、打開策がひらめいた。

 しかしそれを実行するには魔力が足りない。『ヴェンデッタ』の効果が低下している今、魔法回復力は消耗と釣り合っていて、回復が見込めない。緊急の回復方法はあるが、ちょっとしたリスクがあった。


 ・・・でもまあ、いいか。


 クロはそのちょっとしたリスクを無視することにした。それを、ムラサキに事前に断っておく。


「なあ、ムラサキ。」

「なんだ?突破口が見えたか?」

「ああ。ただ・・・あとで一緒に真白に怒られてくれるか?」

「は?」


ーーーーーーーーーーーー


 神獣に焦りはなかった。しかし、驚いていた。

 神獣が神から与えられた力は、まさしくクロを倒すための物。

 クロは確かに強い。今までの戦績を見れば、それはわかる。しかし、よくよく観察すれば、意外と手札が少ないことがわかる。強靭な肉体と頑丈な武器、そして金属操作。戦闘に使える能力はこれだけだ。

 こうも手札が少ないのは、偏に神々からかけられている魔法禁止の呪いによるものに他ならない。普通、魔法が使える者なら、例え1属性特化の適性でも、様々な魔法があり、いろんな攻撃手段が持てる。もちろん、1つの魔法を使いこむことで性能が上がる特性がある以上、普通の魔法使いも戦場で使う魔法が偏るものだが、いざその得意魔法が封じられた時、他の手段があるのとないのでは大きく違う。

 したがって、空を飛ぶことで直接攻撃を封じ、『レールガン』で金属操作を封じれば、神獣はクロに余裕で勝てるはずだった。

 ところが、実際は苦戦を強いられ、五分の戦いになっている。

 クロは『レールガン』で主導権を奪われない剣「黒嘴」を用いて、上空の神獣にダメージを与え、ムラサキの助力を得て神獣と同じ高さまで登って来ている。神獣が用意した、いや、雷の神が用意したアドバンテージを見事に潰して来た。

 そのことに神獣は素直に感心する。


 ・・・見事!だが、まだ負けてやるわけにはいかん!


 神獣の目には、クロの残り少ない魔力が見えている。同時に、自身の再生能力の限界も自覚している。次の一撃を入れた方が勝つ。それは明白だった。

 現状は、神獣が有利。弾幕を張り続ける限り、クロは近づけない。そして、クロの回避も完璧ではない。ムラサキがどうにかフォローしているが、当たるのは時間の問題だ。

 そこで、クロに動きがあった。回避し続けているので、当然、ずっと動いているのだが、神獣の目にはクロがムラサキと何か話しているのが見て取れた。


 ・・・何か策を思いついたか。いいだろう、打ち破ってくれる!


 神獣は今までクロを観察し続けた過程で読唇術を身に付けていた。故に今のクロとムラサキの会話も把握できたのだが、クロはそのことを知ってか知らずか、作戦の具体的な内容には言及しなかった。

 そこは神獣にとって意外だったが、クロの残り少ない魔力を見れば、大したことができないのはわかる。それに対して自分の魔力は十分余裕がある。何が来ても捻じ伏せる自信があった。

 ところが、次の瞬間、神獣は驚愕する。


 ・・・何!?魔力が急に増えた!?


 突然、クロの魔力残量が回復したのだ。量としては大したことはない。大規模な魔法の行使ができるような量ではない。だが、何か策を持っているならば話は別だ。神獣は警戒する。

 警戒し、よく観察すれば、回復した魔力は純粋なクロの魔力ではないことが見て取れた。


 ・・・あれは、冬の前にあの川での戦闘で用いた力か。しかし、あの時のような莫大な魔力を得ることはできていない。今まで使用しなかった理由もわからぬ。使用条件が厳しいのか?わからんが、今重要なのは理由よりも結果だ。あの魔力で何をする気か。


 神獣はクロを観察していたが、全てを見ていたわけでもない。クロの新型復讐魔法の存在は知っていたが、その使用条件等は知らなかった。もし戦闘開始時にこれを使われたら逃げようと考えていた程度だ。しかしクロはここまで新型を使わなかったので、何らかの理由で今は使えないのだと思っていた。

 観察していると、クロが急に神獣とは別方向へ跳んだ。向かう先には黒い大木。


 ・・・あの木に何かあるのか?ただの木でないことは一目でわかるが、何をするつもりなのか。


 神獣はムラサキの前に初めて姿を現してから今まで、鍛えるためにクロの監視から離れていた。そのため、「炭の大樹」を知らなかった。


「その木が何かは知らんが、させぬぞ!『ライトニング』!」


 木に住んでいたスイーパー達が避難済みなのは神獣もクロも確認している。神獣は容赦なく木に雷を落とした。木に向かっていたクロは側撃雷を受けるギリギリのところで止まった。

 雷が落ちた黒い木は、裂けたり燃えたりはしなかったが、パチパチと帯電している。これでは近づくことすら危険だ。

 それを確認した神獣がクロに追撃を放ちつつ勝ち誇って言う。


「残念だったな。その木は使えぬぞ。」

「いや、使えるさ。」


 対してクロは淡々と答え、木に魔力を送った。


「何!?木魔法は使えぬはず!」

「木魔法じゃないさ。オリジナル魔法だ。」


 クロはマシロほど上手くはないが、炭素を操作できる。したがって、クロにも「炭の大樹」を操ることは可能だった。

 クロのオリジナル魔法を金属操作だと思っていた神獣は驚く。飛ばそうとしていた槍を手元に集め、どんな攻撃が来ても対処できるように防御の構えをとった。


 ・・・金属以外も操れるとは、不覚を取ったが、耐えきって見せよう!さあ来い!


 神獣が覚悟を決めた瞬間、木がざわめき、葉が落ちた。

 黒い葉が無数にひらひらと舞い、地面に落ちて行った。


「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・おい、クロ。マシロみたいにあの葉っぱを刃物みたいにして飛ばすんじゃないのか?」

「・・・俺にそんな器用なこと、できるわけないだろ。」

「・・・・・・」

「・・・・・・」


 間。ほんの数秒、沈黙が流れた。起死回生の策かと思いきや、失敗。葉が落ちただけ。


「どんな策かと思えば、失望させてくれる!」


 神獣は失望の怒りを込めて、槍を放つ。先程までクロの戦いぶりに感心していた分、落胆も大きかった。

 最高速度で10本以上の槍がクロに迫るのを神獣が見ていると、急に視界が黒く染まった。


「な、なんだ!?」


 突然奪われた視界に、神獣は驚く。暗いのではない。黒い。そしてなぜか魔力視も機能しない。

 混乱する神獣に、何かの塊がぶつかった。


「ぐっ!」


 ムラサキの『エアテイル』に殴られたのだ。窒素を固めた『エアテイル』で殴られれば、普通の生物ならそのまま窒息で気絶させることが可能だが、神獣は魔族になっている。呼吸ができなくなっただけでは気絶しない。

 逆に、今の衝撃で冷静さを取り戻せた。今、飛んできた『エアテイル』の通り道だけ、視界を染める黒色が開けたのだ。それで神獣は現状を理解できた。


「これは、先程落とした黒い葉か!」


 クロがさっき魔法で落とした葉っぱが、無数に神獣の周りを舞っていた。

 神獣は大きい。体長だけで人間ほどもあり、翼を広げれば4mを超える。この巨躯を浮かせるには、翼の羽ばたきだけでは足りない。風魔法が必須となる。

 神獣は、下方から強力な上昇気流を起こすことで体を浮かせていた。「黒嘴」という重量物が刺さっていたため、その上昇気流は普段よりも強く吹いていた。それが、地面に落ちようとした無数の葉っぱを巻き上げ、神獣のもとに流れて来たのだ。

 さらに、この黒い葉っぱはマシロとクロの魔力が込められているため、魔力視で透視できない。また、炭素繊維でできたこの葉は電気を通す。導電体が周囲を舞っていては、神獣が後方の索敵を補うために使用している電波による探知もうまくいかない。


 ・・・たった一手で我が探知能力を封じるとは!


「だが、まだまだ!『サンダーボルト』!」


 探知能力が機能しない現状では、クロがどこから来るかわからない。ならば、と神獣は全方位に全力の放電を行った。


ーーーーーーーーーーーー


 強烈な電撃を受けた葉っぱが次々と燃える。炎の竜巻となった中で、クロは、神獣の頭上にいた。

 神獣の反撃を予想していたクロは、ムラサキを遠方に置いて、一人突撃していた。

 ムラサキが神獣の前方から牽制し、その隙に頭上から攻撃するつもりだったが、全方位への電撃により、大きなダメージを負った。

 覚悟していたとはいえ、神獣の全力は半端な威力ではない。皮膚を貫き、チタン骨格に電流が流れ、脳も内臓も焼けていた。

 当然、意識が飛ぶ。そして、


「『呪い人形』」


 電撃で内から、葉が燃えて生じた炎の竜巻で外から、二重に焼かれて尚、『呪い人形』はクロの体を動かし、別人格を呼び起こした。

 炎に巻かれたまま、重力に任せて神獣へと落下する。

 そして神獣に手が届こうかという時に、神獣がクロに気付いた。


「上か!」


 神獣は反撃よりも回避を選択。羽ばたいて落下してくるクロを回避しようとした。

 しかしクロはそれを逃さない。


「どこへ行くんだ?」

「うごっ!」


 「黒嘴」を手元に戻す魔法を使った。距離がある状態でこれを使えば、神獣が「黒嘴」を抜いてしまい、その重量で神獣の動きを縛っている効果がなくなってしまうため、今まで使わなかった。しかしこの距離なら、抜ける前に引き寄せられる。

 引き寄せた「黒嘴」をクロはしっかりと掴み、神獣の背に乗る。クロの体重は重く、当然神獣は落下を始める。


「ぐおお!落ちる!放せ!」

「放すかよ!」


 神獣は必死に電撃を行うが、クロはまったく効いた様子がない。電撃と熱で全身がボロボロどころか、筋肉まで焼けて動けるはずがないのに、がっちりと掴んで放さない。手で剣を掴み、足で神獣の翼を抑え込む。

 そしてそのまま、地面に轟音を立てて落下した。


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