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選べるなら、人間以外で  作者: 黒烏
第3章 黄色の鳶
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118 戦艦オーラム防衛戦⑧-「溶岩竜」-

 真っ白な雪原から複数の赤い柱が立ち上る。その柱は形を変え、蛇のように1人の獣人を追う。<溶岩竜>マルトが操る『マグマストリーム』だ。

 この一帯の地面は地中まで既にマルトのフィールドとなり、次々と加熱された土が溶岩へと変わっていく。敵の足場を奪いつつ、溶岩流で焼き殺すのが、マルトの基本戦法だ。

 それでじわじわと追い詰めれば良さそうなものだが、マルトはその溶岩流に追随して、自らも攻撃を加える。

 一見、わざわざ無用な危険を冒しているように見えるが、やられる側としては嫌な戦法だ。

 『マグマストリーム』は途中で軌道を変えればこのように蛇のように自在に動かすことが可能だが、限度がある。基本的に直線運動の組み合わせなので、集中していれば躱せないこともない。しかし、そこにマルトが接近戦を織り交ぜてくると、途端に回避が困難になる。


「ふん!らあっ!」

「おっと。」


 それでも、そのマルトと相対するヴォルフはそれらの波状攻撃を冷静に捌いて見せる。溶岩流を大きく避け、マルトの格闘攻撃をロッドでいなす。決して反撃せず、防御に徹している。


「どうした!避けてばかりでは足場がどんどんなくなるぞ!」

「挑発には乗りませんよ。そうして反撃をしようとしたスキを突くのがあなたの常套手段でしょう?」

「ばれていたか。」


 マルトの猪武者ぶりを見た者は、必ず反撃を試みる。せっかく本体が近づいて来てくれるのだ。恐ろしい溶岩流を止めるためにも、まず近づいてきたマルトにカウンター攻撃を試みる。

 しかし、それではマルトの思うつぼだ。反撃しようとした瞬間、それまでの単純な突進攻撃から一変、巧みにカウンターを躱し、逆に攻撃した隙を突かれて溶岩流に飲まれてしまう。マルトについて調査していたヴォルフは、そうしたマルトと戦った者たちの末路を知っていた。

 だが、このまま反撃せずに戦い続ければ、いずれは足場を失い、追い詰められてしまう。どこかで反撃しなければならない。

 移動できれば足場がなくなる心配はないが、それはマルトが許さない。複数の溶岩流は常に退路を断つように動いており、ヴォルフの移動を阻む。

 戦い始めてわずか1分のうちに、ヴォルフの周辺の地面は半分が真っ赤な溶岩で埋め尽くされてしまった。耐えきれずにヴォルフが跳躍して自身を囲む溶岩流を飛び越えようとする。


「かかったな!もらった!」


 すかさず別の溶岩流をマルトが操作し、空中で軌道変更できないヴォルフを捉えようとする。

 溶岩流がヴォルフに迫るが、一切慌てた様子もなく、ヴォルフは魔法を唱える。


「『アイスシールド』」


 ヴォルフは空中に素早く氷の盾を生成し、それを足場にして溶岩流を躱す。生成した盾は溶岩流に飲まれて融けたが、ヴォルフは見事に包囲網から抜け出した。

 マルトは距離を取ったヴォルフを見て、一旦足を止める。


「見事!流石は<永久凍土>。水魔法を『フリーズ』で凍らせる氷使いは見たことがあったが、氷魔法使いはそれとは一線を画すな。」

「どうも。誉め言葉は素直に受け取っておきましょう。」


 世間一般では、炎適性と水適性だけを持つ、水魔法を『フリーズ』で凍らせる魔法使いも「氷魔法使い」と呼ばれるが、正確には炎+水+土適性が必要な「氷魔法」を使える者が正しい氷魔法使いだ。前者は一旦水魔法を唱えてから凍らせる分、発動が遅いが、後者は即座に氷を作り出せる。また、前者は土適性がないため、作った後の氷を操作できない。水の時点で操作してから、それを凍らせるしかない。後者は自在に氷を操ることができる。実戦においてこの差は大きい。


「だが、所詮は氷!溶岩には適うまい。我が溶岩は1000℃を優に超える!対して冷却温度はー300℃も行かぬそうではないか。いずれが強いかは明白!」


 マルトが言う通り、加熱温度はいくらでも上がある。対して冷却は絶対零度(約-273℃)より下回ることがない。数字の上では、加熱の方が強く見える。しかし。


「やれやれ。それはよくある勘違いですよ。あなたは冷却魔法の恐ろしさをご存じない。」

「ならばやって見せろ!『マグマストリーム』!」


 マルトが勢いよく地面を叩くと、ヴォルフの周囲から溶岩流が噴き出す。その赤い柱はほとんど隙間なくヴォルフを包み、そのまま上空で軌道を変えて上からヴォルフを襲う。


「もはや逃げ場はない!これを抜けられるものなら抜けてみろ!」


 マルトの攻め手の中でも必殺の攻撃。溶岩に耐える方法がなければ死を免れない。実際、これを破った者は今までいなかった。

 だが、相手は世界最高峰の氷魔法使いである。


「では、遠慮なく。」


 そんな声が聞こえたかと思うと、急に溶岩流の流れが遅くなり、止まり、固まって、ついには凍ってしまった。


「な!馬鹿な・・・」


 マルトがその光景に驚愕した瞬間、凍った溶岩の壁を突き破って、ヴォルフが突進。ロッドの先端に着いた氷の槍で、一直線にマルトの心臓を狙った。


「ぬん!」


 しかしそこは百戦錬磨の<溶岩竜>マルト。持ち前の腕力でその槍を受け止める。


「ふふ、甘いわ!」

「いえ、甘いのはあなたです。」


 ヴォルフがそう言い返すと、マルトの両腕がどんどん凍り始めた。


「なに!?馬鹿な、耐熱結界は冷却にも耐性があるはず・・・」

「単純なことです。あなたの出力より、私の出力の方が大きい。炎魔法使い同士の戦いでは基本ですよ。」

「そん、な、ならば、どうし、て・・・」


 マルトの体はみるみるうちに凍り、喋るのもおぼつかなくなってきた。


「フェイクですよ。あなたの方が強いと思わせただけ。さあ、チェックメイトです。『アイスジャベリン』」

「ごほっ!」


 ヴォルフの詠唱とともに、ロッドの先端の氷の槍が伸び、マルトの心臓を貫いた。マルトは大量の血を吐き出すが、それすらも凍結し、マルトは血まみれの氷像となって絶命した。


 ヴォルフはロッドから氷の槍を外して、独り言を言う。


「冷却の限度がー273℃なのは、それ以下にはなりえないからです。つまりは測定不能。冷却能力は、温度では測れない。更に言えば、冷却魔法は加熱と違って、エネルギーを奪う魔法です。即ち、それさえ理解してしまえば、魔力消費はごく少なくて済む。それを理解させるために持久戦を狙ってみましたが、まあ、そこまで甘くはありませんでしたか。魔力が枯渇したところを捕獲したかったのですが。」


 冷却はエネルギーを奪う行為。科学を知る者なら皆学ぶことだ。しかしこの世界ではそれを知る者は少ない。故に、この世界の冷却魔法使いは、加熱と同様に魔力を消費してしまっている。そういうものだと思い込んでいるからだ。

 しかしそれを理解してしまいさえすれば、魔力は熱を奪って移動させる分だけでいい。加熱のように魔力を熱エネルギーに変換して消費する必要はないのだ。流石に奪った熱を魔力に変換して吸収することはできないが、それでもこれを理解してしまえば強力だ。継戦能力に大きな差ができる。

 ヴォルフはかつて勇者カイと出会い、それを教わって大きく伸びた。まだ若く、頭が柔軟だったから、それまでの常識と異なる知識を受け入れることができたと言える。

 それから100年の研鑽の末、ヴォルフは世界有数の氷魔法使いとなった。それでも驕りはない。自分の弱点は炎だと吹聴し、油断させて狩る。そんな情報操作までやっている。

 もちろん、炎魔法が苦手だというのは嘘ではない。現に国王には勝てないのだから。ヴォルフも自身を超える出力の炎魔法使いには勝てないのだ。「炎が苦手」というのは、正確に言えば、「炎魔法でヴォルフを上回らなければ、他に勝ち目がない」という意味である。


「さて、そういえば逃げた森人がいましたね。」


 ヴォルフは軽く身だしなみを整え、固まった溶岩の上を歩き始めた。

 戦艦をあえて放置し、追撃に出た。ヴォルフからすれば、帝国の重要戦力を仕留めた今は、多少の金属を帝国に取られても、取り返しに出向けばいい。守りに徹している必要はなかった。むしろ、守りに徹していると敵が思っている今が好機。ヴォルフは攻めに出ることにした。


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