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選べるなら、人間以外で  作者: 黒烏
第3章 黄色の鳶
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104 襲撃者

鍛錬しつつの帰宅を始めて5日目の昼。ようやく自宅が近づいて来た。


「もうすぐだな・・・」


 流石にクロも疲労の色が見える。アカネとムラサキはもうふらふらだ。マシロは平気そうに見えるが、ここ数日ムラサキをからかう事も無い。余裕がないのが見て取れる。魔族に肉体的な疲労はないが、長時間の集中を強いられれば。精神が疲れる。

 この5日間の鍛錬でムラサキは一番の伸びを見せた。初日は途中で魔力が足りずにダウンしていたが、徐々に長時間走れるようになり、昨日は朝から野営までダウンせずに走れた。

 アカネも成長著しい。途中何度も魔獣を見かけたが、半分以上はあちらに見つかる前に気づいて、接触を避けることができている。経験を積むごとにマシロの判断を仰がずに敵の強さを見切れるようにもなって来た。索敵範囲も広がっている気がする。

 戦闘になった時にも、立ち回りが上手くなってきた。炎魔法による遠距離攻撃と、炎属性の強化魔法を使った近接攻撃を相手によって使い分け、有効と見れば闇魔法で翻弄する。移動中のアカネの食事は、アカネが自分で狩った分だけ、と決めていたのも大きい。飢えがアカネを真剣に必死にさせたのが、この成長を促したと言える。

 マシロはそんなアカネを終始心配そうに見ていた。マシロの索敵範囲はアカネよりずっと広いので、マシロからすれば、とっくに見えている敵にアカネがまだ気づかないというもどかしい状況を何度も体験したはずだ。よくギリギリまで手を出さずに耐えられたと思う。クロも同様だったからわかる。


「やっと・・・休める・・・」

「クウ・・・」


 へとへとのムラサキとアカネが力なく声を発する。本当に限界そうだ。

 そんな2人にマシロはきっぱりと言う。


「まだ気を抜いてはいけませんよ。もう少しというところで油断すれば、思わぬ落とし穴があるものです。」

「そうは言うが、もう領地内だろ?大丈夫だって。」


 ムラサキの意見も誤りではない。現にクロの領地が近づいてからは魔獣との接触はなかった。自宅に近づくほど安全なはずだ。

 とはいえ、マシロが言うことももっとも。そしてクロはマシロよりの考え方だ。


「いや、マシロの言う通りだ。油断はしない方がいい。」


 クロがそういうのと同時、噂をすればというか、魔獣の群れが前方から近寄って来た。

 一早くそれに気づいたクロ。アカネの鍛錬のために今まで通り無視しようとしたが、その魔力に見覚えがあったため、声を漏らす。


「スイーパー達?」

「え?」


 ムラサキが確認するようにクロを見ると同時にマシロも感知できたようだ。


「本当ですね。ウチのスイーパー達です。なぜこちらへ・・・」


 訝しむクロ達のもとに、続々とスイーパー達が集まって来る。

 初めは狩りに出た班がクロ達に気がついて挨拶に来たのかとも思ったが、それにしては数が多い。どうもクロの家に住むスイーパー全員が来たようだ。


「何があった?」

「カア!カア!」


 ひと際大きいリーダーのスイーパーにクロは声をかける。クロにはスイーパーの思考はわからないが、その声が救援を求めるものだということはわかった。


「家の方を気にしているようですが・・・」


 マシロの言葉で、家に外敵が来たと予想がついた。しかし、言葉が通じないため、どんな敵かはわからない。


「やれやれ、本当に最後の最後で面倒ごとになったな。」

「例の神獣でしょうか?」


 鍛えてからまた来る、と言っていた雷の神獣。それが今来たのであれば最悪だ。今はとても万全とは言い難い。敗北は必至だろう。


「そうだとしたら、帰る前にここでできるだけ休んでから家に向かうべきだが・・・」

「え~。自宅を目の前に野営かよ。」

「クウン・・・」

「しょうがないだろ。これで本当に例の神獣だったら、のこのこ殺されに行くようなもんだ。」


 文句を言うムラサキに、哀し気なアカネ。クロが説得しようとするが、2人は不満を抑えきれない様子だ。

 前半休憩時間があったムラサキはともかく、ひたすら警戒し続けたアカネは限界だ。野営では十分に気が休まらないだろう。すぐ近くに未知の敵がいるという状況も緊張を強いる。

 見かねたマシロが進言する。


「マスター、私が様子を見てきましょう。」

「・・・すまん、頼めるか?」

「お安い御用です。」

「あ、荷物は置いて行っていいぞ。俺たちはここで待ってる。」

「かしこまりました。」


 背中の大量の炭材を下し、マシロは家に向かって走り去った。クロはマシロが向かった方向をじっと見て立つ。炭材は地面に下ろした。ムラサキも地面に荷物を下し、アカネともどもぐったりと地面に横たわる。


「疲れた~。」

「クウ~。」

「敵によっては戦闘になるかもしれん、今のうちに休んどけ。」


 そうしてクロはマシロが戻るまで見張りを続けた。



 数分後、マシロが戻って来る。


「どうだった?」

「神獣ではありませんでした。見知らぬ獣人が10人ほど。家の中に入ろうとしているようです。」

「獣人?」


 クロの予想としては、住処を求めてどこかから流れて来た魔獣あたりかと思っていたが、違ったようだ。


「狩人・・・ではないよな。俺の家に来てるってことは。」

「ええ。剣呑な雰囲気でした。殺気立っていましたね。」

「実力のほどは?」

「大したことはありません。我々が家に立て籠もっていると思い込んでいるようでしたし。」

「なんだそりゃ。」


 クロは出発前に戸や窓に金属板をはめて戸締りをした。魔獣が侵入しないようにするための戸締りだったが、それが防衛のための物だと勘違いしているらしい。隙間なくはめてあるため、外からは家の中を魔力感知でも見られないからい仕方ないかもしれないが、結果を知っていれば何とも間抜けに見える。


「埋立地経由で王国は俺らの不在を知ってるはずだから、国が差し向けた連中じゃなさそうだな。」

「王国とは敵対してないんだから、それはハナからないだろ?」


 ムラサキはそう言うが、クロはあらゆる可能性をとりあえずは検討する。


「念のためだよ。・・・そうすると、単に魔族嫌いか、私怨か。まあ、聞いてみればいいか。よし、全員、荷物を持って出発。」

「はい。」

「おう。」

「キャン!」

「「カア!」」



 クロの家の前。10人の獣人がたむろしている。手持ちの武器を使って、戸にはまった金属板を外そうとするが、隙間がないため、びくともしない。


「くそっ!引き籠りやがって!出てこい魔族!」

「この腰抜けめ!勝負しろ!」


 屈強な男たちがガンガンと戸にはまった金属板を叩いて罵詈雑言を叫んでいる。


「さっきも言ったが・・・なんだ、あれ。」

「ひどい言いようですね。」

「あれ、誰もいない家に向かって叫んでるんだろ?馬鹿みてえ。」

「馬鹿みたいなんじゃなくて、馬鹿なんだろ。」


 そんなことを言いながら、のしのしとクロ達は荷物を担いで歩いて行く。叫ぶ男たちはクロ達になかなか気づかない。

 結局、すぐ後ろに立たれるまで、彼らは気づかず、ここまで近づいてからようやく「うおっ」と声を上げて驚いた。


「「はあ~。」」


 クロとマシロが同時に溜息をつく。いくらなんでもこれは無警戒過ぎる。敵地に居ながら、敵に真後ろまで近づかれるまで気づかないとは。


「な、ど、どこから出てきやがった!」

「どこからって・・・ああ、最初から外にいたぞ。出かけてたんだよ。」

「「・・・は?」」


 どうも状況がいまいちの見込めていない様子の男たち。

 仕方ないのでクロは荷物を適当な場所に下ろしながら、彼らが理解するのを待つ。マシロもムラサキも同じ場所に荷物を下し、マシロは『変化』で獣人形態になる。その『変化』を見て、ようやく男たちが動き出す。


「あ、そ、そうだ!俺たちは悪魔を成敗しに来たんだ!」

「覚悟しろ!魔族め!」

「なんで?」


 剣を構え、殺気立つ男たちに、クロは荷物を確認しながらのんびり尋ねる。もう警戒する気すら起きない。


「なんでって、そりゃ、侯爵様の・・・」

「あ、ばか!しーっ!」

「侯爵?」


 クロは侯爵と聞いてもピンと来ない。逆にマシロは合点がいったとばかりに言う。


「なるほど。フォグワース侯爵の手の者ですか。」

「フォグワース?」

「お前、相変わらずヒトの名前は覚えられないのな。ほら、窃盗団とつながってた貴族だよ。国王に処刑された。」

「あー、あれか。」


 ようやくクロは思い出した。確かにあの侯爵が処刑された原因は、クロ達が窃盗団を討伐したことと言えなくもない。言ってしまえば、窃盗団とつながっていたフォグワース侯爵の自業自得であるのだが、当事者たちは納得いかないのだろう。

 実際、納得いっていないようで、男たちは騒ぎ始めた。


「ばれてしまっては仕方ない。そうだ!俺たちは侯爵様の私兵だ!」

「自分でばらしたんだろ・・・」


 クロのツッコミは聞き流されたようだ。


「侯爵様は民想いの立派な方だ!犯罪などするわけがない!」

「そうだ!悪魔に陥れられたに違いない!」

「俺らは窃盗団を討伐しただけなんだが・・・」


 もし陥れたのだとすれば、窃盗団とのつながりの証拠を上げた、王国の調査部隊だろう。クロ達に恨みを持つのはお門違いだ。

 とはいえ、クロ達には魔族という悪評がついて回っている。こういう言いがかりをつけられるのは予想できることだった。


「しょうがないな。で?勝負するって?決闘か?」

「ふん!貴様のような悪党に由緒ある決闘など必要ない!まとめて我が剣の錆にしてくれる!」

「叩き潰してやるぜ!」


 男たちはそれぞれ武器を構える。1対1の決闘という雰囲気ではない。


「集団でかかるのこそ悪党っぽいが・・・」

「マスター、片付けますか?」


 マシロが両手に「黒剣」を持って問う。確かにこの程度の奴らならマシロ1人で十分だろう。しかしクロは首を横に振る。


「向こうはまとめてやりたいみたいだからな。全員でやろう。」

「何をごちゃごちゃと!行くぞ!」


 斬りかからんと一歩踏み込んだ先頭の男が、直後、真後ろに吹っ飛ぶ。家の扉の金属板に激突して、気を失った。


「「へ?」」


 その男を反射的に目で追った周囲の男たちが、間抜けな声を出す。その男たちの目の前、吹っ飛んだ男がさっきまでいた場所には片足を前に伸ばしたマシロがいた。

 マシロはゆっくりと足を下しつつ言う。


「ルール無用の殺し合いならば、行くぞ、などという掛け声は不要です。」

「なっ・・・」


 慌ててマシロに剣を向けようとする男たち。そこへクロがのしのしと近づき、無造作に納刀したままの「黒嘴」を振るった。


「ぐげっ!?」


 それが首に当たった男が奇声を上げて転がる。首の骨が折れていた。

 それに他の男たちが反応する間もなく、今度は別の位置にいた数人が突然倒れる。


「魔力が集まってることぐらい気が付けよ。」


 ムラサキの窒息攻撃だった。

 また別のところにいた男は、隙を突かれてアカネの攻撃を受けていた。闇魔法『ブラインド』で視界を奪い、火球を飛ばして攻撃。さらに火球で怯んだところへダメ押しの噛みつきが喉に決まった。

 その隣では、多数のスイーパー達の波状攻撃を受けて倒れる男。目や耳など、徹底的に急所を攻撃され、反撃もままなっていない。

 残りはマシロが一瞬のうちに首を刈り取って終わった。


「鍛錬の仕上げの実戦、と思ったが、弱すぎて鍛錬にもならんな。」

「実戦経験不足ですね。無駄なことに気を取られ過ぎです。」


 そんな批評をしながら、クロとマシロは、最初に蹴っ飛ばしたリーダー格の男に近づく。気絶した男をクロは片手で持ち上げると、無造作に横に投げ捨てた。家に入るのに邪魔だっただけだ。

 魔法で戸にはめた金属板を外していると、投げ捨てた衝撃で男が目を覚ました。


「う?」

「お、起きたか。せっかくだから尋ねるが、これはお前らが勝手にやったことか?それとも誰かが指示したのか?」

「わ、我々が勝手にやったことだ!」

「ふうん。」


 クロは疑わしそうに男を見る。上半身だけ起こした状態の男の前に、クロはしゃがんで目を合わせる。途端に男は蒼褪めた。


「なんで10人だけ?」

「き、貴様など、我が軍の精鋭10人で十分だ!」

「嘘だな。」


 目を合わせたクロはある程度相手の感情が読める。真偽の見極めくらいは可能だ。

 そこへマシロが口を挟む。


「窃盗団を使って金銭を得ようとするほどです。フォグワース領は裕福ではないはず。私怨のために大勢を動かす余裕はないのでしょう。」

「なるほどね。」


 クロはさらに力を込めて睨む。男はもう今にも失禁でもしそうなほど怯えている。


「で、本当に自分たちの判断できたのか?」

「・・・・・・」


 その反応から、誰かの指示できたことがわかった。しかし、これだけ怯えていても依頼主を喋る気はないようだ。


「まあ、お前らが来てる時点で、侯爵の関係者なんだろうが・・・誰が依頼したのか、はっきりさせておきたいなあ?」

「・・・・・・」


 口を閉ざして黙秘する男。しまいには目を閉じた。こうなるとクロは感情を読み取れない。


「やれやれ、大した忠誠心だ。感動的だな。」


 そう言ってクロは立ち上がり、男から離れる。男がほっと息をつくのがわかった。

 そしてクロは家に入ると、またすぐに出て来た。手には分厚い魔導書を携えている。


「だが、ウチの領地に危害を加えるなら、容赦できん。なんとしても喋ってもらおう。」


 クロはそう言って、ムラサキが気絶させた男を1人、強引に起こす。


「ぐっ・・・」

「誰に指示された?」


 クロに問われた男は、怯えつつもリーダー格の男に視線を向ける。リーダー格の男は首を横に振った。それを見た男は、固い意志を持った目でクロを睨み返す。


「だ、誰が言うか!」

「そっか。」

「つっ!ぎゃあああああ!?」


 クロの手首から出た隠し剣が、男の手首を貫いていた。血がぼたぼたと流れ落ちる。余りにもあっさりと行われた拷問に、リーダー格の男が蒼褪める。

 クロは何の感慨も湧かない顔で、再度問う。


「で、誰に指示された?」

「うう、ぐうう、だ、誰が・・・」

「そうか。『圧殺』」

「いぐぶぇ!?」


 喋っていた男が、突然内側に向かって潰れた。大量の血、肉、内臓が飛び散り、雨のように降り注ぐ。さっきまで男がいた場所には、白と赤の丸い塊だけが残った。


「抗魔力が低いな。素で体内に魔力が通せるほど弱いとは。これで精鋭とか笑わせる。ほれ。」


 そう言うとクロは白と赤の塊をリーダー格の男の目の前に投げる。それは地面に落ちてコロリと転がった。


「ひいぃ!?」


 リーダー格の男が怯える。すでに失禁していた。そんな男を余所に、周囲に飛び散った肉片をスイーパー達が啄み始めた。

 クロが今やったのは自作の原子魔法『圧殺』。指定の元素を、指定の場所に一気に集める。今指定した元素はカルシウム。男の体内の骨に魔力を通し、実行した。

 クロは潰れた男の抗魔力の低さに呆れていたが、実は彼らの抗魔力は決して低くない。クロの魔法出力が高いことと、彼がクロに怯えて精神的に弱っていたために一時的に抗魔力が低下していたのが原因だった。クロの魔法制御力は、復讐魔法『ヴェンデッタ』の常時発動による底上げもあるが、度重なる限界までの魔法の使用で、基礎能力が向上していたのもあった。


 クロはそのまま、残った男たちを同じ手順で潰して行った。先に潰れた者の末路を見ていない男たちは、皆一様に口を閉ざし、潰された。

 そしてリーダー格の男以外を全員殺してから、クロはリーダー格の男の前に戻って来た。


「で、誰に指示された?」

「ミ、ミラルバ様・・・侯爵の、第一夫人、だった方だ。」


 クロはマシロに視線を向ける。意図を察したマシロが答える。


「嘘ではないようですね。」

「そうか。第一夫人ね。面倒な・・・」

「申し訳ありません、奥様・・・」


 男は力なくそう零した。我が身可愛さに主を売ってしまった。それを謝罪しているのだろう。

 クロは立ち上がり、そんな男にあっさりと告げる。


「まあ、謝罪はあの世でゆっくりやればいいよ。あの世があればだけど。」

「・・・え?」


 戸惑う男を余所に、クロは「黒嘴」を抜く。


「み、見逃してくれるんじゃ!?」

「ん?そんなこと言ったか?」

「言ってないですね。」

「ちょ、ちょっと待っ・・・」

「じゃあな。」


 男の言葉を聞き流し、クロは男をまっすぐ縦に斬りつぶした。


命を狙ってきた者に対するクロの対応は、相手がヒトか否かで大きく変わります。ヒトに厳しく、人外に優しいスタイルです。

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