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シルフィの見た異世界の神々

目が覚めると、そこには修羅場……

斗真、ピンチ!?

 目が覚めた俺はまず現在の状況を確認した。

 シルフィ、ジト目でこちらを睨む。

 ステラ、物凄い形相でこちらを睨む。

 サーシャ、顔を赤らめながら俺の手を握っている。

 ……ん?最後……サーシャ?え?

「トウ……マ……目……覚め、た?」

「ん、あ、あぁ……?」

 そして────デジャヴな感触。

 どうやらまた────膝枕をされているらしい。

「あ、あのー……サーシャさん?」

「何……?」

「どうして膝枕されているので?」

「気絶した……から」

「そのままでも大丈夫だったんじゃ……」

「地面で……寝るの……良く、ない」

 膝枕は譲れなかったらしい。

 ……それより、俺は気絶する前に何かをやらかしていたような。

「トウ……マ」

「ん?」

「良かった……?私の……」

 サーシャは顔を赤らめ、握る手の反対の手の指を唇に当てる。

 ……あ。

「き、ききききききキスを……ししししししし────」

「ちゃいそうに、なっちゃったんでしょ」

 シルフィが会話に割り込んできた。

 え?してしまいそうに?

 俺とサーシャは完全にキスをしたはず────

「いくらサーシャが可愛いからって……未遂とは言え酷いんじゃない?」

 シルフィが呆れ混じりでそう言っているが、本当にキスをしたことを知らないのだろうか?

「ト・ウ・マ?私に分かるように説明してくれるかしらぁ?」

 先程から鬼の様な形相のステラがさらに会話に割って入ってきた。

 あ、やば────どしよ。


 この後────修羅場とも言える二人の説教の嵐と、俺の弁明、サーシャの意向など、この件についての事情など、洗いざらいそれはもう綺麗に追求されました。



「……シルフィ……お前、シャナのあの魔法を見て、何を感じた……いや、思い出した?」

 ステラとサーシャが寝静まったあと、私と斗真は二人で話していた。

 今、すぐ右隣に座る斗真は見抜いている。

 私があの魔法を見た時に何を思って……何を思い起こしたのか。

「昔……違う次元の神々を見てたの」

 そう────ここから語られるは、遠くから傍観することしか出来なかったシルフィのトラウマにもなるような記憶。


 ラグナロク、神々の黄昏。

 北欧神話で語られる、世界最後の日。

 風、剣、狼の三種の冬、『大いなる冬(フィンブルベト)』が訪れたことにより、地上を生きる生き物は死に絶えた。

 太陽と月は、ロキと女巨人アングルボザとの子であるフェンリルの二人の子供、スコルとハティにより空が地に落ち、世界から光が消えた。

 神々の戦いの戦火が、その地を壊し、崩し────終わらせた戦。そう語られる。

 遠く、爆心地(グラウンド・ゼロ)から離れたこの次元において、同じものを傍観し、呆然……いや、絶望した。

 人倫を超越するその力の渦が……次元の中にある世界を────死なせた。

 それを見ていたシルフィは、いつか私たちも……と考えるほど、悲惨なものだった。

 シャナが放った魔法────『終末の波動(コード・ゼロ・ラグナロク)』は、まさにそれを体現したもの。

 いくら限定的に顕現させたものとはいえ、差異は無い。

 シルフィが動けなかったのは、過去のラグナロクを見た記憶がフラッシュバックしたことにほかならない。

 今でも思い出すだけで少し怖くなる。

 遠くから聞こえる破壊音と絶命の声。

 耳にこびりついて離れない。

 アルスの腕にすがり付いたのを覚えている。

 アルス自身も、信じれられないと呆然とその『終焉』を見つめていた。

 ────二度と見たくない。

 心から────そう思う。


 それを語り終えたシルフィは────泣いていた。

 余程に辛い光景だったのだろう、静かに流れるそれはポタポタと地面を濡らしている。

「シルフィ……」

 呟くようにシルフィの名前を呼ぶが、どうすればいいか分からない。

 サーシャの時のように抱き締めれば良いのか……しかしあの時は、悲しむ理由を知らなかったから出来たことだ。今の状況は違う。

 それを知ってしまったから……分からなくなってしまった。

「……ごめんね、こんな話するつもりなかったのに」

 自分の手の甲で涙を拭うシルフィは、そう言った。

「いや……いい」

 それは────俺の世界の神話で語られるものだ。

 それが史実でない確証は無い。

 もしかすると、俺の世界の神話ですらないかもしれない。

 異世界があるくらいだ、あの世界に似た文明もあっても不思議ではないだろう。

 しかし、シルフィは見たものはラグナロクそのものか、それに匹敵する『終焉』。

 世界の破滅(ライン・オブザ・ワールド)

 生命の、『星』の終わり。

 それがラグナロク。

 遠くからでもその光景を見たシルフィの辛さを俺は知らない。

 事情を知ったところで、その悲しみを知ることは出来ない……ならばどうすれば……

「……ねぇ」

「……ん」

 思い悩む俺にシルフィが声を掛けてきた。

 短く返答し、返事を待つ。

「優しい……ね、斗真。ちゃんと私にどう接すれば良いか考えて、悩んでくれてる」

「別に……悩んだりして────」

「それが〝嘘〟な事くらい……短い付き合いでも分かるよ」

 見抜かれてる……しかし、それに驚愕はしない。

 出会って二十日経たない間に隠し事を……〝嘘〟を見抜かれて来たことか。

「……ねぇ斗真。少しでいいの……」

 シルフィはそう言って……俺の肩に寄りかかる。

「……良いかな……?」

 目を合わせようとはせずに、確認を取るシルフィ。

 俺は黙ったまま俯いた。

 それを肯定と取ったのか、シルフィはもう少し近寄る。

 流れる沈黙の中、俺はどうしてやれば良いのか。

 黙ってこうさせて上げるべきなのだろう。それが正解なのだろう……が、

 まだ────微量ながらに流れる涙をどうすれば止められるのか。

「……何もしなくていいよ。自然と止まるから……っ」

 やはり……見抜かれた。

 嗚咽を漏らしながらの、その言葉に従い、俺はただ黙ってそのままでいた。


 ────数分……もしかすると数十分の間そのままだったのかもしれない。

 俺はシルフィの涙が止まるまで、黙っていた。

 そっと……シルフィの右手を自分の左手を重ねる。

 ピクッとシルフィが震えるが、何も言わなかった。


 さらに数十分程経ったとき、もたれ掛かるシルフィは寝息をたて始めた。

 眠ってしまったシルフィを抱え、サーシャとステラが眠る場所まで運び、毛布を掛けてやる。


 いつか、シルフィのこの悲しみが、忘れる……とは言わない。

 少しでも────緩和できれば。

 そのためにも、俺はシルフィの『願い』を叶えないといけない。

 シルフィの寝顔を見ながら────そう決意した。


 と、その時


『やぁ……異世界人』

「!?」

 バッと振り向くと、そこには────白い紙の少年がいた。

「……誰だ」

『さぁ……?誰だろ』

 おどけるように言う少年……のようなモノ(・・)に苛立ちを覚えながらも、表情に出さず続ける。

「……何のようだ」

『君に……宣戦布告だよ』

「宣戦布告……?」

『あぁ……そうさ』

 少年は不敵そうな笑みを浮かべる────それだけで背筋が凍る。

 俺はこの世界に来て初めて……恐怖を覚えた。


『君を────殺す』


 無機質そうな黒い瞳の中に明確な殺意を感じた。

『君は……この世界の異物。今の軸を崩しかねない』

 俺がここへ……この世界に来た理由は『世界を救う』こと。

 それも出来るだけ短期間で。

 それはそれまでの────言わば弱肉強食を壊すものである。

 ────ある池があるとしよう。

 元の世界、例えばの日本の中の池。何の変哲もない池。

 その池には藻などを主食にする魚が棲息している。この魚をAとする。

 Aはその池の命の循環により、生きている。

 しかし、そこにあるとき別の池の魚……Bとしよう、混ざってしまう。

 Bは肉食、他の魚を主食とするならば。

 それは────Aがいた池の生態系を崩していくことに繋がるのだ。

 AがBに絶滅させられてしまうと、Aを喰らうBが死に絶え、Aが喰らっていた藻などが異常繁殖し、その池の状態が悪化……死滅する。

 その原因のBこそ俺だと、少年の形をしたナニカは言ったのだ。

「……それは分かっていることだろう?それが必要と考えたから、この世界の神か?呼んだんだろう?」

『確かにそうだね。でも……それ以外にも君を殺す理由はあるんだ』

 他の理由────それは


『君が強いから〝殺したい〟。ただそれだけだよ』


 少しづつ薄れるナニカの姿。

「……名前も言わずに行くのか」

 少しでも相手の素性を暴きたい。挑発するような口調でそう言うと

『ふむ……それならば名乗っておくとしよう』

 と返答がきた。


『我が名は《幻皇類(ファンタジスタ)》、その中の一体、『霧龍皇(ミーシル)』……覚えてね』


 そう言い残して少年────幻皇類(ミーシル)は消えた。

 拭えない不安と、再び生まれた焦燥を残して。

三十三話ですます!

シルフィのすこーしくらーいお話でした!

最後に出てきた子も大事な役割を持っているので、乞うご期待!


次回「思い悩んで目的地はそこに」

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