撃墜のマモン
西門を目指す斗真。
そこには二人の「勲章持ち」がいた。
参戦するチーターはどうするか────?
外に出るとすぐに爆音が聞こえた。
「……方角は……西か!」
ギルド前はクロスするように道が出来ている。
交点の上側にギルドを置いた時、左下が北、その反対の方角が南。左上が東なら────右下が西。
セインクでの知識を発揮しながら俺は走りだす。それを追うようにシルフィも走りだす。
制服とは、存外動きやすいつくりになっているらしい。かなりスピード出して走っているが、全くと言っていいほど問題がなかった。
「ねぇ……私、マモンなんて知らないんだけど」
「セインクの時もそんなモンスターいなかった」
ならばどう攻略するか。お互い知らないとなると初見で挑む事になる。
体格、硬度、攻撃力、特性……上げるとしとらもう少しくらいありそうだ。しかしこれら知るべき情報が無い今、どのような作戦を立てればいいのか。
「初見殺しさえなければ俺が死ぬことはない。その自信がある。俺はほぼチーターなんだろ?カードみてもよく分からないけどさ」
路地で話されたことを思い返しながらシルフィに質問する。
「そのはずだよ。現に、私が少しスピード遅いもん。合わせてくれてるんでしょ?」
……気付いてやがったのか。
そこ気付かれると恥ずかしいものだな。
などと思いながら、この道とセインクでのマップを頭で照らし合わせる。
多少変わってもこの世界の地形をある程度同じ……と仮説を立てているが、実際そうであるとほぼ確信している。仮説が正しくないと困るのもある。ポーション関連や武器屋関連で。
ともかく地形が同じという仮説が正しければこの一本道の先に西門────戦場となっている西門があるはず────
「逃げろ逃げろ!!魔王幹部だ!!」
「荷物は減らせ!!逃げることを優先だ!!」
「ちょっと押さないでよ!!」
「おかぁぁぁさぁぁぁん!!」
「もう……嫌ぁぁぁぁぁぁっっっ!!」
阿鼻叫喚。パニック。絶望感。
それを表しているような街の光景。
「……シルフィ、先行くわ」
「え?」
この声たちをそのままにしておけない。
シルフィの静止の声を聞かず俺は本気を出して走り出した。
あっという間にシルフィが見えなくなる。
────しかし、その姿はただ周りからの苦しみの伝染を恐れるように逃げるようにもみえた。
────西門
「くぅぅぅ……っ」
いくら私が防護魔法を重ねがけしようも容易く破ってくる敵。
右手に傷ついた長剣。左手に欠けている大盾。鎧は既に何箇所か壊れている。
私の理解した感覚……いや、身体そのものが防護魔法が破られる時間と敵の攻撃力を比較、その誤差を利用し避け続ける。
しかし……
「うっ……」
僅かに掠っただけで鎧が抉れた。ほんの数ミリ程度の抉れが、たったそれだけが“強さ”を証明していた。
────防ぎようがないよ。
確かにそうだ。
しかし、だ。
自分が背負っているのは……この街の人々の命。
それを護らなくては────。
「!?久遠の拒絶!!」
久遠の拒絶。あらゆる攻撃を永久の名の元に拒絶する防護魔法。
私が使える数少ない高度な防護魔法。
それを────破る。
迫り来る敵の『拳』。防ぐ術はもう私には無い。
「守護神!!避けなさい!!」
背後から聞こえる切羽詰まった少女の声。
「大地激震!!」
その詠唱句に呼応するかのように大地が揺れ、敵の足元を崩した。
敵は平坦な場所へと跳躍────するのはもう分かっている。
「我が求めに応じ……獄炎の力を持って天へと登りたりえん」
着地点には巨大な魔法陣が展開され、炎粉が舞い踊る。
敵が着地する直前、高度焼却魔法が完成する。
「獄炎天昇!!」
全てを焼き付くし、天へと昇る獄炎の柱が敵を葬りさる────はずだった。
「ぬるいぞ……やるならもっと熱くしてくれよ」
片手の扇ぎ。
それだけで……たったそれだけで高度魔法が消え去った。
「嘘…………」
少女は……魔導師の勲章を持つ彼女はへたりこんでしまった。
「なぁ?もう終わりか?」
蹴飛ばされて、私は魔導師の足元へと転がった。
敵は守護神、魔導師の二人を見る敵は呆れるように言った。
「勲章持ち……どれほど強いか試したかったんだがなぁ」
そして見下して、
「話になんねーわ。死ねよ」
悪魔のような一撃が二人を────
────襲わずに虚空を凪いだ。
「おいおい幹部さん?相手は女の子だぞー?手加減してやれよ」
────。
「お二人さん?ちょーっと退っててくれる?」
こちらには目もくれずにそう促す少年。
見たこともない服に身を包み、健康そうな髪型をしている。
────背中から「任せろ」とでも言うように語っているように見えた。
……誰……?
僅かな希望がもしこの人なのだとしたら。
なんて私は幸運で愚かなのだろう、と後悔することになる。
「誰だテメェはよぉ」
そして気付く。
私と魔導師が殺されるはずだった場所から十メートルも離れているということに。
「あぁ俺か?」
駆けつけた少年────西尾斗真は不敵に笑う。
「レベル一の最強冒険者だけど?なにか?」
絶句した。
あの一瞬で二人を運んでおいてレベル一……?
何かの間違いではないのか。
しかし、長らく私はここにいるのに彼のことを知らない。冒険者であれば────あんな見たこともない服装であれば、覚えていて当然だ。
ならどこから来たのか?
ううん、今はいい。
首を横に振って少年を見る。
体格が特別良い訳でもない。見たとこ、武器らしきものもない。ただ珍しい服を着ているようにしか見えない。魔法霊装なのか?
もし、もしの話『レベル一』が本当だとしたら────初期魔法しか使えないはず。
つまりダメージを与える手段が全くと言っていいほどないだろう。
でもあの二人も抱えての移動スピードは?魔法?
分からない。
自分も魔法を使う身。魔法の感知もできる。
しかし、今の現象から魔法は感じることが出来なかった。
それは何故?
どうしても頭から離れない疑問が脳を駆け巡る。
「レベル一だぁ?笑わせんなよ。んな雑魚がなんの用だ」
「テメェをぶっ飛ばす」
即答だった。
「あ゛?」
「当たり前じゃねーか。分かんねーの?ハハww、脳内ゴミ乙ww」
────そして煽る。
私は血の気が引いた。
そんなことしたら絶対殺されるじゃない────
「死ね、ゴミクズ」
敵が地面を蹴って斗真に直進する。
右手を構え、人間を肉塊に変える一撃を食らわせ────ることが出来ずに捌かれた。
「おっそーい。それでも幹部ぅ?」
一撃を左手で捌いた斗真はその勢いに乗せ右足を軸に後ろ回し蹴りを繰り出す。
狙いは水月────人体なら急所の一つ、鳩尾。
ズドォッ
そんな擬音が聞こえるくらいの協力な一撃。
それを喰らった敵こと『撃墜のマモン』は、斗真に向けて詰めたはずの距離以上まで飛ばされた。
二度目の絶句。魔導師同じく絶句している。
有り得ないはずの光景。
勲章持ち二人でも圧倒される強さのはずなのに……それを圧倒するの────?
「こちとら手っ取り早くあんたらの『ボスサマ』をぶちのめさないといけないんでね」
軽く指を鳴らして、不敵に笑い、マモンに向き直る。
そして斗真はこう言った。
「お前みたいな『雑魚キャラ』は邪魔なんだわ。悪いが……経験値になってもらうからな」
ブチン
そう聞こえた気がした。
マモンからドス黒い瘴気が溢れ出す。
「テメェ……言わせておけば……あいつらと同じことを……」
ダラリとしたまま立ち上がり……こちらを見据える。
黒だったはずの眼が赤く染まっている。
────まずい!!
「誰かは……知らない……っ。逃げて……っ」
魔王軍幹部の目が赤に染まる時────力を解放する時だ。
今までのレベルとは全くと言っていいほど強さが違う。
解放後の幹部の力は幹部それぞれだが、『撃墜のマモン』のそれは────
「……おい、ガチムチから細マッチョかよ」
────力を凝縮する能力。
ガチムチだった身体が細くまとまった身体になった。
「力を……収縮する……力……解放能力……っ」
「解放能力?そんなのあんのかよー」
解放能力を知らない────?
冒険者なら誰でも知っていることのはずなのになぜ知らない?
何者なんだという目を込め言葉に出す。
「あなた……何者……?」
「ん?俺?」
自信満々に斗真は答える。
「この世界最強の────チーター」
チーターという言葉は聞いたことないが、それが指す『意味』を私はこう思う。
────『希望』と。
「俺は────」
「話はもうやめてくれないか」
斗真の言葉を遮り、マモンが声を荒らげる。
良く今まで黙っていたものだ。あれだけ煽られて。
「っと怒ってる怒ってる。怖いわぁ」
まだ煽るか。
「幹部さん怒ってるから話はあとで!」
こちらを向いてそう言うとマモンに向き直る。
「待たせたな」
手を開き……閉じる。
それが本来の戦闘に入る時のルーティン。
「俺が相手になってやるから経験値よこせ『雑魚キャラ』」
そして……お互いに地面を蹴り飛ばす。
────開戦だ。
第五話です。
ついに始まる斗真対幹部戦。
新キャラ当時!
魔導師、守護神の『勲章』を持った二人の少女。
少女達と斗真はこれから────?
次回「秘めし能力」