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選べるなら、人間以外で  作者: 黒烏
第3章 黄色の鳶
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126 黒と黄の戦い①

 クロは上空を飛ぶ猛禽を見据える。雷の神獣が飛んでいる高さは目測で100m。その高さを悠々と円を描いて滑空している。

 上空から、声が響いてくる。叫んでいる様子はないので、魔法で声を飛ばしているのだろう。風適性が高いのは間違いない。


「さて、約束通り、鍛えて戻って来た。闇の神子クロよ。貴殿を倒せるだけの実力をつけてな。」

「雷の神獣で間違いないな?」


 クロは普通の音量で返答したが、神獣はそれをしっかり魔法で拾ったようだ。


「いかにも。雷の神から力を授かった。その対価として、貴殿と戦う者である。」

「・・・・・・」


 力を得た対価として、神の指示を聞く。これまでの歴史で神獣が神の指示通りに動く理由については諸説あったが、今まで確認はできなかった。

 何しろ、大半の神獣は道を誤った神子を粛清するために派遣されるため、神獣が現れるとすぐに神子との戦闘になり、意思疎通などできなかったからだ。

 しかし、ここでその理由が明らかになった。獣からすれば、力を得ることは何にも勝る利益。力があれば、自分や同族の命を守れる。生存と種の保存が至上命題である獣にとって、これ以上に欲するものはないだろう。対価としてヒト1人狩るくらい、安いものだと受け入れるに違いない。もっとも、その狩る対象である神子は、決して容易く狩れるものではないが。

 もちろん、神獣すべてが神の指示に従うわけではない。歴史を見れば、神子を無視して暴れ回った神獣もいたし、先に現れたキュウビは積極的に攻撃してきたわけではない。力を授かったことに恩を感じこそすれ、そこは獣。必ず約束を守るとは言えない。

 それを鑑みれば、今クロが相対する雷の神獣は異様だった。力を授かった恩に報いようとするのは普通の神獣と変わらないが、標的であるクロを決して侮らず、よく分析し、果てはクロに勝てるように鍛えてすらいる。本当に獣かと思うほどだ。人間でもここまで勤勉な者は珍しいのではないだろうか。

 クロはその勤勉さに感心し、尋ねる。


「名前は?」

「生憎、名はない。貴殿を倒せば野に帰る身だ。必要も無かろう。」

「・・・そうか。」


 まったく驚くべきことである。力を得たというのに、欲がない。野で生きるだけならば、神獣となった時点で十分だ。敵う獣など存在しない。

 山奥で生活すればヒトとの接触はまずない。仮に狩人に見つかったとしても、キュウビと違って彼は飛んで逃げることができる。必ずしも撃退は必須ではない。

 つまり、彼はクロを倒すためだけに鍛えたのだ。何の打算もなく、ただ、神への恩義を返すためだけに。


 ・・・できることなら、仲間に引き入れたい。あの勤勉さは欲しい。が、だからこそ、戦いは避けられないだろうな。


「ところでクロよ。我は一騎打ちを所望するが、どうかな?」

「さっき不意打ちしといて、よく言うな。」

「それは非礼を詫びよう。しかし我とて、彼女を見殺しにするわけにもいかん。仮にも同盟者故。」

「お前も魔族だろう?あの魔族への復讐者が魔族と手を組むなんて滑稽だな。」


 雷の神獣は、魔族を喰って魔族化している。今、喋っているのもそのためだ。


「なに、それは彼女が合理主義者であるだけだ。彼女の目的は可能な限りこの世界から魔族を減らすこと。であれば、狩れる者から狩るのが道理、というわけだ。」

「・・・なるほど。」


 つまり、フロウレンスは雷の神獣を倒せないと判断したわけだ。あの、魔族を狩ることに人生をかけた実力者が、この神獣相手では手も足も出ないと諦めた。その事実が、神獣の力のほどを表している。

 クロが緊張感を増しているところに、ムラサキがやって来た。いつの間にか回復して起きていたらしい。


「クロ!これが必要だろ!」


 そう言ってムラサキは『エアテイル』でクロの盾を投げてよこした。クロはそれを受け取る。


「ああ。助かる。」

「準備は整ったか?では返答を聞こう。一騎打ちでよろしいか?」

「・・・わかった。受けよう。ムラサキは家に戻ってろ。多少は雷にも耐えられるはずだ。」

「なっ!1人で戦う気かよ!」

「では始めるぞ!覚悟せよ!『サンダーボルト』!」


 クロから10mほど離れていたムラサキが、一騎打ちに異を唱えようとしたが、雷の神獣は聞く耳を持たずに第一撃を放った。

 上空から覆い被さるように降り注ぐ魔力。半径数mにも及ぶ巨大な魔力の塊がクロを覆った。

 まるで物理的な圧力を感じそうになるほどの強大な魔力だが、クロは一瞬の迷いもなくその塊から離脱する。クロが塊から抜けた直後、特大の雷が地面を焼いた。大地が地震のように揺れる。先程、フロウレンスを逃がすために落とした雷は、本当に挨拶程度の威力だったと痛感した。

 何とか回避したクロがムラサキに叫ぶ。


「見ただろ!ムラサキ!お前じゃあんなの、掠っただけでお陀仏だ!下がってろ!」

「くそっ!わかったよ!死ぬなよ、クロ!」


 悔しそうに怒鳴りながら、ムラサキは家へと駆けだす。クロはそれを見る事も無く、上空の神獣に目をやった。


「まずは見事。最低でもこれくらいは躱してくれねば、我が鍛えてきた意味がない。」

「・・・・・・」


 クロにはもう喋る余裕がない。先程の回避は本当にギリギリだった。攻撃が雷である以上、大きく回避しなければ、直撃せずとも感電の恐れがある。ダメージ自体はクロの再生力をすれば問題ないが、痺れによる行動阻害が厄介だ。最悪、一撃貰ったらそのまま動けずに死ぬまで雷を落とされ続ける可能性すらある。

 今の雷を回避できたのは、偏に鍛錬の賜物だった。最近、鍛錬にムラサキが参加するようになり、対魔法攻撃の訓練ができるようになっていたのだ。

 魔力を飛ばすのが苦手なマシロでは、近接戦闘の訓練しかできない。しかし、ムラサキが加わったことで、魔法攻撃の回避なども練習できるようになっていた。コツは、とにかく敵の魔力が飛んで来たら避けること。

 魔力自体は光速に近い速度で飛んでくるので回避できないが、指定位置に魔力が到着してから発動までには、腕の立つ魔法使いでも数秒かかる。その間に飛んできた魔力から離れれば、少なくとも直撃は免れる。

 そのためクロは、ムラサキに相手をしてもらって、とにかく魔力が飛んで来たら反射的に回避できるように訓練した。拳大から人ひとり包める大きさまで様々な魔力の塊を飛ばしてもらい、それをひたすら回避する訓練だ。瞬時に魔力塊の大きさを見切って、必要な距離だけ移動して回避する。それができるまでに血の滲むような訓練を要した。

 それが今、功を奏した。雷の神獣が魔力を飛ばしてから発動まで、実に1~2秒。一瞬でも反応が遅れていたら、回避しきれなかっただろう。


「さあ、次だ。これはどうかな?」


 まるで試すように神獣が次の魔力を飛ばしてくる。今度は小さい。ヒトの頭くらいの魔力が配置された。ただし、クロを囲むように、10個ほど。

 クロは素早く周囲を見渡し、斜め前方に転がった。直後、轟音と閃光と共に幾本もの稲妻が縦に横に走る。クロはその隙間に何とか入ることができた。


「すばらしい!鍛えていたのは我だけではなかったようだ。」


 神獣の賞賛の声にも、返事をする余裕がない。またしてもギリギリ。

 雷魔法には魔力を対象に当てずとも攻撃できる特性がある。『サンダーボルト』は、指定位置の電位を変化させる魔法であるから、2カ所に魔法を送り、一方をプラス、もう一方をマイナスにすることで、その間に電流を流すことができる。つまり、対象に魔力を直接当てずとも、魔力塊で挟めば攻撃できるのだ。

 これは回避する側からすれば厄介極まりない。自分に直接何かが飛んで来たら、反射的に回避もできるが、こうされると反射的には対処できない。魔力塊の位置を見て、電流が走る線を予測し、その線から離れる。どうしてもその思考に時間を要する。

 クロはこれもまた訓練でその思考時間を可能な限り短縮していた。だが、やはり反射的な回避よりはどうしても遅れる。今はたまたま近くに線が通らない空白地帯があったからよかったが、必ずあるとは限らない。これを連射されれば、いつかは躱しきれなくなる。

 そんなクロの懸念を察してか、神獣は更なる攻撃を仕掛ける。


「さあ、追加だ。『サンダーボルト』!」


 再度、クロの周囲に魔力が配置される。今度は15。素早く見渡すが、把握しきれない。やむを得ず、把握できた分だけで割り出した空白地帯に駆け込み、伏せる。

 轟音と閃光。どうにか回避できたようだ。


 ・・・今のは運が良かっただけだ。これじゃいつか当たる!反撃しなければ。だが・・・


 クロは上空を見上げる。神獣が飛ぶ高さは約100m。武器を魔法で飛ばせば届かない事も無いが、まず間違いなく回避される。


 ・・・当てるには布石が必要だ。どうにかして隙を作らなければ。


 クロは攻撃方法を思案するが、敵は待ってくれない。

 今度は宣言もなく、20個の魔力が配置された。すぐに見渡し、そして今度は近くに避ける場所がないとわかった。


「やべ・・・」


 クロが思わず漏らした声は、雷撃の轟音にかき消された。


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