初代機
シャナの力により、空間移動で移動した斗真だったが、そこにいたステラたちの目線の先には……
「……っ、お、おぇっ」
ふわっと体が浮く感じがした後、とてつもない揺れを感じた時には既に視界が切り替わっていた。
尻餅をついている俺は思わず寝転んでしまった。
体感的には荒波の中を進む船に乗っている時間を圧縮したような感じだった。
倦怠感と吐き気がすごい……うぅ……戻しそ……
空間移動による副作用と考えられるが、機皇類にはあまり関係の無いことか。
シャナとアルタレスタは何事もなかったかのように佇んでいる。
頭も鐘を鳴らすがごとく痛む。
決めた。もう二度と空間移動使わねぇ。
フラフラとしながらも立ち上がり、当たり見渡すと視界の右側にステラたちの姿が見えた。
三人が呆然と一箇所を見ている────ってここ寒くね?冷えてやがる。
「おーい、ステラー!」
「────」
返事はなく、ただ呆然としている。
様子がおかしい、明らかにおかしい。
俺は走ってステラたちのいるところへ向かった。
「おい、ステラ!どうしたん────ん?」
ステラたちの目線は────あるところに向いている。
「……おい、なんで……なんでスフィがこんなになってるんだ!?」
スフィの身体には一度破壊された跡がある。
恐らく戦闘になったのだろう。
それは……分からなくもないから置いといておくとして────問題はその身体についていたものだ。
「なんだよ……これ」
スフィの身体に────髑髏の刻印が押されていた。
身体の両肩、両膝……そして、頭部。
それぞれにおぞましい黒く渦巻く髑髏の紋様があった。
「……『怠惰の五刻印』」
「え?」
「……魔王軍幹部の一角、ベルフェゴールが作る死の刻印よ」
ベルフェゴール……!?しかも魔王軍幹部!?
この事で、俺は疑問にあったものが確信に変わった。
この世界の魔王軍幹部は、俺のいた世界の神話────七つの大罪から引用されている。
マモン……ハスファードは強欲。機皇類を狩って、名声と金を欲した『欲』があった……誰よりも強く。
ベルフェゴールは、怠惰。
ハスファードの話によると、元は人間であるはずだが、怠惰ということは『何かを怠った』ということになる。
それを考えたところで倒せる……という訳では無い。
神話でのベルフェゴールは牛の尻尾に二本の巻角、長い顎髭を持つ醜悪な姿で語られる。
……どうにせよ、ベルフェゴールとの闘いは激戦になるだろう。
「……なんで……なんでこんなところに」
ステラが呟き、歯噛みする。
「……スフィはどうなるんだ?」
「刻印そのものはしばらくしたら消える……でも機械であれ人間であれ、もう動かないよ」
ステラの代わりにシルフィがそう言う。
この刻印があるということはスフィはベルフェゴールと関わっていたことになるが……当の本人はもう……話も聞くことが出来ない。
「……氷……?」
ふと、スフィの脚についていた氷が視界に入った。
刻印を考えないとしても、ほかの傷……しかも裂傷は誰が……あ。
そこで俺は一人しかいないことに気づいた。
「……サーシャ、スフィと闘ったのか?」
サーシャは俯きがちに頷いた。
咎めるつもりは無いが、理由が気になる。
「なんで……」
「斗真のためだよ。斗真が孤立させられたことに怒ってたの」
シルフィがそう言うとサーシャはコクンと頷いた。
「そ、そうか……」
何故怒ったかは分からないが……まぁ良しとしよう。
「スフィ……」
俺はスフィの亡骸に目を向ける。
目は閉じられていて、機械部が覗いていながらも人間のような印象を受ける。
静かに手を合わせ、目を瞑る。
ステラたちが疑問の顔をしながら斗真を見るが、数秒間斗真は手を合わせていた。
「よし、行くぞ。初代機の所へ」
手を離した俺はバッと振り向き、歩き出す。
「ちょ、と、斗真!」
その後をシルフィたちが追いかける。
「急にどうしたのよ!」
「……色々と聞くことも出来たしな。急ごう」
シルフィたちの後ろにはシャナ……そしてアルタレスタが付いてきていた。
「って、え!?なんであ、アルタレスタがいるの!?」
今更気づいたのかよ……
「話はあーとーで!!行くぞ!!アルタレスタ!!案内頼む」
俺はアルタレスタを前にして走り出す。
俺の仮説が正しければ────
「空間移動で一気に移動する。当機の機体に触れて……」
「空間移動は嫌だぁぁぁぁぁぁ!!」
全力で離れようとする俺をシャナが掴む。
「展開……空間移動」
そして再び空間移動をした俺は……見事なまでにグロッキーになっていた。
「────初代機、連れてきたぞ」
視界が開け、その先には────
「待っていた……」
玉座に腰掛ける長髪の女の子がいた……って、
「し、シャナ!?」
────そう、シャナそっくりの機皇類いた。
「違う」
即座に否定するシャナはジト目で俺を見る。
「……デイシャリアウナから通信を貰っていた。貴公等のことは知っている」
シャナとそっくりだけあってか、声までそっくりだった。
機皇類の声はシャナは特別としても、アルタレスタや、スフィや、目の前にいる初代機も普通の人間と何ら変わらない声音声質だ。元の世界のボーカ〇イドとは違うイメージで新鮮だなぁとは思っていた。
「てか、俺らのこと知ってるのか」
「……黙っていて申し訳ないです」
シャナが隣に来て俯きがちに謝るが、気にするなと言うように俺は彼女の頭を撫でてやった。
「────しかし、このようなこともあるのだな」
不意に初代機……『始まりの機皇』がその口を開いた。
「久しいな」
「久しい……だと?」
俺は初代機とは今日初めて会ったはずだ。久しいとは表現そのものがおかしい。
「あぁそうさ……『久しい』のだ」
男勝りな口調で放たれた言葉は────
「なぁ?討魔を天命とする子……そして、『万能の魔道士』と呼ばれた魔道士よ」
────俺とステラの前世を知っているという事だった。
短ぇ!!って思う方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そんな四十一話です。
短くてごめんなさい……
更新ペースも遅くなりつつあってごめんなさい!!
新学期ということで更にペースがダウンする可能性があります。
これ以上遅くはさせないつもりでいますが、現時点ではなんとも言えない状況です。
ご理解頂ければ幸いです。
次回「斗真とステラの前世」




