私
スフィとの激闘を繰り広げるサーシャは、トウマへと思いを馳せる……
上で……A01が闘っているのか。
コード名DーMAKINAー00……『始まりの機皇』は、深層空間の玉座に座り僅かに漏れる電波を傍受し、そう把握した。
A01と互角……かなりの実力者と推定される。
私は、薄ら笑いを浮かべる。
ようやく────来てくれた。
私を────終わらせてくれる戦士が。
待ち望んでいた。
この身体は────終わらなければならない。
この終幕をもたらす身体は────。
許さない。絶対に。
二度、大切な人を失っている私にとって何の前触れもなく引き離されることは許し難いことだった。
スフィは────機皇類は、私の琴線に触れた。
自然と、『氷光の秘剣』を振るう手に力が入る。
早く────早くトウマの所に……行きたい。
ずっとそばにいたい……そう思っているほど、サーシャの中のトウマは大きくなっていた。
絶対零度の剣が空気を凍らせ、氷の礫を作り出す。
それを一気に打ち出し、スフィへと攻撃する。
────が、
「────異常、無し」
スフィの持つ片手剣────『炎龍の咆哮』により、溶かされてしまう。
だが、今の攻撃は牽制。
サーシャは既に床を蹴って距離を詰めていた。
青白く煌めく秘剣で左下から斬りあげる。
それをスフィはドレイクローアで弾く。
絶対零度と灼熱の炎の激突により、水蒸気が発生する。
その水蒸気を払うようにお互いが斬撃を繰り出す。
剣同士が打ち合う度に水蒸気が発生し、瞬く間に空間がそれに満たされた。
「ちょ、見えな……」
視界が塞がれ、真っ白な目の前と裏腹に激しく剣同士が打ち合う音が響いてくる。
発生する水蒸気が身体を濡らすが、もう気に止めることはなかった。
数分もの間斬りつけ合い、スフィと鍔迫り合いになり、互いに譲らず押しあっている。
お互いの剣がお互いの剣を侵食し合い、効力を弱めていく。
「────もうすぐ」
そう私は呟いた。
────これまでの攻撃……弾かれることすらも計算に入れた作戦があった。
それがもうすぐ完成する。
「……質問」
黙っていたスフィが唐突に口を開いた。
「貴公は……何故ニシオトウマに固執する?」
私が────固執する理由。
……私は少し笑ってしまった。
だって────簡単なことだから。
剣を弾き、距離を取る。
立ち込める水蒸気を一振りで切り裂き、スフィを見据える。
「大好きだから────だから……一緒に、いたい」
固執でも、執着でも何でも言えばいい。
ただ真っ直ぐに、ひたすら真っ直ぐに。
彼の横にいたいと思っている。
それが、今ここにいる────サーシャ・トラバントという人間なのだ。
「もう……終わりに……しなきゃ、ね」
剣を振り上げ、さらに魔力を込める。
「すっご……」
サーシャの背後でステラがそう呟く。
増幅する魔力は、これまでよりさらに増して強く、大きくなっていたからだ。
やっと分かったこの気持ちに……嘘偽りは無い。
ただ真っ直ぐに彼を想う。
出会ってまだ一ヶ月も経っていない……そのはずなのに。
自分でもチョロいのかな、と思う。
少し口角を上げ、苦笑いする。
でも、それでもいいんだ。
だって────そばにいたいんだもん。
子供じみた……でも本物の気持ち。
両親に向けた好きとも。
『戦神』に向けた敬愛でもない。
トウマに向けるのは────恋、とでも言うのだろう。
今は────それでいい。
それだけで。
「咲き散れ……祝福の薔薇」
その言葉に、空気中の水分が集まり────薔薇の形に凍る。
さらに、切っ先を中心に空気が渦く。
氷の薔薇が花弁を散らし、それは花吹雪の如く周りを囲んだ。
そして、剣を構え直し地面を蹴る。
そこでスフィはようやく気付いた。
危険────と。
「守護プロテクト展開、ドレイクローア火力最大────『炎龍激情』」
防護魔法を模倣した武装と、ドレイクローアで起こせる最大級の炎をもって対抗しようとする。
「完全展開────完了」
それと共に現れるのは────炎でできている巨大な炎龍の顔だった。
「『焼き尽くす炎龍の咆哮』」
最後の言葉に呼応し、炎の龍がサーシャへと突き進む。
炎龍が口を開き、炎を吐きながらサーシャを飲み込み────
「はぁぁぁぁぁああああああ!!」
────斬り裂かれた。
『氷光の秘剣』により、斬り裂かれた直後に凍り付く炎の塊は、サーシャの背後で音を立てて崩れた。
そのままスフィへと突き進むサーシャ。
これには驚いたのか────目を見開いたスフィはさらに守護プロテクトを展開するが……遅い。
「『蒼く光る氷の薔薇からの祝福』!!」
散っていた蒼く光りに照らされる氷の薔薇の花弁が、スフィのプロテクトを破っていく。
プロテクトも無くなり、ガラ空きになったスフィの身体を────秘剣で斬り裂いた。
斬り裂いた部分から氷の薔薇が咲き、全身に広がる。
スフィに背を向け歩き出すサーシャは、秘剣を鞘に戻す。
その瞬間、シュワッとした音とともにサーシャの身を包んでいた氷の鎧は空気と入り交じり、消えた。
それと同時に、音を立ててスフィに咲いた氷の薔薇が────その花弁を散らした。
この技は、秘剣を受け取る前にオルレアン・トラバントから教えられた技。
想いの丈の分だけ無限大に強くなる技だった。
氷の鎧も然り、想いの丈の分だけ強固なものになる。
青い薔薇は祝福や、奇跡、神秘的などという意味が込められている。
しかし、さしずめサーシャのこの青い薔薇にも────赤い薔薇の如き意味が、込められているのかもしれない。
私は────トウマがいる限り、負けやしないよ。
そう確信し、スフィに背を向けた。
短い三十八話です。
最近更新ペース落ちてきましたねぇ……Twitterでも浮上率下がってきましたし。
ちょっとお絵かきに夢中になってきたのが原因か……文字が浮かばないのが原因か……いっぱいありますね(錯乱)
次回「想いの丈と斗真」




