残りの二日の中で
……昨夜のステラとの話は……俺の心を救ってくれた────
朝になった。
結局一睡も出来ずに迎えた朝だが、徹夜には慣れているためか、不思議と眠くはなかった────が、慣れているだけじゃないのかもしれない。
『ちょっとしたおまじない、よ』
昨晩のステラとのやり取りが脳内で何度も再生される。
ぶっちゃけ、頬にキスされただけで眠れなくなる俺は正しく童貞────と言えるだろう。胸を張って。
顔はまだ少し熱い。
しかし、その代わり……と言っては何だが、不安感や怒りなどは消え去っていた。
ステラが精神を安定させてくれたのだろうか。
久しぶりの徹夜だったが平気な自分と、思い悩む所を見抜かれ、慰められたことに少しだけ悲しくなり、溜息を一つついた。
昨晩は魔物は結界により来なかったが、だからといって安心は出来ない。
朝に活動する魔物だっている……かもしれない。
「ん……ト……ウマ……」
後ろでサーシャが起きたのか、寝惚けた声が聞こえた。
そして俺は────忘れていなかった。
寝起きのサーシャはやばい事に────!!
「んぁ……んー……」
じわじわと寄ってくる足音と気配が、この間の抱き着き事件を思い起こさせる。
────ここで二つの選択肢がある。
一、サーシャの好きにさせる。
二、サーシャを止めて、完全に覚醒させる。
俺は────
「んぅ……♪」
────前者を選んでしまった。
思った通り、サーシャは俺に抱き着き、嬉しそうに背中に頬ずりしている。
でも、不思議と何も感じなかった。
逆に癒しのようなものを感じている。
柔らかな腕でホールドされ、頬ずりする美少女。
童貞としては緊張する事なのだが……はて、何故だろう?
それは……きっと昨夜のせいだろうな。
そう結論付け、俺はサーシャが完全に覚醒するまで、そのままにしておいた────
(ま、また……やっちゃった……)
私は寝起きは癖が悪い。
近くに誰がいると、抱き着いてしまう。
それは分かっているのだが……五人でいると、真っ先にトウマの方へ向かってしまう。
それほどトウマに抱き着いてしまいたいのか。
意識がハッキリした時、抱き着いている事に気付いた。
顔が燃えるかの如く熱く、赤くなったが、トウマはほほ笑みを浮かべながら「おはよう、サーシャ」と爽やかに言ってくれた。
何か拍子抜けな気がして、火照りは少し冷めた。
が、やはり恥ずかしいものは恥ずかしいものだ……まだ少しだが顔が熱い。
「まぁた変なことしたんでしょ!」
「またってなんだよまたって!前回も今回も俺は何もしていない!!」
必死に弁明しながらも、シルフィに説教されているトウマから、昨日の様なおぞましい雰囲気は全く無く、むしろ元気になったような感じだ。
昨夜、ステラの方から何やらゴソゴソと動く気配がしたが、それと関係があるのだろうか。
「まぁまぁ……トウマもこう言っているから……信じてあげなさい?」
少し困り顔でステラがそう言うと「まぁ……しょうがないなぁ」とシルフィは折れた。
その後、ステラはシルフィに隠れてトウマに対し、人差し指を自分の唇に当て、ウインクした。
女性目線から見てもかなりあざと可愛い。ただえさえ可愛いステラだ、そこらの男性ならコロッと落ちてしまうだろう。
それを見たトウマは、少し顔を赤くしてステラから目を逸らした。
その様子を見たステラは小さく笑った。
────何があったの。
心の中でそう思った。
おそらく昨夜、ステラがゴソゴソと何かをしていた事が関係しているのだろう。寝ていた私には何をしていたのかは分からないが。
「……」
自然とムスッとした顔になってしまう。
悔しい。
羨ましい。
私もトウマとあんな風に接したい。
そんなことを考えてしまう。
「……?どうしたの?サーシャ」
私の様子に気付いたのか、シルフィが声を掛けてきた。
「……なにも………な、い」
少しだけ「ない」の部分が強調されたような気がしたが、多分大丈夫だろう。
でも、シルフィが「あー……うん、頑張って」と言ったのは何故だろうか?
想像以上に面倒なことになりそうだ。
斗真とステラのやり取りと、それを見るサーシャを見ていると、ハラハラしてしまった。
分裂とかしたらどうしよう……そんな事まで考えるほど緊張してしまう。
二人が二人共斗真のことが好きだ。絶対。
────かつて、恋のイザコザが神同士でも起こっていることを私は知っている。
人間にもあることも知っている。
だからこそ怖いのである……特に女同士の争いは。
星を滅ぼしかねないレベルの戦争までしそうで。
「そろそろ出発の準備しましょ」
「お、おう」
「………………………うん」
怖い……。
私は苦笑いしながらそう思った。
これから────面倒なことになるなぁ。
いつか思った予感は、すでに確信に変わっていた。
「さぁて……出発するか」
残りの道のりは歩距離二日。あと一回野宿することになるだろうが、食料などに心配はない。
シャナの案内の元、歩を進めていく。
途中休憩を挟みながら歩き続けて数時間ほど経った時だった。
「……なんかいるな」
「えぇ……この感じ……」
「……やーな予感……」
「……く、る」
「戦闘モードに移行します」
五人が五人とも、異常な気配を察知していた。
上空が暗くなる────しかし、太陽が雲に隠れたわけではない。
「なんだ……ありゃ……」
何かが────降ってくる。
ズドオォォォォン
巨大な地響きと共に土煙が舞う。
その土煙を割くように、敵が腕振るう。
その姿は────異形だった。
機械なのだろう……しかし、腕は四本あり、表面はツルツルして光沢を放ち、頭はあるが顔パーツは────無かった。
ギギギギと音を立てながらこちらを見る(・・)敵は、構えを見せる。
「……何だあれ」
「……大戦に使われた『魔術人形』よ」
ステラが忌々しそうに呟く。
魔術人形。それは、魔族の作った器に魔力を流し込み、動かすものだ。
後にシルフィから聞いたことだが、魔術人形は主に戦闘目的で作られ、大戦時には人類を苦しめたものであるらしい。
人類も模倣して作った『機械人形』があるが、本家には敵わない性能差があったそうだ。
「……先に行きたかったら倒してけ……そーゆーこったろうな」
「そうね、私も同じことを考えてたわ」
斗真とステラは同時に笑う。
片や獰猛に。
片や冷静ながらも殺意の笑み。
後ろから見ても分かるその様子に、シルフィとサーシャは────少しだけ怖くなった。
そして同時に思う。
────二人共、過去に何かあった……と
自分たちより酷いかもしれない。
想像を絶することかもしれないが……いつかは知らなければならないことのように感じだ。
「いくぞ……『神器の継承者』の力も使ってくから……気を付けろよ」
「あら?誰に言ってるのかしら?」
「……少なくともステラ、お前は大丈夫そうだな」
「もちろんよ」
────不思議と、サーシャはそのやりとりを見ても嫉妬しなかった。
何故かは知らないが、羨ましそうに見ていた。
「サーシャ?」
シルフィに声を掛けられ我に返るサーシャ。
ハッとして、斗真と共に勝ち取った秘剣────『氷光の秘剣』を引き抜く。
太陽に照らされ、輝くそれは僅かな冷気を纏っている。
シルフィも宝剣……『龍宝剣』と名付けられた短剣を構える。
敵は古の魔術人形。
セインクでは闘ったことのないタイプの相手だが……このメンツだ、きっと大丈夫。
勝てる。
俺はそう確信した。
「『神器の継承者』!!」
そう叫ぶ俺の手に光が灯る。
その光は次第に形を変え、一振りのロングソードとなり……収束する。
「顕現するは……王シャルルから授かりし剣……」
フランスの叙事詩、『ローランの歌』。
英雄、ローランの持つロングソード。
「銘を……」
それは────
「『不滅の刃』!!」
三十一話です〜
明日今日は休み何でこの時間に更新出来ます
.。゜+.(・∀・)゜+.゜
剣の設定画……描かないと……
次回「不滅の刃」