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選べるなら、人間以外で  作者: 黒烏
第3章 黄色の鳶
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091.5 (閑話)出陣前夜

最近、殺伐とした話が続いているので、ちょっと時間を戻して団欒とモフモフを差し込み。

くりすます?何それ、美味しいの?

 9月27日夜。昼に来たヴォルフからの依頼について、いろいろと相談した結果、話が決まったのは夕方だった。

 ヴォルフは王国に決定した内容を持ち帰り、クロ達は明日の出発の準備を行う。

 クロが提案した武器(後に「傘」と名付ける)を大急ぎで制作していたクロとマシロに、ムラサキが夕食を提案する。

 魔族である3人は普段食事をしないが、戦争に出れば嫌でも負傷するのは目に見えている。多めにストックを貯めておくのは悪くない、と夕食を取ることにした。

 そして武器の制作を中断して、夕食をとる。ムラサキが腕によりをかけて作った料理だ。材料はほとんどがこの森で採って保存食にしていたものだ。肉、キノコ、果物が多い。アカネにも調理した肉が振舞われている。


「この肉、美味いな。」

「だろう?森で採れたリンゴっぽい果物のソースが決め手だ。」

「ああ、数日前に持ってきたあれですか。確かに形も味もリンゴに近い物でしたが、結局名前はわからなかったのですか?」

「図鑑にはなかったなあ。もしかして新種発見?」

「そりゃすごいな。」

「よくそんな正体不明のものを調理しようと思いますね。」

「毒味はしてるって。それに、新しいものに挑戦しなきゃ、新しい味は見つからないだろ。」


 ムラサキの新種発見を賞賛するクロと、それを調理した無鉄砲さに呆れるマシロ。アカネは一心不乱に肉を食べている。かなり気に入ったようだ。


「しかし、野菜が足りない気がするなあ。」

「私はこのくらいでいいですが・・・」


 野菜好きのクロと、肉食のマシロは食に関しては意見が合わない。


「今回はある物で作ったからな。野菜は王都で買って来ねえと。畑があればなあ。」

「それは俺も思うが、農家が種を余所に出さないようにしてるから、仕方ないだろ。」

「極論、木魔法が使えれば、野菜も容易く育てられますからね。無差別に種を配れば、農家が仕事を失います。」


 この世界の植物は強い。食用の野菜ですら、農家でなくても適した土地なら簡単に育てられる。となれば、種が市場に出回ってしまえば、農家は食い扶持を失いかねない。戦時中のため、国から食糧生産が奨励されているとはいえ、農家も生活がかかっている。おいそれと種を渡せない。

 結局、種を得るには、農家に直接交渉しなければならない。農家も国の事情は分かっているから、新たに農家を始めるという者や信頼できる者には種を分け与える。しかし、逆に言えば、農家に認められないと種はもらえない。魔族として忌避されるクロ達がもらえる可能性は低い。


「俺らは植物を育てるような木魔法、使えないけどな。」

「どのみち無理かあ・・・」


 ムラサキが残念そうな声を上げる。

 そんなムラサキを励まそうと、クロがムラサキをほめる。


「まあ、それでもこれだけ美味いものが食えるんだ。ムラサキに感謝だな。」

「そうだよな!流石、オレ!」

「調子に乗りすぎです。でもまあ、この肉は美味いです。」


 珍しく、クロだけでなくマシロも褒めた。

 そこへ肉にがっついていたアカネが声を上げる。


「キャン!」

「お、アカネ、もう食べ終わったか。もう一つ食うか?」

「キャン!キャン!」


 嬉しそうにアカネがムラサキに擦り寄る。ムラサキはアカネを撫でた後、自分の肉を1つ、アカネ用の皿に置いた。アカネはまた夢中で食べ始める。

 すると、さっきの賞賛はどこへやら、マシロとクロがいつも通りムラサキを弄り始める。


「ムラサキが食べ物を譲った・・・明日は大雪でしょうか?」

「やめてくれ。不在の間に家が雪で埋まったとか、シャレにならん。」

「お前らなあ・・・オレだって可愛いアカネに美味いもの食わせてやりたいと思ってんだよ!あと、クロ!オレだって雪掃きぐらいやるわ!」


 普段奔放で自分勝手なムラサキも、アカネには甘いようだ。

 そんな感じで出陣前の夕食会を皆で楽しんだ。



 夕食の後、クロとマシロは遅くまでかかって武器を完成させた。運びやすいように解体してまとめ、作業小屋に置いておく。

 自宅へ向かいながら、2人は明日の予定を話す。


「さて、あれは明日の朝、王都の業者に運搬を依頼しよう。」

「そうですね。大きいので、あれを支えたまま走ると速度が落ちてしまいます。」

「それで遅れたらシャレにならないからな。明朝出発で、途中で野営で1泊。明後日の午前中にはモスト川に着くか?」

「そうですね。マスターを送り届けたら、私はそのままミタテ平野に向かいます。」

「あーあ、結局、別行動か。」

「その話は終わったでしょう?」

「そうだが、俺は納得してないからな。さっきも言ったが、俺は何よりお前の・・・」

「わかりました。わかりましたから。」


 感動的なセリフも、重ねて言えばしつこい。

 寝る準備をして寝室に入れば、ベッドの上でムラサキとアカネが寝息を立てていた。それを起こさないようにクロとマシロはそっと寝室に入る。

 いつもの態勢で寝ようと、マシロが犬形態で伏せの態勢になる。いつもはそこにクロが寄りかかるのだが、今日はクロはその傍に座った。


「マスター?」


 小声でマシロはクロに声をかけるが、クロは返事の代わりにマシロを撫で始める。


「こうやって寝るのもしばらくお預けだしな。ちょっと癒しを補充。」

「はあ・・・」


 明日の野営では交代で見張りをしなければならないから、こんなことはしていられないだろう。

 そして、言及はしないが、もしどちらかが戦死でもすれば、これが最後になる。

 しばらく背中や頭を撫でていたクロだが、我慢できずにとうとう抱きつく。


「うーん。やっぱり真白の毛並みが一番だな。」

「しょうがないですね・・・」


 マシロが嫌がらないので、クロは遠慮なくモフモフを堪能する。真っ白なサラサラした毛が心地いい。毛皮の下は筋肉質だが、固いわけではなく、弾力がある。毛皮の断熱性のためか、魔族の体温が低めなせいか、アカネのような温もりはないが、暑がりなクロはこの涼しげな触り心地が気に入っている。いつまでもこうしていたい気分だ。

 背中に抱きつくクロに、呆れたようにマシロが溜息をつくと、長いふさふさの尾をクロの上に回し、撫でるように動かす。


「おやすみなさい、マスター。」

「ああ、おやすみ。」


 結局クロはマシロの背に抱きついたまま寝てしまった。マシロは呆れつつも、これはこれでいいか、と目を閉じた。


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