心残り
ベルフェゴールは何を思うのか────
ステラの魔法の招待、それは……?
私が本当に怖いと思ったのは死に際だった。
姉が逝き、悲しみが支配していた。
付け加えて、魔王軍に捕まり、延命魔法の素材とされ数々の魔法をこの身に受けた。
結果、傷の自動修復が瞬間レベルになり、細胞劣化の速度が遅くなっただけの、いわゆる『不死もどき』という身体になった。
ここまで来て私は死んでいるのか。
まだ、死んでいないと思うだろうか?
私は……思えなかった。
魔王軍に、いや姉が逝ってしまった時にはもう私の中の『私』は死んでしまったのだ。
絶望に浸り、人として落ちぶれていった。
そんな私は魔王軍幹部、堕落の『ベルフェゴール』の依代にはうってつけだった。
魔王軍基地の深域まで連れてかれ、身体を────人間であった事さえ全て変わってしまった。
記憶が────
「行くわよ!」
ステラが更に魔力を込め、術式を完成させる。
「天地創造、この世の始まり」
紡ぐ言葉は────『零』の言葉。
「この世界は祝福に満たされる」
幸せになって欲しい。
「これはそのための創造の波動」
そう願った女神の言葉。
「終わりを見据えるこの光は」
世界のために泣いた女神。
「永遠に光り輝く!」
この魔法は、善の想い──ここではステラの両親への想い──が形となったエネルギーの塊である。
それを破壊に使おうと、回復に使おうと用途が自由。
そんな万能エネルギーを生成する魔法である。
それは、シルフィの使った初めての魔法でもある。
故に『零』。
終わりを見据えながらも、終わりがこないことを願う女神の魔法。
本来の力よりも当然落ちているが、それでも極大魔法────いや、神格魔法だ。
類を見ないその魔法を見たベルフェゴールは戦慄する。
────私は、やれられる、と。
「創世の光!!」
その輝きは────優しかった。
その場を満たす閃光は、私を包み込み、抱いた。
優しく、温かく……どこか姉を思い出す、そんな感じがした。
「この魔法……」
ステラの放とうとする魔法は────自分が初めて創り出した……そして使った魔法。
原初の魔法「零」。
この魔法を見たのはこれで三度目……そのうち二度は私以外の、しかも人間が行使した。
神の魔法を使う人間……それなりの代価はある、そう思うだろう。
しかしこの魔法だけは例外だ。
この魔法は想いの丈の分効果が増減する。
さらに言えば理論上「誰でも使える魔法」である。
詠唱句をは自由、魔力の質は関係ない。
ただ想いがあればいい、そんな魔法だ。
人に憧れ、世界に憧れた────何も持っていなかった少女が創り出した魔法。
根源となるエネルギーを創造する魔法である。
故に『零』。
零から────根源からなる魔法。
根源にある『想い』を形にする魔法。
あの日……あの時の『創世の光』は────
この感じ、俺はこの感覚を知っている。
直感的にそう思った俺は理由もなく確信していた。
何故、そんな疑問は浮かんだがすぐに消えた。
俺の前世。
そう思い当たる節があったのだ。
俺はこれを近くで見ていたのだ、だから知っている。
僅かに残ったこの身体にある記憶がそれを想起させているらしい。
俺はこの光が────好きらしい。
「はぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!」
『創造の光』、それは辺り一面を塗りつぶす閃光となり、その場を満たした。
エネルギーの解放────そして収束。
ステラは魔力を大幅に消費させたため、ふらつき……倒れそうなところに、斗真がその身体を支えた。
「……無理してんじゃねーぞ、バカ」
「そっちこそ……その言葉、そのまま返すわよ」
お互いに少し微笑んだ。
お互い馬鹿だな、そう思う。
「────ま、だぁぁぁ!!」
唐突な雄叫びが辺りにこだまする。
「まだ私は────私は死ねないのよおおおおおお!!」
あの神格魔法を受けた────そう、原初の魔法を受けたはずのベルフェゴールは瀕死になりながらも生きていた。
「滅べぇぇぇぇええええ!!」
ベルフェゴールの手に黒い球体が出現する。
それは段々と肥大化していき、やがて半径十センチほどにまでなると、更にその魔法は加速、その魔力量が大地を揺らす。
「あれは……死術式!?」
「ちっ!ステラ!」
「私は……動けないわよ!」
「クソッ!」
ステラを抱きかかえ逃げようとするが、遅かった。
ベルフェゴールから発せられた死の奔流は、まっすぐ俺たちを貫くように直進してくる。
────しかし、それが当たることは無かった。
「やれやれ、最後まで面倒掛けるね……あんたって子は」
機械的な幼女、抉れた身体。
仄かに笑っているその人は────
「ま、マキナ!?」
「ったく……あんたって子は毎回そうだ。イタズラばっかりして気を引こうとして怒られる……それでいて私のところに来るから、面倒事もこっちに来る」
マキナは俺の叫びが聞こえていないのか、誰かに────いや、ベルフェゴールに語り掛けるように言葉を紡いでいく。
「私が街を出た後、あんたは変わったのかな。これが久しぶりの癇癪なのかな?」
「ひっ、く、来るな!」
ベルフェゴールに近づいていくマキナに恐れを感じたのか、再び魔法を構築する。
しかし、流石に魔力が足りないのかすぐに崩壊してしまう。
「もう……我慢しなくていいんだよ。その苦しみは私も知っているから」
「お前に何が分かると言うの!!」
「分かるさ」
ふわっと……マキナは優しくベルフェゴールを包み込むように抱き締めた。
「私はあんたの姉だよ、マーデン」
「マ……デン……うあ、あ、あ、あぁぁぁぁぁぁぁ!?」
マキナの一言に急に頭を抑えるベルフェゴールは叫ぶ。
「わ、たし……は、ベルフェ……ゴール、よ!!」
「いいや、あんたはマーデンよ」
きっぱりと言い切るマキナはさらに強く抱き締める。
うっすらと涙を滲ませるマキナは、抱き締めながらベルフェゴールの背中を撫でる。
「い、嫌……や、めて……」
「止めない、あんたは私の妹、マーデン・ウーエクスだよ」
少し顔を離して、顔を見つめながら言うと、ベルフェゴールは────ボロボロと涙を流し始めた。
「もう……止めて……お姉ちゃん……っ!!」
「やっと呼んだ。私をお姉ちゃんって」
涙を頬に伝わせながら微笑む彼女は……紛れもなくベルフェゴール────いや、マーデンが知る優しく強い姉だった。
「お姉……ちゃん……私……もう」
「あぁ、分かってる。私もすぐに行くよ……それまで、ゆっくりしてな?」
自分を認識した時には既に死ぬ直前。そのため、もう力も入らない。
でもマーデンはそれでもいいと思った。
最愛の姉に────もう一度会えたのだから。
「じゃぁまた……後でね、お姉ちゃん……」
そう言いながら涙ながらに、子供のように、大好きな姉に向ける笑顔を見せるマーデンは眠るように……静かに永久の眠りについた。
またまた遅れてごめんなさい!!
やっとこさ更新です!!
少しだけ説明します(小説の内容)。
マキナとマーデンの名前ですが、デウスエクスマキナが演劇用語ということで、マーデンはメソッドのラテン語『modum』を言い方を変えました。
かなり変わっているので「マジかよw」 と思う人もいるでしょうw
では、説明は以上です!
次話でまた会いましょう!
次話「終わりのあとにあるもの」




