T04 未来都市
テツヤは目の前の光景に唖然としていた。
灰色のビル群。コンクリートで固められた平坦な地面。交通量は少ないが、道路を行き交う自動車。信号まで整備されている。どうみても前世の世界の光景だった。
・・・東京?いや、それにしちゃ人が少ないか。仙台とか、そんなところ?
そんな感想を抱きながら、呆然とテツヤは街を見渡す。そして、そのテツヤの顔をニヤニヤと笑いながら覗き込むセレブロに気がつく。
「なんだよ。」
「まるで前世に戻ったみたい、って顔ね。」
「そりゃあ、こんなの見れば、そう思うだろ。」
「そうね。私も初見ではそうだったわ。」
テツヤたちがいるのは、未来都市ザーフトラスクだ。帝国の最先端技術はここで開発されている。テツヤも帝都に居ながら密かにここの博士と連絡を取り、こっそり最新装備を送ってもらっていたが、実際に来るのは初めてだ。
入口から街を眺めるテツヤとセレブロに続いて、メーチとビャーチも街に入って来た。
「ほう、ゾル達の前世はこんなに発展しているのか。」
「・・・・・・すごい。」
テツヤ程ではないが、2人も未来都市の様子に驚いている。
それも無理はない。街は高い城壁に囲まれていて、外からはよくある城塞都市にしか見えない。しかし門をくぐれば、こうして景色が一変するのだ。
4人そろったところで、全員目的地に向かって歩き始める。先導は目的地を知っているセレブロだ。
「しかし驚くほど警備がザルだったな。」
「ここの研究者たちがせっかちでね。実験材料を可能な限り早く入手しようとして、検問の手続きを簡略化したのよ。出るのは厳しくチェックされるけど、入るのは簡単。」
「そんなので良いのか。」
「帝国としては、最新技術の漏洩さえ防げればいいんでしょう。ま、その最新技術すら、博士にかかればこっそり持ち出せるみたいだけど。」
出るのを厳しくチェックしているはずなのに、テツヤ達には博士からアンチマテリアルライフル等の最新装備の試作品が提供されていた。
「やっぱザルじゃねえか。」
「私たちにとってはありがたいでしょ?」
「そうだけど・・・まあ、いいか。」
「・・・・・・敵の事情まで心配するなんて、ゾルは変。」
「そうかなあ。」
ビャーチには変だと言われたが、テツヤはそうは思わない。そもそもテツヤは帝国を敵だとは思っていない。帝国を滅ぼしたいのではなく、変えたいのだ。
話している4人に前方から自転車が近づいてくる。まったくスピードを落とす気配がない。4人はさっとそれを回避する。
「完璧すぎる認識阻害も考え物だな。」
「こっちが避ければいいだけでしょ。私はもう慣れたわ。」
セレブロは今、4人全員に認識阻害魔法『ソリチュード』を使用している。だから、自転車は4人に気付かなかったのだ。
「でも、結構新しいデザインの自転車だったな。」
「ここは最新技術の試験場も兼ねてるからね。あれも新開発のものなんでしょう。」
「・・・・・・結構スピード出てた。便利そう。」
「しかし、あの手の物は凹凸に弱そうだ。この街は地面が平坦だから便利に見えるが、外ではどうであろうな。」
そんな雑談をしながら4人は歩く。
その途中、テツヤは道端の電話ボックスに気がついた。
「へえ。この街は公衆電話まであるのか。」
テツヤがそんなことを言った瞬間、その公衆電話がジリリリと鳴り出した。
「何の音だ?」
電話の音に聞き慣れていないメーチとビャーチは警戒する。対してテツヤとセレブロは困惑した。
「公衆電話にかけるって、できるんだっけ?」
「可能ではあるけど・・・誰につながるかもわからないのに、誰がこんなところにかけるのよ。」
そこでテツヤはピンと来た。
「ああ、多分、俺宛だ。ちょっと出て来る。」
「え?」
戸惑うセレブロを置いて、テツヤは電話ボックスに入って受話器を取る。
「もしもし。」
「テツヤか。」
電話から聞こえてきたのは、電話越しで少し変わって聞こえるが、随分懐かしい声だった。
「神託を寄こすとか言いながら全然連絡がないから、無視されてんのかと思ったぜ、神様。」
「ちょうどいい通信手段がなくてな。だが、この電話なら通信もしやすい。」
電話をかけて来たのは雷の神だ。雷の神子であるテツヤに神託を与えることがあると転生時に言っていたが、今まで連絡がなかったのだ。
「で、何の用だ?」
「特に用はない。ただ、今後はこういう手段で連絡を取るということを伝えておくべきだと思ってな。」
「へえ。ところでこれ、どうやってるんだ?まさかこの都市にいるわけじゃないだろ?」
「当然だ。魔法でかけている。」
「そんな魔法もあるのか。」
「何を言っている?ただの『サンダーボルト』だぞ。」
「はあ?」
テツヤの知る『サンダーボルト』は、指定の場所に魔力を送って、それを電気エネルギーに変換して電流を流し、敵を攻撃する魔法だ。間違っても電話をかける魔法ではない。
「わからんのか?細かく電流を流して、ON/OFFや強弱を一定の法則で変えてやれば、機械の操作など容易かろう。」
「あ、なるほど。」
「とにかく、今後は電話などを使用して連絡するからな。話は以上だ。」
ブツッと電話は乱暴に切れた。しかしテツヤはそれに文句を言う気も起きず、むしろ感動していた。
電話ボックスから出て来たテツヤに、セレブロが心配そうに話しかける。
「誰だったの?」
「ん?ああ、雷の神。」
「え?まさか神託?電話で?」
「ああ、電話で。すげえよな。『サンダーボルト』で細かく電流を流して機械を操作したんだってよ。いやー、その発想はなかったわ。俺もやってみようかな!」
テツヤは機械いじりが大好きだ。それにまさか魔法が活かせるとは。テツヤは早く実践したいと意気込む。
そんなテツヤをセレブロは呆れたように見る。
「はあ、ゾル。そんな精密な雷魔法ができるのは、神だからよ。人間にそんな真似できるわけないじゃない。」
雷の神がやって見せたのは、機械の中を流れる無数の電気信号を、手動で打ち込むようなものだ。とても人間業ではない。
しかし諦めきれないテツヤは悩み続ける。
「そうかなあ。いや、やりようによっては・・・」
ぶつぶつと考え事をするテツヤを見て、3人は呆れて溜息をつく。こうなったらテツヤはしばらく考え込んだままだ。
仕方ないので放っておいて先に進むことにする。
「で?セレ。目的地はどこなのだ?」
「この都市はさっきも言った通り、研究者たちの実験場だから、次々新しい建物が建てられるの。そのせいで空き家も多い。<夜明け>の皆はそこに分かれて潜んでるわ。」
「・・・・・・それは好都合。」
「そ。だから、私たちもそのうちの一軒に入る。ただ・・・」
セレブロがちょっと憂鬱そうな顔をして間を置く。
「ただ、なんだ?」
「・・・博士の希望で、博士の家のすぐそばになっちゃったのよ。」
「・・・・・・面倒ごとの予感。」
「・・・うむ。」
そうして憂鬱な3人と、新たな技術について悩むテツヤは、隠れ家へと向かった。
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ライデン帝国の帝都ライデングラード。その中央には堅固な要塞がある。ここには様々な重要施設が集められている。軍を統括する参謀本部、経済・農業などの各省庁、そして皇帝を始めたとした首脳陣の居住区。まさに帝国の心臓部だ。人体で言えば、頭に相当するかもしれない。そのため、ここはガラヴァーと呼ばれている。ロシア語で頭という意味らしい。
その中の会議室の一つで、重大な会議が行われていた。第2次モスト川の戦いの事後処理についてである。言い方を変えれば、この戦争での反省と、損失の穴埋め方法の相談だ。
「だからよぉ~、誰だよ、橋で密集陣形なんてさせた奴は!」
軽い口調で参謀本部の老練な将校たちを非難し、睨むのは、茶髪の若い男。
外見は若いが、実年齢は40過ぎ。しかし、軽い口調と態度、そして後方勤務にもかかわらず前線で戦う軍人のように引き締まった肉体が、年齢を感じさせない。
彼の非難に、一人の将校が答える。
「私だ。橋は何としても死守する必要があったから、多くの兵を動員した。何か問題があったのか?」
「アホかてめえは!いつの時代の戦法だよ!せっかく連射が効く最新式の銃持ってんのに、密集しても意味ねえだろ!むしろ魔法攻撃のいい的だ!」
「な!アホとはなんだ!」
「阿呆にアホと言って何が悪い!てめえがアホな指示を出したせいで、新兵100人以上に加えて優秀な指揮官まで失っちまったじゃねえか!」
彼がこんな物言いを許されているのは、彼が軍師と呼ばれ、これまで大きな戦果を上げて来たからだ。
彼は異世界人であり、異世界の戦略知識を持っていた。さらに、柔軟な思考を持ち、魔法の性質も理解して、それに対応する策まで考案した。彼のおかげで、彼が現れた7年前から昨年まで勝ち続けて来られたと言っても過言ではない。正直なところ、彼が現れる直前は、対フレアネス戦線は力押しでは進めない状態に陥っていたのだから。
彼が台頭したのは7年前の第1次モスト川の戦いだ。フレアネス王国のロクス軍が守るモスト川を、帝国はなかなか攻め落とせず、苦戦していた。そこへどこからともなくガラヴァーに現れた彼が、皇帝に直接進言したのだ。「落とせないところは無視して、他から攻めればいい」と。
当時の参謀将校はその提案を鼻で笑った。西のモスト川を放置して進めば、戦線が南北に延びてしまう。すると当然、モスト川に当たる軍が少なくなる。そこを逆に攻められたらどうするのか、と。
ところが皇帝はこれを採用。そしてその策は見事に当たる。なんとロクス軍は川から進行して来なかったのだ。それどころか王都側との分断を恐れて撤退。モスト川は容易く落ちた。
その時、ある将校が軍師に聞いたそうだ。「なぜロクス軍が攻めて来ないとわかったのか」と。すると軍師はこう答えた。「連中は川を水魔法で操って戦っていた。何年も防衛できていたのは地の利があったからだ。それを捨ててまで攻め込んで来たりしない。」と。軍師は現場を見て判断していたのだ。しかもその後にわかったことだが、いつの間にか軍師は現場の者たちに細かくアドバイスしていたようだ。ロクス軍が攻めて来ないように、モスト川が手薄になったことを隠すように、と。具体的には、必要以上の物資を運びこんでみたり、夜には多めに篝火を焚いたり。とにかく実際にいる人数より多くいるように誤認させたそうだ。
その戦功が認められて、軍師は今や参謀本部の会議に特例で参加できる身分にまでなっている。将校たちは反対したが、皇帝の鶴の一声で決まったそうだ。
そして現在。軍師に非難された将校は苦し紛れに答える。
「兵士100人くらいなんだ!替えなどいくらでもいるではないか!」
「言いやがったな、このアホ!兵士一人育てるのにいくら金と時間がかかると思ってやがる!」
「ぐっ。」
この将校とて、本当にアホではない。兵を育てるコストくらい知っている。彼は単に自分の非を認めたくないだけだ。
その将校に、軍師は言い聞かせるように言う。
「いいか?その古臭い脳みそに刻み込んどけ。最新式の歩兵銃は、銃弾1、2発当たれば、頑丈な獣人でも殺せるようにできてる。それを1人で連射できるんだ。密集させても無駄なんだよ。広範囲攻撃が容易くできる魔法相手には、散開した方が被害は少なく済むんだ。新兵には必ずそっちを仕込んどけ。」
「・・・・・・」
「わかった。軍師殿の助言、感謝する。」
非難されていた将校は答えず、別の将校が了承した。
「あと、橋ってのは戦場では落とすことを初めから想定しとけ。今回は現場判断で落としたが、本当なら作戦パターンの一つとして兵士一人一人に周知しとくべきだった。」
「一人一人に、ですか?」
「そうだ。手間かもしれんが、その方が現場は良く動くぞ。兵士は機械じゃないんだ。ちゃんと自分で考えて行動する。」
その後もくどくどと軍師は説教を続けた。真面目に聞いているのはごく一部。ほとんどの将校は終始渋い顔をしていた。
「で、最後にオーラムだけど、ミタテ平野まで飛んでたってマジか?」
「ええ。軍師殿の指示通り、すぐに解体、回収の指示を出しています。」
「それは助かるが、マジか・・・どんだけ飛ばしたんだよ。<赤鉄>はバケモンか?」
軍師は戦闘終了後、戦艦オーラムが破壊され、持ち去られたと聞くや否や、回収を指示していた。移動が困難なら解体しても構わない、とも指示した。
それを聞いた軍は、すぐに西大陸北岸を捜索。現場から「オーラムは空を飛んで南東に行った」と聞かされていたが、ありえないと断じて北岸を探したのだ。王国軍が戦艦をどうにか操縦して、海岸を移動したのだろうと考えて。
ところがいつまで探しても見つからない。そこへ遅れて<雨竜>カイルからの連絡が届く。モスト川にあるはずの戦艦が飛んできた、と。まさかと思ってミタテ平野に捜索隊を向かわせていれば、本当に戦艦の残骸があった。そうしてすぐさま兵士を集め、雪が降り始める中、解体作業を始めたのだ。
そして10月10日現在、解体作業中というところだ。
「陸に上げられたのは痛いな。海に浮いてりゃ、すぐに回収できたものを。」
「そうですね。しかし、動かせるだけ兵士を動かして、解体作業中です。しかし、なぜそんなに回収を急ぐのです?敵に戦艦を見られたところで、フレアネスの技術では真似できるとは思いませんが・・・」
「え?お前、聞いてねえの?」
「何がです?」
軍師と若手将校が揃って首を傾げたとき、奥の扉に控える衛兵が声を上げた。
「陛下がいらっしゃいました。」
会議室の一同に、緊張が走る。軍師の話を退屈そうに聞き流していた老練の将校も、背筋を正す。
その数秒後、ゆっくりと奥の豪華な扉が開かれ、立派な髭を生やした老人が姿勢よく歩いて来た。
ライデン3世。この世界の3分の1を治める大帝国のトップ。実質的な世界の覇者とも言えるだろう。
皇帝の入室に合わせて、全員が起立し、敬礼する。さっきまで軽薄な態度だった軍師すらビシッと敬礼をしている。
皇帝はそれを鋭い眼光で見回してから、ゆっくりと端の席に着く。そして右手を少しあげて、下した。座れ、という指示に、全員がザっと着席する。
一瞬の沈黙。それだけで会議室の全員が息を飲む。それほどに皇帝の威圧感は尋常ではなかった。
その沈黙を破り、前置きも無しに皇帝が言う。
「さて、此度の戦、見事攻め込んできた王国軍を追い払ったわけだが・・・サンディ中将、この戦、勝ったと言えるかね?負けたと見るべきかね?」
皇帝は、先程軍師に避難されていた老練の将校に目を向けて問う。
サンディ中将は、細かく震えながら、答える。
「て、敵を撃退したのですから、勝利、ではないかと・・・」
「ふむ・・・モリス軍師はどう思う?」
軍師は堂々と答える。
「負けてはいませんが、勝利とは言い難いですね。」
「ほう。その心は?」
「長年かけて建造した戦艦オーラムを損失。回収も困難な状況にされました。橋もろとも吹き飛ばした兵士100人以上に、<赤鉄>に奪われた戦艦からの砲撃で東岸にいた兵士が50ほど、死亡しました。負傷も含めればもっといます。帝国軍全体で見ればそれほどの数ではありませんが、冬季、補給が困難な状況でこの損失は痛手です。さらに、ミタテ平野では<雨竜>の情報が敵に持ち帰られました。」
「なるほど、なるほど。いい回答だ。」
「ありがとうございます。」
軍師は軽く頭を下げ、礼を述べる。それを見た皇帝は満足げに頷き、そしてゆっくりと再びサンディ中将に振り向く。
「さて、サンディ中将。軍師が言った通りだ。此度の戦、とても勝利とは言い難い。むしろ、戦艦の損失と秘匿戦力の情報を持ち帰られた件を鑑みれば、敗北と言っても過言ではない。」
「は、はっ。」
「サンディ中将。今回の作戦指揮はそなたであったな。であれば、敗北の責任は取らねばなるまい。」
「そ、それは・・・」
責任と聞いて蒼褪めるサンディ中将。それを見て皇帝はニヤリと笑う。
「そう怯えるな。ただの降格だ。少将からやり直せ。」
「は、はっ!」
思ったより軽微な罰で済んだと、安堵するサンディ。最悪、処刑もあり得ると思っていた。
しかし皇帝から不吉な一言が漏れる。
「ところで今回戦死したロナルドも少将であったな。」
「え・・・」
サンディが驚いて皇帝を見た。いや、見ようとしたが、そこに皇帝はいなかった。いつの間にか、皇帝は座っていた端の席から移動していた。
見失ったのは彼だけではなかった。会議室の全員が慌てて周囲を見渡す。そして、誰かが見つける前に、声が先に聞こえた。
「ところでモリス軍師。」
「っ!」
皇帝は軍師の背後に立っていた。軍師は驚愕に身を固める。
「サンディの失態を笑っている場合ではないぞ。」
「そ、そんなことは・・・」
・・・なぜバレたし。内心で笑ってただけで、表情には出してなかったよな、俺。相変わらず怖え爺さんだ。
皇帝は軍師の両肩に手をかけ、顔を近づけて背後から話す。軍師は振り向くこともできない。
「最近、負け続きではないか。ここらで知恵を出してほしいものだな。」
「努力します。」
「せいぜい励め。貴殿がここにいられるのは、戦功あってのものなのだからな。」
「・・・はっ。」
皇帝は軍師の肩から手を放し、ゆっくりと先程の席に戻る。
「さて、失った分の穴埋めをせねばならんな。当面必要なのは、西部戦線への補充か?」
皇帝の問いに、若手将校が答える。
「はっ。しかし、すでに降雪で輸送機関がマヒしています。あまり多数の兵は送れません。」
「なれば秘匿戦力を使え。この期に及んでは出し惜しみする必要もあるまい。情報を奪われた<雨竜>は東部に送れ。フレアネスに居続けるよりはいいだろう。代わりに東部から2名、西部に送ろう。<業火>はどうだ?」
その問いには別の将校が答える。
「<業火>は現在、イーストランド、ネオ・ローマン同盟の主力ネームド対策を進めているとのことです。異動すると中断させることになりますが・・・」
「なれば仕方ない。<業火>にはそれを続けさせよ。では<鎌鼬>と<暗愚>を西部に送れ。」
「かしこまりました。」
皇帝の指示は、会議の必要もなく決定事項だ。指示された将校がすぐに動き出す。
その将校を見送った皇帝は、ゆっくりと席を立つ。
「では後の国内の調整は任せるぞ。会議を続けよ。」
「「はっ!」」
全員でまた起立、敬礼して皇帝を見送る。皇帝が退室して扉が閉まると、全員がまるで息を止めていたかのように大きく息を吐き出す。
そして後は全員が疲れきったような表情で事務連絡を終える。全員がいつも通りに流していた。
会議終了後、帰ろうとする軍師に若手将校の1人が話しかける。
「軍師殿、先程の話ですが・・・」
「ん?何?」
「戦艦を回収する理由ですよ。」
「ああ。あれは今、工業大臣が言ってただろ。」
「え?すみません、どの部分でしょうか?」
若手将校は、各大臣たちの現状報告はいつも通りだったので、あまり真面目に聞いていなかった。
軍師は呆れたように答える。
「お前、ちゃんと聞いとけよ。工業大臣、結構切羽詰まってたじゃねえか。」
「そうですが・・・いつもではないですか?」
工業大臣はいつも胃が痛そうな顔をしているため、気にも留めていなかった。
「お前、いつもそうってことは、そんだけやばいってことだよ。もしかして他の将校もそんな感じで聞き流してんのか?」
「面目ありません・・・それで、どの話でしょう?」
軍師は溜息を吐いて答える。
「だから、国内の鉱山掘りつくして、もう金属材料がないって話だよ。」




