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選べるなら、人間以外で  作者: 黒烏
第3章 黄色の鳶
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122 復讐の少女

クロsideで再開です。

 マシロ達が戦場へ向かって5日ほど経ったが、クロ達の生活は平和そのものだった。ただ1つ、買い物に出かけた際にスイーパー達に何かがあったことだけは気になっていたものの、特に何もなかった。

 そんな平和な日の昼、森の中のクロの家に、1つの人影が近づいて来ていた。


ーーーーーーーーーーーー


 ・・・さて、先日の訪問の時は空振りだったが、今日はいるかのぉ。


 東大陸から遥々やって来た森人フロウレンスは、フレアネス王国の王都に潜伏していた魔族を暗殺した後、クロを狙って活動していた。

 フロウレンスは木魔法に長けた森人の中でもトップクラスの木魔法使いとして多くの森人を教え導く長老だが、ある事情から魔族に深い恨みを持っており、魔族が現れたという情報を聞けば、仕事や弟子を放り出してでも狩りに出向いていた。

 今回もクロの存在を聞き、ここまでやって来ていた。もちろん、公に魔族を殺しに行くとは言えないので、表向きはカイ連邦にいる森人に会いに行くということにしている。王都に潜伏した3人を殺したのはついでだ。

 数日前、フロウレンスは準備を整えてクロの家を訪ねたが、ちょうどクロもムラサキも買い物に出ていて、留守だった。いたのはスイーパーだけ。やむなく出直したのだった。


 フロウレンスは森に入り、切り拓かれた道を抜け、クロの家がある荒れ地に入る。すると、すぐに「カアカア」とスイーパー達が鳴き始める。


 ・・・相変わらず喧しい鳥たちじゃ。ウチの森のスイーパー達はもっと美しい声で囀るものじゃが。


 ここのスイーパー達はクロとの協定で、ここに接近する見知らぬものや獣を見つけたら、クロに伝えるようにしているので、近づく人影には野生の者より敏感だ。しかしフロウレンスはそんな事情は知らない。まさかクロが魔獣と協力関係にあるなど考えもしない。

 フロウレンスが逸る気持ちを抑えて、できるだけ自然に歩いて家に近づく。すると、家の前で椅子と机を出してくつろぐ男が見えた。


 ・・・あやつか。


 クロは読書中だったが、スイーパー達の警戒の声を聞いて、すでに読書を中断していた。傍らには「黒嘴」が立てかけてあり、すぐに戦闘態勢に入れる。


 ・・・武器を傍らに置くとは、用心深い奴じゃ。やはりいつもの手口で行くか。


 フロウレンスは殺気を表に出さないようにしながらそっと近づく。対するクロは、まだだいぶ距離があるうちに声をかけて来た。


「何の用だ?」

「あの、道に迷ってしまって。」

「迷って来るような場所じゃないんだけどな。」


 確かにクロの家は、危険地帯である魔獣の森の中にあり、どの街道とも離れている。

 少し戸惑いつつも、フロウレンスはフードを取りながら言葉を続ける。緑がかったセミロングの黒髪と大きめの耳がフードの下から現れた。


「カイ連邦に行きたかったのですが、道がわからず、とりあえず西に進んだのです。しかし、大きな山脈に阻まれてしまって・・・」

「エルフ?」

「え、はい。森人です。異世界人の方にはそう呼ばれることもあります。」


 大きく尖り気味の耳は、ファンタジーに出て来るエルフの特徴に似ている。森人を見てそう呼ぶ異世界人は多いかもしれない。


「私たち森人は、平地より森の方が馴染みがあるので、いっそ山脈を迂回するより、森を抜けて西へ進む道がないものかと思って森に入ってみたのですが・・・」

「まあ、そんな簡単に西側へ抜けられる道はないな。」


 アイビス山脈はここから大陸南端まで伸びている。ここから西に行くには、一旦北上する必要がある。


「やはり、道はないのですか?」

「そうだな。大昔に冒険家が山の洞窟を抜けたって話もあるが、確認していないし、山まで行くのも危険だ。大人しく街道に戻って北に行った方がいい。」

「そうですか・・・」


 ここで一旦、間が空く。フロウレンスはクロの言葉を待ったのだが、クロは話しかけるどころか、目を合わせようともしない。数秒後、しまいには本に手を伸ばした。


 ・・・ここで読書を再開!?なんと薄情な奴じゃ!せめて心配する声くらいかけんかい!


 フロウレンスの容姿は幼い少女にしか見えない。実年齢は100歳を超えているのだが、傍から見ればいたいけな少女だ。

 普通、こんな少女が一人旅などしていれば、声くらいかけるだろう。街まで送ってくれても不自然ではない。

 フロウレンスはそうやって相手を油断させたところを襲うのがいつもの手口だった。今回もクロが心配して「街まで送ろう」とか言ってくればしめた物だったが、そんな様子はない。


 ・・・仕方ない。少し誘導するか。


「あの・・・」

「何だ?」

「えっと、ちょっと心配で・・・さっきも言った通り、道がわからなくて・・・」

「来た道を戻って、王都で聞けばいい。まっすぐ森を抜ければそう危険はない。」

「・・・でも、少し疲れてしまって・・・」

「・・・・・・」


 クロは本を閉じて、ようやくフロウレンスに目を合わせた。途端にフロウレンスは全身が総毛立つような感覚を覚える。


 ・・・こいつ!これは魔眼か!?このワシに『フォース・フィアー』を通すとは、なかなかに強力!目を合わせなかったのはこのためか!


 魔眼とは極稀に存在する特殊能力だ。目を合わせただけで無詠唱で特定の魔法が発動する。偶然の産物とも神が与えた力だとも言われている。

 しかし、基本的に制御が難しく、目が合えば無差別に発動してしまう者が多い。

 フロウレンスが内から湧き上がる死の恐怖に抗っていると、家の方から暗い紫色の猫が出て来た。


「クロ、あんまり見つめてやるなよ。お前の目、恐いんだから。そんな小さい子にやったら苛めだぞ。」

「ああ、そうだった。すまんな。」

「い、いえ。」


 フロウレンスはクロの視線が外れてふぅと息を吐く。そして同時に現れた猫に少々驚いていた。


 ・・・あれは魔獣ではない。こやつも魔族か!猫に化けている、というよりは、猫が魔族になったのか。そんな事例もあるとは・・・だが、魔族であることに変わりはない。こやつも滅ぼす。


 そんな決意を固めているうちに、クロが視線を外しながら立ち上がる。剣を手に取ったので、フロウレンスは少し警戒したが、反対の手で本も持ったので、戦うわけではないとわかった。


「じゃあ、うちで少し休んでいくか?」

「「え?」」


 戸惑いの声を上げたのは、フロウレンスだけでなく、ムラサキもだ。


「疲れてるんだろ?」

「あ、はい。ありがとうございます。」


 フロウレンスが答えるとすぐに、クロは家に入る。ムラサキもついて行き、フロウレンスも後を追った。


 ・・・よしよし。室内に入ればこっちのものじゃ。後は間合いまで近づけば、The endじゃ。


 そんなことを考えて内心ほくそ笑みながら家に入るフロウレンスの耳に、先に行くクロ達の会話が聞こえて来る。


「お前が見ず知らずの奴を家に入れるなんて珍しいな。」

「まあな。」

「知り合い?」

「まさか。森人自体初めて見た。」

「じゃ、なんで?」

「・・・・・・」


 クロはムラサキの質問に答えず、チラリとフロウレンスを見た。また目が合って、フロウレンスはまた恐怖がこみ上げてくるが、今度はだいぶ抑えられた。伊達に長生きはしていない。


 ・・・よし。魔眼にも慣れて来たぞ。奴がワシを招き入れる理由はわからんが、構うものか。どんな策があろうと、ワシを上回ることはない。一撃で決着をつける!


 決意新たにフロウレンスは玄関を通る。


「お邪魔します・・・え?」


 玄関に入ったフロウレンスが見たのは、意外な光景。ムラサキは足を洗い、クロは靴を脱いでいた。


「どうした?」

「ああ、家ん中で靴脱ぐのが珍しいんだろ。」

「あー、そうか。一般的じゃなかったんだったな。ま、悪いが、ウチに入る以上は合わせてくれ。」

「は、はい・・・」


 ・・・こ、こやつ!靴を脱いでは、万が一の撤退の際に逃げにくくなってしまうではないか!まさか、これは罠か!?いやいや、そうだとしても、こやつらをまとめて仕留めれば済む話よ!


 内心の動揺を顔に出さないようにしながら、フロウレンスは靴を脱いで客間に入る。


「すぐに茶を出すから、そこのソファーで寛いでくれ。ムラサキ、頼む。」

「はいよ。」

「ありがとうございます。」


 フロウレンスは勧められたソファーに座り、クロは机を挟んだ対面のソファーに座った。


 ・・・くっ、遠いな。机がもう少し小さければ、ぎりぎり間合いに入るのじゃが。


 一瞬、フロウレンスは忌々しそうに机を睨むが、クロの視線に気づいてすぐに笑顔を作る。時に初対面でも男を篭絡できる自慢の笑顔であるが、クロには何ら反応がない。


 ・・・ちっ、反応なしか。とりあえず、機を待つか。


ーーーーーーーーーーーー


 客間でフロウレンスと向き合い、彼女を観察するクロは、彼女が押し隠している本質を察していた。


 ・・・さっき一瞬見せた顔。目を合わせたときにも感じたが、やはり同類のような気がする。こいつも、本性を隠して復讐の機会をうかがう復讐者だ。面白そうなら、協力してもいいが、どう話させたものか。


 クロにしては珍しく、ヒトに興味を抱いていた。同類の匂いを感じ取ったせいだろう。しかし、フロウレンスの復讐の相手がクロだとは気づいていない。

 そもそもクロは口下手だ。脅すことなく話を引き出すのはあまり得意ではない。

 結局、しばらくの沈黙の後、何気ない会話を交わす。


「あの、お名前は?」

「俺はクロ。あいつはムラサキだ。どっちも魔族。噂とか聞いてないか?」

「・・・いえ。・・・魔族、ですか。」


 フロウレンスの返答は少し遅れた。マシロであれば、彼女が嘘をついたことを即座に見抜いただろうが、マシロは不在だ。

 クロも魔族と聞いても恐がったり驚いたりしないフロウレンスを少し怪しんだものの、森人はあまり魔族を嫌悪していない可能性もあるし、自分と同じ復讐者なら大したことでは驚かないだろうと考えてスルーした。


「あんたは?」

「私は、フラウ、と申します。」


 フロウレンスの名は、一部の魔族に知られているからだろう。フロウレンスは偽名を名乗った。


「ふうん。カイ連邦まで何をしに?」

「同族があちらにもいるのです。これでも私は里の重役の娘でして、代表として様子を見に行くんです。」


 本当はフロウレンス本人が重役だが、重役の娘、というのも嘘ではない。とっくに他界しているが、確かに彼女の親も重役だった。


「へえ。」


 表向きはクロは興味なさそうに答えるが、内心は彼女の事情を推測する。


 ・・・視察なら複数で行きそうなもんだ。となると、やはり目的は復讐か。その、カイ連邦にいる同族か、その付近の誰かか。


 そこで会話が途切れ、また沈黙が続く。


ーーーーーーーーーーーー


 ・・・こやつ、何を探っておる?もしや、ばれたか?


 クロが興味なさそうなふりをしつつ、何かを探って来ているのはフロウレンスにも察せられた。

 もしフロウレンスがクロ達を狙ってきたことがバレたのであれば、できるだけ早く行動に移さねばならない。

 そこへ、獣人形態になったムラサキがリビングからお茶を運んできた。


「はいよ、お待たせ。」

「お、悪いなムラサキ。」

「せっかくだから客用の茶葉使ったぞ。」

「・・・文句も言わずに茶を淹れてくれたのは、それが狙いか。」

「あったり~。」


 クロの視線はムラサキに向き、フロウレンスを見ていない。ムラサキもクロを見ながら、机にお茶を並べようとしている。クロとフロウレンスのちょうど中間の位置だ。


 ・・・好機!


 瞬間、フロウレンスは袖口から素早くメスを取り出し、ムラサキに投げつけた。


「いでっ!」

「ムラサキ!?」


 ムラサキの左腕にメスが突き刺さる。持っていた紅茶が机にこぼれた。

 それに驚いたクロが、傍らの剣を手に立ち上がろうとした。机に手をついて。

 そのクロの手にも、メスが突き刺さる。机を挟んで座っていれば間合いの外だったが、机についた手は、ぎりぎり間合いの中だった。

 フロウレンスの間合いとは、魔族の反射速度でも回避できない速度でメスを投げて当てられる距離のことだ。クロの方は距離的にギリギリだったが、ムラサキに気を取られていたために避け切れなかった。

 フロウレンスは演技を止め、ニヤリと邪悪な笑みを浮かべる。


「せっかくの良い茶を台無しにしてすまんな。だが、ここで滅びるがいい、魔族ども!」


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