思いの丈と斗真
サーシャの想いは────本物だ。
一方 離れ離れになっている斗真は────?
────今、一瞬だが何かを感じた。
それが何かは明確には分からない。
しかし……自分にとってとても重要で、なおかつ今の状態を否定しなくてはならないものだと直感した。
「……っ!」
鍔迫り合いになっていた剣同士を弾き、距離を取る。
目の前には殺すべき敵がいる。
こいつは────許せない。
仲間や己の上にいるものですら道具としか見ていないこいつを許せない。
でも……
「…………ふぅ」
不思議と────怒りが消えていた。
何故だろうか。あそこまで憎み、怒り、殺意を剥き出しにしてアルタレスタを殺しにかかったのに。
今は落ち着いている。
────大丈夫。
そう言われた気がして俺は少し苦笑いした。
あぁそうか……そうだったんだ。
俺は怒り狂っていた訳じゃない。
怖かったんだ。失うことが。あいつらが遠ざかることが。
それを認識した途端、『憤怒の剣』を握る手から無駄な力が抜けた。
するりと肩に乗っかっていた重りのようなものも消えていた。
マキシアから引きずっていたこの怒りが消えている────それが俺の本領を発揮しろと言っているような気がして、俺はアルタレスタを見据えた。
「……こっからは」
不意に呟く。
アルタレスタにか、自分にかは分からない。
どちらでもいい。だって────
「本気でいくぞ」
────俺が勝つから。
覇気の質が変わった。
見た目から受ける雰囲気というものが変化したと観測。
比例して攻撃の質、防御率、回避率の向上を確認。
原因、不明。
結論、ここで止めないと────
「いくら解析しても結果は同じだ」
再び鍔迫り合いになっている最中に斗真はアルタレスタに声を掛ける。
「貴公が勝つと────何故?」
「理由か。そんなもの決まってる」
手に力を込め、グラムで押し返し弾き飛ばす。
床を転がり、二、三回転したところでアルタレスタは立ち上がった。
「俺が強いからだ!!」
人の形をした機械であるはずなのに────唖然とした。
「強者……それは結果論に過ぎない。その戦いに勝利したものこそ『強者』なのだ。決着がまだ訪れないこの状況で強者を名乗るのは────」
「あぁ、分かってる。お前の言いたいことも分かる」
斗真は腰だめにグラムを構え、しっかりとアルタレスタを見る。
「確かに強者ってのは結果から生まれる」
向こうの世界のスポーツとかの名門校が然り。
向こうの世界のオリンピック出場国も然り。
強者と言われる存在は、ある程度の結果が生み出した産物だ。
「でもな………モノゴトには例外ってものが付き物なんだよ」
「例外……」
「そそ、例外……俺とお前の差みたいな」
「お前にゃ理解は難しいだろ」と斗真は苦笑いした。
アルタレスタと斗真の差……それは
「単に技術とかの話じゃない……『心』の持ちようの差の話だからな」
────『心』
この機械で出来た人ならざる────生物ですらない当機に『心』があると?
「……貴公は」
知らず知らずのうちにアルタレスタは斗真に問いかける。
「当機に……『心』が存在すると?そう言うのか?」
斗真は少し驚いたような顔をした。
しかし、すぐに微笑みに変わった。
「あるんじゃねーの?無かったら……シャナ、助けてねーだろ」
当機が────助けた?
デイシャリアウナとなったあの少女を?
「何故そう……言いきれる……!!」
────不思議と、手に力が入る。
まるで────感情があるかのように。
「じゃぁ聞くけどさ」
斗真は不思議そうな顔をしてアルタレスタに問いかける。
「なんで健康体の人間を攫ってくる理由でもなく────傷だらけの瀕死の少女にしたんだ?」
ストン……と静かに何かが落ちる音がした気がした。
原因、不明
考察、感情の存在
推定、エラー……エラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラーエラー……
思考回路がエラーで充満していく。
「だま……れぇ!!」
『猛虎の裂爪』を握る手に力を込め、猛進する。
斗真のの目はしっかりとアルタレスタを見据えていて、隙は無かった。
しかし、アルタレスタは強引に斬りこもうと剣を振り上げ、袈裟斬りを────
「甘かったな。そんな『心』持ちでなけりゃ……良かったのに」
────剣を折られることで相殺された。
背後から斗真を斬るための剣先が落ちる金属音がする。
アルタレスタは静かに……手の力を抜いた。
カチャン……と折られた剣が落ちる。
反対に持っていた『竜の破撃』もスルリとその手から落ちていった。
「……惜しかったんじゃないの?」
その言葉に……より一層認識せざるを得なかった。
斗真が強者である────と。
「……当機の敗北だ。殺せ」
もう当機に生きる価値など────
「……死にたいのか?」
「────肯定」
「そうかい……なら」
斗真はグラムを振り上げる。
もう終わる。創造主に造られて数千年……長いような気がした。
そう思えることは、自分に感情があると肯定しているようで釈然としないが……悪くは無い。
斗真は剣を振り下ろし────
「……ん?」
────かけたところで、背後に気配を感じた。
「あぁ……そうか、目、覚めたのか」
そこにいたのは────
「懇願。A01アルタレスタを……『恩人』を殺さないでほしい」
────シャナだ。
「デイシャリアウナ……!?」
アルタレスタは驚きを隠せずにいた。
あの整備場は簡単に抜け出せないようにロックを掛けてきたはずだったからだ。
「どうやって……」
「ロック……自分で────私一人で解錠出来る」
私?
ま、まさか……
「記憶が戻ったというのか。デイシャリアウナ」
シャナは微笑みを浮かべアルタレスタを優しく見る。
「肯定。そして訂正」
シャナは斗真の前に入り、アルタレスタの手を取る。
「私の名前は『シャナ』。以後、その呼び方で呼ぶことを推奨する」
浮かべるのは────年相応の満面の笑みだった。
その笑顔にアルタレスタは……
「……了承、だ」
産まれて始めての────笑顔で返した。
三十九話です!
なんか難しいですね。物語造るの。
と最近改めて実感しています。
本当に作家の方々を尊敬します。
次回「赴くは最下層」




