私の敵
アルファティアが襲撃されたと聞いて斗真は即座に転移した────
斗真がアルファティアに空間移動して既に十分が経過した。
マキナは私の手を掴み、何かを探している様な唸り声を上げている。何か考え事をしているらしい。
「シルフィ、トウマなら……大丈夫だと思うわ」
唐突にステラがそう切り出した。
「別に確証があるわけじゃないわよ?でも、トウマは私たちより数段……いえ、見上げても見えないくらい強いもの。平気よ」
少し苦笑いしながらステラはそういったが、私にはステラも心配しているようにしか見えなかった。
恐らく言葉に出して少しでも安心したかったのだろう。
私も斗真なら、と思うところはあるが、しかし一ヶ月に満たないパーティーでの戦闘でもやはり斗真が苦戦したりだとかはある。
そこに付け込まれたらと思うと、胸が苦しくなる。
斗真がやられるわけが無い、そう信じたいはずなのに。
どこか心配している自分がいることが辛い。
でも、それは当然のことでもある。
何故なら────
「よし……転移可能だ!転移べる!」
マキナがそう叫ぶと同時に我に返る。
「行くよ!」
「了解!」
斗真がやられてはならない────そう、絶対に。
世界が崩壊してしまうから────
転移んだ先にあったのは虚無だった。
アルファティアの影も形も……形跡も無い。
そして
「と……う………ま……?」
斗真が────倒れていた。
「嘘……」
傷だらけのその姿はまさに満身創痍。
服もボロボロだった。
激戦だったのだろう、クレーターも出来ており、砂埃と舞っていた。
「あらぁ……?いつの間にか、お客さん?行っらっしゃ〜い♪」
────女性の声。
「神王の雷よ、裁きに応じ罪に相応の天撃をみまいたまえ」
反射的に振り向き────
「……あらぁ?」
────空間移動による移動でゼロ距離まで近づいた。
ステラとサーシャ、マキナもそれに驚き、慌て振り向く。
「天雷激情断罪撃!」
女の腹に手を当て、掌底から放たれたその雷は、女を貫く天の裁きとなり、女を消し炭に────
「……やるじゃない」
────できなかった。が、それなりのダメージにはなったようだ。
「ちっ……」
小さく舌打ちするとその場を飛び退く。
「ちょ、シルフィ!?あんたいつの間に……」
ステラが驚きの声を上げるも、手で話を切らせる。
「少しまだ痺れるわぁ……あなた、何者かしら?『さっきの子』の事もあるし……」
女が『さっきの子』と言った瞬間に再び頭に血が登る。
そしてどこかでふと思う────
あれ?なんで私こんなに怒ってるの?
「シルフィ!!」
「!?」
少しのタイムラグがあったが、その隙を突かれて女に接近されていた。
拳によるアッパーをスレスレで避ける。
しかし、その拳圧による衝撃波に吹き飛ばされしまう。
「シルフィ!?」
ステラが駆け寄るが、それを振り払うように再び立ち上がるシルフィ。
「ゆる……さ、ない」
掠れた声でそう言うと、魔法を展開する。
「神の鎖を解き放ち、万物万象全てを神の元に拘束し……永劫の天罰とならん」
シルフィの背後に数々の魔法陣が出現し、ステラにはその一つ一つに強力な魔力が込められていることに気づく。
これを受け止めたら────勝てないかも。
そう思わせるほど、シルフィの魔法の威力の高さを物語っていた。
「人、悪魔、天使、そして神をも平等に地につなぎとめる黄金の楔」
更に魔力は膨れ上がり、ステラは思わず後退りした。
しかし、魔力の増幅による空間の圧迫感だけではない。
シルフィのその形相は────普段と全く違う、鬼神に迫る怒りの表情だった。
「天地天命解放せし時……」
腕を前に突き出し、天と地を繋ぐ楔を解き放つ。
「天と地を繋ぐ神霊!!」
魔法陣から現れた黄金に輝く鎖は一つに交わり、人の形をとり始める。
やがて、それは巨大な長髪の女のとも呼べるものに形を整え、紅髪の女へと視線を向ける。
「……」
余裕を消してそれを睨みつける女は身構える。
「エンキドゥ!」
シルフィの叫びと共に黄金の鎖の女は拳を振り上げ、紅髪の女へと振り下ろす。
女はそれを回避するも、拳から出た黄金の鎖が女を追いかける。
しかし、女は連続する鎖の追尾を蹴りと拳で弾き飛ばす。
唐突だが────ここで気づく者もただろう。
シルフィは女神であるが、下界に降りてきた時のステータスをよく考えてみよう。
ステータスが高い────『人間』。
つまるところは────
「かはっ………」
魔力切れである。
いくら女神のステータスを大方引き継いでいるとはいえ、魔力は無尽蔵ではない。
「くっ……」
極大魔法ということもあり、一瞬のブレが繊細な魔法であるエンキドゥの形を崩してしまった。
鎖が空間に溶けるように消えていく。
「な、ん……で」
下界では魔力切れなんてないと思ってた。
だが、忘れてはいけなかったのだ。
ここでは私も『人間』であることを。
多少神霊を帯びてたとしても、アルスやほかの神と違って私は守護神として降りてきたわけではないのだ。代償があるにきまってる。
それが神霊を失うということだとは思いもしなかったが。
下界では私も死ぬのだ。それも簡単に。
魔力の欠乏で力が入りにくくなり、思わず膝をついてしまう。
「……呆気ないのね」
女は真顔で近づき、目の前で止まる。
「あの子もそうだけど……あなたも面白いもの持っていると思ったのにねぇ……ふふっ、まぁいいわ」
女は不敵な笑みを浮かべ、長い指で私の方を掴む。
「あなたの力、頂戴するわね♪」
口を開け、私の首筋に噛み────
「……させると思うか?ベルフェゴール」
ズン……とした音と共に、私の肩を握る女の────ベルフェゴールの手が切り落とされた。
「チッ……あなた、気が付いたのね」
「ま、なんか騒がしいし起きるわ」
首をコキコキと鳴らしながら手に持つ剣を握り直す。
「と……斗真……!?」
「おう、シルフィ。待たせた」
短くそう言った彼の背中は────すごく頼もしかった。
「ユニークスキル封じられちゃ勝とうにも勝率薄いしな、気絶はしたものの急所はきっちり外してる」
「器用なこと」
少し不満気に漏らすベルフェゴール。
「さ、こっちも準備は終わってる……もう一戦いこうじゃねーか」
手に持つ剣────銘はなんというのだろう。
ただの剣ではない。
さらに見覚えもある形……刀だったか、斗真の故郷に伝わる剣だったと記憶している。
片刃で細身のその刀身は、光に照らされ銀色に煌めく。
「……えぇ……楽しませてちょうだい?」
ベルフェゴールは静かに笑った。
その様子を見ていたサーシャはただ見ているだけだった。
動けない。圧倒的な力量差があるような気がする。
『氷光の秘剣』と、その力を活用する技を身につけている今でもそんな気がする。
それほどまでに強さを感じる。
ふと、隣のステラが言葉を漏らした。
少ししか聞こえず、聞き直す
「ステラ?」
「……ベル」
ステラは顔を上げる。
その目は────殺意と憎しみが込められていた。
「ベルフェゴール……っ!!」
彼女がここまで憎しみをあらわにするのには、もちろん理由があった。
それは────六年前のことだ。
弁明も何もないですね!
ごめんなさい!
はろいせ、四十八話更新です!
暑くなりつつありますが皆さんお気を付けて!
次回「親愛なる我が娘へ」




