過去と現在、そして同一
ステラは思い出した───自らの過去を。
ステラの想いとは────?
かと言って、殺意が無いのかと言われれば嘘になる。
でも、それ以上に決意は堅い。
ただそれだけなのだ。
ブワッと湧いた殺意を、己の決意を思い出し抑えつける。
大丈夫────私はちゃんと分かってる。
一度目を閉じて、再び開く。
今度こそは冷静に状況を見よう。
ひとまず、無事とは言わずともトウマは生きていた。それだけでも僥倖だ。
「ステラ、だったな」
唐突に後ろにいたマキナが話し掛けてきた。
「サーシャと共に応戦する。隙を作り、回復魔法を掛けてやれ」
「……言われなくとも」
私は杖を握り直し、ベルフェゴールへと向き直る。
しかし、最後に見た時は獣の姿をしていたはずだが……今は人の姿をしている。
「っ!あぁっ!!」
手に持つ銘を知らぬ片刃の剣を振るいながらトウマは応戦する。
その斬撃に合わせてベルフェゴールは捌くが、それでも避け切れないほどの斬撃である。
今ここで応戦するとしよう。
トウマの助けになるのか?
考えると逆に邪魔になりそうだと思ってしまう。
でも、何もしないよりかは────
「マキナ、まって」
はっと後ろを見ると、既に剣────「氷光の秘剣」を抜いていたサーシャが真剣な面持ちでトウマの戦闘を見ていた。
「今応戦に行っても……無駄」
「ほう?無駄、か?」
「そう────無駄」
ハッキリとそう言ったサーシャはちらりとこちらを見た。
────同じ考えでしょ?
そう訴えかけているような気がした。
マキナに向き直し、サーシャは続ける。
「向こうに攻撃の選択肢を増やさせちゃ駄目。私たちが狙われたら、無理しても私たちを守っちゃうから」
「そうか……なかなか見上げた紳士じゃないか」
戦闘を繰り広げるトウマを見て、マキナは少し可笑しそうに笑う。
確かに……と私も釣られて笑いそうになるが、慌てて顔を引き締める。
ここは戦場だ。気を張らなければ……
改めて見ると、ベルフェゴールの姿は変わり果てていることに疑問を持つ。
何度思い出そうとしても獣の姿しか思い出せない。
今は赤い長髪のかなりの美人と言えるだろう容姿だ。
ちなみにスタイルは抜群。
ボンキュッボンである。恨めしい。
と普段なら思うのであろうが、流石に戦場では思えなかった。
……あぁ、やっぱり、やっぱりだ
彼の助けになりたい。でも……
ふと、トウマからアイコンタクトが来た。
直感で、感じ取ったそれは────やはり、トウマは優しいなと思わせるものだった。
────戦闘スピードが落ちている。
斗真から庇われた私は、いったん後退し後ろから黙って見つめていた。
先程から斗真の剣速も落ちている。
しかし、それに比例するかように女────ベルフェゴールの動きも鈍くなっている。
あの剣……いや、刀が何か特殊な能力を持っているのだろうか?
「そろそろ効いてきたんじゃねーのか?」
俺の振るう刀の銘は────「妖刀村正」。
実在する刀であるが、しかし徳川家に仇を被る刀とされ、妖刀としてよく知られている。
実際のところは特に特殊な能力は無いのだが、妖刀として呼び出したため、幾つか呪いを持っている。
「そうねぇ……毒耐性はあるはずなのに……不思議ねぇ?」
「残念、毒じゃねーんだな」
呪い。
それを掛けられたものはその呪いの効果を受ける。
しかし、その呪いを掛ける側も受ける。
さらに付け加えるとすれば、その呪いを解除されないようにしなければ……
「さっきから腕が痺れてるのだけれど?その剣の能力かしら?」
「さぁな?俺の雷かもしれないぜ?」
右下から斜め左上に斬り返しを放ちながらそう言いつつ、右手で握る柄を左手に持ち変える。
「!?」
ベルフェゴールは咄嗟に防御の姿勢をとったがこの攻撃は貫通する。
「雷龍掌底!」
腕が重なっている所に雷をまとわせた掌底を放つ。
付与属性による雷がベルフェゴールの体を、光速の槍となり貫く。
「……っ!!」
ベルフェゴールは苦痛に表情を歪めるが、大したダメージにはなっていない。
自らの手から魔法による風と雷を起こし、身体を反転、痺れる身体を無理矢理押し出して蹴りを繰り出す。
その速度は今までの比ではなく、もはや人には反応すら不可能な速度となっていた。
「……おかしいわねぇ?貴方にも状態異常はあるはずよねぇ?」
無言で────ベルフェゴールの蹴りを受け止めていた。
「……ふぅ」
短く息を吐く。
ベルフェゴールは魔法を使った二撃目を放つが、これも受け止める。
「このっ……はぁぁぁぁっ!!」
魔法による身体強化をさらに重ねがけし、なおかつ俺の周りに風刃と雷を発生させる。
「斗真!!」
シルフィの叫びが俺の耳に入るが、反応はしない。
三撃目────
ここまでで、俺は一つの能力を発動していた。
自身と、自身を囲うように雷を発していた。
もちろん、ベルフェゴールに気付かれないように。
ベルフェゴールがその領域に入った瞬間────
「────シッ」
鋭い蹴りをベルフェゴールの脇腹に繰り出した。
「かはっ────!?」
吹き飛ばされたベルフェゴールはなぜこの状況になったか認識することが出来なかった。
近付いたら蹴られた。
ただそれだけの事のはずなのに。
あの反応速度は────人間じゃない。
コンマ数秒……いや、それより短い時間の反応だ。
人間にそれが可能かと学者に問えば、ほぼ全ての学者が「無理だ」と答えるはずだ。
しかし、斗真はそれを体現している。
「────自動雷反撃」
ポツリとトウマは呟く。
「範囲内に入った特定物質を電撃を纏わせた身体で反撃する……それがこの力だ」
雷を纏うカウンター攻撃。
それを自動で行う能力である。
身体が────村正により痺れ始めている今、雷を身体に纏わせ強制的に動かしている。
「付け加えて……だ。てめぇの身体にさらに負荷を掛けておいた」
「何言って……ぇ?」
立ち上がろうとして、膝立ちになるベルフェゴール。
「身体が……ぁ!?」
「妖刀村正……その呪いってやつだ」
比較的弱めの呪いである。
死の呪いでないだけましだ。
「てめぇが固有能力を能力……堕落の縛りで縛るから本来の力を出せてねーんだよ」
それを聞いてベルフェゴールは愕然とした。
本気を出してないということに。
「とはいえ……流石に魔力が足りねーや。自動雷反撃はかなり疲れるし」
トウマはふらっと横に退くと、こう言った。
「だから────あとは頼んだぜ、ステラ」
後ろには杖を構え、魔力を高めているステラがいた。
「ありがとう、トウマ」
色々と察してくれて。
そう心で呟いたが、恐らく分かっているのだろう。
「さぁ行くわよ!これが私の最大攻撃……!!」
秘められた魔力を解放する────それにより、大気が震える。
「な、何よ……これぇ!?」
ベルフェゴールは……初めて恐怖を覚えたような気がした。
「ほう……」
「…………すごい」
「……ぇ」
マキナ、サーシャ、シルフィはそれぞれで驚きの声と表情を浮かべ、ステラを見ていた。
相手はベルフェゴール。
姿が違ってもベルフェゴールなのだ。
「全魔力解放!この攻撃は憂さ晴らしよ!」
そう叫ぶステラはこう思う。
やっぱりトウマは分かってくれていたんだ。
話してなくても察してくれた。
黙って道を作ってくれた。
不器用だけど優しさがある。
そんな彼のことが────
本当に遅れて申し訳ございません!!
やっとこさ書き上げることが出来ました!
もっと、早く書けるようになれるよう精進します!
ということで記念すべき50話です!
100話まであと半分!
頑張ります!
次回「心残り」




