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斗真の力

斗真の秘められし力を解放するまでに必要な時間稼ぎをする勲章持ち二人。

斗真の秘められし力と対マモン戦の行方は────?

 十秒。たったそれだけでいい。

 時間を稼がなくてはならない。

 ────一秒

守護者(アテナ)っ!」

「わかっ……てる……っ!」

 魔導師(シェヘラザード)が私の後ろに付き、杖を構える。

 ────二秒

 私と共に魔法を構築する。

「テメェらなんぞ相手にならんわぁ!!」

 マモンが大剣を振りかざし突進する。

 その前、同時に最大出力の防護魔法を展開する。

 ────三秒


「「『久遠の拒絶(エターナリ・イジェクタ)』!!」」


 ────四秒

 防護魔法と大剣の刃がぶつかり合う。

 火花のようなものが散るが、それは防護魔法での魔力の壁が削れている輝きである。

 軽く舌打ちし、さらに盾を媒介とした重ねがけの防護魔法を展開する。

 ────五秒

「『永劫の拒絶(アストロフ・イジェクタ)』!!」

 盾の形をした巨大な障壁が、二人で出した防護魔法とシンクロし、さらに強固な壁となる。

 ────六秒

「ぐぬぅ!?」

 流石にこの硬さは簡単には切り裂けず、苦悶の声を出す。

(防ぎきれる────!?)

 ────七秒

 壁の向こう側に魔法陣が出現する。

 つまり魔法の発動(・・・・・)。マモンの掌から黒き光の輝き、防護魔法の先から零れる。


「『崩壊の光(ファークライスト)』」


 黒い光が爆発し────防護魔法を消し去った(・・・・・・・・・・)

「嘘っ……」

 ────八秒

 後ろから驚愕と、そして絶望の声が漏れる。

「……足りん」

 魔法を放ったマモンは、少し間を置いて二人に語りかける。

「お前みたいな奴がいた」

 私を見てそういうマモンの瞳には、その瞳には少し懐かしみのようなものがあったように思えた。

 ────九秒

 しかし、すぐに殺気




 の籠った瞳に戻り、大剣を振り上げる。

「そいつのところに逝かせてやる」

 両手で柄を握り、一気に振り下ろされる。

 ────十秒


「時間だ」


 キィィィィン

 刃と刃(・・・)がぶつかり合う甲高い音が鳴り響く。

「え……?」

「良く耐えてくれたよ……ありがとな」

 彼は────チーターは少しだけこちらを見た。

 その右手には黄金の剣。

 そして彼は言う。

「……この手に握るは……『勝利』の輝き!!」

 それに共鳴するかのように黄金の剣が煌めき、マモンの大剣を押し返してゆく。

「ぬぐぅ!?」

 二度目の苦悶の声を上げるマモン。

 大剣ごと強く弾かれ、バランスを崩す。

 そこを見逃さず、チーター……斗真は前蹴りを繰り出し、吹き飛ばす。

「……っ、テメェ……なんだその剣」

 日に照らされ、光を反射する

 その剣には、古代文字と思しきものが掘られていた。

 柄には綺麗な彫刻がなされており、柄尻に至るまで細やかに出来ていた。

 まるで芸術作品のような……しかし、その剣が纏う覇気にも似た何か(・・)はその場にいた全ての目を引きつけた。

「『約束された勝利の剣(・・・・・・・・・)』って……知ってるか?」

 軽く空を薙ぎ、構える斗真は伝説を語り出した。

「『約束された勝利の剣』。文字通り『勝利』を『約束』する剣。その剣は、大木を、大地を、水を、炎を、大気を……そして空間をも切り裂く」

 切っ先を左斜め下に向け、左手で剣の腹を撫でるように押さえる。

「その凄まじさ故に……王の血族しか扱うことの出来なかった聖剣らしい」

「……なら何故貴様はその剣を持つことができる」

 マモンの真っ当な問に

「さぁ?」

 ────疑問で返した。

「知らねーよそんなこと。そうだな……しいて言うなら、俺がその血族なんじゃねーの?」

 ニヤリと笑う斗真は、今度は心の底から余裕を持っていた。

「なんだそれは……」

 同じく大剣を構えながら少し呆れたように呟くマモン。

「まぁ……なんであれ」

 もう一煽りでもするか……とでも言うように吐き捨てる。


「どーせお前は俺の踏み台ってわけだ」


 マモンの目に、それまでより強い殺意が込められる。

「……どうだかな」

「お?さっきは短気な脳筋かと思ってたが……撤回するべきだな」

 お互い、機会を伺う。

「そりゃどうも……テメェもそこの二人よりかは手応えありそうだ」

「当然だ……なんたって俺はチーターだからな」

 チーター……?というふうな顔になり少し気が逸れた(・・・・・・・)

「フッ!!」

 短い呼吸とともに切っ先をマモンの首元へと向け、一気に距離を詰めながら突く。

「!?」

 不意を突かれたマモンは大剣の腹で突きを防ぐ。

 そして────疑問が確信に変わる。

 防がれたエクスカリバーの切っ先を上に逸らし(・・・・・)、頭部を狙う。

「クソがぁぁぁぁぁッ!!」

 大剣を上にスライドするかのように上げ、軌道をずらした。


 ────それが最大の狙い。


 上に逸らされた剣を引き戻しながら回転(・・)、下から斬りあげる。

 ギリギリで斬りあげに気づいたのか、咄嗟に上体を逸らすが切っ先が体を掠めた。

 上体を逸らした反動を利用して後ろに飛び下がる。

「……ッ!!」

 胸板を斬られた(・・・・)ことに怒りと驚きと……焦燥がマモンの中を渦巻いた。

「テメェ……一体どこの……」

「俺か?」

 斬りあげの体勢から再び構える。

 そして不敵に笑い、この世界に来てから何度目かの言葉を放つ。


「この世界最強の『チーター』だ!」


 そう────俺はチーターだ。

 異世界から……それもこの世界に近い『セインク』の覇者である俺が来た。

 地形も、モンスターの攻撃パターンも、アイテム調合やスキルだって知ってる。

 事前情報なんかじゃ割に合わないくらいに。

 プレイヤーなら俺のことをこう言うだろう。


 ────『チーター』と。


「チー……ター……?聞いたことねぇな」

「ま、そこら辺はどーだっていいだろ?」

 敵にとってはあまりいいことではないのだが。

「さぁ……続けようぜ」



 絶技。

 本当にそう思えた。

 マモンもかなりの腕だと思う。

 しかし、それ以上の動きを見せているのだ。

「本当に……何者……?」

 隣の守護者が呟く。

 剣を持った彼の動きは……なんというか『洗練』されているような気がする。

 かなりの修行を積んできたのだろうか。

「……分からないわ」

 守護者の独り言に返事を返す。

「けど……彼がマモンを倒してくれそうなのは確かよ」

 そう断言出来るほどに確信していた。

 彼は強すぎる、と。

「そこの二人!大丈夫?」

 呆然と激戦を見つめる二人に声を掛けてきた人がいた。

 ────先ほど斗真に助言をした女性。つまりシルフィである。

「え、えぇ」

「な……んとか」

 そう答えると彼女は安堵したようで、よかった、と呟いた。

「とりあえずこれ!ポーションとか!」

 シルフィは回復ポーションを手渡し、斗真の方を向く。

「あ、ありがと……?」

 その表情には信頼と……こちらにも焦燥が浮かんでいた。

「……あなたは……彼の知り合い?」

 思わずそうではないかと聞いてしまった。

「え?あぁ……まぁ、そうかな」

 こちらを少し見て答えるシルフィ。

 先ほどまでの焦燥も、隠してしまったのか見えなくなっていた。

「……焦ってる……?」

 守護者の呟きにシルフィはピクッと肩を震わせた。

 図星だったのだ。

 今、シルフィは焦っている。

 自分の創造した世界で知らないモンスター(マモン)がいる。それがシルフィを不安にさせている。

 不確定要素の確立(・・・・・・・・)、それが焦りの原因。

 完璧に仕上げたはずの物に不協和音が生じていることに不安を覚えているのだ。

「……彼の知り合いなら……」

 守護者は少し悲しそうに、どこか自分を見つめるかのように言う。


「信じてあげて……?」


「……ッ」

 何も知らないこの子からそんなこと言われるなんて……思わなかった。

「……うん」

 私がこの世界に引き込んだ。信じなくてどうする。

「信じないと……」

 そうだ、信じなければ。


「彼は……強いんだから」


 異世界一のチーター。それが肩書き。

 これから増えてくだろう肩書きの一つ目。

 そう思う彼女の目にもう焦燥の感情は見られなかった。

 その表情を見て守護者は安心したように微笑む。

 ────私には……言えないな。

 信じてあげて。そんなこと私には言えない。

 私は────


 ズドォォォォッ


 とてつもない音と衝撃波に私の思考は遮られた。

「……何者なのよ」

 私は今日何度目かの言葉を吐いた。



「……流石にやられすぎじゃないの?」

 圧倒的な差を見せつけるようにダメージを与えていた俺は蹴り飛ばしたマモンを見下していた。

「クソッ……」

 さながらヒーロー物の逆の展開ではないか。

「これじゃどっちが救う側なんか分かんねぇじゃん……」

 呆れながら剣を構える。

「フッ……」

 笑った(・・・)

 マモンはここまでやられた上で笑った。

「……」

「ククク……ハーッハッハァ!!」

 微笑みから高らかな大笑いに。

 さながら『今までのはウォーミングアップ』とでも言いたいかのように。

「悪ぃな……俺の力は『収縮』だけではないんでな」

「────ッ!?」

 ゾワッとした瞬間にはもう遅かった(・・・・)

 俺は吹き飛ばされた。真後ろに。

 唖然としていたほかの冒険者の隣を通り抜け、街を囲う壁に激突した。

「ガッ……アガッ……」

 肺にあった空気が全て吐き出され、すぐに呼吸しようにも上手くできない。

「ふぐぅ……ッ」

 無理矢理体を動かすと鋭く痛みが走る。

 痛い。痛い。痛い。

 脳内に駆け巡る、ゲームにはなかった……セインクになかった物に、体が、脳が……俺の全てが悲鳴をあげる。

「あ……あぁぁぁぁッ!?」

 口の中を切ったのか、血の味がする。

「ククク……『収縮』ともう一つ……俺にこれを使うきっかけをくれたお前に感謝しなきゃなぁ?」

「……ッ……まさか……」

 しくじった。

「お前が攻撃してくれた(・・・・・・・)からな?」


 受ダメ強化(・・・・・)スキルだったなんて────!!


 受ダメ強化スキル。

 文字通り受けたダメージにより攻撃力が上昇するスキル。

 セインクでは一部ボスクラスモンスターが使っている固有スキルである。

「クソが……ッ」

 マモンが吐いたセリフを繰り返すことになるとは思わなかった。

「わざと当たりに行った時があったのはそのためか……ッ!!」

 攻防の中で、何度か当たりにきていたことがあった。

 それが全てこのためだとしたら……気づかなかった俺は……。

「ククク……さて……『ウォーミングアップ』は終わりとしよう」

 これまでの攻防を『ウォーミングアップ』と称したマモンはニヤリと不敵に笑う。

 さながら悪魔のように。

 大剣を振りかざし、力を込めるマモン。魔法陣が構築され、黒い煙のようなものを大剣が纏っていく。

 身体が動かない。避けることは不可能なのだろうか。

「少しでも俺に全力(・・)を出させたこと、褒めてやるぞ」

 さらに力を込め、増幅させる。

「斗真ぁ!!」

 思わずその光景を見ていたシルフィは叫ぶ。

「死ね」

 二度目の宣告。

 確かにこれは死ぬかもな。腹を括るしかない。

 是非とも二度目があれば……考えて闘いたいな。

 振り降ろされる大剣。その切っ先からはドス黒い衝撃波が放たれる。

 必殺であろう一撃。

 しかし、斗真は笑っている(・・・・・)


 そして、斗真の持つエクスカリバーの力をフルに使い、衝撃波を────消す(・・)


 突如として消えた必殺の一撃が消えた。

「……は?」

 マモンは目の前の現象に理解出来ずポカンと口を開けて、衝撃波を打ち終えた体勢で固まっている。

 消えた衝撃波の先には……ほぼ無傷(・・・・)の斗真がいた。

 その手にはやはりエクスカリバーが握られていた。

「テメェ……何しやがったぁぁぁぁぁ!?」

「ブフォw」

 叫び散らすマモンに……盛大に吹き出した。

「おまっ……ひーっひーっ……プフッ……」

 まだ笑い続けている。それほどおかしいのか?

 あぁおかしいとも!なぜなら

「お前の攻撃力……上がってねぇから!w」


 ────全ての攻撃が幻覚だったからである。


「なん……だと……?」

「だーかーらー?お前の攻撃力は上がってねぇの!分かる!?」

 無傷の斗真は煽りながら話を進める。

「いやー……本当に便利だわ。このユニークスキル(・・・・・・・)

「ユニークスキル!?」

 ユニークスキル。

 その人特有の、世界で一つ、唯一無二のスキルのこと。

 それを持つものは無条件で強者たりえる。なぜならそのスキルそのものが強いからだ。

 斗真もまた例外なく強い。

「ユニークスキルって……『戦神(アストファ)以来じゃない(・・・・・・)!!」

『戦神』。

 ユニークスキルの使い手かつ、魔王臣下をたった一人で降した偉人。

 名は知られてなく、みなその勲章で呼んでいた。

 幻覚を見ていたシルフィたちも唖然として斗真をみていた。

「ユニークスキル……それで何をしたというんだ」

「『ケリュケイオン』」

 斗真は元の世界の神話に出てくる神器の名を口にした。無論、マモンやほかの冒険者も知るはずもない。

「ケリュケイオンってのはな、幻覚を見せることが出来る力を持ってるんだ」

 医療の象徴としていることもあるがな、と続ける。

「俺はお前に幻覚をかけた」


「『俺がお前を圧倒的な差を見せつけながら攻撃する』……そんなふうにな」



 しかし、たまたまあの攻撃が当たり吹き飛ばされた。

 吹き飛ばされたのは本人。血の味も、痛みも全て受けていた。ダメージも多少あった。

 その上で〝ほぼ無傷〟なのだ。

「ま、想定外があったのも事実。吹き飛ばされたのはびっくりしたよ。当たったんだもん」

 当たることは流石に想定外であったために対応が遅れそうになった。

 ギリギリで受け身が取れてなければ少しまずいことになったかもしれない。

「……ふざけるな」

 怒りの衝動に比例するようにマモンの身体からドス黒いモヤが溢れ出てくる。

「ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 もう一度大剣を振り上げ、大剣にモヤを集める。先ほどよりも強い衝撃波を放とうとするように。

 大剣の切っ先にはもはやモヤを通り越して禍々しい球のようなものに見える。

「……そっちがその気なら、こっちもこっちでやるしかないよな」

 斗真も剣を振り上げ、聖剣に、エクスカリバーに力を込める。

 エクスカリバーが煌めき、黄金の輝きを放つ。

「幻覚無し手加減無しの本気の攻撃だ。それをもってお前を────消す」

 マモンが黒い力を大剣に集めるように、それに呼応するように斗真はエクスカリバーに力を注ぐ。

 イメージをするのだ。どのように力を解放するのか。

 そして、同時に地面を蹴り飛ばし距離を詰める。

 マモンは力技で振り下ろし、斗真は回転して斬り上げる。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」


 二つの収束された力が解放される。


「『崩壊の光』ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」

「エクス……カリバーぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」


 黒い衝撃波と黄金の衝撃波。

 ぶつかり合い、拮抗する。

「クソがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

「……ッ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 ────ピシッ


「なっ……!?」

 マモンの大剣が、強大すぎる力を受け止めきれず悲鳴をあげる。

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 斗真はさらに力を注ぎ、よりエクスカリバーの輝きを強くしていく。

「クソが!クソが!クソがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 ヒビは瞬く間に広がり────音を立ててマモンの大剣は壊れた。

 マモンにはエクスカリバーの衝撃波は届かなかった。

 最初から大剣を壊すための攻撃だったからである。

 衝撃波はその()のためのもの。

 斗真はエクスカリバーを振り抜き、その力を利用して回転する。

 エクスカリバーに再度輝きが増す。

「エクス……カリバーぁぁぁぁぁッ!!」

 二度目の叫び。

 エクスカリバーの切っ先がマモンの脇腹捉える。

 そのまま肩まで斬りあげる。

 マモンは斬撃と衝撃波で吹き飛ばされた。


 ズドォォォォン


 ちょうどマモンの背後にあった岩にぶつかり、クレーターを作りながらも止まった。

「……」

 黙ってマモンの方へ向かう斗真。

 その表情は僅かな興奮と────大きな敬意を秘めていた。

「魔王軍第三部隊幹部『撃墜のマモン』……お前のその二つ名は、さっきの衝撃波からなのか?」

 不思議だったのだ。

 マモンはとは飛び道具を持っていない。

 ならばなぜ『撃墜』なのか。

「……分かんなかったろ」

 ────もう……死ぬな。

 そう確信したマモンは斗真の問に答える。

機皇(きおう)類って知ってるか?」

 斗真は首よ横に振った。

「機皇類ってのはな……突然現れたカラクリ人形のことさ」

 脇腹から肩にかけて深い傷を負ったマモンは語る。

 新魔王軍のことを。

「俺は……そいつらを倒しまくってたんだ。街へ帰れば歓声の嵐……すげぇ気持ち良かったさ」

「おいおい……その言い方じゃ……」


 ────前は人間だったみたいな……。


 斗真はそう言った。

 魔王軍が街へ行けば敵対。討伐隊と闘わなければならなくなる。

「……お察しの通りさ」

 マモンは目を瞑る。もうすぐ……死ぬ。


「魔王軍幹部は全員……元は人間だった(・・・・・・・)


 ────!?

「新魔王が自軍強化のために有力な冒険者を無理矢理魔物に転生させたんだ」

 マモンは続ける。

「昔は俺も名の通った冒険者だった……でも、新魔王に嵌められたんだ。捕まり、そして行った先には転生施設……思い出すだけでも鳥肌立つぜ」

「他の幹部も……?」

「あぁ……そこに連れてかれてるんだ」

 マモンは微かに動く右手を目に当て嘆く。

「死に際に全部思い出すとはな……とんだクズ野郎だぜ、魔王ってのは」

 手の間から……涙がこぼれ落ちていく。

「俺には……妻と子供がいた。もう何十年も会ってない……記憶が封じられた間に俺が殺してしまったのかもしれない」

 その量は次第に増えていき、嗚咽が漏れる。


「……もう一度だけ……会いたかったなぁ……」


 斗真は目を逸らした。

 何処かに封じた自分の思いに似てるような気がして。

「……マモン……人間の頃の名前は分かるか?」

「……ハスファード、だ」

 斗真はしゃがみこむとマモンの左手を握る。

「ハスファード……お前のことは忘れない。お前の奥さんや子供にも……会えたら聞かせてやるよ。偉大な男の話を」

「……そう言ってくれると嬉しいぜ」

 マモン────いや、ハスファードの口が綻ぶ。

 その身体は……だんだんと薄れていった。

「幹部以上の身体は……死ぬと同時に消えてなくなる。葬式なんか必要ねぇさ。お前だけでも静かに見送ってくれや」

「あぁ」

 右手をどけたマモンの目と斗真の目が合う。

 二人のいるところに日が差す。

 照らされた二人は静かに……別れを告げる。


「じゃぁな……次会うときは仲良くしてくれ」

「もちろんだ。酒でも飲もうぜ」


 ────そして……安らかな顔をしたマモンの亡骸は虚空へと消えた。

七話目まで来ましたねぇ……今回は特に長くて大変でした。

ずっと書きたかったシーンや、ようやく斗真の力を発揮出来た気がしてとても嬉しいです!

さて、次話と同時に更新となります。

一応次話予告はしますね!笑


次回『討伐後のエピローグ』

お楽しみあれ!

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