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選べるなら、人間以外で  作者: 黒烏
第1章 白い犬
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010 『カグツチ』

 駆ける。戦場へと駆ける。戦場が見えてきた。


「戦闘中だ。まずは敵を片付けるぞ。友軍の射撃にも注意しろ。」


 主はいつも的確な指示をくれる。いつも通りだ。友軍の誤射もいつも通り。私たちの高速戦闘は、敵はもちろん、味方もついて来れない。誤射を受けるのは日常茶飯事だ。


「味方であることを示さなきゃな。『ウォータバレット』『フリーズ』行け!」


 主が得意とするのは炎魔法と水魔法の合成による氷魔法。炎魔法は一部冷却する魔法が存在し、水魔法と組み合わせることで氷を操ることができる。

 主が作り出した多数の氷の弾丸が帝国兵を撃ち抜く。

 さあ、戦闘開始だ。

 友軍の脇を走り抜け、敵に迫る。感覚器官を総動員して周囲を把握する。友軍の声と敵兵の声が入り乱れて聞こえてくる。


「氷魔法!友軍か?」

「た、助かった。」

「新手だ!迎撃しろ!」

「まて!奴はまさか・・・」


 敵が銃を向けてくる。12人。銃口から弾道を予測。安全地帯を見つけてそこへ走る。

 同時に主が拳銃を撃ち、敵を1人倒す。安全地帯が広がった。


「<疾風>だ!王国から来たのか!」

「弾幕を張れ!隙間を作るな!」


 新たに敵兵が銃を向けてくる。射程にいるのは20人。弾道予測。隙間が狭い。大きく迂回するほかない。


「『ウォーターフォール』!『フリーズ』!」


 主が氷壁を作り、私がその間に移動する。弾が後ろ足を掠める。問題なし。弾幕を回避したところで主が2発撃つ。2人減った。

 高速で走り抜けながら敵を正確に撃ち抜けるのは、主の類まれな動体視力と訓練の賜物だ。他の兵士にはこんな真似はできない。何より主は私の背に乗って攻撃するばかりではなく、私の回避を助けるように気を配ってくれる。

 今日も問題ない。いつも通り私が回避し、いつも通り主が撃ち、いつも通り連携して、敵を倒すだけだ。


「退くな!ネームドを倒せば勲章ものだぞ!」

「うおおおおおお!」

「違う!上の兵士じゃねえ!犬を狙え!足を止めろ!」


 そうだ。それでいい。私は被弾しても構わない。1発2発くらったところで止まるものか。だが主には1発たりとも当てさせはしない!


ーーーーーーーーーーーー


「『エクスプロージョン』!」

「『壁』、ぐ・・・」


 ・・・やばいなこれ、死ぬかもしれん。

 3人目の刺客と戦闘開始してからすぐに怒りによる魔法制御力向上が解除されてしまった。それでも敵より自然回復は速いが、溶融金属操作は多大な魔力を使う。一気にマイナス収支だ。徐々に魔力残量が心もとなくなってくる。

 敵も消耗が大きい爆裂魔法を使っているから、疲れてるはずだが、そこは流石に古参の魔族。魔力容量が半端じゃない。まだまだ枯渇しそうにない。

 そのうえ、爆裂魔法が厄介すぎる。爆発の起点が至近距離にいきなり発生するから、急いで飛びのいて盾を作っても防ぎきれない。傷はすぐに塞がるが、爆風にあおられて反撃に移れない。鉄と鉛を同時に動かし、1つを盾、1つを攻撃に使っても、容易くかわされる。

 ・・・かくなる上は、ダメージ覚悟で2つとも攻撃に回す!


「『滝』」

「それはもう見たぞ!『エクスプロージョン』!」


 刺客は1枚目を躱し、2枚目を爆発ではじき返した。さらに自分は爆風で移動。二刀流で襲い掛かってくる。


「『外せ』!」


 「黒嘴」の剣と鞘を分離し、敵の2本の剣を受け止める。だが、蹴りを入れられ、吹っ飛ばされた。

 数十mほど飛んだところで地面に着き、派手に転がる。急いで起き上がろうとするが、追い付いてきた魔族に踏みつけられた。2本の剣を両手に突き立てられ、固定される。


「終わりだな。」


 確かに厳しい。溶融金属はまだこちらまで追い付いていない。魔力が足りず、速度が出ない。それより先に頭を潰されるだろう。再生は可能だが、一度意識が途切れれば、操作していた溶融金属は地面に落ち、固まる。再度動かすには時間がかかるだろう。

 クロは反撃方法を考えるが、そんな隙は与えんとばかりに魔族が爆裂魔法を構える。何かないかクロが横を見て、自分がいる場所に気がつく。魔族は気づいていない。こちらを倒すことに夢中で気づかないのだ。


「おい、伏せた方がいいぞ?」

「ふん、無駄な、があっ!?」


ドドドドドドドドドドドド!


 幾重にも重なった銃声。刺客はハチの巣になってよろめく。構えていた爆裂魔法は、魔力が霧散して中断された。


「な、に、人間共!これは・・・」


 再生して態勢を立て直そうとする魔族に、再び銃弾の雨が襲い掛かる。


「再生しているぞ!あれが魔族か!」

「撃てえ!魔法を使わせるな!」


 撃ってきたのは帝国兵。ここは主戦線の少し北。いざ最前線に向かおうと装備を整えた帝国兵がわんさかいる場所のすぐ近くだったのだ。そんな場所で目いっぱい魔力を込めた魔法を撃とうとしている奴がいたら、帝国側からすれば、明らかに敵だ。

 再生し、反撃しようとする魔族を帝国兵が集中砲火で抑え込む。もしかしたら、かつての魔族討伐戦争もこんな感じだったのかもしれない。

 手すきの帝国兵がこちらに来た。


「隊長!この男、息があります!」

「帝国兵ではないが、あの魔族と戦っていたのか?」


 クロは頷く。嘘ではない。


「見たところ傭兵か。事情は後で聞こう。捕虜として連行しろ!」


 ・・・まあ、とりあえず生き延びられそうだ。銃を突きつけられてるけど。

 帝国側の傭兵と勘違いしてくれれば楽だったが、そうはいかないらしい。両手の剣を抜いて立たされる。

 ・・・黒嘴を拾いたいけど、拾わせてくれないよなあ。


「かく、なる、上、ハ、道連れ・・・『カグツチ』!」


 魔族が最後の意地で魔法を発動する。クロはその魔法を知っていた。

 連鎖爆裂魔法『カグツチ』。魔力のある物、主に生命を爆弾に変え、その爆風を浴びた物もまた爆弾に変えていく魔法。開けた場所で、人が密集していないと連鎖なんてしない、机上の空論の魔法だと思っていたが、ここなら有効だ。


「逃げろ!爆発するぞ!」


 クロの叫びに反応して慌てて帝国兵が魔族から離れる。クロもどさくさに紛れて黒嘴を拾い、走る。

 帝国兵の大部分が自軍のいる方へ走る。


「そっちじゃない!こっちだ!」

「え、うわ!」


 近場の帝国兵を引っ張って、人がいない方へクロは走る。しかし、引っ張った兵士以外は呼びかけを聞かず、自軍に向かって走っていく。

 そっちじゃ逆効果だ。そう思うと同時に、ついに魔族の体が爆裂する。範囲が広い。残りの魔力をすべて込めたのだろう。最後尾の数人が巻き込まれ、すぐに爆発する。

 クロは全力で逃げていた。帝国兵を脇に抱えたまま。置いて行ってこいつが巻き込まれたら、こいつから連鎖して爆風が広がってしまう。爆風の速度には敵わないが、それでもできる限り速く走った。獣人など目じゃない、時速100kmは出ているんじゃないかという速度だ。だが、それでも追い付かれそうだ。


「広すぎだろっ!」


 もはや爆風が意志をもって追いかけてきているのではないかと思うほど、まだ爆風は広がっていた。クロが走る方向には人はいないはずなのに。もしかすると、塵になって燃えている魔族の体に、まだ意志が残っているのかもしれない。塵になっても爆風に乗り、クロを執拗に追いかけているというわけだ。

 走りながらクロは考える。連鎖を止める方法は、爆風の範囲に生き物がいないこと。いや、虫や普通の獣は問題ない。連鎖対象の魔力を利用して爆発するため、一定以上の魔力を持っていないと起爆しない。だが逆に魔力さえあれば、連鎖してしまう。つまり、魔法で壁を作っても、その壁が爆発するのだ。可燃物でなければ範囲は狭いが。

 また、魔力があっても術者の魔法制御力を上回れば、起爆を抑えることが可能である。しかし、制御力は感情に応じて変動する。あの魔族が自身の命と引き換えに使ったこの魔法がどれだけの制御力を持つかわからない。万が一、クロの制御力を上回っていれば、起爆してしまう。試す気にはなれない。あと、連鎖を止める条件は・・・

 そこでクロの走る先から、こちらに向かって走ってくる人影が見える。紫色の髪の獣人の少年。頭には猫耳。連邦軍の軍服を着ているが、その背負っている荷物と魔力の質でクロにはそれが誰だかわかった。


「ムラサキ!」

「クロ!その後ろのは・・・」

「この一帯の酸素を消せ!お前が来た方法に逃がせ!今すぐ!」

「お、おう!」


 獣人化したムラサキから薄く魔力が高速で広がり、すぐにそのすべてがムラサキがいる方向へ移動する。

 流石の魔法操作力だ。速く、広い。ムラサキは魔力容量こそ小さいが、操作力が高い、つまり器用であるため、魔法の発動速度と精度が優れている。

 クロは呼吸を止める。若干運動能力が落ちるが、魔族なら生命活動に問題はない。抱えている帝国兵は気絶した。

 念のためムラサキが作った無酸素空間をしばらく走り、後方を確認する。無酸素空間に入った爆風は、火が消えて塵交じりのただの風になり、吹き抜ける。・・・連鎖はしない。

 火を使う炎魔法に共通する特性として、火が消えると効力を失うというものがある。一部の炎魔法には火に特殊な性質を付与するものがあるが、いずれも火が消えれば止まる。この爆裂魔法も根本は炎魔法。火さえ消えれば止まると思って試したが、当たりだった。もしかするとそこも改良されているのでは、と少し不安だったが、何とかなった。


「はあ、危なかった。助かった、ムラサキ。あ、酸素を戻してくれ。」

「おう。何があったんだ?」


 気絶した帝国兵を下し、捕虜とするべく縛りながら、ここまでの経緯をムラサキに説明する。


「また無茶したなあ。というか、お前でも死にそうになるんだな。」

「何言ってんだ。俺だって不死身じゃあない。あのまま帝国兵が乱入しなければ、普通に殺されてたし、爆風に巻き込まれてたら爆死してたぞ。」

「だったら一人で行くなよ、まったく。」

「ところで、ムラサキはなんでここへ?」

「ああ、司令部の会話を盗み聞ぎしてたら、お前が向かった西側が連絡途絶っていうじゃないか。全体的に劣勢で司令部も安全じゃなさそうだったから、いっそのことこっちに様子を見に来たんだよ。素の姿じゃ荷物を運べなかったから、プライドを捨てて人型になったんだ。苦渋の決断だよ。」


 ムラサキは本気で嫌そうな顔をする。自分の平穏を奪った人間が嫌いなのかもしれない。その人間にエサもらってたんだろ、というツッコミは保留することにした。


「ああ、悪いな。でも助かった。」

「まあ、いいさ。で、こっちに来たらあの大爆発に、クロの気配だ。爆発から逃げるべきかと思ったが、クロをほっとけなくてな。つい来ちまった。」

「・・・・・・」

「どうした?」

「いや・・・」


 クロはムラサキを荷物を預ける程度には信用していたが、全幅の信頼とまでは行かなかった。ムラサキは基本自分の平穏が一番で、命の危機になれば、自分だけでもさっさと逃げるだろうと思っていた。というか、魔族は普通そうだ。他人のためには動かない。さっき襲ってきた魔族はかたき討ちに来たが、あれは例外。もしくは、自分の恨みを晴らすべく来たか。少なくともクロはそう思っていた。

 ところがムラサキは、あの爆発がやばいものだとわかっていながら助けに来てくれた。色々と打算はあったかもしれないが、それでも助ける方の選択肢を取った。


「ありがとよ、相棒。」

「お、悪くないな、それ。」


 クロはムラサキをもっと信頼してもいいかもしれないと思っていた。

 静かに笑いあう2人は何とも明るい雰囲気なのだが、足元に縛られて転がっている帝国兵が台無しにしており、遠くでは連鎖爆裂魔法に巻き込まれた帝国軍が未だに連鎖を続け、阿鼻叫喚の地獄と化していた。少なくとも、笑っている場合ではないのだが、2人はその地獄で笑っていた。


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