A4 とある平凡な異世界人の孤独な日記④
2~3週ほど外伝Aを進めます。
前の外伝Aもそうでしたが、こちらは一人称、アカリ視点です。
さて、もし誰かが私のこの日記を読んでくれている人がいるのならば、大変申し訳ないが、一気に時間を進めてしまいたい。
ここまで私が転生してからの2日間を書いた。日記ならば、このまま1日1日を書いていくべきなのだろうが、残念ながら、私に残された時間が有限である可能性が高いことを考慮すると、結論を先に書いておくべきだと思ったからだ。
そもそも思い出しながら書いているこれが日記と呼べるかすら怪しいのだから、勘弁してもらいたい。
なぜ有限かもしれないかについては、この日記の最後を読んでくれれば自ずとわかるだろう。ともかく、途中で私が倒れ、「この先は何も書かれていない」という終わりにはしたくない。
では、まず事の起こりから書こう。あれは今から1年半前の話だ。
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転生から半年。私はその間、ずっと運送会社に勤めていた。
固有魔法『ガレージ』で荷物を安全確実に運ぶ仕事ぶりをお客さんから褒められて嬉しかったとか、お客さんに喜んでもらえるのが意外とやりがいを感じたとか、逆に理不尽なことを言う客がいたとか、いろいろあったけれど、基本的に私は平和に過ごしていた。
それは冬の出来事。この世界の暦で1001年の12月だ。
私は同僚のフェイと雪上船に乗っていた。雪上船はヨットのような形で、言ってしまえば大きな帆が付いた大型のそりだ。地上では海上のような風は常に吹いているわけではないから、風魔法があることを前提とした乗り物である。
と言っても、人や荷物が乗った大きなそりを風で動かすとなれば、結構な強風が必要だ。しかも大抵、雪上船は長距離移動に使う。強い風を長時間吹かせるとなれば、結構な魔力が必要になる。
フェイはウチの運送屋の中で特に風適性が高いため、雪上船担当になっていた。水色の髪は、風属性特化の適性を持っている証だという。こういう単属性特化の適性持ちは、複数属性を持つ者よりずっと効率よくその属性の魔法を使えるらしい。
しかし、雪上船は実は人気がない乗り物だ。理由は、海と違って地上、雪の上は、凹凸が多い。速度を出せば事故が頻発し、ひっくり返ることも珍しくない。フェイも去年までだいぶ苦労したらしい。でも、今は私がいる。
「アカリのおかげで楽になったなあ。まっすぐ進むだけでいいんだからな。」
そう。私は全属性適性があり、そのおかげで雪や氷が操れるのだ。雪や氷を操作するには水と土の適性が必要で、氷を作るとなるとさらに炎適性まで必要だ。これが結構珍しいそうで、氷魔法使いは重宝される。
私は冬に入ってから2か月間練習し、雪をかき分けて道を作る『スノーロード』を使えるようになった。ただ使うだけなら教会で登録すればすぐに使えるのだが、フェイが操る雪上船の速度に合わせた速度で道を作れるようになるのに時間がかかった。
「役に立ててるならよかったよ。でも、すぐばてちゃうから、もうちょっと進んだら休憩お願い。」
「わかってるって。」
魔法を使うのにも慣れて、各制御力が向上してきた私だが、ベースが平均値なので、それほど魔力容量があるわけではない。
『スノーロード』による道の作成は速くなったが、これは魔法操作力が向上したことより、1つの魔法を使いこんだことによる効率の向上によるところが大きい。
特定の魔法を使いこむと、無意識下でその魔法の仕組みの理解が進み、効率化されるそうだ。戦場で戦う兵士も、自分のスタイルに合ったいくつかの魔法を繰り返し使用するらしい。そういう意味では、私のような色々できる全属性より、1つの属性に特化したフェイのような魔法使いの方が実戦的なのだろう。
もっとも、フェイは荒事が苦手で、魔法使いとして優秀でありながら、軍には行かなかったそうだが。
しばらく進んだところで私の魔力が減って来たので、休憩に入る。見晴らしがいい場所へと雪上船を操り、止める。
こんな冬でも、森や林では獣や魔獣が活動している。見通しがいい場所で警戒しなければならない。
「はい、コーヒー。」
「お、サンキュ。」
私は『ウォーター』で出した水を『ヒート』で温め、『ガレージ』から取り出したコーヒーを淹れた。手ぶらの状態から野外ですぐにコーヒーが淹れられるのだから、魔法は本当に便利だ。
「積み荷も『ガレージ』で運べるんだから、アカリ様様だな!」
「あんまり持ち上げないでよ、もう。」
以前は凹凸に注意しながら、さらにたくさんの荷物を積んでいたから、雪上船はろくに速度が出せなかったらしい。
今は朝出れば夕方には隣町に着けるが、以前は途中で1,2回野営が必要だったらしい。そうなれば野盗や獣対策に傭兵を雇う必要も出てきて、費用が馬鹿にならなかったという。
・・・私、前世よりずっと人の役に立ててるんじゃない?転生して、よかったかも。
表向きには謙遜しつつも、私は舞い上がていた。転生する直前にあったひどいことなど忘れて、幸せそのものだった。
「ついでに天気も操れれば最高だな!」
「無茶言わないでよ。」
「冗談だって。今でも十分ありがたいさ。」
天候を操る魔法は、風属性+水属性だ。雪を操るならさらに土属性。確かに私には適性があるけれど、天候という大規模なものを操作するには適性の高さが足りない。適性があるとはいえ、その高さはどれも平均値なのだ。ちなみにそれができる魔法使いは風水魔導士と呼ばれ、国のお抱え魔法使いになって優遇されているそうだ。
この半年で、私は比較的歳が近いフェイと冗談を言い合う程度には仲良くなっていた。だからだろうか。雑談の間に、急にフェイが真剣な顔をして話を切り出した。
「ところで、アカリさ・・・大事な話があるんだ。」
「へっ!?」
唐突な「大事な話」に私は緊張する。
・・・こんな真面目な顔で「大事な話」って、ま、ま、まさか・・・いやいや、前世でまったくモテなかった私に、そんなことあるわけががが。
「実は・・・俺・・・」
「う、うん。」
・・・めっちゃドキドキする!何これ!?ああ、もう、いっそ早く言っちゃって!あ、いや、やっぱり、待って!いや、でも・・・
内心大混乱している私を余所に、フェイは目を泳がせた後、決意した目で私を見た。
・・・く、来る!
「俺、独立しようと思うんだ。」
「・・・えっ?」
予想と違った言葉に、また別種の混乱に陥る私。
「驚くのも無理ない。俺みたいな若造に新しい会社なんてできるのか、と思うだろう。でも、俺には夢があるんだ!」
「アッハイ。」
熱く語り始めるフェイの言葉を、混乱したままの頭でなんとか聞く。
・・・落ち込んでなんかない。別に期待してなかったし。期待なんかしてなかったし!
そんな叫びを内心で上げつつ、表向きは「話を聞いてますよ」ポーズをする。腐っても社会人だった私だ。それくらいはできる。
「アカリは獣人族に会ったことはあるか?」
「ないけど。」
そういえば、ない。転生して半年。その存在は聞いていたけれど、運送屋の仕事でせいぜい隣町までしか行かない私は、獣人族どころか人間族以外のヒトに会ったことがない。
「そっか。俺はある。仕事でイーストランドに荷物を運んだ時にな。あっちは人間至上主義じゃないから、獣人も住んでるんだ。」
「へえー。」
ここ、ネオ・ローマン魔法王国が人間至上主義だとは聞いていたが、正直実感が湧かなかった。異世界出身の私からすれば、街にいるのが人間だけ、というのは普通のことだし、違和感を感じていなかった。でもフェイはそうではないようだ。
「この国の人たちは、獣人は野蛮な連中だ、ヒトの形をした獣だっていうけれど、直に会った俺にはわかる。彼らはそんなんじゃない。立派なヒトだ。俺たちと大差ない。むしろずっと体が強くて、働き者なんだ。まあ、ちょっと荒っぽいのは認めるけど。」
「そうなんだ。荒っぽいのは苦手だけど、私もちょっと会ってみたいな。」
私は単に好奇心でそう言った。せっかく魔法がある世界に来たのだ。そんなファンタジーな人間がいるのならば、会ってみたい。そう思っただけだ。
しかしフェイは同志を見つけたとばかりに食いついて来た。
「そうか!アカリも会いたいか!よし、よし!」
「え、まあ、うん。」
あまりの勢いにちょっと引いている私を余所に、フェイは少し視線を下げて考え込む。いや、考えるというよりは、決心をつけようとしている。そんな感じだった。
そして、意を決してフェイは話す。
「なあ、アカリ。一緒に独立しないか?」
「え・・・うぇっ!?」
全く予想していなかった言葉に、変な声が出た。
いや、予想は可能だっただろう。なにせ、話の最初に、「私」に話がある、と言っていたのだから。ちょっと舞い上がっていて、油断していた私が悪い。
「俺は他所の国に行って運送業をやりたいんだ!人間だけじゃない。獣人でも森人でも、皆の役に立ちたいんだ!俺一人じゃ難しいけど、アカリが一緒ならきっとできる!頼む!」
「・・・・・・」
動揺しつつも、私は感銘を受けた。皆の役に立ちたい。それは私の願望そのものだったから。であれば、なぜ拒否できるだろうか?
しかし、こればかりは安易には決められない。なにしろ人生の選択だ。自身の感情に従えば、Yesと即答したいくらいだが、慎重に応えなければならない。
「う~ん。」
私は考え込む。フェイはその間、じっと待ってくれた。
・・・生活の安定を考えれば、現状維持が最適。でもフェイの夢には協力したい。どっちがいいのかな。
フェイを止めるべきか、共に新天地を目指すべきか。散々悩んだ末、私は結論を出した。
「わかった。協力するよ。」
「ありがとう!よかった!」
満面の笑みでフェイは私の手を取る。私も握り返す。ここまで喜ばれるとここで話を切り上げたくなるが、ここはぐっと堪えて続きを話す。
「でもちょっと待って。今すぐには行けない。」
「・・・・・・」
ピタリとフェイが止まる。しかし落胆や警戒ではない。真摯に話を聞こうとしている。
「私は社長と奥さんにお世話になってるから、その分のお返しはしないと。だから、もう少し待って。」
社長と奥さんには、多大な恩義がある。雇ってもらっただけではなく、彼ら夫妻の家に住まわせてもらっている身だ。雇われて半年で辞めるなど、不義理に過ぎる。
「あ、そうだよな。オヤジさん達にも許可を得ないといけないし・・・悪い!先走っちまった。」
「いいって。話してくれて嬉しいよ。目標ができたからね。」
「ならよかった!あ、もう休憩はいいか?」
「えーと、うん、大丈夫。」
話している間に私の魔力が回復していた。全快とはいかないけれど、暗くなる前に街に着くためにはそろそろ出なければならない。
そうして再び2人で雪上船を駆る。
しかし、その途中で私はようやく気がついた。
・・・あれ?2人で異国に旅立つって、それ、もうほとんどプロポーズじゃない?
そう思いついたものの、私はそれをフェイに確認する勇気が出ず、その件は保留となった。




