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記憶の中にある殺意

自分のしでかしたことと隠している過去のフラッシュバックが重なり……

その様子を見ている四人はどうする……?

 俺は────何をした。

 ギルドに入った俺を目にした者は、皆その目と雰囲気で気圧され、ただえさえ静かだったギルド内部がさらに水を打ったように静まり返っていた。

「……アルファティアから来た、トウマです……クエスト確認を」

「え?あ、はい……少々お待ちを」

 クエストカウンターへと向かい、クエスト確認のために従業員に声を掛けたが、やはり少し恐れ(・・)のようなものを感じているようだ。目に映っていた。

「これがクエストです……これにて正式に受理されましたので、出発可能です」

「……ありがとう……ございます」

 俺は静かに後ろを向き、入口へと向かう。

 その途中にも、数々の冒険者や従業員の注目を集めたが、気にならなかった。

「……行きましょ」

 外に出ると、四人が待っていた。

 ステラは俺の様子から察したのか、出発を提案した。

 俺は黙って頷き、それにならってシルフィとシャナも頷く。

 サーシャは少しオロオロしていたが、何も言わず、シルフィの隣を歩き出す。

「……」

 五人の中に流れる沈黙は、重圧的で、息も詰まりそうな空気を醸し出していた。

 何も話さないまま俺たちは荷車へと戻った。

 必要な荷物はアルファティアで揃えていたため、買い出しに出る必要もない。

 荷車へ到着すると、アルタレスタたちが仁王立ちで浮いていた。

「遅かったな」

「あぁ……」

 短く返答し、荷車に乗り込む。

 機械にも「察する」ということは出来るらしい。それ以上話しかけて来なかった。

 荷車から荷物を全て下ろし、出発の準備を終える。

「……お気を付けて」

 俺たちを気遣って、運転手はそう言った。

「……」

 それでも俺は何も言わず歩みを進めた。

 歩距離にして────三日だ。


「……トウマ……どうしたのよ?」

「ステラ?どうしたって……何が?」

 私がトウマにそう声を掛けると────普段の顔の能面を貼り付けたようなトウマが返事した。

 その様子に私は心が痛んだ気がした。

 口調や、雰囲気はいつも通り……だと思う。

 でも、何処か決定的に違う所がある。

 何処かは分からないけど、絶対に違う。

 別人とは考えにくいし……やっぱりトウマに何かあったのだろうか。

 過去を知らない私が……何かを言えるわけでもない。

 怖い……でも知りたいと思う。

 ちゃんと知らなければならない時が来るのかもしれない……

 そう思いながら私は「何でもない」と首を振った。


 日が暮れ、辺りが暗くなってきた頃、俺たちは野宿の準備を始めた。

「野宿かぁ……嫌だなぁ……」

「風呂まである野宿だ。文句言うなよ」

 周りには木がうっそうとしていて、少し恐怖心を煽ってくる。

 薪代わりの木の枝を集め、魔法で火を起こし、暖とりながら夕食の準備を進める。

 アルタレスタたち機皇類はここにはいない。

 マキシアの詳しい座標はシャナが知っているため、先に戻ったのだ。

 アルタレスタたちがいない今は自分たちで身を守らなくてはならない。

 ステラとシルフィで結界を張ってもらい、俺とサーシャで、買い込んだ干し肉を焼き始める。

「……トウマ……料理、出来る……の?」

「ん、まぁな。一人暮らししてたし」

 こちらの世界に来る前は、とある理由で一人暮らしをしていた。

 干し肉に胡椒と塩をまぶし、油を引いて熱したフライパンに乗せる。

 ジュワァァァという音と共に、肉が焼ける香ばしい香りが立ち込める。

「わぁ……」

 物珍しそうにサーシャはトウマの料理するところを見ていた。

「サーシャ、そっちの野菜とか切ってくれ」

「……ん」

 サーシャは包丁を持って、木製板の上に野菜を乗せ、切り始める。

 サーシャの包丁捌きも中々のもので、あっという間に切ってしまうどころか、焼ける前に簡易的な木製の皿に盛り付けてしまった。

 フライパンの上で焼かれる肉は焦げ目をつけ、いい感じに焼けており、香ばしい匂いはさらに増した。

 野菜を切り終えたサーシャは野菜を入れた皿と別に四つ皿を出し、二センチほどの厚さに切ったパンを乗せる。

 四つしか皿がないのは、シャナが食べ物を必要としないからである。機械だし、当然と言えばそうなのだが。

 うまい具合に焼けた肉をパンの半分に乗せ、野菜をその上に乗せる。

 その後、シルフィがアルス様から貰ったらしいマヨネーズを野菜の上に掛け、二つ折りにするようにし、串を刺せば完成である。

 肉の匂いが何とも言えない一品となっとていた。

「あ、美味しそう……」

「あら……やるわね」

 シルフィとステラが結界を丁度張り終わり、戻ってきた。

「さっさと食うぞ……いただきます」

「いただきます……?」

 あ、こっちには『いただきます』という言葉がないのか……

「ええと……食べる前の文言って言うか……その材料となった生き物や材料を育てた人に感謝を込めて言うんだよ、俺のいたとこじゃ」

「そうなのね……」

 理解したのか、ステラはトウマにならって「いただきます」と口にした。

 その様子を見て、シルフィとサーシャもそれぞれ口にし、夕食を食べ始めた。

 口にした時に広がる肉汁と、マヨネーズの風味が合い、美味い。

 簡単な料理にもかかわらず、その旨味から材料の質が高いことを窺わせる。

「おい……しい……っ」

「確かに……美味しいわね……」

「斗真やるじゃん!」

 女性三人組が口々に賞賛を送ってくる。

 少し恥ずかしくなり、目を逸らしてしまう。

「美味しいねぇ〜」とシルフィとステラが話し込んでいる時、サーシャがこちらを見ているのに気づいた。

「サーシャ?」

「……ううん……何でもないよ」

 そう言ってサーシャ黙々と食べ進めた。

 奇妙な思いと、僅かな焦燥(・・)を残し、俺たちの夕食は終わった。


 風呂は石を加工したものを使い、シルフィがお湯を作り出し、入った。

 俺は離れた所で魔物が来ないよう、見張っていた。

 つまり覗けなかった────!!


 睡眠をとるために、見張りは交代制とした……と言っても、シャナは一晩は寝ないと明日が辛いらしく寝かせ、残念なことに前の世界で夜更かしが得意になってしまっていた俺は、残りの三人を起こそうとは思っていなかった。

 どうせ眠れない……そう思ったからでもある。

 サーシャの旧知によるいざこざ。

 そして……ダルムイのギルド前で起こったこと。

 俺の中に渦巻くものが溢れ出そうな事だった。

 ギルド前で倒したあの男は、シルフィの回復魔法により、通常より早く復帰できるだろう。もしかするとすぐに動けるかもしれない。

 どちらにせよ、俺のしたことは俺にとっても重要なことになった。

 あの時────シャナを殺すと男が言った時、俺の脳内で、昔の出来事がフラッシュバックしていた。

 あれは────

「……交代、しないのかしら?」

 記憶が呼び起こされる前に、ステラが起き上がり、そう言った。

「……起きてたのか」

「えぇ……」

 驚いてステラの方を見て、再び前を向く。ステラは流石に服を着ていた。

「眠れないし……交代制の最初をいいことに起きてるつもりだったんだが……」

 策略をさらっとばらしたが、ステラは驚くこともなく「どうせそんなことだろうと思ってたわよ」と言った。

「……考え事をしてたんでしょ?」

「どうして……そう思う?」

「決まってるじゃない」


 ────ふわりと、背中が温かくなった。


 後ろから抱き着かれたという事実に気付くのに、そう時間は掛からなかったが、しかし焦る。

「す、ステラ────」

「いつものトウマと違うもの。分かるわよ」

 ────例えそれが短い間でも。

 分かる。ステラが耳元でそう言った。

「……あんたの過去に何があったのかは知らない。でも……あまり抱え込まないことね。周りに迷惑をかけることになるわ」

 背中に当たるステラの控え目な胸から鼓動を感じる。

 それが何故か心地よくて、耳元で囁くように言われると、何故か安心できて。

 ────少し、泣きそうななった。

「あんたが何を思おうとも、何を隠そうともあんたの勝手よ?それは分かってるわ……でも」

 ステラは少しを伏せながら斗真を慰めるように、諭すように言う。


「少しは悩みを話してみなさいよ……『仲間』……いえ、『家族』でしょ?」


 私たちは『仲間』だ。でも同時に……『家族』だ。

 だから────一人で悩まずに、相談してもいいのよ。

 ステラはそう言ったのだろうか。

 不意に、頬を『何か』が伝う。

 それを拭うと、手が濡れていた。

「なんだよ……なんで……」

 ────いつぶりだろうか……『涙』を流すのは。

 止まらない。

 泣きじゃくることもなく、静かに流れるそれは、中々止まらない。

 その様子を見たステラは微笑し、少し強く抱き締める。

「少しくらい泣きなさいよ……大丈夫よ……あなたと同じとは言えないけど、誰だって何かを抱えているわ、きっと。シルフィも、サーシャも────私も」

 優しく声音のステラの声が、俺の脳に……いや、心に響き渡る。

 荷車では子供のように何故か悔しがっていたステラが、優しい姉のように接してくれている。

 多分年下だろう。俺は今年で十八歳だ。ステラはもう少し下と思う。

 年下から慰められるとか……情けないなぁ。

 涙を拭い切り、ステラの手に触れる。

「……情けないな、俺」

「……そうね」

 私も同じよ────そう声音の中に隠れていたことに気付いたが、何も言わなかった。

「……たまに……こうやって、抱き締めてくれる人がいれば、幾らかマシになるのかもな」

「あら……それならここにいるわよ?」

 悪戯っぽく笑うステラにつられ、俺も微笑する。

 涙は────止まっていた。


「あまり無理しないことね」

「あぁ、分かってる」

 背中から離れたステラは毛布を手に取る。

 あ、と何かを思い出したかのように再びこちらに寄ってきた。

「どうした?」

「少し……忘れ物よ」

「?」

 忘れ物……なんだろう……

「ちょっとしたおまじない、よ」


 そういったステラは────頬にキスをした。


「っ!?/////」

 一瞬で赤面し、後ずさる。

「ふふっ……おやすみ♪」

 そう言ってステラは毛布を掛けて寝始めた。

 キスされた頬を抑えたまま固まる俺は……

「おまじないって……ギャルゲかよ……」

 そう呟いた。


 その夜は、高鳴っている心臓が中々落ち着かず、眠れなかった。


 マキシアまで残り────歩距離二日。

三十話!!三十話ですよ!!

二ヶ月弱ですかねぇ……なかなかに続いていて自分でも驚いています(๑>؂•̀๑)

これからもよろしくお願いします!


次回「残り二日の中で」

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