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選べるなら、人間以外で  作者: 黒烏
第3章 黄色の鳶
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119 戦艦オーラム防衛戦⑨

「くそっ!増援が来たぞ!『ファイアバレット』!壁を頼む!」

「了解!『アースウォール』!」

「『アースゴーレム』!」

「よし!皆、壁を使え!急げ!」


 ホフマン軍が補給線を守るために敷いた防衛線の一部。今まさに帝国軍の別動隊に攻め込まれている。ここは帝国軍が来る方向である東側が開けた林であり、迎え撃つホフマン軍は木に隠れながら戦うことができる。その地の利を活かしてどうにか帝国軍の猛攻を凌いだところだったが、間髪入れずに敵の増援がやって来た。

 敵の銃撃から身を守るため、土の壁やゴーレムを作り、その陰に隠れて魔法攻撃と銃撃を織り交ぜて反撃する。先の戦闘でも既に壁を作っていたが、無数の銃弾を浴び、分厚い壁もかなり削られていた。そのため部隊長は、自身も炎魔法で攻撃しつつ、作り直しを命じていた。

 この銃弾飛び交う激戦地の中に、マシロとアカネもいた。敵増援に慌てるホフマン軍の部隊から少し離れた場所。誰かが作ったのだろう、土の壁を背に様子を窺っている。


「もう少し早く到着できればよかったのですが・・・」

「クウン。」


 2人が隠れる土壁には、次々と鉛弾が撃ち込まれている。マシロはその索敵能力でもって、防衛線の隙間を抜けようとしている少数部隊に気がつき、ここに急行したのだ。

 先回りして待ち伏せできれば理想的だったが、ここは既に最終防衛ライン。この林を抜ければ、補給路である街道まで開けた平原しかない。機関銃を持った複数の兵士相手に、開けた場所は不利だ。やむなく進撃する敵部隊を横から急襲することになったのだが、接近より先に気付かれてしまった。そして今、慌ててその場にあった土壁に避難したところだ。

 敵はマシロの素早さを警戒して、弾幕を張り続けている。不用意に飛び出せば、いくらマシロでもハチの巣だ。


 ・・・弾切れまで待つのもありでしょうか?いや、それまでこの土壁がもつ保証もありません。それに、他の場所も回ることを考えれば、ここで無為に時間を過ごしたくはありません。


 覚悟を決めたマシロは、アカネにアイコンタクトを送る。察したアカネはコクリと頷く。

 マシロはいつでも飛び出せる態勢を取り、「黒剣」を持ったままの手で、アカネにハンドサインを送る。


 ・・・3、2、1、Go!


 マシロのカウントダウンに合わせて、アカネが吠える。アカネの声は土壁を回り込んで敵兵の耳に届き、その音の波に乗ったアカネの魔力が敵の脳に浸透する。幻覚魔法『オプティック・ハルシネイション』。幻の映像を見せる魔法だ。

 アカネが敵に見せたのは、土壁から飛び出すマシロの姿。もちろん、本物のマシロが飛び出そうとしているのと反対側だ。

 敵の射撃が幻影を追う・・・よりも早く。敵の意識が幻影に向かった瞬間。マシロはそれを嗅覚式魔力感知で察知し、飛び出す。


「ん!?なんだ!?当たらない!?」

「魔法だ!あれは偽物だ!」


 敵もこの要所攻撃を任せられるだけあってベテランの兵士なのだろう。魔法が使えず、魔法に関する知識がなくとも、魔法による攻撃だとすぐに察して見せた。


「本物をさが・・・!?」


 帝国兵のベテラン部隊が、幻影を見てからその正体に気がつくまで、ほんの5秒ほど。流石はベテランという速さだが、マシロ相手にその5秒のロスは致命的だった。


 ドオン!


 砲弾が着弾したような音と共に、部隊の中央から雪煙が上がる。部隊の全員がすぐにそこから距離を取った。どんな攻撃かわからなくても、魔法攻撃が着弾した場所からは更なる攻撃が飛び出すことがある。経験から学んだ行動だった。

 直撃を受けた者については、残念ながら諦めるしかない。たとえそれが、部隊の隊長と副長であろうとも。


「隊長・・・!」

「油断するな!敵の本体を探せ!」


 十分に距離を取ったと考えた部隊が索敵を再開しようとしたその時、晴れかけた雪煙の中から、声が聞こえた。


「『剣舞・黒縄こくじょう彼岸花』」


 真っ白な雪の中に映える黒い服が、くるりと一回転した。下半身のロングスカートがふわりと少し舞い上がる。すると、広げた両腕の袖口とロングスカートの下から真っ黒なナイフが飛び出した。その数合計20本。マシロが常に隠し持っているナイフ「黒爪」だった。

 20本の「黒爪」は美しい曲線を描いて飛び、その軌跡をなぞるように黒い紐が伸びる。「黒爪」は狙い違わず周囲の帝国兵にカーブしながら向かい、それぞれの急所を貫いた。


「ごほっ!?」

「があ!?」


 回避する間もなく、あるいは回避しても追尾され、喉や心臓を貫かれる。一瞬のうちに、帝国のベテラン部隊は文字通り全滅した。

 マシロがさらにもう一回転すると、服の袖とスカートの内側から延びた黒い紐が引っ張られる。その紐は「黒爪」の柄につながっており、敵の死体から引き抜かれた「黒爪」がマシロの服の中に戻った。戻る最中に「黒爪」を微振動させて血を払うところまで一連の動作になっている。

 次にマシロは足元に突き立てられた「黒剣」を引き抜いた。マシロの足元にあるのは、敵部隊の隊長と副長の死体。2人は心臓を「黒剣」で貫かれて息絶えていた。


「ふう。手強い相手でした。」


 マシロはそう呟く。傍から見れば圧倒的勝利に見えるが、マシロからすれば技を2つも使わされたと言える。

 アカネの幻覚魔法に合わせて飛び出したマシロは、『剣舞・天翔風牙』で突撃。隊長と思われる者を真っ先に仕留めた。そこから近接戦闘に移ろうかと思ったが、敵が距離を取って散開したため、もう1つの技を使わざるを得なかった。

 反省すべき点は多くある。だが、今はそれをしている時間がない。


「アカネ!次に行きますよ!」

「キャン!」


 苦戦している場所はここだけではない。マシロは即座にアカネを連れて次の場所へと向かった。


ーーーーーーーーーーーー


 <暗愚>トルンから解放された森人の女性、アリウスは必死に雪原を走っていた。行く当てはない。とにかく戦場から離れたかった。


「本当、冗談じゃないわ・・・!」


 アリウスはある人物を捜索するために東大陸をうろついていた。手がかりが全くないために、捜索対象の人物の性格から戦場にいるのではと考えて、戦場付近をうろうろと探していた。

 すると不幸にも帝国の秘匿戦力<暗愚>に遭遇。口封じも兼ねて『メイク・フール』をかけられて服従させられていた。


 ・・・闇魔法をかけられてからは記憶が曖昧だけど、鉄道に乗って西大陸まで来たのは覚えてる。捕まってからどれくらい経ったの?1週間?いや、2週間?ああ、もう!そんなことより帰る方法を探さないと!


 彼女は帝国からの通達で西部戦線に異動になった<暗愚>に連れられて西大陸に来ていた。<暗愚>は貴重な木魔法使いが部下にできたと喜んで、アリウスをすぐに自分の側近に取り立てたのだが、アリウスにはそんなことは関係ないし、その記憶も朧げにしか残っていない。

 自分の現在地もわからないアリウスは、このままでは目的の人物の捜索もままならないと考え、まず一旦森人の里に帰還しようと考えた。

 しかし森人の里は東大陸南部にある。ここ、西大陸北部からはかなり遠い。まず、彼女は走りながら帰る手段を考える。


 ・・・陸路か、海路か。陸路だと帝国経由になるし、ありえないわね。二度と帝国なんかと関わり合いになりたくないわ!


 <暗愚>に捕まって闇魔法で洗脳されたことは、アリウスにとってひどいトラウマとなっていた。記憶が曖昧である分、洗脳されていた間に何をされていたか、させられていたか、想像したくもない。

 となると消去法で海路となる。東大陸行きの船は西大陸のほとんどの港から出ている。どこでもいいからとにかく港に向かえばいい。


 ・・・とりあえず、海に向かいましょう。そこから海岸沿いに港を探せば、なんとかなるはず。


 アリウスは光魔法で方角を確認しつつ、東に向かう。しかし、進むにつれて雪が深くなり、思うように進まない。

 思わず愚痴が漏れてしまう。


「ああ、もう、本当に鬱陶しい雪!里ならこんなに深く積もることないのに!だいたい、なんでフロウレンス様は何も言わずに飛び出したのかしら?あの方のことだから、また魔族を追ってるんだろうけど、魔族なんて西の山奥に引き籠って久しいのに。」


 彼女の探し人、フロウレンスは里の長老の一人である。高度な木魔法を操る心優しい慈悲深い人物なのであるが・・・魔族が関わると豹変する。

 過去の因縁により深く魔族を憎む彼女は、魔族が現れたと聞けば、里の外だろうと討伐に向かっていた。アリウスは一度だけ直にその豹変ぶりを見た事があるが、とても同一人物とは思えない変わりようだった。

 聖母のような優しい人物が、急に目が濁ったアサシンに変貌するのだ。アリウスは思い出しただけで身震いする。

 過去の因縁については詳しく聞いていない。アリウスをはじめとした里の若い者は皆、恐くて聞けないのだ。


「前回だって勘違いだったし、今回もそうだと思うんだけど・・・」


 前回、フロウレンスが魔族出現と聞いて飛び出したときは、木魔法による再生能力が高い犯罪者がそう呼ばれていただけであった。それでもフロウレンスはその犯罪者をしっかり抹殺してきたのだが。

 とにかく今までの傾向から、噂程度の情報ならフロウレンスは海を渡ったりしない。確信がなければ、西大陸までは来ないだろう。となれば、彼女は東大陸にいるはず。アリウスはそう予想した。


「帰るにしても、探すにしても、まずは海を渡らなきゃ。」


 目的を再確認し、アリウスはまた東へ進む。




 だが、アリウスはそれ以上進めなかった。

 音もなく飛来したそれは、アリウスの胴体を貫き、風穴を開けた。


「・・・・・・!」


 彼女を貫いたのは、大きな氷の槍。声を出そうにも、肺も横隔膜も、心臓も破壊されたアリウスは声が出ない。得意の木魔法による回復も追いつかず、掠れた断末魔は吹雪にかき消された。


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