殺意と力と思惑通りに
こいつらにとってのシャナは何なんだ……そんな疑問を持った斗真は聞く。
しかしその返答がさらに斗真の怒りを加速させることになり────?
俺は殺意とは無縁の生活を過ごしていた。
当然って言えば当然なのかもしれない。
幸せ……と言える家庭だったと思う。
でも、運命なんて必然の塊みたいなもので。
運命なんて最初から決まっていて。
決められたレールを走り渡るように。
一本道を歩き続けるように。
一冊の本を読んでしまうように。
人の人生は、始まりがあって……終わりがある。
俺のその出来事は、その中のたった一つの中間点なのかもしれない。
幸せが崩れる音はこうも怖いのか……そう思わせる出来事。
俺と、父と、母と、妹。
四人に交差した中間点での出来事。
俺にとっては───真っ黒な部屋に閉じ込められたかのようなこと。
微かな希望を模索出来る部屋に閉じ込められた記憶。
忌まわしくも、自分を作り上げた記憶。
────それを背に今日も、生きる。
「念のために伝えておく。当機の呼称は『ステフィス』だ」
「スフィって略する」
女の機皇類────ステフィスの自己紹介を略するという形で即答する。
「……了承。貴公らがここへ来た理由は分かっている」
「間違ってなければ、な────良いのか?」
俺はスフィたちを見て話して、今の言葉を聞いてやはり腑に落ちなかった。
機皇類のトップ────『始まりの機皇』を殺すことが俺たちのクエストの内容だ。
それを理解した上で……了承しているのだろうか。
「構わない。初代機もそう望んでいる」
望む……ねぇ。
「なぁ、聞いていいか?」
「なんだ」
少し顔を背けながら俺は聞く。
「機皇類って感情、あるの?」
シャナの表情があるように。
初代機に望みがあるように。
感情の元にあるものがあることに、俺はずっと疑問に思っていた。
この返答には、結構重要な役割を持たせることが出来るのだが……どうだろうか。
「……」
スフィは少し黙り込んだ。解析でもしてるのだろうか。
「……無い、とは一概に否定出来ない」
「何故だ?」
「初代機が望む、と言った以上、否定は出来ない。事実、初代機はそう言ったのだから」
ふむ……シャナの事を出さなかったのは、何故だろうか。
シャナの方が分かりやすいはずだ。
「……なぁ」
「なんだ」
「お前らにとって、シャナってなんだ」
今度は背けず、スフィの目を見ながらそう言うと、スフィは立ち止まり俺を見返す。
「……強いて言うならば」
「被検体、だ」
────刹那の間。
俺はスフィの首を掴んでいた。
機械の首は硬く、簡単に潰せるものではないが、魔法を使えば簡単に砕ける。
「ちょっ、斗真!?」
シルフィが、割って入ろうとするが、俺の威圧の目に思わず後ずさりした。
「……どういうことだ。被検体って何のことだ。一から説明しやがれ!!」
怒りの叫びをスフィに浴びせる。
無表情のまま、スフィは静かに思い出す。
────とある、実験の話を。
────私は、焦土の上に立っていた。
周りは焼け焦げていて、腐ったような、やけ爛れたものがあるかのような匂いが立ち込めていた。
それは……人なのか?
黒く焦げたそれを見た時、私は動けなかった。
『人』と認識すらできずに触れ────崩れるのを見た。
断面のような所から出てきたものを見て「ひっ」と後ずさりした。
改めて周りを見渡すとやっと理解した。
────そこが死の世界になったのだと。
「い、いや……いやぁ……」
後ずさりしても結果は同じ。
どこを見渡しても一面死の世界。
黒く、焦げている。
幻聴だと分かっていても、叫び声が聞こえるようだった。
助けて。怖い。嫌だ。
その光景を目にして私は……涙すら流せずにただ呆然としていた。
恐怖が私の中を駆け巡り、支配している。
そこへ────
「……生き残り、か」
一人────いや、一機の機皇類がいた。
「ひっ……」
突然現れたそれに驚き、私は走って逃げ────
「え……?」
────ることは出来ない。
だって……左足が……無い。
それどころか右腕も肘から先が途切れている。
「いや……いや……嫌ぁぁぁぁぁぁあああああ!!」
夢なら覚めて!!
お願い……だから……。
元の日常に戻してよぉぉぉぉぉおおおお!!
その後、ふと意識を手放した。
意識は遠く、少女を置いて……離れていった。
「……このまま死なせるも道理。しかし……」
少女の前に現れた機皇類────コード名、DーMAKINAーA01……『アルタレスタ』は統合機体である『|初代機(コード0)』に連絡を取る。
『コード0、こちらA01より。実験段階で破棄された理論の再実装許可を』
実験段階で破棄された理論。機皇類が『不可能』と断定したもの。
人類機皇部移植構成理論。
人間に機皇類のパーツを埋め込むことで、機皇類化する理論。
機械人間を作り上げる理論である。
しかし、人体が機皇類のパーツに耐えられないという結論に行き着き、その理論は破棄された。
アルタレスタは、少女の……唯一の生き残りである少女の生命力に着目し、それに掛ければ成功するのでは、と思考したのだ。
『コード0からA01へ。了承』
その通信はブツっと乱暴に切れたが、アルタレスタは気にしていない。
少女を担ぎ、機皇類ではアルタレスタのみ使える魔法────『空間移動』を使い、マキシアの修繕場へと移動した────
次に目を覚ました先にいたのは、見知らぬ同族。
配線に繋がれた身体は、硬いベットの上で固定されていた。
「……コード名、DーMAKINAーZ99『デイシャリアウナ』。当機を認識可能か」
「……認識、可能……しかし、記憶回路に破損を確認。修復不可……支障はあるか」
私────いや、当機は同族にそう伝えると「無い」と短く返ってきた。
当機をベットに固定していたものが外れ、自由に身動きが取れるようになり、上体を起こす。
プシュッと音を立てて配線が外れ、重力に従い、床に落ちる。
「……稼働状況……オールクリア。当機は出撃可能です」
「ならば武装整備をし、待機を命ず」
「了承」
そう返すと同族は部屋を出ていった。
────ふむ、『記憶』の破損か。
アルタレスタは修繕場隔離部を出て、思考を巡らせながら実験成功の報告を初代機に送った。返事は無い。
理論上成功とはいえず、さらに初の試みであるため、確率的に以外にも失敗はあった。
今回はその失敗を引いたのだろう。
「何故、記憶回路に影響が出たのだろうか……」
────部分的影響が出たことが不思議で仕方ない。
理論上部分的にも影響は無いはずだった。
肉体が耐えれるか耐えれないか、それだけの事だった。
記憶回路に影響……実のところ支障は無い。
むしろ好都合な事だ。
記憶があると発狂してしまう可能性がある。
後に記憶回路を弄ろうと思っていたのだが……その手間が省けたと言えばそれでいい。
「終わったかアルタレスタ」
そこに唐突に声を掛ける機皇類がいた。
「あぁ、『ステフィス』。記憶回路に影響が出たが、支障は無い」
ステフィスは「そうか」と返答した。
「……被検体は、あの戦場の生き残りだと聞いた」
「あぁそうだ。戦闘のさなか生き残っていたのでな」
「なるほど。その機体は何処に?」
「武装整備中だ」
もう一度「そうか」と返すと、ステフィスはその場を後にした。
アルタレスタ自身も、次の任務に移行し、マキシアを後にした。
「答えろ!!」
首を掴まれながら昔の記憶を読み返していたステフィスは無表情のままだった。
「答えろっつってんだろ!!」
「答えが知りたければ────A01『アルタレスタ』に聞くことだな」
その言葉にステフィスが話す義理は無いと言われたような気がして手を離した。
「……案内の続き、頼む」
「了承」
再び歩き始める。
しかし、更なる怒りが俺を満たし、身体を強ばらせる。
「と、斗真……」
シルフィの声すら届かない状態で、斗真は進む。
────マキシアの深層部へ、と。
やっとこさの三十五話です。
はっきり言いましょう……セルフスランプでした!
文字に起こせなかったんです……マジで遅れてすんません……
もう少し早く書きたいです……
次回「作戦通りに」




