表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
選べるなら、人間以外で  作者: 黒烏
第3章 黄色の鳶
109/457

T03 雪中行軍

 吹雪が吹きすさぶ北の大地。北大陸北部の平原をテツヤたちは進む。9月末から降り始めた雪は深く深く積もり、あらゆる交通手段を阻む。深い雪は車輪を持つ乗り物を悉く絡めとり、激しい吹雪は空を行く飛行船を足踏みさせる。

 そんな厳しい自然の中、テツヤたちはなんと徒歩で移動していた。馬車も自動車も使えないのだから仕方ないとはいえ、これはつらい。帝都を出発してからだいぶ経つが、テツヤはまだ愚痴をこぼしている。


「あー、車が使えればなあ。」


 テツヤがこの世界に来てからしばらく経つとはいえ、テツヤはやはり前世の基準で考えてしまう。こんな長距離を徒歩で移動なんてありえない、と思ってしまう。


「せっかく改造したのになー。」

「・・・・・・確かにあれは便利そうだった。」

「だが、あれは目立つ。すぐに軍に見つかってしまうぞ。」

「そうなんだよなあ。はあ。」


 テツヤは何度目になるかわからない溜息を吐く。その息は白く曇り、そしてすぐに吹雪に散らされる。

 テツヤは帝都を出て拠点を移すと聞き、大急ぎで雪道を進めるように大型車を改造したのだ。テツヤたちが所属する組織<夜明け>が偶然持っていた貴重な大型車。これに雪をかき分けて進めるようにシールドをつけてみた。

 改造の結果は良好。速度は出ないものの、ある程度の雪までならかき分けて進むことができた。荷台に乗せれば結構な人数を運べるし、何より吹雪に晒されて寒い思いをしなくて済む。

 大喜びしたテツヤだったが、すぐにセレブロ経由で組織の長から連絡がきた。


「その車に非戦闘員を乗せて移動させるように。」


 そう言われれば確かにその方がいい。テツヤは了承して非戦闘員の集合を待った。すると、予想以上に非戦闘員が多く、テツヤたちが乗るスペースがなくなってしまったのだ。

 何とか運転手に立候補できないか交渉してみたが、セレブロの一言で断念させられた。


「こんな目立つ車は、私の能力で隠さないと使えないわ。運転手は私。」


 そういうわけで、テツヤの班、テツヤ、メーチ、ビャーチの3人は徒歩移動となったのだ。

 もう1台作ろうかとも思ったが、材料も大型車もないし、あっても目立って使えない。徒歩しかなかった。


 ザクザクと雪をかき分けて進む一行。何日もかけて町から町へ。時には宿もない田舎の村に滞在したこともあった。現代人であるテツヤにはつらい日々。愚痴もこぼしたくなるだろう。

 また溜息を吐くテツヤをビャーチが励ます。


「・・・・・・次の町でセレが迎えに来る予定。それまで頑張る。」

「そうだな。」


 あともう少しで迎えが来るのだ。それまでの辛抱、とテツヤは気を取り直す。

 しかし、ただ励ますだけで終わらないのがビャーチクオリティ。


「・・・・・・第一、一番大変なのは先頭のメーチ。最後尾のテツヤがぐちぐち言うのはカッコ悪い。」

「ぐう!」


 テツヤは精神に深いダメージを受けた。メンバーの紅一点、自分よりも小さい女の子にカッコ悪いと言われた。

 しかし正論である。一番大柄で力があるメーチが先頭で雪をかき分けるのは適材適所とはいえ、大変なのに変わりはない。

 さらに言えば、ビャーチは光魔法で方角を確認する役目を担っているが、テツヤはただの荷物持ちだ。しかも背負っている荷物もメーチの方が多い始末。一番役に立っていない。

 落ち込んだテツヤだが、しばらくして意を決し、前に出る。


「む?どうしたゾル。」


 ずっと先頭で雪をかき分け続けていたはずなのに、疲れた様子もないメーチが、急に前に出たテツヤに声をかける。

 するとテツヤはメーチからシャベルを奪い取って、先頭を進み始める。


「交代する!メーチは最後尾で休んでろ!」

「それは有難いが、大丈夫か?」

「大丈夫だ!問題ない!」


 フラグを立てつつ、テツヤは猛然と雪をかき分けて進む。

 メーチはそれを心配そうに見ながらも、その心意気を組んでやるべきか、と先頭を譲って後ろに下がった。


ーーーーーーーーーーーー


 数日後。どうにか町に着いたテツヤたちは、宿で休んでいた。

 メーチは買い出しと情報収集に。ビャーチは留守番。テツヤは・・・


「痛え・・・」

「・・・・・・慣れないのに無茶するから。」


 腰を痛めてベッドに寝ていた。あれから2日ほど、メーチと先頭を交代で担うようになっていたのだが、雪かきの経験が乏しいテツヤは腰を痛めてしまった。それでも2日続けられたのは、ひとえに魔法による身体強化のおかげだろう。


「あそこで黙ってたら、男が廃るだろ。」

「・・・・・・あっそう。」


 ちょっとかっこいいセリフを言ってみたが、ビャーチは素気無く返す。再び落ち込むテツヤ。それすらビャーチは無視して銃の手入れを続ける。

 そこへメーチが戻って来た。


「今、戻った。」

「「おかえり。」」

「また雪が降ってきたわい。どうだ、ゾル。腰の調子は。」

「まだ痛い。」

「そうか。」


 メーチは買ってきた食料を整理すると、懐から手紙を取り出した。


「セレからの連絡だ。」

「おっ。」


 テツヤが飛び起きる。腰の痛みはどうしたのだ、と言いたくなるほど機敏な動きだ。

 帝国内には町の間を結ぶ電話も普及し始めているが、すべて軍に監視されている。仕方ないので従来の伝書鳩方式で手紙が送られてきたようだ。


「吹雪で予定より我々の到着が遅れたからな。隼便の奴、待ちくたびれておった。」

「いいから、手紙を見せてくれよ。」


 伝書鳩の鳥などどうでもいいと、急かすテツヤ。やれやれと言う感じでメーチが手紙を読み始める。


「ふむ。・・・どうやら例の車では来れないようだ。」

「えええええええ!?」


 希望が絶たれたとばかりにテツヤが大声で嘆く。近くにいたビャーチが五月蠅そうに耳を塞いだ。


「まあ、落ち着け。雪が深すぎて例の車は使えないが、代わりの物で迎えに来るそうだ。」

「そ、そうか。よかった~。」


 安心したのか、ベッドに崩れ落ちるテツヤ。リアクションが激しいテツヤに、ビャーチが不快そうに舌打ちする。


「・・・・・・ゾル、うるさい。今、私たちは隠密行動中。」

「あ、ごめん・・・」


 ビャーチに叱られてまたテツヤは落ち込む。しかし何か思い当たったのか、急に顔を上げた。


「あ、そうだ。メーチ、代わりの物ってなんだ?」

「新型の乗り物らしい。試運転を兼ねて貸与されたそうだ。」

「大丈夫なのかそれ。」


 科学技術の発展が目覚ましい帝国では、次々と新型が出る。しかしその全てが実用化されるわけはない。必ず試運転を行い、その性能と信頼性をテストしなければならない。そして、大半が失敗作となってお蔵入りになるか、改良されることになる。

 すなわち、これから試運転の新型というのは、信頼性未確認であり、事故が起こる可能性が高いということだ。

 こんな吹雪の中、そんなものを運転してくるセレブロも心配だし、無事に来たとしてもそれに自分達も乗ることになる。安全性が不明の物にはあまり乗りたくない。


「なんでも、異世界で使われているものをそのまま真似たから大丈夫、と博士が言っているそうだ。博士の言葉は胡散臭いが、セレが大丈夫と言ってるから、まあ大丈夫であろう。」

「へえ。まあ、セレが保証するなら・・・」


 博士とは、帝国の研究所にいる異世界人の技術者だ。国に属していながら、裏でこっそり<夜明け>に武器や乗り物を貸与してくれる。

 ただし、どれもこれも試作品だったり、試運転未実施の新型だったり、要は実験台として貸与しているようだ。どうやら国の予算で実施される試運転ではデータ不足らしく、より多くのデータを取るために<夜明け>にも試運転を依頼しているのだとか。

 当然違法だが、なぜかばれていないらしい。

 そんな博士は異世界の知識で次々新製品を開発するが、どうも胡散臭いうえ、よく失敗作も作る。テツヤ達もあまり信頼していなかった。


「それと、異世界の物とほぼ同一だから、ゾルが運転できるだろう、と書いてあるぞ。」

「俺が?知ってる奴だといいんだけど。」


 一抹の不安を覚えながら、テツヤたちは迎えを数日待つことになった。


ーーーーーーーーーーーー


 数日後、未明。人目を避けて夜明け前に町外れにて集合となっている。テツヤ、メーチ、ビャーチの3人は防寒着を着込んでセレブロを待つ。

 待つこと数十分。ようやく機械的なライトが東から近づいてきた。


「お、来たな。」


 3人の中で最も目がいいメーチが真っ先に気が付く。

 そしてエンジンの駆動音を立てながら、セレブロが乗る乗り物が近づいてきた。それを見てテツヤは新型の乗り物の正体を知る。


「スノーモービルか。」


 底部にそりを備え、それで雪上を滑りながら、後ろのプロペラを回して推進力を生む。2人乗りのようだ。1台をセレブロが運転し、2台目は牽引してきている。


「お待たせ。」

「よく来てくれた、セレ。これが新型の乗り物か?」

「ええ。雪の上を移動できるの。雪上をまともに移動できるのは帝国初かも。」

「俺が知ってるのはプロペラじゃなかった気がするんだけど。」


 テツヤがそう言うと、セレブロは残念そうに答える。


「私もトラックベルトがいいって言ったんだけど、博士はなにか思惑があるみたいでね。」

「なんだそりゃ。」

「私に博士の考えがわかるわけないでしょ。プロペラ式のおかげで速度が出なくて困るわ。」


 聞けば、後ろに大きなプロペラがあるせいで、かなり風に煽られるらしい。それは困る。 


「しかしこれで雪上を動けるならば、革命が起きるな。」

「・・・・・・うん。便利そう。」


 これまで冬の帝国はほとんどの町や村が陸の孤島と化し、碌に流通がなくなっていた。だからこそ、テツヤ達も帝国軍に見つからずにここまで来れたのだが。

 しかしこのスノーモービルが実用化されれば、少人数とはいえ、冬も移動が可能になる。軍に採用されるのも遠くないだろう。


「で、ゾル。運転できる?」

「やったことはねえが・・・基本はバイクと同じか?」

「ええ。難しくないから今教えるわ。」


 そうしてセレブロからテツヤが操縦方法を教わり、早速移動開始となった。

 セレブロが運転するスノーモービルにビャーチが同乗。テツヤの方にメーチだ。


「体重のバランス考えたら、逆の方がよくないか?」

「そうかもしれないけど、私たちが先行するから、別にいいんじゃない?」


 セレブロの言う通り、方角を確認する光魔法はセレブロかビャーチしか使えない。それに、一度ここまでの道を通って来たセレブロの方が最適なルートがわかっているだろう。

 それもそうか、と納得しているテツヤに、またビャーチが辛辣なことを言う。


「・・・・・・女性に体重の話をするとか、ゾルは無神経。」

「なっ、重いとは言ってないだろ!」

「あんまりゆっくりしてられないから、さっさと出発するわよ。」


 テツヤの反論は、セレブロの正論であっさり無視されてしまった。

 言ったとおりにさっさと出発するセレブロに、テツヤは慌ててついて行く。

 そうして一行は目的地に向かう。向かうのは帝国の最先端都市ザーフトラスクだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ