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選べるなら、人間以外で  作者: 黒烏
第3章 黄色の鳶
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M07 勇者の冬休み

これから3,4話ほど、外伝が続きます。

「なー、マサキー。」

「なに?」


 ヴェスタは最近、マサキのことを名前で呼ぶようになった。そのことはマサキもいいと思っている。以前までは大将と呼ばれていたが、マサキは自分はそんなに偉いものではないと思っているため、どうも気恥ずかしかった。

 だから、名前で呼んでくれることはいいのだが、今度はマサキは別の理由で恥ずかしい思いをしている。

 場所はイーストランド王国の王都。時は10月9日、冬の初め。雪のために休戦状態となったため、マサキもヴェスタも休暇扱いだ。

 しかしこの世界に来てすぐに戦場へ赴いたマサキは、休暇になってもやることがない。

 そこで、前世の仕事の影響もあるのだろうが、自主的に王都を見回りすることにした。

 今もその見回りの途中なのだが、それにヴェスタがついてきてしまったのだ。

 「町中を歩き回るだけで面白いことはない」と言ったのだが、それでも強引についてきた。で、現在。ヴェスタはマサキにくっついて歩いている。

 それとなく離れようとはするのだが、ヴェスタは女性らしからぬ腕力でしがみつき、離れてくれない。攻撃ではないし敵意もないので、『光の盾』も反応しない。というか、どうみても敵意とは真逆の、好意を多分に持っていることがうかがえる。


「あれ、食べないか?」


 唐突にヴェスタが指差したのは、露天販売の肉まんだ。寒い中では温かい肉まんは売れ行き好調のようで、短いが列ができている。


「いいよ。」

「やったぜ!」


 特に断る理由もなく、マサキが了承すると、ヴェスタはガッツポーズをして喜ぶ。


 ・・・これは奢るべきかな。


 マサキは約束したわけでもないが、雰囲気的にヴェスタに肉まんを奢ることにした。どうせ高い給金をもらっても使い道がなく貯まっているのだ。躊躇うこともない。

 肉まんの列に2人が並ぶと、周囲の人がすぐにマサキ達に気が付く。


「あ、勇者様?」

「ほんとだ。」

「デートですか?いいねえ。」


 そんな感じの声を掛けられ、マサキは苦笑い。対照的にヴェスタは満面の笑みで手を振る。


「どうも・・・」

「そう!デートだ!」

「違うよ・・・」


 マサキは力なく否定するが、周囲には聞こえていないようだ。


「へえ。いいんじゃない?」

「勇者様と、かの<炎星>とか。ネオ・ローマンとの繋がりもより強固になるな。」

「ヴェスタ様って貴族でしょう?大丈夫かしら。」

「勇者様ならすぐに爵位を授かるさ。大丈夫だろ。」


 マサキはヴェスタと付き合う気はなかったので失念していたが、周囲の会話から、もし付き合うことになった場合の影響が聞こえてきた。


 ・・・そっか。ここは身分制度があるんだった。ヴェスタはこれでも貴族なんだよな。僕は、平民扱いになるのかな?でもさっき誰かが言っていたように、国王から報酬として爵位をもらう可能性もあるか。


 そんなことを考えているうちに順番が来て、肉まんを2つ買う。1つヴェスタに渡すと、嬉しそうに食べ始めた。

 ヴェスタは特に美人というわけでもなく、普段の男勝りな性格のせいで、マサキはあまり女性として意識していなかった。しかし、こうして三つ編みにした後ろ髪を揺らしながら幸せそうに食べている様子はちょっと可愛いと思った。

 それでもマサキは付き合うつもりはない。さっき思いついた回避方法を言ってみることにする。


「なあ、ヴェスタ。」

「なんだ?」

「ヴェスタは貴族なんだよな。」

「一応な。三女だから家督とか気にしなくていいし、こっちへ嫁入りはむしろ歓迎されると思うぜ。」


 ヴェスタはやはりマサキに嫁入りするつもり満々のようだ。

 貴族家としては女性は他家とのつながりの強化のために嫁に出すことが多いようで、同盟国とのつながりの強化に一役買えるなら、ヴェスタの実家であるレイライン家も快く送り出してくれるだろう、ということだった。


「だから、マサキ。アタイは・・・」

「悪いんだけど、ヴェスタ。」


 ヴェスタの言葉を遮って、マサキがきっぱりと言う。


「僕は平民だから結婚はできないんじゃないかな。」


 マサキは身分制度については詳しくない。前世ではとっくに廃止されていたし、世界史とかでちょっと聞いたことがある程度だから、身分差の実感も湧かない。

 それでも、貴族と平民の結婚はありえないだろう、と予想はできる。

 いずれ爵位をもらうかもしれないとしても、それまではこの理由で結婚を回避する腹積もりだ。

 マサキの言葉にヴェスタはきょとんとした顔になる。


 ・・・流石にショックだったかな。


 悪いことをしたか、とマサキが思い始めた瞬間、ヴェスタが騒ぎ始める。


「はあ!?大将、まだ爵位もらってなかったのか!?」

「え?そうだけど。」

「マジか!ウチの国では功績を上げた異世界人は割とすぐに名誉爵位もらうから、とっくにもらってると思ってた!こっちの貴族連中もマサキと対等に話してるしよお。」

「そういや、そうだったね。」


 思い返せば、国王はもちろん、将軍とか明らかに貴族である人たちがマサキと対等に話していた。どう考えても平民に対する態度ではない。

 衝撃の事実を知った、とばかりにヴェスタは驚き、考え込み始める。


「くそ~、アタイは結婚制度とか詳しくないから、わからん。平民と結婚できるのか?あ、シンの旦那なら知ってるか・・・っていねえ!」


 シンは休暇になってから、ネオ・ローマンに里帰りしている。1ヶ月ほど休暇を実家で過ごしてから、11月中には戻ってくると言っていた。


「つーか、ここの国王は何してるんだ?まだ爵位も与えてないとか、怠慢にもほどが・・・」

「ちょ、ちょっと!ヴェスタ!」


 王都の往来で国王の批判とか、命知らずにもほどがある。ここの国王は穏健派なので極刑はないだろうが、警察にしょっ引かれても文句は言えない。

 慌ててマサキがヴェスタの失言を止めようとするが、ヴェスタは思考の海から帰ってこない。


「仮に結婚できるとしたら、マサキがウチに婿入りになるのか?それはそれでいいか・・・」

「いや、僕はこの国に必要だから、国王が手放さないんじゃないかな。」


 マサキが指摘すると、ヴェスタはぴたりと立ち止まる。

 何事か、とマサキが振り返ると、急にヴェスタがニヤリと笑った。


「そうか。簡単なことじゃねえか。」

「へ?」

「平民のマサキとどうやって結婚するか考えるより、マサキをさっさと貴族にしちまった方がいい。」

「はあ。」


 何を言っているんだこいつは、という気分でマサキがヴェスタを見るが、ヴェスタはまるで意に介さない。


「つまり、国王を説得すればいいわけだ!早速行ってくる!」

「え!?ちょっと!」


 引き留めるマサキを振り切って、というか、すぐ近くにいたのに指先すら掠らせもせずにヴェスタが走り出す。

 そして広場の人がいないスペースに入ると、どこに隠し持っていたのか、愛用の杖「トマホーク」を取り出して組み立て、あっという間に離陸。王城へと飛んで行ってしまった。

 追いつけずに取り逃がしたマサキは、広場で荒い息を整えながら、呟く。


「僕はもっと落ち着きがある女性の方がいいな・・・」


ーーーーーーーーーーーー


 後日、マサキは国王に呼び出された。国王の執務室にマサキが入ると、書類仕事をしていた国王は、仕事の手を止めてマサキに向かい合う。


「よく来たマサキ殿。そこに掛けるといい。」

「ありがとうございます。」


 マサキは勧められた椅子に座り、国王も執務机から移動して、マサキの向かいに座る。執事に入れてもらった紅茶を一口飲んで落ち着くと、国王が話し始める。


「さて、まずは事務的な連絡から。ああ、本来は事務連絡など私の仕事ではないのだが、事のついでだ。気にしないでくれ。」

「はい。」

「西方の戦況についてだ。向こうは雪が遅かったようで、およそ1週間前、今年最後となるであろう戦闘があったようだ。仕掛けたのはフレアネス。大河に陣を張る帝国軍を打ち破って渡河しようと試みたようだ。結論から言えば、渡河は失敗に終わった。」

「そうですか。」


 特にマサキはこれと言って感想は浮かばない。正直言えば、あまり興味がなかった。

 イーストランド王国としては、西方の戦線は長引いてくれた方がありがたい。その分だけ帝国を消耗させることができるのだから。したがって、今回の結果は、快進撃を続けていたフレアネス王国が足踏みをしてくれた、という点で、歓迎すべきものだろう。

 国王もそれを隠さずに言及する。


「結果は良かった。渡河に失敗したフレアネスだが、帝国にも相応の打撃を与えたようで、帝国の反攻もなかった。まあ、反攻準備をしているうちに降雪が始まった、というのが妥当なところだろう。しかし・・・」

「なにか?」


 イーストランドにとって望ましい結果だったのは、国王の話から分かる。だが、国王は渋い顔だ。


「結果は良かったが、過程が問題だ。なんと帝国に即時反攻ができないほど打撃を与えたのは、たった1人だというのだ。」

「そんな奴が・・・」


 これにはマサキも驚く。マサキとてネームドだ。一騎当千の猛者と言える。だが、本当に1人で軍を相手にできるかと言えば、疑わしい。『光の盾』をもってすれば死にはしないだろうが、勝てるかと言えば別だ。魔力には限りがあるし、体力もそうだ。おまけに敵は止まっている的ではない。攻撃が来れば回避するし、危険な敵との戦闘自体を回避して、別ルートから勝利条件を満たしに行くこともできる。

 軍を相手にするというのは、それほど難しい。1人で倒せるものではない。それをやってのけたとは、どんな奴なのか。どうやったのか。興味を持ったマサキは国王に尋ねる。


「どうやったんです?1人で帝国軍に重大な打撃を与えるなんて。」

「詳しいことはわかっていない。ただ、帝国軍の連中は、戦艦を奪われたと騒いでいたそうだ。」

「戦艦・・・」

「帝国軍が満を持して持ち出した最新兵器だったそうだ。それを奪われ、利用されたのだろう。」

「つまりそいつは、単独で戦艦に乗り込み、奪い取ったと?ありえない・・・」


 戦艦は一人で動かせるものではない。それはマサキも知っている。

 対して国王は戦艦の知識など皆無なので、戦艦がどういうものかもわからない様子だ。


「私は戦艦とやらがどんなものか知らないが、とにかく詳細は調査中だ。なにしろ、当の戦艦はもうモスト川になかったそうだからな。フレアネスが鹵獲したにせよ、どこに移動したのか・・・」


 イーストランドの諜報部隊がフレアネス王国に忍び込んで、西大陸北岸を捜索しているらしいが、未だ発見の連絡はないそうだ。

 戦艦がどこに行ったのか、気にする国王に対し、マサキはどうやって動かしたのかが気になる。


「その、戦艦を奪ったやつは、異世界人ですか?」

「ああ、そうらしい。」

「だとすれば、戦艦の知識があってもおかしくないか・・・戦艦を占拠した後、フレアネスの兵に使い方を教えて、動かした?」

「まあ、そんなところであろうな。残念なのは、その異世界人に関する情報がほとんどないことだ。<赤鉄>という異名と、黒い服装、そして魔族であることだけわかっている。」

「<赤鉄>・・・異世界人の魔族・・・」


 マサキは考え込む。魔族は100年前に人類を滅ぼそうとした悪魔。当時の勇者に滅ぼされて、今は僻地でひっそりと隠れ住んでいると聞いていた。

 そんな悪魔になった異世界人。転生時に神から聞いた話では、犯罪者は転生対象にしないそうだから、異世界人に悪党はそう多くないと思っていた。しかし、悪魔になるような者もいる。しかもその戦果を聞く限りはかなり強そうだ。


 ・・・今は共に帝国に敵対する者同士、ぶつかることはないと思うけれど、もし戦うことになったら・・・


 マサキが情報もない<赤鉄>に思いを巡らせていると、急に国王が話題を変える。


「ところで、先日ヴェスタ殿が訪ねてきたのだが。」

「ぶっ!?げほっ!」


 思わず紅茶を吹き出しかけた。真面目なことを考えている時に、急にその話が出てくるとは思わなかった。というか、思い出したくなかった。


「え、えーと、国王、あれはですね・・・」

「まあ、私としてもいい話だと思う。」

「え?」


 ヴェスタの無礼について苦言を呈するかと思いきや、なぜか乗り気な国王。


「彼女の言う通り、マサキ殿への爵位授与が遅れていたのは私の落ち度だ。爵位はすぐにでも授与しよう。」

「え、あの、あ、ありがとうございます。」


 戸惑いつつも、これは礼を言うべきだろうと何とか謝辞をひねり出すマサキ。


「うむ。これでヴェスタ殿との結婚も問題なかろう。」

「は、はい。あれ?」


 ・・・やばい!このまま結婚する流れになってないか!?


 付き合う気すらなかったのに、あっという間に結婚する流れになっていることにマサキは驚く。このままではまずい。どう言い訳しようか。

 そう悩むマサキを他所に、国王は話を進める。


「しかし、ヴェスタ殿との結婚はもう少し待ってほしい。」

「え、あ、はい。待ちます。というか、その話・・・」


 待てというならもちろん、待つ。というか断りたい。そう思って話の流れに乗ろうとするマサキだが、流れは次々向きを変える。


「実はマサキ殿には我が娘をもらってほしくてな。」

「・・・は?」


 完全にマサキはフリーズした。しかし国王はマサキに復旧する時間を与えない。


「適当な爵位を授与後、マサキ殿がよければ、王家に婿入りしてほしいのだ。詰まるところ、私の後をマサキ殿に任せたい。」


 結婚の話が、次期国王の話になって、マサキは全くついて行けない。しかし国王は待ってくれない。


「恥ずかしい話、今の王家は昨今の敗戦続きで求心力が低下していてな。勇者殿が来てくれなければ、帝国に滅ぼされる前に民から愛想をつかされるところだったのだよ。本当にぎりぎりのところだった。勇者殿のおかげで国は持ち直したが、王家への忠誠は回復しなかった。今はもう私よりマサキ殿の方が国民からの信頼も厚いだろう。それがわかっていたからこそ、我々はマサキ殿を貴族同然に厚遇してきた。」

「・・・ありがとうございます。」


 話について行けないながらも、とりあえず礼を言うのは、マサキの前世の癖だろう。


「礼を言うのはこちらだよ。それで、ここから王家への信頼を回復するのは難しい。ならば、マサキ殿を王家に迎え入れるのが一番ではないか、というのが我が家の総意でね。どうかな。助けると思って。」

「う・・・」


 助ける、と言われると弱いマサキ。そもそも、他人のために自爆するテロリストに飛び掛かるような性格だ。困っている人を基本的に放っておけない。

 考えてみれば、結婚を忌避する理由はない。なんとなく前世の風習で、すぐに結婚と言われると躊躇ってしまうだけだ。

 しかし、避ける理由がないとはいえ、染みついた常識はなかなか変わらない。とりあえずマサキは言い訳してみる。


「しかし、今は戦争中ですし。戦後でもいいのでは?」

「何を言う、マサキ殿。戦争中だからこそ、早めに跡継ぎを用意するのではないか。」


 ・・・ああ、そういうことか。


 マサキは結婚に関する考え方が違うことを実感する。マサキは身分差がない平和な世界から来た。結婚は落ち着いてからするもの、と思っていた。

 しかしこの世界は違う。国王は、戦争でいつ死ぬかわからない世界の貴族だ。貴族は子孫を残して家を守らなければならない。互いの愛情よりも、家の存続を考えて結婚する。

 結婚は落ち着いてから、などと言っていたら、その前に死んでしまうかもしれない。「俺、この戦争が終わったら・・・」なんて、わかりやすい死亡フラグだ。

 マサキはしばらく黙考してから、覚悟を決める。


 ・・・郷に入っては郷に従え、か。断った方が後悔するかもね。


「わかりました。まず、娘さんにお会いして、考えてみます。」


 マサキの言葉を、国王は前向きに受け取ったようだ。喜びの表情でマサキの手を取る。


「おお、そうだな!近いうちに食事会でも開こう。自慢の娘だ。きっと気に入ってくれると思う。」

「よろしくお願いします。」


 その後、軽く雑談してから、マサキは退室した。

 自室に戻る道中、小さく溜息を吐く。


 ・・・まだ承諾はしてないけど、これはもう結婚する流れになりそうだな。まさか前世でまったく浮いた話もなかった僕が、転生して1年も経たないうちにこんなことになるとは。


主人公サイドには恋愛・結婚話は皆無なので、勇者サイドで。恋愛経験がない筆者が書くと、リアリティに欠ける話になってそうですが。

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