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選べるなら、人間以外で  作者: 黒烏
第3章 黄色の鳶
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114 戦艦オーラム防衛戦⑤-「永久凍土」-

 戦艦内で一夜を過ごしたマシロ、アカネ、ヴォルフは日の出前に目を覚ます。手早く身支度を整えると、連絡したわけでもなく自然と食堂に集まった。

 爽快な朝の目覚めでないことは互いに顔を見てわかった。なぜこんなに早く起きたのかも。


「気づきましたか?」

「感知は得手ですので。」


 3人ともが既に臨戦態勢。敵襲に気がついて目を覚ましたのだ。

 マシロの感知範囲、半径約1kmに、すでに敵が接近してきている。就寝中にも敵襲に気が付けるのは、マシロの感知能力と森での生活で身に付いた性質だが、マシロからすればヴォルフがどうやって気がついたのが不思議だ。しかし今はそれを確認している暇はない。


「ネームドと思しき魔力量の者が20はいます。後続も考慮すればもっといるかもしれません。」

「数までわかるとは優秀ですね。さて、どうしたものか。」


 ヴォルフは少し考え込む。しかし、マシロにはその時間すら惜しいと思える。


「このままでは囲まれますよ。包囲が完成する前に撤退すべきです。」


 ネームドが最低20人。1人で百人や千人を屠れる実力者がそれほどいれば、もはや災害レベル。勝てる相手ではない。マシロは撤退を進言する。

 しかしヴォルフは動かない。進言を無視してマシロに尋ねる。


「・・・接近する者の中に、大きな鎌を持った者はいますか?」

「・・・います。装飾が多い、変わった形状です。」


 マシロは魔力感知で得た情報を伝える。マシロの感知精度をもってすれば、1km弱離れていても、対象の所有物の形状まで見分けられる。


「ふむ。<大鎌>で間違いなさそうですね。3年前に行方不明になったイーストランド王国のネームドです。つまり、これは、敵の闇魔法使いが手持ちをフルに使って潰しに来た、というところでしょうか。」

「20人以上を同時に、ですか。」

「『メイク・フール』なら可能でしょう。ずっと制御下に置くのではなく、判断能力欠落の状態に留めるだけですから。しかも闇魔法による精神操作は年単位で解除されずに継続すると、治らなくなる事例もあります。」


 対象を完全に操作する魔法ならば、複数同時は困難だが、特定の精神状態を維持するだけならば、かけた後は意識を放しても問題ない。解除されないように定期的に魔力を送る必要はあるが、その状態に馴染んでしまえば、それすら必要なくなる。

 『メイク・フール』はその点が優れている。命令に忠実で、細かいところは自己判断できる手駒が容易く作れる。過去に魔族が開発し、100年前の戦争で使用された。


「しかし、『メイク・フール』は魔族の魔法。魔族以外に使えないわけではないですが、その技術を知っているとなると・・・敵は魔族かそれに与する者?いえ、ここで判断すべきことではありませんか。」


 そう言いつつ、ヴォルフはコートを羽織って壁に立てかけてあった棒を持つ。長さ1.5mほどの何の変哲もない棒のようだが、マシロにはそれが魔法金属製だとわかる。ヴォルフの専用武器だろう。

 荷物を持ったヴォルフを見て、ようやく撤退かとマシロが思ったとき、ヴォルフは意外な言葉を放つ。


「では、マシロさんはアカネさんを連れて撤退してください。私はここを守りますので。」

「・・・無謀です。撤退した方が・・・」

「この戦艦を守れば、この長い戦争に終止符が打てるかもしれないのですよ?ここで退くのはあまりに惜しい。」

「・・・・・・」


 マシロとて開戦後間もなくからこの戦争に参加している。戦争を終わらせたい気持ちはわかるつもりだ。しかし、ここで焦って無理をしては、最悪、ヴォルフを失えば、逆に勝利は遠ざかってしまう。


「わかりました。では、私も参戦します。」


 覚悟を決めて、マシロは協力する意思を表明する。

 しかしヴォルフは首を横に振る。


「ダメです。マシロさんは撤退なさい。」

「しかし・・・」


 反論しようとするマシロを遮り、ヴォルフはマシロの足元を指さす。そこには不安そうなアカネがいた。


 ・・・ああ、そうでした。ここで私が無茶をするわけにいかないのでしたね。


 マシロがここに残れば、必然的にアカネを危険に晒す。それだけは避けねばならなかった。

 そこへヴォルフがとどめの一言。


「正直、邪魔です。何故私が供もなく一人でここを守っていると思うのですか?」


 言われたマシロは驚く。このところ、戦果を評価されることが多く、邪魔だと言われたことがなかった。それなりに実力はついて来ていると思っていた。それが、足手まといと言われるとは。


「申し訳ありませんが、味方を気遣う余裕はないでしょう。あなたがいては、私が本気を出せない。」

「・・・わかりました。ご武運を。」

「ご心配なく。<永久凍土>の二つ名の由来をお見せしますよ。」


 話が決まれば、いつまでも留まっているわけにはいかない。マシロは犬形態に戻ってアカネを背負い、戦艦を飛び出した。


ーーーーーーーーーーーー


「敵が離脱。速度から<疾風>と思われます。」

「追えるか?」

「不可能ではありませんが・・・困難ですね。」

「雪を融かしながら進んでたのが仇になったかあ。包囲完成前に感づくとは。」


 戦艦オーラムを囲もうとしているネームドの1人が、離脱する<疾風>を遠くに見つつ、報告する。返事をするのは声だけ。遠方から『センド・ボイス』で声を送ってきているようだ。


「リュウを破った<疾風>も興味はあるが、ヴォルフが優先だ。<永久凍土>はまだ戦艦の中だろ?」

「ええ。単独で残っています。」


 報告者は感知能力が高いようで、戦艦の外からすでにヴォルフが1人であることを把握していた。


「なら、予定通りだ。雪を融かしつつ進め。」

「了解。」


 戦艦を包囲するネームドは総勢35人。半数が炎魔法使いで、2人1組のペアで動いていた。ペアの片方は必ず炎魔法使いという編成だ。3人を後方に残して、16組が戦艦を囲み、ヴォルフの武器になるであろう雪を融かしつつ戦艦に迫る。

 その1人である<大鎌>は指揮官からの声から意識を外し、前方を見る。相方の炎魔法使いが地味に雪を融かしつつ進むのをぼんやり見ていると、魔力感知に反応があった。


「前方、上から魔法攻撃!氷だ!」


 戦艦から放物線を描いて飛んできたのは無数の氷の塊。ヒトの頭ほどもあるそれは、直撃すれば良くて骨折、悪くて致命傷になる威力を持っている。

 <大鎌>は鎌で迎撃し、その間に相方である<蒼炎>が炎魔法を準備。準備ができ次第、飛来する氷を融かした。融けた水が2人にかかる。


「くそっ、冷たいな。」

「悪い。予想以上に密度が高い氷だ。蒸発までいけなかった。次は蒸発させて見せる。」

「次、ね・・・」


 あんなデカい氷塊をほいほい飛ばせるものか。そう思ったが、その予想は早々に裏切られる。

 またしても戦艦側から氷塊が飛んできた。しかも、今度は槍の形をしている。


「くっ!『ファイアストーム』!」


 渦巻く風に乗った炎が、飛来する無数の氷の槍を受け止める。その青色が、炎が非常に高温であることを示し、彼の魔法の腕前が高いことを表している。だが。


 ドスッ!


「げっ。」

「マジか・・・!」


 あろうことか、氷の槍は融けながらも一部が残り、彼らのすぐそばの地面に突き刺さった。

 8割方は『ファイアストーム』で融かせているが、2割ほどが貫通してきている。


「すまん!止めきれない!残りを頼む!」

「了解!くそっ!軍の連中を皆殺しにしたのは、この槍か!?」


 <大鎌>は炎の嵐を貫通して来た氷の槍を、鎌で叩き落とす。この大鎌は魔剣の一種で、対人では大きな効果を発揮するが、対物ではただの大きな鎌だ。

 そして彼の予想通り、戦艦の奪還を試みた帝国軍を叩きのめしたのはこの氷の槍だった。銃の射程外から飛来する無数の槍。魔法も使えない帝国兵に対処できる代物ではない。回収した鉄板を盾にしたものも居たそうだが、その結果は辛うじて回収された穴だらけの鉄板が雄弁に物語っていた。

 数分もの間、降り注いだ氷の槍をどうにか耐えきった2人。息を切らして周囲を見渡すと、とんでもないことに気がつく。


「じょ、冗談だろ・・・?」


 なんと、この攻撃を受けていたのは、この2人だけではなかった。流石に反対側はわからないが、知覚できるすべての仲間が同様の攻撃を受けていたようだ。この攻撃ですでに8人が脱落している。すぐ隣の2人組は、血の海に沈んでいた。周囲に飛び散った石のかけらが、攻撃の激しさを表している。


 ・・・あいつの『ストーンシールド』を貫通するのかよ。


 <大鎌>は魔法金属製の頑丈な鎌で迎撃したため、防ぐことができていたが、土魔法で作った石の盾では防ぎきれなかったようだ。


「こんな威力の氷の槍を、こんな大量に生成するなんて、バケモンか!?本当に勝てるのか?」


 <大鎌>は急に弱気になる。しかし、逃げない。闇魔法で縛られた彼の思考は、与えられた命令に逆らえない。「指示なく撤退するべからず」という命令がある以上、彼の頭に撤退という単語が浮かぶことはない。

 慌てる<大鎌>を<蒼炎>が落ち着かせる。


「落ち着け。全部じゃない。」

「は?」

「あれは、弱い槍の中に少数の強い槍を混ぜていたんだ。現に、融けずに貫通して来たのは一部だったろ。」

「そうか・・・いや、でも・・・」


 確かにその方法なら、必要魔力はぐっと少なくなる。だが、それを考慮しても、あり得ない魔力量だ。

 まだ弱気のままの<大鎌>に、相方が声をかける。


「とにかく進むぞ。反撃するにも、まず敵を見つけないと・・・ん?」


 言いながら前進しようとした<蒼炎>が、異変に気がつく。


「どうした?」

「いや、泥が・・・抜けな・・・え!?」


 急に<蒼炎>の体が沈む。地面は先程迎撃した氷が融けた水が広がっていて、泥になってぬかるんでいる。だが、せいぜい少しぬかるむ程度で、沼のように沈むわけがなかった。


「やばい!罠だ!助けてくれ!」


 <蒼炎>が必死に<大鎌>に手を伸ばす。<大鎌>もその手を取ろうとするが、届かない。


「げっ!俺もか!」


 <大鎌>もすでに足が泥に沈んでいた。足を上げて抜けようとするが、まるで大きな手で掴まれているように抜けない。それどころか反対側の足がさらに沈んだ。飛行にも使える風魔法『エアハンド』で上に体を引っ張ってみるが、やはり抜けない。


「くそ!もう腰まで・・・」

「落ち着け!土魔法はどうだ!?」

「だめだ!すでにこの地面は全部敵のフィールドだ!追い出せねえ!」


 すでにこの地面はヴォルフの魔力で満たされていた。用意周到な罠。設置した罠の上に敵が来た瞬間、まずは氷のつぶてと槍で上に注意を引き、その間に罠を発動させる。

 完全に罠にはまった2人は、持てる手段のすべてを使って泥からの脱出を試みるが、徒労に終わる。<蒼炎>はまっすぐ沈んでいき、<大鎌>は転倒してそのまま泥に捕まった。

 そして2人が沈んだ泥沼はすぐに凍結。2人が生きて地上に出ることはなかった。


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