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選べるなら、人間以外で  作者: 黒烏
第3章 黄色の鳶
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106 冬支度と事件の調査

 クロのフォグワース邸襲撃から数日後。この数日の間に事件の話は王国中に広まった。

 王国から事件の調査のためにクロを尋ねてきた者もいたが、聞き取り調査しかできずに帰って行った。

 それも仕方ないだろう。何しろ物的証拠がほとんど残っていないのだ。

 クロ達の証言では、フォグワース家が先に手を出したとのことだが、襲撃して来た私兵はもう死体も残っていない。唯一残っているのは、フォグワース邸に投げ込まれた、骨を圧縮した塊だけ。この骨塊さえも、クロから言われなければ何だかわからなかったほどだ。

 クロ達に自白魔法が使えれば証明できるが、それはクロが許可しない。結局、「<赤鉄>がフォグワース夫人を殺害したのは、報復のためらしい」という噂と変わらない程度の調査結果しか得られなかった。

 王国としては没落寸前とはいえ、一領主の夫人が殺害されたのだから黙っていられない。しかしこれ以上の調査を強行するには相手が悪い。

 クロはフレアネス王国にとって、対帝国戦線の要であり、生産する地金も国の事業を大いに助けている。さらに言えば、クロ達は王国に属していないので、法で裁けない。結果としてこの件は保留となった。


 今回の件で、王国民は<赤鉄>の恐ろしさを認識することになった。

 王国の法に縛られない存在。それ故に、<赤鉄>と揉め事を起こすと、国は必ずしも守ってくれない。そして<赤鉄>は敵対者に対して一切の躊躇なく報復を行う。王国民がクロを忌避するようになる理由としては十分だった。触らぬ神に祟りなし、というわけだ。


 そんな王国の世論も、森に籠るクロ達には知る由もない。

 今回の事件がある程度王国に影響を与えるとは予想していても、あまり深刻には考えていなかった。

 ムラサキはともかく、クロとマシロは魔族になった時点で忌避されることを想定している。世論がどう動こうと気にしていなかった。

 いや、気にする余裕がなかった、とも言える。何しろ、忙しすぎた。

 まず1つは地金材料の入荷量増加だ。


「国家事業になるからテンション上がってるのはわかるが、ちょっと運搬量を減らしてもらえないか?」

「ええ?なんでだい。」


 クロが交渉している相手は、埋立地の材料運搬リーダーになる予定の男だ。埋立地の管理が正式に国家事業になったら、彼もまた正式なリーダーになる。現在はまだ仮のリーダーだが、すでに運搬の指揮を行っている。


「ウチの処理能力をオーバーし始めてる。これ以上運ばれても溜まるだけだ。」

「なんとか処理量を増やせねえかい?」

「・・・俺らが休まず処理すれば一時的には増やせるが、定常的には無理だ。俺たちは地金製造だけじゃなく、家事も土地の管理もやってるし、傭兵のとしての仕事もある。正直厳しい。」

「そうか・・・人手なら出せるが、どうだ?」


 確かに人手があれば、処理量は増やせる。金属操作は無理でも、工房の掃除や設備点検を手分けしてやれば、多少は時間が作れる。クロは一瞬、その案を検討するが、やはり却下した。


「んー、いや、やめておく。危険な仕事だしな。ウチの仕事に命かけるような奴はいないだろ?」


 工房に定常的にヒトを入れれば、原子魔法の秘密を少なからず知られることになる。原子魔法の情報が漏れれば、クロが持つ戦場におけるアドバンテージの1つを失いかねない。

 さらに、ヒトが自宅に来るのはクロにとってストレスの種だ。ただでさえ新型復讐魔法ですり減っているクロの精神には辛いものがある。

 したがって、危険であるという点を前面に出して断ることにした。もちろん、危険であることは嘘ではない。取り出した金属の中には毒もあるし爆発物もある。さらに工房内は粉じんが多い。吸い込んで肺を病んでしまう可能性がある。


「命って言われると、人は集まらねえだろうなあ。仕方ない。わかったよ。」


 埋立地のホームレス達は、底辺を味わっているとはいえ、投げやりでも無鉄砲でもない。むしろ命が惜しいからこそ、埋立地に住み着き、低賃金の仕事で食いつないでいたのだ。命を捨てる覚悟があるものなら、とっくに傭兵になっている。魔法の才能がなくても、銃さえあれば戦場には出られるのだから。最悪、軍からの銃のレンタルすらある。


「悪いな。処理能力増強については何か考えとくから。期待しないで待っててくれ。」

「ははは、そこは期待してくれ、って言うところだろう?」

「無為な希望を持たせるのは本意じゃない。」


 その後もいくつか相談した後、運搬担当者たちは帰って行った。いつも通り査定が終わった材料をクロとマシロで工房に運び込む。

 炉を運転する準備までやったら、いったん休憩だ。お茶を飲みながら一息つく。


「やれやれ、入荷の方が多くなっちまうとは。当面は埋立地と交渉して入荷量を調整していかないとな。」

「処理能力増強の案はあるのですか?」

「この炉を目いっぱい使えば、もう少し増やせる。しかし、またいつ戦場に呼び出されるかわからない以上、余裕を持っておきたい。」

「そうですね。」


 今もフル稼働によって、休業中に溜まった材料を少しずつ減らしているところだ。滞留分がなくなったら8割運転に戻す予定である。


「しかし、こんな調子じゃ、休日なんていつになることやら。」


 ムラサキが愚痴をこぼす。確かに以前、滞留分がなくなったら休日を設けると話していたが、急遽戦場に出てしまったため、また滞留分が増えてしまった。愚痴も出ようものだ。


「本気で何か考えないとな・・・だが、それより先に冬支度を済ませないとな。」


 処理能力増強も重要だが、直近の問題は冬支度だった。これが最近忙しい原因のもう1つだ。



 いつも通り地金製造を終えると、それぞれ行動を始める。クロが地金の調整と倉庫への運搬をしている間に、マシロは冬支度だ。

 工房を出たマシロは家のすぐ裏に向かう。うっすらと雪が積もった地面から、1本の細い木が生えている。しかし生きた樹木ではない。その形こそ木のようだが、色は真っ黒だ。これは炭でできた木だった。そばには先日運んできた炭材が山のように積んである。

 マシロは炭の木の前に座ると、意識を集中し始める。原子魔法による炭素操作で、炭材から炭を回収し、炭の木へ供給していく。

 少しずつ、丁寧に。できる限り多くの魔力を注いで、強靭に結合していく。ただ単に継ぎ足していくのではなく、本物の樹木の生長をイメージしていく。

 原子レベルの極細の炭素繊維をまるめて、細胞を模する。その疑似炭素細胞を、炭の木の内部に入れ、既に設置した疑似細胞とつないでいく。

 初めは1つ1つ疑似細胞を作っていたが、慣れるにつれ、まとめて大量に作れるようになってきた。それでも炭の木の成長は遅い。まるで本物の樹木の生長のように。だが、マシロは確かに自分の魔法操作精度の向上を実感していた。


 ・・・マスターにこれを指示された時は無謀だと思いましたが、意外とできるようになるものですね。この調子で作業速度を増していけば、あと数日で行けるはず。


 もはや服を編むのすら片手間でできるマシロが、全力で集中している。炭の木に興味を示して集まって来るスイーパー達を気にも留めていない。ひたすら、炭の木を成長させる。



 マシロが炭の木を成長させている間に、クロとムラサキは家の掃除だ。マシロが普段やっている家事を代わりに行う。

 客間とリビングを掃除しながら、クロとムラサキが雑談する。


「しかしお前もアホなこと考えるよなあ。家の雪除けとスイーパー達の住処づくりのために、デカい木を建てようなんて。それに付き合うマシロも大概だが。」

「建てるんじゃない。生やすんだよ。」


 今、マシロが育てている炭の木は、家の上を覆うくらいの大きい大樹にまで育てる予定だ。その頑強な枝葉で雪を受け止め、家を守る。

 しかしその雪除けはついでに過ぎない。本命はスイーパー達の住処づくりだ。

 9月末になるまで、この家は積雪にも耐えられると聞いて、冬支度は特に不要かと思っていた。しかし戦場に出る直前に、家の屋根に雪が積もったらスイーパー達の居場所がなくなることに気がついた。

 おそらく積雪で屋根に居られなくなったスイーパー達は、森の方に移動するだろう。そうするとスイーパー達の警戒の目が家から離れてしまう。それでは夜に安心して眠ることができない。

 そこで、スイーパー達の住処となる大きな木を、家の傍に建てて、もとい生やしてしまおうというのが今回の冬支度だ。


「しかし、なんでまた生やすなんて回りくどい方法なんだよ。適当に柱建てて止まり木を付ければいいんじゃないか?」

「そんな見るからに人工物な柱じゃ、スイーパー達が安心できないかもしれないだろ?それに、わざわざ木の生長をイメージして精密に生やすのにはわけがある。」

「どんなわけだよ。」

「真白の魔力を目いっぱい込めて、樹木と似た構造と作り方でできた炭の木。もしかしたら、本物の木のように振舞う、自我を持った存在になったりするかもしれん。魔法生物的な。」

「んな、馬鹿な。」

「やってみなきゃわからないだろ?実験だよ、実験。」


 まるでダメ元でやっているような言い草だが、クロは確信を持っている。自我を持つまではいかなくても、何らかの特殊効果は表れるのではないか、と。

 この世界の魔力は、意志に反応して集まり、意志に沿うように働く。故に生物だけが魔力を持つと考えがちだ。

 非生物にもわずかながら魔力があるように見えるが、これは自然に存在する所有者がない魔力と考えられている。しかし、クロの考えは違う。

 クロは、自然に存在する所有者の無い魔力、というものは存在せず、どの魔力も必ず何かしらの物体に宿っていると考えている。大気中に漂う魔力は、大気に宿っているのだ、と考える。そして、それらの魔力は、物体に宿ってはいるものの、所有する意思が希薄なために他の強い意志があるとそちらに移る、というわけだ。

 そう考える根拠は、魔法金属の存在だ。魔法金属は非生物にもかかわらず魔力が金属中に高濃度で留まっており、自我があるかのように性質を変える。クロの持論に当てはめれば、物体に宿った魔力が、その物体が自我を持ち、所有する意思を持ったために留まっているのだ、と考えられる。

 では何故、その非生物である金属が自我を持ったのか?クロの考えでは、魔力が集中した物体には、何かの拍子で自我が芽生えるのではないか、と推測している。その切っ掛けたる「何か」とは、これもクロの推測になるが、他の意志あるものから注がれた思念であったり、その物体にまつわる謂れであったりすると思われる。

 今回は、運んできた炭材に、マシロの「家を守る」という思念を込め、樹木と同じように扱って「この炭は木である」という意味を付け加える。さらに、炭材自体も、火の神獣が焼いて作った耐火魔木の炭、という謂れがある。

 このどれか、あるいはすべてが作用して、炭の木が魔法金属のように自我を持つ、とクロは予測している。


 ・・・どんな結果になるか、楽しみだ。実験でわくわくするのは久しぶりだな。そういえば、前世で研究職も経験してたっけか。朧げだが。


 そんなことを考えつつも掃除を進める。



「よし、客間の掃除、終わり。」

「早いな、おい。」

「慣れだよ。あと、どこまでやるかの線引きか。」


 ムラサキはリビングを掃除しているが、なかなか終わらないようだ。ムラサキはお気に入りの場所である厨房の掃除に時間をかけているように見える。そして、その延長でリビングも入念に掃除しているので、時間がかかっている。


「毎日の掃除は軽くでいいんだよ。隅々までやるのは時々でいい。」

「つっても、手を抜きすぎるとマシロがうるさいしよぉ。」

「あー、そこが難しいところだな。」


 クロとムラサキの目では綺麗になったように見えても、マシロはそうでないかもしれない。共同生活である以上、自分の基準だけでなく、仲間の基準にも沿わなければならない。


「まあ、ムラサキが納得できる程度にやってくれ。もしマシロに文句を言われても、自分が納得できてれば、いくらかマシだろ。便所掃除は俺がやっとくから。」

「悪いな、クロ。面倒なところ任せちまって。」

「お互い様だ、相棒。」


 そう言ってクロがトイレに向かおうとしたところで、ムラサキが呼び止める。


「待った。来客みたいだぞ?」

「敵か?」

「いや、普通に歩いて来てるから、違うんじゃないか?」


 マシロなら敵意を嗅ぎ分けるから客が敵かどうかすぐに判別できるが、今はマシロは炭の木に集中していて、索敵をしていない。ムラサキの感知では、客の感情や敵意までは読み取れない。ついでに個人識別ももっと近づかないとできない。


「いや、まだわからん。俺が応対しよう。」


 クロは客を出迎えるべく、玄関へ向かう。敵だった場合に備えて、「黒嘴」を持って行った。



「なんだ、スミレか。」

「お久しぶりですぅ。」


 警戒して家を出たクロだったが、玄関まで出た時点で魔力視で客を確認できたため、警戒を緩めた。

 来客はスミレ。大した用事もなく訪れることもある奴だが、今回の用事は想像がつく。


「フォグワースの件か?」

「はいぃ。一応、調査に。」

「この間来た連中に話したので全部だがな。」


 事件直後に調査に来た兵士に、クロは事のあらましを洗いざらい話していた。故に、改めてスミレに尋ねられても、同じことしか話せない。


「わかってますよう。私が来たのは、まあ、建前ですぅ。」

「建前?」

「クロさん、自白魔法での証明を断ったでしょう?」

「当たり前だろ。」


 自白魔法『フォース・コンフェス』は、対象の理性を麻痺させて、質問に正直に答えさせる魔法だ。事件の証明には便利だが、事件に関係ない秘密までついでに聞き出されてしまう可能性が高い。

 だからこそ自白魔法の使い手は選別され、尋問官という免許が必要になる。また、尋問官も自白魔法の私的利用は禁止されている。目の前のスミレは、尋問官の免許を持っていながら、割と平気で私的利用しているが。

 したがって、クロ達が自白魔法を受けた際、事件に関することだけを聞かれるかどうかは、尋問官を信用できるかどうかによる。世間的には尋問官は信用ある職業だが、クロからすれば、スミレという事例がある以上、信用できない。


「一応、言っておきますけどぉ。犯罪者には問答無用で自白魔法が使えるんですよぉ。そして、貴族殺しは重罪です。」

「それはそっちの国の法律だろ。俺は知らん。」

「いくら余所者だって、王国内では王国の法に従うべきですよぉ?」

「俺らは魔族だから、王国の法は適用されないだろ。」

「・・・武力行使って手もあるんですよぉ?」

「やってみればいい。俺ら抜きで帝国を潰せるならな。」


 クロは堂々とかかってこい、という姿勢を見せるが、内心では不安がある。

 確かに王国の地金供給の一部を担い、戦場でも主力となっているクロだが、王国の戦力をすべて把握しているわけではない。もしかしたらクロなしでも勝算があるかもしれないし、最悪、国王がここに乗り込んでくれば、抗う術はほぼない。

 とはいえ、ここで弱気になって下手に出るわけにもいかない。クロもまた、小規模とはいえ、一国の主だ。王国と対等であるという姿勢を維持しなければならない。

 そんなクロの内心の覚悟など気にも留めないスミレは、ふう、とわざとらしく溜息をつき、お手上げのポーズをとる。


「ほらぁ、こんな感じですぅ。」

「はあ?」

「こんな感じで、王国はクロさんに手出しできない状態なんですぅ。貴族殺しの重罪人を、裁くどころか碌に調査もできていない。王国の利益だけを見れば、目をつむってもいいのでしょうが、メンツが立ちません~。・・・国民からの信頼と言い換えてもいいですぅ。」

「なるほど。で、ちゃんと調査してますよアピールのためにスミレを寄こしたわけか。」

「はいぃ。これでも私、二つ名持ちの実力者ですからぁ。実力もあり、クロさんとの面識もある。そういう人材を調査に送り込んでいる、と言えば、とりあえず何もしていない、ってことにはなりませんからぁ。」


 確かに法治国家で罪人が裁かれなくなったら、国民は法律を信頼できなくなってしまう。そうすれば、国が乱れることになる。法律とは、それに従う人々がいるから価値があり、機能する。法を信じて従う者がいなくなれば、あるいは少数派になれば、法律はただの文章に成り下がる。そして、社会を成り立たせるためのルールが機能しなくなれば、社会が崩壊する。


「大所帯は面倒が多いな。」

「社会ってそういうものでしょう~?」

「だから、俺は社会から抜け出して、ここにいるんだがな。」

「そう考えると、ちょっと羨ましいですねぇ。」

「いいことばかりじゃないぞ。」


 社会から抜け出したクロは、法に縛られることはないが、同時に法に守られる事も無い。誰からどんな攻撃を受けても、警察も軍も動かない。すべて自分で対処しなければならないのだ。

 例えば、クロが王都で買い物中にスリにあったとする。それでそのスリから逃げられた場合、クロは何の保証も受けられないし、そのスリも罪に問われない。

 他にも、買い物で不当に高い値段で物を売られても、その店主を訴えることはできない。また、クロが王国民と喧嘩をした場合、クロは法的にヒト扱いされないので、野生の獣と同じだ。野生の獣がヒトを傷つけたら駆除対象になる。つまり、クロだけが一方的に警察や軍から追われても文句は言えない。


「法に守られないから、自分の身は自分で守らなきゃいけない。・・・まあ、スミレならできるかもしれんが。」

「ええ。以前、犯罪者として王国に追われていた時は、何年か野生化してましたからねえ~、私。」

「マジか・・・」


 パッと見、お淑やかではないが、文学少女と言った外見のスミレ。そんな彼女が年単位で野生を生きた経験があるとは、意外だった。


「詳しく話しましょうかぁ?」

「別にいいや。犯罪ってのも、大体想像つくし。・・・用件は終わりか?」

「そうですけどぉ。ちょっと時間潰させてください~。あんまり早く帰ると、調査をサボってると疑われるのでぇ。」

「実際、サボってるけどな。」

「クロさんは、その方がいいでしょう~?」

「まあ、そうだが・・・ま、とりあえず中へ、どうぞ。」

「お邪魔しま~すぅ。」


 立ち話も何なので、客間に通した。ムラサキは未だスミレが恐いのか、距離を取っていたが、クロから茶を出すように頼まれて、渋々お茶の用意をした。


「ほら、緑茶。」

「ありがとうございますぅ、ムラサキさん。・・・そんなに怯えなくても、襲い掛かったりしませんよぉ。」

「信用できるかっつーの!」

「ひどいですねぇ・・・あ、お茶おいしい。」


 ムラサキはスミレに茶を出すなり、すぐさま距離を取る。

 以前、自白魔法をかけられたり、追い回されたことがトラウマになっているようだ。


「来客用のいい緑茶だ。普段は安物ばっか飲んでる。」

「へぇ~。そういえば、マシロさんは?」

「裏で仕事してる。忙しいから、ちょっかい出すなよ。」

「ほうほう。マシロさんが、裏で・・・」


 ガタッと音がしそうな勢いでスミレが立ち上がる。


「おい、邪魔するなって言ったろ。」

「見るだけですぅ。見るだけ。」

「ただの冬支度だ。見るものなんかないぞ。」

「クロさんちの冬支度とか、絶対普通じゃないですぅ!是非、見たいですぅ!」

「まあ、普通じゃないのは確かだな。」


 ムラサキがスミレの言葉に同意したのが契機だった。

 辛抱堪らんとばかりにスミレはダッシュで玄関に戻り、外へ出た。


「しょうがねえな。まったく、お茶ぐらい飲んでから行けよ。」


 仕方なくクロがその後を追い、外へ出る。


 家の裏手に行くと、スミレの接近すら意に介さずに、マシロは集中していた。意外にもスミレも黙ってじっとマシロを観察している。

 クロが近づくと、スミレはマシロから目を逸らさずにぼそりと言う。


「邪魔はしてませんよ?」

「・・・みたいだな。」


 その一言が、普段の間延びした口調と異なる気がしたが、一言だけでは判別できない。とりあえずスルーした。


「すごいですねぇ。こんな小さな木・・・木?にこれほど濃密に魔力を込めていくなんてぇ。王城の外壁にだってこんなに魔力を込めませんよぉ?」

「それは術者の実力次第だろう。マシロだからこんなにできるんだ。」

「ほうほう。で、これなんて魔法ですかぁ?」

「秘密。魔族が作った、オリジナルだな。」


 嘘は言っていない。マシロが使っているのは原子魔法で、それを作ったのはクロだ。


「羨ましいですねえ。オリジナル魔法ですかぁ。私にも作れますかねぇ?」

「できるとは思うが、やめといたほうがいいぞ?神に睨まれることになる。」

「あ~、それはつらいですねぇ。」


 流石のスミレも、神にまで逆らう気はないようだ。

 そんな感じで雑談を数時間交わした後、スミレは王都に帰って行った。

 こうして、クロのフォグワース家襲撃事件については、スミレが定期的に調査に来ることで、「調査中」の状態を維持することになった。


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