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選べるなら、人間以外で  作者: 黒烏
第3章 黄色の鳶
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111 戦艦オーラム防衛戦②

 マシロはアカネを背に乗せて林を走る。雪が深く、一歩ごとに足が沈みこんでしまい、思うように走れない。それでも力業で掻き分けてそれなりの速度は出ているが、消耗が激しい。


 ・・・なるほど、これではホフマン軍が苦戦するのも無理はないでしょう。


 こんな状態では、獣人族の機動力を活かせない。足を止めての撃ち合いならば、銃の性能で勝る帝国兵の方が有利だ。王国側には魔法があるが、魔法は普通、詠唱から発動まで2~3秒はかかる。銃を撃ち合う戦場でこのタイムロスは致命的だ。実戦で使うには一工夫必要になる。ちなみにクロ達が使う魔法は、物体を移動するだけの単純なものである上に無詠唱なので、発動に1秒かからない。

 それでも魔法の効果は大きいので、その一工夫を加えることでなんとか王国軍は持ちこたえているようだ。マシロの嗅覚には、あちこちから戦いの臭いが感じ取れる。

 しかし、情報が確かならこの均衡はまもなく崩れる。その唯一のアドバンテージである魔法。それを使う者が帝国側に現れるからだ。しかも実戦的な魔法が使える手練れらしい。もしもその手練れにこの防衛線が破られ、補給路を取られれば、王国軍は干上がってしまう。


 ・・・なんとしても阻止しなければ。しかし、戦場が思った以上に広い。どこから来る?


 帝国軍は防衛線の一点突破ではなく、様々な地点を同時攻撃しているようだ。人員豊富な帝国ならではの戦法と言えるだろう。迂回してきた別動隊でこれだけの人数がいるのだから物量作戦は恐ろしい。


 ・・・かの炎魔法使いが防衛線に到達する前に接敵し、友軍の被害を抑えるのがベストなのでしょうが、これではどこから来るかわかりません。やみくもに突出するわけにもいきませんし、どうしたものか。


 補給路を守るため、その東側に南北に延びる防衛線。それに沿うように一通り走ってみたマシロだが、まだ目的の炎魔法使いは見つからない。

 半径1kmほどの嗅覚式魔力感知と、獣として本来持つ嗅覚を総動員してそれらしき人物を探す。アカネもきょろきょろと周囲を見渡している。


 数十分、防衛線をうろうろして探し、無為に待つよりも加勢した方がいいかと考え始めた頃、マシロの嗅覚が異常事態を感じ取った。


 ・・・血の匂い。近い!防衛線が破られた場所がある!


 それまで獣人の臭いしかしていなかった方向に、強い血の匂いが生じた。推定位置はさきほど通り過ぎた防衛線の一部。マシロはそこへ急いで向かう。

 その途中で伝令とすれ違う。


「<炎刃>が現れた!地点F!防衛線が破られそうだ!救援頼む!」


 すれ違いざまに聞こえた伝令の声から、マシロの予測は確信に変わる。ターゲットは間違いなくそこにいる。


 防衛線は、東に広い雪原を臨む林に沿って構築されている。この林を抜けて10kmほど進めば、補給部隊が利用している街道だ。街道まで距離があるものの、雪原を進む帝国兵を林に隠れて狙い撃ちできるここを突破されれば、この先ではもう守りにくい。ここが事実上、最終防衛ラインと言える。

 本当なら何重にも防衛線を張りたかっただろうが、人員不足が祟っていた。

 伝令とすれ違って数分で、標的がいると思しき戦場が見えて来た。すでに林まで侵入され、乱戦に陥っている。

 マシロはその様子を見て、走る速度を落とさずにアカネに指示を出す。


「アカネ!支援射撃!」

「キャン!」


 アカネの魔力が炎属性に染まる。高速で走るマシロの背から、帝国兵が群がる一角を狙う。

 3秒ほどの溜めの後、アカネが放った火球は正確に敵へと飛ぶ。放ったのは炎魔法『ファイアボム』。着弾地点から広範囲に炎を撒き散らす魔法だ。

 帝国兵たちの近くの地面、もとい雪面に着弾し、ボン!という音と共に真っ赤な炎が広がる。


「うわっ!」

「あっちぃ!」


 銃を構えていた帝国兵たちが怯む。範囲が広い分、威力は低いため、軽いやけどしか負わせられていないようだが、牽制には十分だ。


「怯むな!大した威力じゃない!」

「魔法!?援軍か!?」

「くそっ、目が痛え。」

「いや、新手の可能性も・・・」


 炎が消えて煙が晴れる中、帝国兵と王国兵の声は入り乱れて聴こえる。それを聞きつつ、マシロは煙を裂いて進む。


 ・・・『変化』の時間が惜しい。このまま行きます!


「いったい、何・・・ぎゃあ!」


 炎に怯んだ帝国兵へとマシロは犬形態のまま突っ込む。前足で1人踏み潰し、大きな顎で別の一人の頭を噛み砕く。


「なんだこの化物は!?」

「白い犬、まさか!」


 そんな声を聞きながら。マシロは足を止めずに走り続ける。自分一人なら多少の被弾は問題ない。しかし今はアカネを背負っている。1発の被弾も許されない。


 ・・・ハヤトを乗せて走った頃を思い出しますね。


 少しこの感覚を懐かしく思いながら、マシロは林を走り回る。敵意を嗅ぎ取り、銃口の向く先を見極めて、安全地帯へ、安全地帯へ。銃口が向いていない場所を目指して走り回る。雪を強烈に踏みしめ、踏み砕いて弾き飛ばし、強引に足場を作って走る。飛び散る雪が、マシロの姿を視認させづらくする。

 その背から、アカネが炎魔法を撃つ。今度は1発の威力を高めた『ファイアバレット』だ。雪で視界を遮られても、視覚・聴覚・嗅覚の三種の魔力感知を操るアカネにはほとんど障害にならない。正確に帝国兵に着弾させる。1人、また1人と帝国兵が炎に包まれて斃れる。


「あれは、<疾風>!来てくれたのか!」

「おお、あの戦法は!往年の<疾風>そのものではないか!」


 どうやらハヤトがいた頃の戦法を見たことがあるベテランもいるようだ。王国兵の士気が見るからに上がる。


「いけるぞ!<疾風>に続け!」

「「「おおおおおお!」」」


 マシロの登場に士気が上がった王国兵が、帝国兵に襲い掛かる。


「くらえ!『ウィンドカッター』!」

「『ファイアバレット』!」

「『エクスプロー・・・ぐおっ!?」

「しまった!隊長!」


 マシロの耳に、1人、詠唱途中で倒された友軍の声が聞こえた。

 魔力感知の意識を一部、声がした方向に向けると、友軍の比較的魔力が多い者が、敵軍の強大な魔力を持つ者に追い詰められている。そこへ別の魔力が高い者が駆け寄った。


「とった。」

「させるか!」


 ギイン!と重い金属が衝突する音が聞こえる。それが何度か続いた後、敵が距離を取った。


「バズ!」

「すみません!隊長!抜かれました!ご無事ですか!?」

「・・・まだ、やれる!お前こそよくここまで<炎刃>を抑えてくれた!」

「正直、劣勢です!援護お願いします!」


 バズと呼ばれた王国兵が、敵に駆け寄る。そしてまた連続して聴こえる金属音。剣で打ち合っているようだ。


 ・・・あそこに標的、<炎刃>がいるようですね。しかし、アカネの安全を考えれば、先に他の帝国兵を始末しなければ。


 マシロは<炎刃>が気になりつつも、帝国兵への攻撃を続行する。帝国兵の生き残りを囲むように走り、追い詰めていく。

 帝国兵は必死に銃を撃ちまくるが、舞い散る雪に隠れつつ走るマシロには全く当たらない。


「畜生!何で当たらねえ!」

「教わった通りにやれ!移動先を狙うんだ!」

「やってるよ!くそお!」


 帝国兵も馬鹿正直に真っ直ぐ狙って撃つのではなく、ある程度弾幕を張るように撃っている。しかし、乱れた陣形では完成度が低く、マシロが潜り込める隙間があった。それを見逃すマシロではない。

 さらにアカネの攻撃によって帝国兵は徐々に減っていく。もう弾幕は脅威になる密度ではなかった。帝国兵もアカネが放つ火球を避けようとはしている。その火球は決して速度は速くないのだが、発射位置もタイミングもわからない。そのうえ、雪に足を取られて思うように動けないため、回避できずにいる。

 そうこうしているうちにまた1人、炎に包まれる。


「ぎゃあああ!熱い!熱いぃ!た、助け、て。」

「うわ!熱っ、来るな!燃え移るだろ!」


 燃える帝国兵は雪の上を転がって苦しむが、炎はなかなか消えない。この炎魔法は、周囲の有機物から可燃物を集めて着火して放っている。したがって、火が着いた油をかけられたようなものだ。そう簡単には消えない。

 そして、炎に苦しむ者に帝国兵が気を取られた一瞬、その間にマシロは距離を詰めていた。帝国兵たちが燃える仲間から視線を外して前を見たときには、白い獣が眼前に迫っていた。


「え?ばっ!?」

「ぐげえ!?」


 残った数人の帝国兵を、マシロはまとめて叩き潰し、噛み殺す。

 そして、残敵がないことを確認してから、『変化』。獣人形態になって「黒剣」を構える。口に着いた血を袖で拭った。


「ふう。では、アカネ。私は<炎刃>と戦います。アカネは離れていなさい。」


 コクンとアカネは頷く。マシロの力になりたいが、アカネにも<炎刃>の強さは感じ取れた。前のように出しゃばって足手まといにはなりたくない。

 アカネが確かに理解したことを確認し、マシロは<炎刃>へと向かって走る。残った帝国兵を追ううちに、結構離れてしまったようだ。


 数十秒走ると、標的が見えて来た。しかし、


「遅かった、ですか。」


 数十人は残っていたはずの友軍は、もう2人しか残っていない。そしてその2人も。


「が、はっ。」


 バズは胸を敵の剣で貫かれていた。その他にも、無数の刀傷と火傷。何度斬られても焼かれても立ち向かったのだろう。だが、たった今、とどめを刺された。


「バズ!くそおおお!『ファイアストー・・・」

「させるか。」


 隊長の最後の魔法は、練られた魔力から相当な威力があったのだろうが、詠唱の途中で遮られた。高速の踏み込みで隊長に接近した<炎刃>は、一刀のもとに隊長を斬り捨てる。


「む、ぐ・・・おのれ・・・」


 悔しさを顔いっぱいに表した隊長は、視線を近づいてくるマシロに向けた。マシロはそれと目が合い、後を頼む、という隊長の意志を汲み取った。


「確かに。」


 マシロが頷くと、まだ遠く、声は届いていないだろうに、それでも隊長はマシロが了承したことを察したのか、最期に少し顔の力を抜き、斃れた。


 そして、マシロは<炎刃>と相対する。周囲には王国兵も帝国兵もいない。互いに一定の距離を保って立ち止まり、間合いを測って睨みあう。

 それをアカネが離れて見守っていた。


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