機皇
激戦を経た斗真。
新たな仲間とともに朝を迎えるが、そこに一人?の来訪者が────?
場所はアルファティア。ギルド近くのとある宿。
東側の窓朝日が差し込む良い部屋だ。
そこに眠るは美少女三人と平凡な少年。
割と広めな部屋の中にベッドが北側と南側の二つで、あとはソファぐらいしか寝れる場所が無かったが。
その夜どこで寝るかについて散々話合った。
結果としては以下の通りになっている。
ソファに少年────西尾斗真が。
北側に美少女、サーシャ・トラバント。
南側に美少女二人、シルフィとステラ・アストルテ。
それぞれ不服な所もあったのだが、一度眠ればそれは幸せそうに寝ていた。
朝日が登り、部屋の中に光が差すところはソファである。
対面式ソファの部屋の中央側を使ったため、朝日がちょうど顔に当たっていた。
「んん……んぅ……?」
瞼越しに光が見え、眠りから覚めていくのを感じていた。
「ふぁぁぁぁ…………朝か……」
ソファからゆっくりと起き上がる。身体の上に掛けていた毛布がズルズルと落ちた。
眠たい目を擦り、精一杯伸びをする。
この起きた時の伸びが気持ちいいのだ。
まさに目覚めの快感!って感じだ。
コンコン
部屋の扉をノックする音が響く。木のいい音だ。
その音で美少女三人は目覚めることなくスヤスヤ眠っている。
伸びをしたとはいえ、完全には目覚めてない。
再び目を擦り、だらしなく着た黒基調の寝巻き(ダサいとシルフィから一喝されたが個人的には気に入ってる)の下に手を入れ腹をかきながらドアへと向かう。
「ふぁぁぁぁ……誰だぁ……?」
ドアノブに触れ、手首を回す。
カチャッという音とともにドアを開ける。
するとそこには────
「対象確認。コンタクト開始。当機はあなたと行動を共にすべく来た」
────幼女がいた。それも機械部を覗かせた。
「……ええと…………………誰?」
残っていた眠気が吹き飛び、目の前の現実を理解する。
『機皇類』
それがそこにいたことを。
「それで……?その子は機皇類なのね?一応」
「肯定。当機は機皇類と別称される部類にいる」
とりあえず残りの面々をたたき起こし、事情を説明した後、部屋を訪れたそれと共にギルドの飲食スペースまで来た。
もちろん俺たちの周りの冒険者やギルド従業員たちは、ヒソヒソとなにか話をしている。
おおかた機皇類の話だろうが。
「説明。当機のコードは『DーMAKINAーZ99』とされており、別称『デイシャリアウナ』と呼ばれている」
「長ぇよ。デ……イ?」
「デイシャリアウナ」
「やっぱ長ぇわ。『シャナ』って呼ぶからな」
デイシャリアウナ────シャナは少しムッとした顔になったような気がする。あくまで気がする、だ。表情の変化はほとんど無かった。
「ええと……機皇類って今は初代機皇が統括する場所で生活してる……という話よ」
場所までは分からないらしいけど、とステラ。
初代機皇か……いったいどんな機皇なのだろうか。
「肯定」
シャナは頷いたがしかし
「補足。我々の拠点『マキシア』は、一定の場所にとどまることは無い」
と言った。
「一定の場所にとどまることは……無い?どういうことだ?」
「説明。拠点を失えば我々は確実に滅ぶ」
「……何故だ?」
「返答。現在当機を含む活動機体に『自動修復機能』の効力が弱まっている。原因は不明。かすり傷等軽微な損害の場合は問題ない。しかし活動に支障をきたす重大な損害ならば、拠点の修復所に入らなくてはならない」
「つまり拠点を潰されたら重大な損害からの回復が出来なくなる……ということか」
「肯定」
人間とあまり変わらないのかもな、と斗真は思う。
人間だってかすり傷ぐらいなら自然治癒するか、手術が必要な怪我なら、それ相応の場所に行かないと治療出来ない。
「うーん……とりあえずシャナはなんで俺のとこ来たの?」
「あんたの所に来たわけじゃないでしょ」
半目の呆れ顔で言うステラ。
「否定。当機はニシオトウマと行動を共にすべくここへ来た」
「ってさ」
「えぇ……」
シャナは俺と行動を共にすることが目的……だけではない気がする。どこからか聞いたのか、この世界に来たばかりの俺の名前を知ってるし。しかもフルネームで。
機械仕掛けの少女の考えが読めない。
どうしたものか……。
「まぁいいんじゃない?一緒にいても」
シルフィはそう言った。
「……私も……うん……いいと思う……よ……?」
それまで一言も喋らなかったサーシャもそう言った。
これで肯定者二人、か。
「私も別にいいけど……ねぇシャナ」
「返答。なんでしょう」
「あなた達はどっちなの?味方?敵?」
ステラは機皇類そのものが味方か敵か見極めるようにそう言った。
シャナは少し俯き、考えた後顔を上げた。
「返答。我々は……少なくとも当機は『味方』であると断言する」
「そ、ならいいわ」
意外と素っ気なく引いたステラに斗真は少し驚いた。
「案外あっさりしてんだな」
「まぁね」
味方なら単純に戦力が増えるから好都合でしょ、とステラは言う。
確かにそうだ。
機皇類はどのくらい強いのかは知らない。
しかし、戦力が増えるのはありがたいことだし、シャナの申し出を受けることも良いのだろう。
「よし、分かった。シャナ、これからよろしく頼む」
そう言って俺はシャナに向かって手を差し出す。
「?質問。この行動にどんな意味が?」
「握手だ。分かるか?」
俺は苦笑してそう言った。
「理解。しかし、質問。この『握手』にはどんな意味が?」
どんな意味……か。握手の意味ねぇ……。
「『仲間としての認識』、かな」
「……質問。当機は『仲間』と認定された?」
「おう!されたされた!」
シャナは俺の返答に少しまた考えるような表情(しかしほとんど変化は無い)をした。
そして機械らしからぬ、おずおずとした様子で手を差し出した。
その手をとり、握手を交わす。
シャナは少し驚いた様に見えたが、しかし今度は誰しもわかる表情の変化を見せた。
「了承。宜しくお願いします、主様」
微笑みだった。
……ん?
「ま、マスター?」
「肯定。主様」
「なんで!?」
シャナは俺の手を指さすと、
「握手を交わしたことにより、当機と主様の間に主従契約が行われた。何か問題でも?」
どうやら気づかない一瞬の間にそんなことがあったらしい。
「いや、問題ない……と思うが……」
何故だろう。周りのヒソヒソがさらに大きくなった気がする。
誰だ「まさかあの小さい子を陥れて……?」とか言ったの。出てこい。
「ま、何がともあれ……新しい仲間も増えたことに祝して何か食べましょ?」
「いや待て」
シルフィの祝い飯の提案を俺は遮った。
「まだシャナの力をよく分かってないし、俺も……そうだな……まぁここらの地形に慣れておきたい。クエストに行こう。ステラやサーシャとの連携も考えないといけないしな」
「賛同。主様の発言は一理ある。当機も主様の考えを尊重し、賛同する」
すぐにシャナも同意してくれた。何気に分かってるのかなこいつ。
「そうね、まぁそうした方が後々楽でしょ」
「……うん」
ステラとサーシャも同意見らしい。
「ぶーっ……ならクエスト行く」
しぶしぶといった表情シルフィも同意する。
決まりだ。
「んじゃ探してくるから待っててな」
「あの……?」
クエスト用紙が貼ってあるボード……クエストボードを見に行こうとした時、一人の女性が話し掛けてきた。
冒険者カードを作ってくれたあの受付の巨乳お姉さんだ。ひゃっほい。
「なんですか?」
「実は……」
お姉さんは一枚の紙を取り出す。
それはクエスト用紙だった。状態から見るに最新と思われる。
「トウマさんに、このクエストを受けて頂きたいのです。お願い出来ますか?」
「え?」
俺に対してのクエスト?そんな俺は有名になったのか?
漫画やアニメの世界で名指しのクエスト用紙といえば有名人に対してだ。
今はそれが俺らしい。
「見せてもらっていいですか?」
「はい」
お姉さんからクエスト用紙を受け取る。
お姉さんは少し表情を曇らせたが、理由は聞かないでおこう。
なになに……?
「『緊急クエスト〝翼竜〟討伐』?」
第二章になりました!
これからも宜しくお願いします!
次回『翼竜討伐戦』