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選べるなら、人間以外で  作者: 黒烏
第3章 黄色の鳶
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097 第2次モスト川の戦いの反省会

 クロの家、客間。クロ、マシロ、ムラサキ、アカネが集合し、ソファーに座ったり床に座ったりしている。

 今は反省会の真っ最中。今回、それぞれバラバラの場所で戦ったので、各自どんなことがあったか報告している。

 この反省会も恒例になり、簡単なルールができていた。一つ、主観でいいから、報告は嘘偽りなく。見栄で失態を隠すのはご法度だ。一つ、報告は順番に1人ずつ。割り込み禁止。一つ、感想や意見は後でまとめて。報告中は遮らないこと。ただし、理解できなかったときに補足を要求するのはよし。

 

 そして各自の報告が終わり、司会のクロがまず確認する。


「戦死したスイーパー達は?」

「すでに弔ってあります。数は死者13、負傷20です。」


 弔うというのは、ここではスイーパーによる鳥葬だ。骨も羽も残らず、全て生き残った者の糧になる。


「負傷者の具合は?」

「重症もいましたが、スイーパーも治癒力が高いようで、回復に向かっています。20羽とも屋根の上で療養中です。食料は仲間が分け与えているようなのでご心配なく。」

「そうか。」


 クロはふうと息を吐き、目を閉じる。黙祷するように数秒そうしてから、反省会を再開する。


「製錬業は休止中か。1週間以上入荷なしだと、埋立地の連中が苦しいかな。」


 製錬業は、戦場に行く前に埋立地に立ち寄って、休業の連絡をしていた。

 そこに住むホームレス達は、戦争なら仕方ないと納得してくれていた。しかし、ここに材料を運ぶことで得られる収入を当てにしている者たちにとって、1週間以上収入が途絶えるのは辛いだろう。もっとも、クロが心配しているのは彼らの命や生活ではなく、客が離れないかを心配しているのだが。

 製錬業についてもマシロが答える。


「入荷は3日前から再開しています。埋立地の者が訪れて、催促して来たので。」


 マシロが帰還した3日後に、埋立地の者が森を訪れたそうだ。曰く、「まだ入荷は再開できないのか」と。

 初めはクロが目覚める目途が立たないため、追い返したそうだが、何度も来たため、根負けして再開したということだ。

 戦闘能力がほとんどないホームレス達が、危険な魔獣の森に何度も訪れる様子から、かなり切羽詰まっていると察したそうだ。


「勝手に再開してしまい、申し訳ありません。」


 マシロが頭を下げるが、クロは責める気はない。


「まあ、ちと楽観的だったかもしれないが、今回は結果オーライだ。客が離れずに済んだ。」


 もしクロが目覚めず、入荷だけしていたら大赤字だったところだ。そのリスクを考えればクロが目覚めるのを待つべきだっただろう。

 しかし悠長に待っていたら、ホームレス達は別の仕事に移っていたかもしれない。そうすると入荷量が減り、クロ達の収入も減ってしまう。

 たとえ別の仕事に移っていても、入荷を再開したと知れば戻ってきてくれるかもしれないが、戦場に出るたびに長期休業していてはそれも難しくなって来る。こういう商売は信用が大事だ。


「ところで、入荷の査定、大丈夫だったか?」


 今まで、入荷時に買い取る金額は、クロが物を見て決めていた。

 買取金額は単純に量では決められない。持ち込まれた材料の中に、どれだけ有価な金属が含まれているか。それを見極めなければならない。

 あまりに安く買いたたけば信用を失うし、高く買いすぎれば赤字になる。正確な査定が重要だ。

 金属の知識がないマシロでは査定は難しいと思ったクロだったが、マシロはあっさりと答える。


「今までマスターの査定の様子を見ていましたから、大体わかります。」

「マジで?」

「ええ。含まれている金属の成分や量は匂いでわかりますし。」

「・・・そう。」


 急にクロは項垂れて落ち込む。その様子にマシロは首を傾げる。


「どうしたのですか?マスター。」


 その様子を見たムラサキが笑う。


「ははは。クロは自分の仕事が取られたって落ち込んでるんだよ。」

「そうなのですか?」

「いや、取られただけならいいんだが・・・俺より真白の方が正確に査定できてるみたいで・・・ちょっと自信なくした。」


 クロは材料に含まれる成分は、外見から予想するしかない。ところがマシロは見えない内部まで含めて嗅ぎ分けられるというのだ。しかもその量まで。どう考えてもクロより正確だ。

 落ち込むクロをマシロが慌ててなだめる。


「いや、私も未知の材料が来たらわかりませんから・・・その、マスターは必要ですよ。」

「ありがとう・・・」


 クロはマシロの慰めを素直に受け入れて、感謝する。そして、ブンブンと頭を振って、気分を切り替える。


「さて、製錬業の話はこのくらいにして、各自の反省を始めようか。まず、俺から。」


 クロの宣言に合わせて、クロの今回の戦闘等に関して、マシロやムラサキが意見を述べる。


「しかし、ようやっと固有魔法を明かしてくれたな。」

「まあ、今回の説明には不可欠だったし。」

「明かしてくれたのはいいのですが・・・」


 マシロが難しい顔でクロを睨む。


「それは常時使用しているのですか?」

「『ヴェンデッタ』のほうはちょっとだけな。」

「ではそれだけにしてください。」

「・・・というと?」


 クロはなんとなく察しながらも確認する。


「常時使用以上の復讐魔法の使用はしないでください。」

「・・・そう言われてもな。これはお前らを守るための力で・・・」

「マスターが思っている以上に、復讐魔法はマスターの精神を蝕んでいます!過度の使用は命に関わりますよ!」


 マシロがクロの言い訳を遮って怒鳴る。しかしクロは動じた様子はない。


「知ってる。それでも必要なら使うぞ。」


 睨むマシロに、クロも睨み返す。ここは絶対に譲らない、という姿勢だ。クロとしては、マシロやアカネ、ムラサキを守るのが第一だ。第二がこの土地。そのためなら自分がどうなってもいいと思っている。


「マスターを失ったら、我々はどうここを守っていくのですか?」

「どうとでもなるだろう。俺の死後まで土地を拡張する必要はないから、無理に稼ぐ必要はない。生活だけならお前らでもできるはずだ。最悪、何かあった時は土地を捨てて逃げてもいい。」

「甘すぎます。マスターは、縄張りを失った獣がどれだけ生き延びられるか、ご存じない。」


 マシロの言う通り、縄張りとは生きる糧を得る土地だ。それを出て放浪する獣の生存率はとても低い。大抵の場合、どこもかしこも既に誰かの縄張りになっていて、そこを力づくで奪うくらいしか生き延びる方法がない。土地持ちの万全な状態の相手に、放浪して飢えた獣が、果たして勝てるか。その不利な条件でも勝ち残る者だけが生き延びられるのだ。

 クロは、マシロ達はその不利な条件でも勝てる実力があると踏んでいる。しかし、クロは実際に土地を失って放浪したことなど、ほぼない。魔族の集落を出て数日は旅のようなものもしたが、ほんの数日だ。真の意味で放浪の辛さを理解しているとは言えない。実際に親を失って森を放浪した経験があるマシロを説き伏せられるとは思えなかった。

 やむなく、ここはクロが折れる。


「・・・わかった。極力控える。だが、さっきも説明した通り、復讐魔法は普通の魔法と違って制御が難しい。意図的な発動ができないように、発動しないようにするのも難しいんだ。お前らがピンチになったら、絶対発動すると思うぞ。」


 これは言い訳ではなく事実だ。原始魔法にオンオフのスイッチなどないのだから。

 マシロはクロの説明が言い訳でないことは察せられる。溜息をついて、条件を出す。


「はあ、わかりました。では、せめて新型の使用は禁止してください。あれは、マスターが自覚している以上に精神に負担をかけていますよ。」

「つっても、どうやって・・・」


 言い訳しようとするクロを、マシロが立ち上がってクロの頭にアイアンクローを極めて遮る。


「亡霊の声に耳を貸さないこと!」

「いだだだ!わかった!わかったって!」


 その様子をムラサキはやれやれと呆れた様子で見守り、アカネは怒るマシロに怯えていた。

 そんな感じでクロについての反省は終了した。



「次、真白だが・・・やっぱり無茶だったな。」

「申し訳ございません。」


 今回ばかりはマシロの見通しが甘かったと言う他ない。<雨>に敗れ、あわやとどめを刺されるところだったのだ。

 ここぞとばかりにムラサキが攻める。


「無謀にもほどがあるぜ。敵の情報もなかったし、勝算もなかったんだろ?」

「う・・・」


 実際にはあと一歩まで追い詰めたのだが、勝算があって挑んだのではないことは確かだ。流石のマシロも反論できない。


「おめーこそ、それでお前が死んでたら、オレ達が被る迷惑考えてたのかよ。」

「うう・・・」


 さっきマシロがクロに注意したことをそのままムラサキに言われてしまった。マシロにとって屈辱だが、やはり言い返せない。

 見かねたクロがフォローに回る。


「まあまあ、ムラサキ。止めなかった俺も悪かったし。」


 クロはマシロが<雨>と戦いたいという気持ちを汲んで行かせたが、本当にマシロのことを思うなら止めるべきだった。そのことはクロも反省している。

 しかしムラサキは止まらない。


「い~や、普段言われてる分、今たっぷり言わせてもらうぜ!だいたい、自信過剰なんだマシロは!なんで情報もない相手に挑んで勝てると思ったんだか。つーか、戦局で見れば戦う必要だってなかったんだ。マシロの役目は<雨>を平野に留めておくことだったんだろ?だったら、戦わずに牽制だけしてれば十分だったのに。」

「くっ!」


 図星を突かれてマシロは悔しそうに顔を背ける。全く持ってムラサキが正論だ。<雨>をミタテ平野に留めるなら、勝負を挑むような博打をせず、モスト川の戦闘が終わるまで睨みあいを続けていればよかったのだ。

 今回はモスト川の戦闘も、クロが離脱後にロクス軍が敗走してすぐに終結したので問題なかったが、長引いていた場合、マシロが撤退後に<雨>がモスト川に駆け付ける可能性もあった。

 結局のところ、マシロが<雨>と戦ったのは、単純にマシロのわがままだった。非はマシロにあるのだから、甘んじてムラサキの説教を聞くしかない。

 その後もムラサキの説教が数分続いた。クロもマシロを止めなかった責任を感じてしばらく黙って聞いていたが、似た話のループになってきたところで止めに入る。


「ムラサキ、そこまでにしてくれ。今回の真白は確かに無茶をしたが、無駄だったわけじゃない。」

「マスター・・・」

「今まで圧倒的な強さと帝国の情報統制で秘匿されていた<雨>の顔と戦力が、今回の接敵で判明した。次でこれを活かせばいい。」

「まあ、それもそうか。・・・よし、今日のところはこのくらいで勘弁してやる。」

「・・・・・・」


 偉そうにふんぞり返って言うムラサキ。対してマシロは長い白髪を垂らして項垂れ、黙っている。落ち込んでいるようにも見えるが、表情が見えないのが不気味だ。



 一度お茶を挟んで、ムラサキの反省に移る。


「さて、ムラサキと茜についてだが・・・これが一番今後に関わりそうだな。」

「ああ。まさか、雷の神獣が現れるとはな。」


 ムラサキの報告により、襲撃してきた魔族を喰らって魔族化した雷の神獣がクロを狙っていることがわかった。これまでも強敵とは戦ってきたが、いずれも敵にクロ達の情報はあまり知られていない状態で戦っていた。

 ところが雷の神獣は、すでに魔族を容易く屠る力を持ちながら、さらに鍛えてくると言ったあたり、クロ達の戦力をよく把握していると思われる。万が一もないほどの圧倒的な力を身に付け、準備万端で襲ってくるだろう。過去最大の脅威であると予想される。

 クロとムラサキが神獣対策について話し合おうとした時、マシロがそれを遮る。


「ちょっとお待ちください。先の話をする前に、ムラサキとアカネについて反省を。」

「ああ、そうだった。」

「・・・・・・」


 クロは思い出したように同意し、ムラサキは冷や汗を垂らしながら押し黙る。


「まずアカネ。あなたは魔族と戦うにはまだ早い。ムラサキを助けようと思ったのでしょうが、不十分な戦力では逆に足手まといになってしまいます。敵の戦力は正確に分析しなくてはいけませんよ。」

「クウン・・・」


 落ち込むアカネにマシロがそっと近づき、怒っているのではないのだ、と示すようにアカネの頭を撫でる。


「敵わないならば逃げてもいいのです。生きていれば、いつか勝てるようになるかもしれませんから。・・・私にも言えることですが、ね。共に反省しましょう。」


 マシロは一しきりアカネを撫でると、席に戻る。アカネはやる気に満ちた目になっている。これからもっと鍛錬に精を出すことだろう。


「さて・・・ムラサキ。」


 そう前置きしてマシロはムラサキの方を見る。ビクッとムラサキは反応し、恐る恐るマシロに目を合わせる。


「な、なにかな・・・?」

「万死に値します。」

「ひどくね!?」


 さっき言われたお返しだとばかりに、マシロが捲し立てる。


「魔族の襲撃は予想できたでしょう?過去にも襲撃はあったのですから。そのために事前に逃走経路の確認や、迎撃準備をしておくべきだったのに、森で採取に興じているなど、愚の骨頂です。さらにいざ襲撃があった時に、馬鹿正直に正面から戦うなど、何を考えているのやら。あなたが正面から魔族と戦って勝てるのですか?」

「じ、実際、優勢だったぞ!」


 ムラサキの反論にも、マシロは呆れた様子で返す。


「優勢、ではだめなのです。瞬殺できるようでなくては。敵が何人いるかもわからないのに。現に手こずっている間に、増援に背後を突かれて逆転されているではありませんか。そもそも戦闘に夢中で索敵を怠っていたから、背後など突かれるのです。」

「ぐっ・・・」


 確かにムラサキが注意深く聴覚式魔力感知を展開していれば、背後から敵が接近していても気が付けただろう。戦闘中に周囲にまで気を配るのは難しいが、ムラサキにはそれをするだけの余裕はあった。サイクロンを翻弄していたくらいなのだから。完全にムラサキの怠慢である。


「そして、あまつさえアカネを敵に捕らえられる始末!今回あなたは何か守れたのですか?得たものがありますか?」

「ぐぬぬ・・・」

「そういうわけで、ムラサキは今後、鍛錬に参加するように。鍛え直してやります。」

「わかったよ。」


 ムラサキは渋々承諾する。それもクロは意外そうに思う。


 ・・・鍛錬嫌いの自由人ムラサキが、鍛錬に参加?


「なあ、真白。強制は良くないと思うが・・・」


 クロはムラサキは自分のペースで鍛えた方がいいと思っている。マシロのスパルタ教育にはついていけないのでは、と心配した。

 しかしマシロは首を横に振る。


「強制はしていませんよ。ついて来れなければおいていくつもりでやっています。実を言うと、マスターが目覚める前から始めていて、今のところ、ついてきています。」

「・・・マジで?」


 信じられない、と言う面持ちでクロはムラサキに問う。

 ちょっと気恥ずかしそうにムラサキが答える。


「オレだって、今回は役に立たなかったのは自覚してる。自分が弱いのも痛いほどわかった。だから、その、この先生き残るには、ちょっと本気で鍛えないといけないかと・・・」

「へえ。」


 素直にクロは感心する。この心変わりはいい傾向だろう。死の淵に立って、ムラサキも強くなる必要性を実感できたようだ。

 クロの表情が驚きから嬉しそうな表情に変わる。


「なんだ、真白。得たものはあったじゃないか。」

「なんです?」

「ムラサキがやる気になった。これは得難い収穫だ。」


 嬉しそうに言うクロと対照的に、マシロは困惑気味だ。


「そんなに得難いものでしょうか?」


 どうやら鍛錬好きで、努力することが当たり前のマシロには理解し難いらしい。

 クロはそれを無理に理解させる気はない。マシロはマシロ。ムラサキはムラサキ。理解し合えなくても協力して生きていくことはできる。理解できなくてもそこにあるものを受け入れることが大切だ。

 そんな時にクロが良く自分に言い聞かせる言葉を、マシロに言う。


「そういうものだよ。」

「そういうものですか。」


 マシロがとりあえず納得してくれたことで、反省会は終了する。

 飲み終えたお茶を片付けつつ、今後の予定を確認する。


「炉の再開の前にやりたいことがある。」

「既に材料が溜まっていますが、大丈夫ですか?」

「雪が積もる前にやっておきたいんだ。早速午後から動けるか?鍛錬もかねて出かけたい。」

「構いませんが、どちらへ?」

「あとでまとめて説明する。茶器を片付けてからでいい。」

「わかりました。」


 クロはソファーの背もたれにもたれかかって両手を上げて伸びをする。


「さあ、忙しくなるぞ。」

「キャン!」


 クロのやる気に満ちた言葉に、アカネが望むところと言わんばかりに鳴いて応えた。


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